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126.人造ノ神ノ遣イと蜘蛛と氷の魔女

 金色の魔物。何となく予想がついたので、こっそりシエルと入れ替わって、フィイ母様に確認する。

 基本的にYES/NOでしか答えてもらえないけれど、今回は「人造ノ神ノ遣イで合ってますか?」と聞くだけなので、問題はない。

 そして確認した結果、やはり人造ノ神ノ遣イらしい。


 ラーヴェルトさんもその予想はついたらしく、シエルの方を見る。

 人造ノ神ノ遣イが現れたら、教えて欲しいという約束だったから、その可能性をしているのだろう。

 シエルと目が合ったことで、理解したと思われたのか、ラーヴェルトさんが口を開く。


「シエルメール様。情報が出揃うまで待っていてもらえますかな?」

「わかった」


 シエルには既に人造ノ神ノ遣イだと伝えたけれど、それをラーヴェルトさんに伝えるとどうして解るんだと言うことになるだろうし、フィイ母様の魔術だか、魔法だかについて話さないといけないので黙ってもらっていた。

 それに今ある情報は人造ノ神ノ遣イが出たということだけ。

 前回と同じくウルフの姿をしているのか、別の姿をしているのか、どういった能力があるのか、といった情報があればあるに越したことはない。


 それに巣窟が騒動しているなら、今から行って簡単に中に入れるとも思えない。


 というわけで待っていたのだけれど、シュシーさんが所在なさげにきょろきょろしているのに気がつくのが少し遅れた。


「えっと、シエルメール……様が探していた魔物、ですよね?」

「そう」

「だとしたら、倒しに行くんですか? 大丈夫ですか?」

「うん。1体倒してる」

「それでも気を付けてくださいね」


 こんなやり取りをした後、やることもないシュシーさんには帰ってもらう。

 ホッとした様子だったのが印象的だったけれど、グランドマスターであるラーヴェルトさんと一緒の部屋は緊張したのだろう。

 中央においてはラーヴェルトさんよりも、シエルの方が力が強いはずなので変な話だけれど……まあ、慣れの問題なのだろう。


 シュシーさんが出て行った後、しばらく情報が集まってくるのを待つ。


・外から巣窟に金色の魔物が進入してきた。

・ハンター達をなぎ倒しながら奥に進んだため、多くの死傷者が出た。

・C級以上であれば逃げるだけなら難しくない。

・それなりの数のハンターが捕らえられているらしい。

・魔物の名前は「人造ノ神ノ遣イ」。

・今は巣窟の入場制限を行っている。


 まとめるとこんな感じで、人造ノ神ノ遣イの名前が出た時点で、ラーヴェルトさんがシエルの方を見た。

 それから、ラーヴェルトさんは人を呼んで許可証を出すように伝える。

 シエルが滞りなく巣窟に入れるようにしてくれているのだろう。それは助かる。


 こちらとしても人造ノ神ノ遣イだから、倒しに行くのもやぶさかではない。

 むしろ探してくれと言っておいて、何もしないという選択肢はない。


 すぐに発行された許可証を「よろしく頼みます」とラーヴェルトさんに手渡されたとき「金色の……蜘蛛の魔物だ!」なんて声が聞こえてきた。





『蜘蛛……ですか……』

『蜘蛛らしいわね……』


 巣窟に向かう道を歩きながら、シエルとわたしはため息混じりに会話する。

前回と同じくウルフということはないだろうと思っていたけれど、よりにもよって蜘蛛はない。

 蜘蛛にはいい思い出はない。おかげさまでシエルの足取りも重い。


 先ほどから逃げるように巣窟から走ってくるハンターとすれ違っているけれど、そんなことがどうでも良いほどだ。

 中には巣窟に向かうシエルに「危ねえぞ」と止めようとしてくる人も居たけれど、シエルの耳には入っておらず、伸ばした手はわたしの結界にはじかれて、そのままいってしまうなんてこともあった。


 気持ちは落ち込んでいるけれど、シエルを心配しての行動だと思えば、悪い気はしない。

 悪いことをした気もするけれど。


 巣窟の入り口につくとハンター組合の職員らしき人が中に入ろうとするハンター――おそらく1パーティだろう――を引き留めていた。

 手柄を立てようとするハンターが「中に入れろ」と騒ぎ、職員側は「詳細が解るまでB級以上のハンターでなければ、入れることはできません」と声を張り上げる。


 一応話には聞いていたとはいえ、ちゃんと封鎖しているらしい。ハンター組合の対応もなかなか早いようだ。


 周りには野次馬っぽい人たちが集まっていて、冷ややかな目で迫るハンターを見ている。

 野次馬の中に妙に魔力が多そうな人がいるけれど、わたし達には及ばないので気にしなくて良いだろう。


 ハンターの方は職員なんて無視して押し入りそうな雰囲気があるもののやらないらしい。下手するとランクが下がるからだろうか?

 確かそう言った規定があったはず。


 そのやりとりを無視するように、シエルが入り口に向かう。

 そして職員に言い寄るハンターを無視して、何もいうことなく職員に許可証を渡した。

 B級以上であれば、シエルのランクで普通に入れるけれど、たぶん信じてもらえない。職員なら解りそうなものだけれど、許可証があった方がスムーズに入れるのは間違いないだろう。


 シエルから許可証を受け取った職員は、迷惑そうにそれを見たかと思うと驚いた様子で「どうぞお通りください」と頭を下げる。

 それを見ていた、今まで言い争っていたハンターが怖い顔をしてシエルを見てきた。


「何でこの小娘がよくて、俺たちがだめなんだよ」

「その子がフィイヤナミア様の義娘だからよ。ハンターならもっと情報を集めるべきね」

「なんだおま……氷の魔女だと!?」


 野次馬の集まりの中から現れた女性に対して勢いよく返答しようとしていたハンターが、カロルさんを認識して驚愕の表情を浮かべる。

 A級ハンターに喧嘩売りかけたのだから、そうなるのだろうけれど。

 というか、高い魔力を持つのは、カロルさんだったのか。ざっと確認してみたけれど、他に高魔力の人はいないので間違いなさそうだ。


「そうよ。氷漬けにされたくなかったら、どこかにいってくれないかしら? さっきから邪魔なのよね」


 カロルさんに睨まれ、ハンター達が逃げるように去っていく。

 さて、どうしてカロルさんがいるのだろうか?


「どうしてカロルがいるの?」

「シエルメールが来るだろうと思ったからよ。でもここだと人も多いし、中に入って話さないかしら?」

「わかった」


 カロルさんと一緒に巣窟の中に入る。カロルさんはA級なのですんなり入れてもらった。

 シエルだとA級の証を見せてもひと悶着ある可能性があることを考えると、年齢というのは大事だなと思わなくもない。

 やはり神化は、シエルがもう少し大きくなってからでもいいのではないだろうか?


 なんとも悩ましい問題だ。


 巣窟の中には魔物がいるだけで、前回来たときのようにハンターは居ない。当たり前か。

 カロルさんは奥に進むことなく、第一層で足を止めた。


 魔物たちが寄っては来るが、結界に阻まれて近づいてこない。

 最弱クラスの魔物であるので、結界が無くても身体強化をすれば十分立ち話はできるだろうが。


「それでワタシが居たわけだけれど、興味本位よ。

 人造ノ神ノ遣イが現れたという話だったから、どうせシエルメールが来るだろうと思ってね」


 カロルさんは話すけれど、微妙に答えになっていない気がする。

 どうしてシエルを待っていたのか、というのが大事ではないだろうか?

 それを含めて興味本位というのはあるだろうけれど、シエルが――というかわたし達がどうして人造ノ神ノ遣イを倒そうとしているのかを知りたいのかもしれない。


 答えるつもりはないけれど、カロルさんが自ら辿り着いたら話しても良いかもしれない。

 その前にシエルに相談しないといけないけれど。


「カロルも来る気?」

「どんな魔物なのか見ておきたいのよね。前回シエルメールが倒したのはウルフだったのに、今回は違う。だけれど調べると同じ名前。

 考えてみると変な話だもの」


 確かに変な話ではある。

 曲がりなりにも神の領域に足を踏み入れているから、鑑定が上手くできていないだけだと思うけれど。そしてやはりシエルを待っていた理由は教えてくれない。


「でも、シエルメールが戦う邪魔はしないわ。

 戦っているところを見られたくないのであれば、すぐに帰るつもりよ」

「そうしたほうがいいと思う」

「わかったわ。ところで、念願の魔物が見つかったはずなのに、浮かない顔をしているのはどうしてかしら?」


 カロルさんが不思議そうにシエルを見る。

 そう思うのも無理はないほど、シエルとわたしは乗り気ではないので仕方ないのだけれど。


「今回の姿は知ってる?」

「蜘蛛って話ね……。もしかして、蜘蛛が苦手なのかしら?」

「……目が覚めたら、全身を蜘蛛が這いずっていた話、聞く?」


 シエルとわたしのトラウマ。

 わたし個人でいえば、ネズミも芋虫もほかにもいろいろ苦手になったものはあるけれど、蜘蛛だけは今後慣れそうにもない。


「遠慮しておくわ。今の言葉だけで、貴女達の過去が壮絶だったことを改めて実感したもの。

 ところで、今まではどうしていたのかしら? 森の中には蜘蛛もそれなりにいたと思うのだけれど」

「視界に入ったら殺してた。大きい蜘蛛相手だと、どうなるか解らない」

「だから『そうしたほうがいい』わけね」

「うん」


 蜘蛛を目にしたときのシエルは、周りのことが見えなくなる。

 普段は蜘蛛だけを消滅させる勢いなので問題はないのだけれど、今回の相手は人造ノ神ノ遣イ。大規模な魔術を発動させるおそれもある。

 ついでにわたしもシエルを止める余裕はない。


 蜘蛛から少しでも距離を置くために、結界の範囲を広げている。無意識に。たぶん攻撃できたら、山火事とか起こしていたことだろう。


「それじゃあ、行こうかしら」

「やっぱり来るの?」

「行けるところまでよ。案内があった方が楽じゃないかしら?」


『どの階層にいるかは解りませんが、案内はあった方が良いかもしれませんね』

『じゃあ、案内を頼むのね?』

『一応何層まで行けるのかと、報酬はなにが良いか聞いてみてください』


 前回は第七層まで行ったけれど、それよりも深いところまで潜っているかもしれない。

 そのときにはカロルさんに案内してもらった方が、早くたどり着けそうだ。

 この場合早いことが良いことなのかわからないが。


「カロルは何層まで行ける?」

「余裕を持って行けるのは第三十五層ってところね」

「案内の報酬は?」

「別にいらないのだけれど、そうね。シエルメールとエインセルはどちらの方が魔力の扱いが上手なのかしら?」

「エイン」


 シエルが即答する。これに関しては、シエルには負けないという自負があるので黙っておく。

 カロルさんは、少し考えて口を開いた。


「それなら、行き道でエインセルと話をさせてもらっていいかしら?」

「わかった」


 シエルが短く答えて、わたしと入れ替わる。

 わたしもかまわないので良いのだけれど、シエルが何もいわずに入れ替わるというのも珍しい。

 わたしに表に出てもらいたかったのだと思うけれど。


 入れ替わったものは仕方がないので、とりあえずアクセサリーも入れ替えておく。


「入れ替わったみたいね」

「はい。入れ替わりました」

「それじゃあ、魔術の話をするわよ」

「やっぱり、そうなるんですね……」


 うん、うん。この展開は読めていたよ。

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