装い
「2名様こちらどうぞー」
慣れ着いた動きで奥のカウンターへと案内すると、すかさず蓮華草がお冷のグラスを奥から滑らせる。
「っと、バーテンかよ」
「これを初見で受け止める人は初めてですよ、ふふふっ」
「遊ぶなって」
蓮華草に軽くゲンコツしてポジションを変える。
「ようこそアルストロメリアへ。そしてお久しゅう」
「やー、随分久しぶりだねぇ」
「ですねー、前会ったのは春でしたっけか」
目の前に座る先輩ーー各務 凉先輩は水を1口含むと、
「やぁしかし暑いね……丁度いい所にここがあって助かったよ」
「あら、オアシスにでも見えましたか」
なんて軽口を叩くと、
「うー……あぅ……」
先輩のお連れさんが目を回していた。
「ゆみりぃっ!? 」
「この暑さでオーバーヒートしてるのかな……」
「ゆみり、とりあえず水飲んでっ」
「あぅ……こくっ……こく……ぷはーっ、い、生き返るぅ……」
「もう、そんなになる程ヘロヘロなら早く休みたいって言えばいいのに……」
「だってぇ……」
「まぁまぁ、汗が引くまでここでごゆるりとお休みくださいな」
「ん、それは有難いけど……あんまし長居したら邪魔でしょ」
「大丈夫、この暑さで今日は閑古鳥だから」
言い切らないうちに頭にメニュー表が降ってくる。もちろん縦で。
「ってぇ……紫丁香花姉、縦はよしてよ縦はさぁ……凹むから」
「君影草、何をぼやーっとしてるのよ。早くメニューをお渡ししなさいな」
「へーい」
メニュー表を2人の前に広げると、
「じゃあぼくはアイスティー。ゆみりは? 」
「えっと、凉ちゃんと同じのと、メロンソーダとこのパフェと、あぁでもプリンもいいなぁうーん……」
「ゆ、ゆみり…………?」
お連れさんがメニューを読み上げる度に先輩の顔色が青くなっていく。注文用紙にカリカリと書きつける音に気づいたのか、ぎぎぎ……とこちらに顔を向ける。
「んーと、今のところ概算でななまんごせ」
「はいゆみりストーップ!?」
顔色が真っ青通り越して白になってらっしゃる…………
「冗談です。うちの全メニュー食べてもそこまでは行きませんから」
「い、言っていい冗談と悪い冗談があるぞ……」
ホッとしたのか座り直す先輩。お連れさんもようやく決まったのか、
「やっぱりメロンクリームソーダとマウンテンパフェでお願いしまーす」
「畏まりました。それではしばらくお待ちくださいませ。ところで先輩、」
メニュー表と財布を何回か見比べている先輩にも声をかける。
「む? 」
「そろそろ精算しなくていいんですか? 長春華の方も結構前から売切れてましたよ」
「あっマジで? ならやっちゃおうかな。オーナーさんいる?」
「向こうで胸を出したり仕舞ったりしてますよ」
「なんのこっちゃ?」
首を傾げる先輩を放置して一旦厨房に引っ込む。
「紫丁香花姉、山パフェお願い。こっちはアイティとメロクリ作るから」
「こ、この季節にあの山盛り頼む人居たの……? 材料足りるかしら……」
「ちょっと主計班長ー材料切れは困るよー」
「そう言われてもこの時期のイチゴ高いんだからっ」
「とにかくオーダーだから頼むね」
ぶつくさ言う紫丁香花姉を横目に、こっちはこっちで自分のオーダーをこなす。げっ、この間買ったバニラアイスもう無いじゃん。
「お待たせしました、パフェは今悪戦苦闘中なのでもう暫くお待ちくださいね」
「悪戦苦闘て……」
飲み物を受け取って2人はそれぞれ口をつける。
「それで先輩、しばらく振りですがお身体の方はどうです?」
「ん、変わりないよ。と言いたいところだけどね、少し体重落ちたかな」
「そうですか。ちゃんと食べてます?」
「それは勿論。厳しい監視の目があるからね」
スっと横に目を向けて笑う。
「というか君の方だって人のこと言えないでしょ」
「あたしはもう育ちすぎてるからセーフです」
「1コ……いや2コ下なのに生意気言うなよ」
と軽くつつかれるのを「お触り禁止ですー」と受け流しつつ厨房を見やる。紫丁香花姉だいぶ苦戦してると見えるな。
「あ、そういや学園祭で男装カフェやるって聞いたけどマジ?」
「ええマジです。やっちゃいます」
「マジかー…………企画したの誰だろ」
「さぁ? でも今年だからまだ良かったんじゃないですかね。これが去年だったら」
「うん、間違いなく『あいつ』が犠牲者量産するわ」
「寧ろ自身が被害者になるパターンも」
カウンター越しに2人でとある人物を想像する。
「流れ作業で口説くな多分」
「カフェの視点からすると、店の回転止まるから、そういうカリスマは邪魔なんですけどね……」
「わかるわぁ……」
「……あと今思いましたけど普通に客として居座ってそうですよね。そして新規を捕まえて」
「やめろよ想像出来て怖いから」
当人のいない所で言いたい放題である。
「んで? 和知清音ちゃん。その男装カフェとやらに対して君は何を思う?」
「……何とも。キャストの練度とかコンセプトは気になるところがありますし、何よりキャストやらないかと遠回しな誘いはありましたけどね。お断りしました。寧ろ先輩は……各務 凉は何を見ますか? あの空間に」
「んー……キャストとして、なら『昔』は居たかも知れんね。客は無いかな、見てる自分が苦しいし」
「では、今は?」
「両方ともお断りだね。ぼくはこの身体が好きなんだ」
薄手の長袖から確かに主張する膨らみを撫でて先輩は笑う。
「……確かに。髪も伸びました?」
「そうなんだよね。受け入れてからかな? 伸びんの凄く早くなったんだ」
「そうなんですね。……話は戻りますけど、あたしは請われてもそこに立つことは無いかなって」
「そう言うと思ったよ。キャッキャされる為のものじゃないよね。……君のその服も『好き』、だろ?」
「ええ、『好き』です。全部があたし」
衣で装われる位の薄っぺらい自分達なんて、要らないもんね。
【キャスト裏話】
紫丁香花/ 土崎 コタケ(つちさき こたけ)
にじゅう(ぴー)歳
アルストロメリア 主計班長。アルストロメリアの創業時から居るキャストで年齢の話は物凄くタブー。
店長サイドからの信頼も厚く仕入や在庫管理を統括する……が抜けも多い。教育大の出らしい
古くてお堅い家系故の名前が物凄くコンプレックス。今ここで働いてることは秘密である。




