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第20話:宿不足

 軽く百トンを超える重さの巨体。


 まあ、いきなり見せられればこの反応になるのも仕方がない。


「多分、エリアボスだ」


「な、なるほど……? って、エリアボス⁉︎」


「ああ」


「色々あって、私たちで倒したんです」


「色々とは⁉︎」


 驚き続ける受付嬢。


 どうやら詳しい事情が気になるらしいので、仕方がないので順を追って説明したのだった。


「つまり、試験地の近くでエリアボスを発見したため、討伐したと……信じられません。『レッド・ドラゴン』ともなると、最低でもBランク冒険者を十人以上は集めないと倒せないはず……。これを二人で……となると、お二人は少なくともBランク冒険者よりも強いことに……」


 ぶつぶつと何かを言っている受付嬢。


「そんなことより、見積もりを出してもらってもいいか?」


「あっ、すみません! そうですよね! 少しお待ちください!」


 そう言って、受付嬢は他のギルド職員を呼んで査定を進めていく。


 三十分ほど慎重に状態のチェックが成され、ついに結果が出た。


「お待たせしました。暫定ですが、買取金額は一千万ジュエルになります」


「一千万⁉︎」


 この世界では、一ジュエル=一円くらいの価値なので、俺の感覚的には一千万円での買取というイメージだ。当然、一千万円なんて大金を手にしたことはない。


 倒すのにかかった時間が一時間もかかっていないことを考えると、凄まじい時給単価である。


 しかし、受付嬢の言葉の中に一つ引っかかるものがあった。


「暫定ってのは?」


「高額な買取の場合は、ギルドマスターの決裁が必要なんです。ただ、この時間は不在でして……一千万ジュエルを下回ることはないはずですが、お支払いも含めて明日になってしまいます」


「なるほど」


 エリアボスのような貴重な素材の場合には、ゲームではユーザー間での売買で売却されるのが普通だった。ギルドで売却しようなどと思ったことがなかったため、知らなかった。


 そういうルールになっているのなら仕方がない。


「分かった。じゃあ、今日は依頼の報酬だけ受け取って帰るよ」


「ご理解いただきありがとうございます」


 ということで、今日の依頼報酬一万ジュエルだけを受け取って冒険者ギルドを出たのだった。


 ◇


 買取査定にやや時間がかかったため、もう時刻は午後八時前。お腹もかなり減ったのだが、そんなことよりも早く今日泊まる宿を見つけなければならない。


 この世界の宿は、ゲームとは違って部屋の数には限りがある。通り過ぎた宿を見ても、入口に『満室』の札がかかっているところばかり。当たり前だが部屋が空いていなければ泊まることはできない。


 冒険者ギルドから近ければ近いほど人気があるらしく、見つけた宿は全て埋まってしまっていた。


 ——それから十分後。


 ようやく『空室あり』表記の札がかかっている宿を見つけた。


 値段も一泊辺り五千ジュエルと、相場通り。今日はここにしよう。


 素早く無人のフロントへ行き、呼び鈴を鳴らす。


 しばらくして、宿の支配人が出てきた。


 なぜ支配人かと分かるかというと、名札にそう書かれているからだ。


「今晩から泊まらせてほしい。とりあえず一泊で、延長オプションも付けてくれ」


 この世界の宿のルールは冒険者が一般的だということもあり、少し特殊だ。延長オプションを付けることで、連泊する場合も毎日一泊ずつの宿泊料金を支払うだけでいい。そのため、宿が気に入らなければ翌日から別の宿に移ることもできる。


「一泊に延長オプションだな。えーと、お二人さん、カップル?」


「違う。部屋は分けてほしい」


 なぜ初手で聞くんだ……?


 っていうか、ミリアがなぜか喜んでいるのも気になる。


「違ったか……すまない。実は、もうシングル部屋一つしか残ってないんだ」


「えっ……」


「同室になっても良いなら案内できるんだが……さすがに無理だよな?」


 ダメに決まっている。


 同じ屋根の下で男女が一夜を過ごすなんて……俺はともかく、ミリアが嫌だろう。


 せっかく苦労して宿を見つけたのに、また逆戻りか……。


 と思っていたその時。


「良いんじゃないですか?」


「え?」


「寝るだけですよね? 一緒の方が宿代も浮きますし、私は良いと思いますよ!」


 もしかして、ミリアはシングル部屋の意味がよく分かっていないのか?


「ベッドが一つしかないってことはつまり……俺とミリアが一緒のベッドで寝るってことだぞ?」


「分かってます! すごくいい……じゃなくて、私は構いませんと申し上げているのです」


 ちゃんと理解していたのか。


 ミリアが良いなら俺も反対する理由は……いや、そういう問題じゃない。


「探しても見つかるか分かりませんし、探している途中にここも埋まっちゃうかもしれませんし」


「それは……そうか」


 まあ、別に同じ部屋で夜を過ごすことが何か悪いわけではない。


 何事もなければいいんだ。何事も……な。


「分かった。じゃあ、今日はここに泊まろう。部屋に案内してくれ」

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