30.グッバイ人族Ver.
居間に落ち着いてプープルさんが花のいい香りのお茶を出してくれる。沈黙が気まずいが、まずは全員座って、落ち着いてもらってから話そう。
「あのさ。まずはセルゲイさん、プープルさん。ごめんなさい。俺、実は黒龍王なんだよね」
改めてそう言われてセルゲイはもはや瀕死だ。だが、聞いてもらわないと。
「なんで草原で倒れていたかは俺にもちょっと分からないんだけど、なんか王城での暮らしがもう嫌だ~!って思ったらこの姿になってたんだよ。それで状況が分からないから記憶喪失のフリをしてルドル先生にお世話になろうと思ったわけ」
「まあ、それじゃ……それでは、そのお姿は本当の姿ではないという事でございますか?」
「言葉は今まで通りでいいよ。気をつかわせちゃうね。ごめんなさい。そんでもって、この姿は俺の本当の姿じゃないんだ。本当は2歳くらいの子どもなんだよ。う~ん、でもそれも本当じゃないか。本当はまだ0歳児だったわ俺。サリアが言ったみたいに、俺って不思議生物だよな~」
ハハハと乾いた笑いをもらすが、室内は静まり返っている。うん。これはスベったか。
「我が君、元には戻れるのでしょうか?」とカマラテが不安そうに聞いてくる。
「どうだろ?あえて試さなかったんだよな。もうバレちゃったんだしやってみようか」
【ビカッ】そうして、俺は数カ月ぶりに小さい2歳児の人型角あり姿に戻った。
そして、悲しいかな、16歳の俺にはもう戻れなかった。
「にゃんでだ!?」
「余程の事がないと、人族にはなれないのかもしれませんね。よかったです」
「もう、人族に戻らないでくださいよ。僕、寿命が縮まります!」
側近たちにはかなり不評なようだ。俺の人族バージョン。
角が無いって竜族にとっては大事なんだろう。
「それじゃ。りゅどりゅしぇんしぇいにもあやまりにいこう」なんか、久しぶりのこのサイズの俺、滑舌が退化している気がするな。
仕方ないから、ブラックドラゴンに戻る。
「これの方がスムーズに話せるし、謝罪には向いてるよな」と一同を見渡すが、セルゲイとプープルは今まで以上に固まっていた、固まるというより、もはや凍り付いて震えるレベル。体高40センチの赤ちゃんドラゴン。怖くないよ!
それをみて、サリアは、
「我が君、恐れながら、ドラゴン姿は刺激が強すぎるように思われますわ。その、お世話になったという方に謝罪にみえるなら、人型の方がよろしいかと」と助言してくれる。
「でも、滑舌悪すぎて、謝罪が通じなくない?」
「それでも、ブラックドラゴンと席を同じくするなど人族からすれば考えられない事態かと思われますので」
「そんな感じなんだ。そういえば、セルゲイ、黒龍王はやべー奴だって言ってたもんな」
ガチガチガチ。と、歯が鳴る音が響く。
「ごめん。セルゲイ震えないで。全然俺、責めてるわけじゃないよ。ほんとに!ごめんって。ほら見て、しっぽかわいいでしょ。黒龍王もそれほど怖くないよ。翼もあるんだよ。パタパタ可愛いでしょ!」と《可愛いアピールで恐怖を消し去ろう攻撃》をしてみる。
……側近達はイチコロだけど、セルゲイには効かないようだ。
そんな馬鹿なことを必死でやっている俺を見て、プープルさんは落ち着いてきたのか、ここは私に任せて、ルドル先生の所へどうぞと言ってくれた。頼りになります!プープル姉さんとお呼びしよう。




