28.シピリー町へ
テイル村で過ごす事、早3カ月。俺にとって人族に混ざって魔法を使わず生活することは造作もない事だった。
ま、そもそも人間だったしね。大怪我をしちゃうと、一瞬で治るので人族じゃないとバレそうだが、まだそんなヤバい状況にはなっていないのでセーフだ。
全裸で記憶喪失でぶっ倒れていた俺は、そのひ弱な状況から、人族と判断されてここに住まわせてもらっている訳だから、なんとかバレずに過ごしたいものだ。
それにしても、全裸ってどういう風に解釈されたんだろうか?
セルゲイに聞いてみる。
「ねえねえ。俺ってさ、超怪しい行き倒れだったんでしょう?記憶を失う前はどういう奴だったと思う?」
「そりゃあなぁ。お前くらいの年の奴には衝撃的かもしれんがなぁ。俺の祖父さんの時代にはよく、人族は実験動物として売買されていたって聞いてきたからよぉ、今のご時世にも無いとは言えないってことかと思ったよ。ワシは」との事。
まさかの、実験動物が逃げ出したところを、かくまっているという認識だった。怖っ。
今日は、念願叶って町へ行ける。セルゲイが妖精族の友人に会いに行くというので、くっついて行くんだ。テイル村から一番近いシピリーという町だ。北の領なので、白か青の髪の竜族が治めているはずだ。
遭遇してもバレないかな。ま、たとえ人型で探していても2歳児相当の俺だろう。16歳の俺は若く見られるとはいえ、2歳ってことはないから大丈夫だろう。
そして馬車で一日かけて到着した町の中は、いたって普通だった。みんな人型。なんだか残念。セルゲイは、
「他種族の本性が見たかったのか?それなら派遣屋に連れて行ってやろう」と言って、少し歩いた先の建物に連れて行ってくれた。
「よう。親方久しぶり。初めて町に連れてきた坊主に他種族を見せてやりたいんだが、今はどうだ?」
「おお!セルゲイ、しばらくぶりだな。坊主、今、丁度裏庭で特技を披露している奴がいるぞ、行ってこい」と親切に教えてくれた。
「やった~!じゃ、俺、言ってくる」と顎で示された方へ走り出した。
セルゲイは親方と話をするようでロビーに残っている。
裏庭では、犬?狼?が俊敏に駆け回って、一回転しながら着地していた。更に人型に戻って、的に向かって火を投げている。
あ~、獣族も魔法が使えるんだ。身体能力が獣並みってだけじゃないのか。人族のダメっぷりが浮き彫りになるなぁ。
それにしても凄い!一瞬で変身して、勿論服も着ている。理屈は分からないけど。格好いいなぁ!
周りの見学の人からも拍手がおきて、それに手を振って応えている獣族の人。おお、こっち見た。顔も格好いいぞ。羨ましいな。
おっと、危ない。あまり気持ちを込めると『念じた』と判定されてしまう。
でも、初めて見るドラゴン以外の変身姿に興奮してしまう。
「ビークールだ、俺」と唱えてみたが、それがかえって悪かったのか、『無理に我慢したので反動が起きます』と言わんばかりに、空に暗雲が立ち込めてきた。
「マジか」厄介だな黒龍王って。
恐ろしいほどの雷がめった矢鱈に降り注ぐ。人々は屋内に避難して不安そうに空を見上げている。近くの木にも落雷して、燃え上がってしまう。数十分でなんとかおさまる。プチパニックはあったが、被害はそれだけですんだ。よかった。
黒龍王が絶対的な王者であるというのなら、力の制御もできるようにしておいて欲しかった。
自分の力に振り回される黒龍王とは、これいかに。




