君と影
はてさて、そろそろ本題に移ろうかな。化粧品の横の棚を覗き込んで、定位置に「それ」が無いことを改めて確かめる。うーん、無いのか……
「和知先輩、何を探してるんですか?」
「ん、これ」
あたしの指さした空の棚を覗き込んだ小鞠は、
「日焼け止め……ですか」
「ん。……小鞠には、無縁?」
程よくコゲた小鞠の顔を覗き込むと、
「そうでもないっすよ、うちだって少しは気にして塗ってるけど汗ですぐ落ちちゃうんで……って、うわわっ!? ち、近いってぇ……」
小鞠が大袈裟に飛び退く。
「何を怖がる、の? 」
今度はあたしがきょとんとする番。
「か、顔がいちいち近いんですよ先輩は…」
ぶつくさもじもじ。……? 知り合ったら、普通の距離感、じゃないの?
「そ、それより和知先輩ってめっちゃ日焼け止め塗ってるんですね……だからこんなに白くて」
「ううん、塗らないと死んじゃうの」
「えっ」
ことも無さげにサラリと言ってのける。
「……あたしね、肌が弱くって長く日にあたると火傷するの。……小鞠も、見たでしょ? あたしが焼かれるとこ」
持っていたスポーツバッグが力なくドサリと落ちる音。酸欠の金魚みたいに口をパクつかせる小鞠を、困ったようにあたしは見つめていた。
「ごめんね、こんな重い話をして」
「そ、それじゃうちは……何も知らずに先輩を連れ出したりなんかして……」
「いや気にしなくても大丈夫。外見からだと分かんないでしょ、これ。それに……もう長く付き合ってるから、いい。」
今も少しピリつく手の甲をそっと隠す。汗で流れたのかな、これだから夏は嫌い。
「だからあたしは夜に出歩くのと、部屋の中に居るのが日課なんだ。ふふっ、蜘蛛みたいでしょ?でもあたしは嘆いてないよ」
「せんぱい…」
「夜が好き。夜更かしも好き。だって夜は誰もあたしの事を、気にしないから」
「……だったら、」
「……小鞠?」
「……だったらうちが、いつか先輩を陽の当たるとこまで引っ張ってきます。こんな綺麗な先輩が夜にしか出歩けないのは勿体ないです」
「……なにを、言ってるのかな?」
唐突な宣言に困惑して問い返す。…それは、あたしに消えて欲しい、ということ、なの?
「……太陽のせいで夜にしかまともに出歩けない、ってのは分かりました。でも先輩はそれでいいんですか? この先もずっと暗いとこで……先輩、お店での名前が君影草なんですよね? うちあの後調べたんです。……スズランなんですね、夏の花。花は光がないと生きられないです。だからうちが……いつか先輩の太陽になって…」
小鞠のおでこにそっとデコピンする。ゆ、指が今ペキっと鳴ったよ……?硬いおでこだなぁ…
「イッテテ……な、なにするんですか先輩」
「本当に、小鞠は何を言ってるのかな……?」
困り顔は崩さずに次はゲンコツ。や、やっぱり指から嫌な音した……
「全く、本当に小鞠は。………お姉さんを困らせるんじゃ無いよ」
揺れ動く心を隠すようにわしゃわしゃと小鞠の髪を掻き回す。
「わっ、やめっ、」
「それに、」
小鞠の首筋に顔を近付ける。
「ちょっ、えっ、和知先輩!?」
「……スズランは毒だよ、それこそ心臓がシビれて止まっちゃう位の」
そっと顔を離すと、小鞠がその場にへたり込む。
「ふにゃあ……」
「全く小鞠は。まだ覚悟が足りないみたいだね」
スズランの毒性
・嘔吐
・頭痛
・眩暈
・血圧低下
・心臓麻痺
・心不全




