29.二本立て
落雷がおさまると、俺とセルゲイはシピリー町をウロウロと散策して、夕飯はセルゲイの友人宅で頂いた。更にはお泊りもさせてもらった。
「俺まで、ご厄介になってしまって。すみません。ありがとうございました!」とお礼を込めて頭を下げると、
「ソウ君は、いい子だねぇ。またおいで。私ら、花の妖精族の祭りが来月あるから、その時にも来るといいよ」と言ってくれる。
そう、俺は草原に倒れていたのでソウと言う名付けられたんだ。いや、そんなことより、妖精の家に泊ったんだ!花の妖精プープルさん。彼女も彼女の家も超可愛いかった。
他にも森の妖精とか水の妖精とか、種別があるらしい。仲間意識が強くて集団で暮らしていることも多いらしいが、彼女は一人暮らしだ。
セルゲイととっても仲良しだ。でも、見た目が、小柄な若い女性と大柄なじいさんなので違和感が凄い。
この世界では寿命が種族によって大きく違うので《見た目より中身》が徹底されているのかな?色々気にしていては異種族でのお付き合いは出来ないもんね。因みにプープルさんは、72歳のセルゲイの倍くらい生きているらしい。さすが妖精さんだ。
ドラゴン達ですらファイアドラゴンとアースドラゴンとかの異種族間では、結婚しないことが多いと聞いていたから、二人もお付き合いだけの関係なのかなぁ?
慣れてくるとちょっと微笑ましいカップルに見えてくる、不思議。
そんな感想を抱きながら別れの挨拶をしていると、物凄いスピードで何かが飛んできた。
あ、これ、知っている。生まれたばかりの時にビリーヤが迎えに来てくれた時のスピードだ。となれば、俺がここにいるのがバレたってことか。
昨日雷落としまくったのがまずかったんだろうなぁ。
取り敢えず観念して、まず、側近達とテイル村でお世話になった人に謝るか。
「雲隠れしてゴメン」「騙しててゴメン」の二本立て謝罪だ。
町の外れにある小さな可愛い家の前に、弾丸のように飛んできたビリーヤが着弾した。そう、まさに着弾、衝撃が凄いよ。ちょっと控えて欲しい。
ま、今の俺にそんなことを言う資格はないだろう。心配かけまくってゴメン。
「我が君!?で、で、ですよね?」
「俺に決まってるよ」と、言った所で、今の俺は16歳の見た目だと気が付いた。決まっているどころか、よく分かったな。
「この周辺で魔力の異常値を検知したと昨晩宰相府から連絡が入って、それで北の領に来ていました。この辺りをくまなく捜索していると、この馴染みのある感じです。間違いないって思って、僕は一目散にこちらに駆け付けました!」
ワンコ特性のビリーヤ、可愛いぞ。でも、また突っ走って皆を置いてきたのかな?
そうこうしているうちに、遠くに他の三人も飛んで来ているのが見えてくる。
「坊主、お前、我が君って……。こちらは、黒角の竜族様……」そう言った後、セルゲイは考えるのを放棄したのか、動きを止めた。
プープルさんも、「あれまあ」と言ったまま固まっている。
三人も合流して、また同じやり取りを繰り返す。そして、
「我が君、大きく成長されたのはともかく、角はいかがされました?」とティルマイルが聞いてくる。
その辺りも含めて話をしよう。
「プープルさん、ちょっと居間を借りていいですか?」
「え、ええ、勿論どうぞ。皆さま中へどうぞ」と言って玄関を開けてくれる。本当にいい人だし肝が据わっている。セルゲイはまだ動かないよ。




