成約。
「おーい、小鞠」
ほっぺたを2、3回ぺちぺちと叩くと、
「んぅ…………まりねぇ、もう少し……あと5分……」
おやぁ?あたし以外の名前が今聞こえた気がするぞ??
「こーまりー」
今度は少し強めにぺっちんぺしぺし。
「んぁ…………かぷちーの〜、しっぽいたいよぉ」
また別の名前が。もー頭きた。
「小鞠、起きて」
べしっと一発。ようやくねぼすけさんが目を覚ます。
「あれ…………せん、ぱい……?」
「やっと起きたかこの浮気者」
トドメのついでにデコピンも一発。
「あてっ!? いきなりなにすんですか!?」
「それはこっちのセリフなんだけど? あと丸見え」
勢いよく跳ね起きた弾みに、小鞠に掛けていたタオルがはらりと落ちる。
「………………?」
その動きを目で追ってからもう一度視線を上げて、それから自分の裸体を見て、またあたしを見て、
「……………………っ!? ぴゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
「毎回毎回うっさいわ」
ぺしっと頭を叩くと、
「そのままお風呂に捨ててこようかと思ったのを、脱衣場まで運んで身体拭いてやっただけ有難いと思って? 」
「そ、それはそうっすけど……その…………うー、…………」
「『なんで服着せてくれなかったんすか?』って言いたいの? 」
「うぐっ……」
「……あのねぇ、非力なあたしに小鞠をころころ転がしながら服着せること、出来ると思う? しかもこんな濡れてるのに」
「濡れ!? 」
あわあわする小鞠を放っておいて、あたしは先に脱衣場から出ようとする。
「あ、ちょっ、おいてかないで」
「なぁに? 真っ裸のまんま外まで付いてくるの? 変態だね」
「そっ、そうじゃなくて!? 」
「あっそうだ」
あたしは手に持っていた鍵を小鞠へとポイっと投げて渡す。
「服だけ取って、あとは仕舞ったまんまにしといたから。さっさと出てきなよ?」
そう言って今度こそ本当に外へと出ていった。
…………さてと、臨時収入もあったし何買おっかな?
あたしがマッサージチェアであ゛ーとかう゛ーとか唸っていると、
「お、お待たせしましたっす……」
元通りの格好でおずおずと小鞠が歩いてくる。
「遅いよ小鞠、ほんとに帰るとこだった」
「す、すみません……」
しょぼんとした小鞠を眺めてると、じきに時間切れでマッサージチェアが止まる。
「んーっ、ちょっと解れたかな? 」
立ち上がって首周りをぱきぽきと鳴らすと、
「あ、小鞠そこに置いといた牛乳瓶片しといて」
「えぇー……って、何本飲んでるんですか」
かちゃかちゃと器用に指の間に3本挟んで持っていく小鞠に、おーすごいすごいと拍手ぱちぱち。
「すごいねー小鞠。じゃあご褒美にあたしがフルーツ牛乳おごったげよう」
「えっいいんですか?」
慎重にケースへと瓶を仕舞っていた小鞠が勢いよく振り向く。
「いいんだよ〜小鞠は可愛い後輩だからね〜」
「かわいっ…………って、せんぱい、なんかいきなり怪しくないっすか?」
「ん〜何にも?」
可愛らしいお財布からちゃりんちゃりんと自動販売機にコインを入れて、ぴっとボタンを押す。
「…………って、ちょっとせんぱい!? それうちのお財布っ」
ちぇっ、バレたか。小鞠がすごい勢いですっ飛んでくる。すかさず蓋の空いたフルーツ牛乳をパス。すんでのところでこぼさずキャッチ。
「はい小鞠、あたしのおごり」
「せんぱいの奢りどころかうちがソンしてるじゃないっすか!? はっまさかさっきのコーヒー牛乳達も!? 」
「やー、お風呂上がりの牛乳は最高だね」
「誤魔化さないでくださいよっ」
「まぁまぁまずは一服して落ち着きなって」
「むっ……」
その手に持ったガラス瓶とあたしとを見比べてから、腰に手を当ててごっきゅごっきゅと一気飲みする。
「おー、いい飲みっぷりだね」
「ヤケ飲みっすよ」
ぷはーっと息を吐く小鞠。
「もう一本いっとく? 」
「結構です!! これ以上うちのお小遣い勝手に使わないでくださいっ」
ぱしっとお財布をひったくられる。
「ああ、そういえば837円しか入ってなかったもんね」
「ひっ、人のお財布の中身数えるとかデリカシーってもんが無いんですかこの人はっ!? 」
「いや、小鞠ってけっこうお小遣いさっさと使っちゃうんだなって」
「ほっといてくださいよっ!! ……もう、後いくら残ってるの……」
恐る恐る財布を開ける小鞠の手が止まる。そうっとつまみ上げたのは、
「ご、ごせん、えっ」
「どうしたのそんな驚いて」
「お、お年玉ぐらいしか見なかったものが、なっ、なんでうちのお財布に!? 」
「いや小鞠のお小遣いどんだけ少ないのさ……」
確かにレシートとかあんまり入ってない綺麗なお財布だとは思ったけど。
「……食費」
「……へ? 」
「それ、食費ね。あたしへのご飯代。材料ケチられて変なもの食べさせられても困るし、それに……小鞠のレンタル代」
「れ、れんたる……? うちって借り物なんですか…………? 」
「ん?あたしの所有物にして欲しいの? 」
「ひゃっ、はい!? 」
「いやそれは冗談として、小鞠の時間を貰うわけだからその対価としてね。週に3回か4回位だからそんなに拘束はしないけど。あ、いつ学校居るかと、何処に居るかは伝えるようにするから」
「そ、そうっすか…………どうやって? 」
「お財布にもう1個プレゼントがあるよ」
「ん? なんだろこれ…………って、これは……!?」
「あたしの番号とID、伝えとくから」
「せんぱい……」
メモをぎゅっと握りしめる小鞠。もう、そんなに大事そうに抱えなくても。
「わかりました、頑張ります!!」
「んじゃ早速明日っからお願いね」
「ほぇ…………?あした…………??」
「明日」
「…………あした、ですか? 」
「うん明日」
「…………うぇぇぇぇぇ!?」




