和解?
「……ああ、そっか。でもさ小鞠。『せんぱいの1人ぐらい軽い』って言ったのは、小鞠の方だよ?」
耳元で囁かれる声と、腕にかかる重みとを、うちは受け止められなかった。これが現実、なの?
「あぅ、あっ、」
ガタガタと震える足と漏れた吐息は湯冷めなんかじゃなくて、
「せんぱ、かる、」
「どうしたの?小鞠の言い出したことだよ? それとも、言葉も忘れちゃったのかな?」
煽るような言い回しがうちのことを掻き回す。ほんの戯れだったのに、頼り甲斐があるってとこ、見せたかっただけなのに。軽く持ち上げたせんぱいの身体が、うちの両腕をダンベルみたいに押さえつけて離さない。
「ほらほらどうしたの?あたしのこと、外まで連れてくんでしょ? 」
うるさい。耳元でせんぱいが囁く。耳から入ってうちの全部をゆらゆらさせる。うるさい。分かってますって。うちの足が言うことを効かないから、だからちょっと待って欲しいってだけなのに。
うちの腕にギュッと力を込め直す。足は……止まった、歩ける。
ずっと付けたまんまだった足の裏をそっと離すと、いつもより早足で歩いていく。
「ちょっとー、揺れるんだけどー」
「うちに抱っこされてる身で贅沢なこと言わないで欲しいっすね」
むすっとした声で返すと、
「その贅沢な人にさぁ、いいように煽られてぽふぽふしてたのはどこの誰?」
「落っことしますよ?」
わざと腕の上下を激しくしながら運ぶ。ほんとに軽いなせんぱい……
「…………むー……」
なにやら不満気なせんぱいは、手持ち無沙汰なのかうちの胸やら脇っぱらをつついてくる。
「あの、くすぐったいんすけど。ほんとに落っことしますよ?」
「そんなこと言って、わざと揺らして小鞠の方が大っきいっての見せつけたいだけでしょ」
「んなことないですよ……」
確かにせんぱいはそんなにおっきくないけど……
「せんぱいちゃんとご飯食べてます? 栄養足りないから育ってないんじゃ」
「小鞠? 」
あ、目が笑ってない。
「…………すいません。でもちゃんと、ご飯だけは食べて欲しいっす……せんぱいはなんか、心配になりますから……」
「そんなこと言うならさ、小鞠が作ってよ」
「………………へ?」
思わずパッと手を離す。せんぱいがすっとんと落ちていく。
「いったーい!? いきなり落っことさないでよ、バラバラになっちゃうかと思った」
「す、すいません、でも……」
「デモもストもない。そんなにあたしの生き方に口出しするぐらいなら小鞠があたしの面倒見てよ」
「ぴぃぇっ!?」
変な鳴き声が出る。
「そ、そそそそそれはつまり……??」
「まずはお昼、それから日によっては夕方もかな。あたしの嫌いなものばっかり出したら蹴飛ばすからね?」
「う、うちのを…………せんぱいに…………」
ど、どどどど、どうしよううち家庭科の通信簿そんなに飛び抜けて良くなかった気がするし……せんぱいにごはん……せんぱいをごはん???
「ほら返事は?」
「ふ、ふつつかものですが??」
「なにそれっ」
クスリと笑うせんぱいにうちの心も踊り出す。帰ったら何作るか考えなきゃっ。
「……さてそれは置いといて」
「なんです?」
「……さっきはよくも落っことしてくれたね?」
耳たぶを持って思い切り引っ張られる。
「い、イテテ、ちぎれちゃうっ」
「はぁ、もう……小鞠、ちょっと後ろ向くから見てみてよ。腰とか打っちゃったからアザになってないか」
そう言うとクルッと後ろを向いてうちにおしりを見せつける。
「のわぁっ!? せんぱい、や、やめっ、近い、近いからっ」
「どう、なってない? 見てくれないと分からないよ?」
おしりを突き出してうりうりと見せつけてくるせいで、せんぱいの、だ、大事なとこがっ、あっ、やっ、見えっ、
「…………あのさー、もうそろそろかきいれ時だからそろそろ出て欲しいんだけどー?」
カラカラと開いた扉の向こうにさっきの番台さんが立ち塞がっていて、
「……いいとこだったのに」
むすっとむくれるせんぱいと、全部の血が頭に上ってくうち。
「っぴゃぁぁぁぁぁ!?」
今度はうちの目の前が真っ白になる番だった……




