26.人族ライフ
**ビリーヤ視点**
僕らはとんでもない事をしてしまった。我が君は姿をお隠しになった!
ロイド様がやってきて、5人で話し合いをするも、僕の頭の中は真っ白だった。
「我が君を探してきます!」と言って飛び出そうとした僕の後襟を容赦なく引っ掴んで引き戻したのは、意外なことにサリアだった。
言葉で威圧するタイプの人だと思っていたけど、カマラテ並みに腕力もあるのかもしれない。
「ビリーヤ、お探しするのは当然のことですが、どのようなお姿をお探しするのですか?我が君は何色のドラゴンにもおなりですよ」
「更に言えば、カールタイプもストレートタイプも思いのままです。大きさも、この間からの訓練で赤子から3歳までは変化可能です」と、サリアとティルマイルが指摘する。カマラテは、
「我らが鬱陶しいいと思われたなら、すぐに見つかるブラックドラゴンではいらっしゃらないという事ですか?」と聞いている。
「その可能性が高いと言っているのです」
「城内に、黒龍王様は側近と共に世界の見聞に旅立たれたと触れを出す、お主らは我が君を、なんとしてもお探ししてお許しをもらって、お帰りいただくのだ。我が君の周辺には大掛かりな魔法の発動が早晩あるはずだ。その情報を待って現地に飛べ」
「そんな、それまで何も出来ないんですか!」僕はこんな状況で待っていることなど出来そうもなく叫んでいた。
「今は待つより他になにも出来ません。我らが旅立ったことにするなら、黒の森に潜伏するのがいいでしょう」冷静なティルマイルに歯ぎしりする思いだが、今は、仕方がないのか……。
*****
俺は、のんびり人間ライフを送っていた。
人間っていうか、この世界の呼び方は人族ね。この世界の基本の基本の生命体。基本過ぎて何の力も持っていない、言語を話す生命体の中の最弱。う~ん。言ってて悲しい。
お世話になっているルドル先生は70歳。白髪頭の超穏やかな人。村長さんは茶色に白髪が混ざってて50歳くらいかな。ルドル先生と村長さんのお父さんがお友達らしくって、家族ぐるみのお付き合いがあるようだ。そんなお父さんは、前村長さんらしいので、世襲制なのかな。
人族は基本、村を作ってそこで生活をしている。勿論火起こしから水汲みまで、電気が発明される前の生活って感じ。日本でいう江戸時代くらいか?見た目はヨーロッパ。人種の坩堝って感じで多種多様な見た目の人がいるけど、アジア系は少なめかな。髪の色はほぼ前世と同じラインナップ。俺の黒髪は目立たない。
瞳は淡い色が比較的多いかなくらい。こちらも黒目は別段目立たない。
という訳で、俺は超一般人として、甲斐甲斐しく医療事務のお仕事に励んでいる。
休憩時間に抜け出して、草原の端の岩場で、こっそり魔法の発動やなんやを実験しているけどね。
因みに、力は全く以前のままだった。なので俺は物騒なことは念じないと心に決めて生活している。
『魔法』は技の名前を言うか、思うかで発動するけど、『念じる』はこうしたいという結果を望むだけで発動するので厄介だ。
念じるという力はブラックドラゴン特有の物ではなく、上位のドラゴンには使えるものがチラホラいるようだが、あまり大したことは出来ないらしい。俺にも上限があれば楽なんだけどなぁ。
そして、ここに来てからまだ一度も変身をしていない。ここでのぬるま湯生活が性にあっていて、下手にドラゴンに戻って、人族に戻れなくなると嫌だからだ。
側近たちは心配しているだろうか。心配しているだろうな。でも、ごめん。もうちょっと、ここに居たいよ。




