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107.入店拒否と昔話と服屋さん

 アクセサリー店での買い物を終えて、次は服を買おうと言うことになった。シエル的にはこちらが本命だろうから、拒否する理由もないけれど。

 時間的にもまだ余裕はある。

 遅れたところで咎められる立場ではないけれど、それはそれ、これはこれ。


 立場に溺れないようにする……と言うか、程々に社会の中でやっていくための最低ラインは超えないようにしなければ。


 おそらく立場が無くても、遅れても良いかなーと思っていたとは思う。

 わたしにとって優先順位の最上位はシエルだから。シエルが楽しんでいるのであれば、フィイ母様との約束だって破る可能性がある。

 その辺はまだ理性が働いているので大丈夫だけれど、だいぶ人とずれてしまっていると再確認できた。


 あまりよろしくない傾向だとは思うけれど、シエル最上位主義をやめるつもりはない。

 今回もあくまで、今後シエルが社会の中で生きにくくならないため、つまりシエルのために時間を意識しているようなものだし。


 閑話休題。


 服屋と言うか、衣装店と言うのか、服飾店というのかよくわからないけれど、シエルと一緒に服をおいているお店を探す。

 実はこれまでに二軒ほど行ってみたのだけれど、買わせてもらえなかった。


 一軒目はシエルの年齢の問題。子供だけでお店に入れることは出来ないからと、隣でシエルよりも少し年上くらいの子を招き入れながら言われた。

 もう一軒はあからさまに歓迎されず、「お客様にお売りできるものはございません」と慇懃無礼に言われた。


 わたしは腹が立ったのだけれど、シエルは全く気にした様子はなく「ふーん」くらいの反応だった。

 だからこそ、特に何もせずに三軒目を探しているのだけれど。


 後は今があくまでも個人的な目的で動いているというのもある。

 これが母様に頼まれてのことだったら、追放処分くらいにはしていたのではないだろうか?

 わたし達にそこまでの権限があるかはわからないけれど。


 フィイ母様と言えば、昨日の発言はこれのことを言っていたのだろう。

 と言うことは、組織的にシエルの買い物の邪魔をしようとしている人が居る可能性があるわけだ。


『エイン何かあったのかしら?』

『いえ、ちょっと気になることがありまして』

『何かしら? 気になるのよ?』


 業腹だけれど、シエルに教えるかは少し迷う。

 追い出されたとは言え、シエルは今という時間を楽しんでいるから。

 嬉しくもないニュースを聞かせる気にならない。


 だけれど、ここで誤魔化すのも難しい。

 何せシエルが興味を示してしまったから。ううむ、こう言ったときに柔軟なと言うか、スマートな対応が出来るようになりたい。


『シエルの買い物を邪魔している存在が居るなと思いまして』

『だからさっきまでお店に入れなかったのね。だけれど、なぜそうする必要があるのかしら?』

『それを言われると、なぜでしょうね? フィイ母様の娘になった事がそれっぽい気もしますが、こんなに真っ正面から喧嘩を売ってくるとは思えないんですが……』


 他国で言えば「王子にお売りできるものはありません」と言っているようなものだ。

 この世界の身分社界の有り様はわからないけれど、下手すれば一発で不敬罪で断頭台だと思う。

 そこまでではないとしても、中央のトップに喧嘩を売るようなものだ。今後商売がやりにくくなるのは間違いないと思うのだけれど。


 うーん……可能性としては低いとは思うけれど、フィイ母様に挑もうとしている一派でもいるのだろうか?

 確かフィイ母様は簒奪容認派だったはずだし。だとしても、ちょっと無謀がすぎるのではないだろうか。

 わたしの結界すら壊せるか怪しいんじゃなかろうか。


『でも、そういうことなら、買い物できるところを探せばいいわ。

 どうせフィイが何か知っているのだから、そのうち教えてくれるのではないかしら?』

『確かにそうですね。素直に教えてくれるかは微妙ですが』

『それに何があっても、エインが守ってくれているもの。

 だとしたら、エインと買い物をしている今の時間を楽しむべきなのよ』

『任されました。何があってもシエルを守ります』


 それこそ仮にフィイ母様と戦うことがあっても。


『私のお姫様は勇ましいのね、勇ましいのよ』


 そういってシエルがクスクスと笑うのだけれど、ちょっと聞き捨てならない単語が混ざっていた気がする。

 歌姫だからそうなのかもしれないけれど、一応確認しておこう。


『えっと、"私のお姫様"ってどう言うことですか?』

『あら、言ったことがなかったかしら?

 初めて魔物を倒したときに、そう思ったのよ。エインは私を守ってくれる英雄だと思っていたのだけれど、実際は魔物に震えてしまうお姫様なんだって。

 あのころは、物語の世界が私の中で大きかったのよね』


 確かに外に出られないシエルは、わたしと話すか本を読むことでしか外の世界を知ることは出来なかっただろう。

 しかもあの部屋にあった物語は、英雄譚的なものに寄っていて、とらわれの姫を助けるとかそういった話が多かったけれど。

 確かに初めてサイクロプスと戦ったときは、わたしは動けなかったけれど……。


 うん、否定できない。


 あのときサイクロプスの前に躍り出ていったシエルの方が、わたしにとっては英雄的だった。

 それを後ろから見ていたわたしはか弱いお姫様なのだろう。

 ちょっと釈然としないけれど。


『でもね。同時にエインは強いと思ったのよ。震えているのに、立ち向かおうとしていたもの。

 あのときのエインは格好良かったわ。今のエインも格好良いけれど』

『そういう話だとシエルの方が格好良かったですよ。わたしには出来ない事をやってくれましたから』


 仮にあそこで隠れていたとして、見つかったとしてもサイクロプスはわたしの結界を越えることは出来なかった。

 でもそれはそれ。わたしを信じて躍り出たシエルは、わたしよりも格好良かったに違いない。


『さて、次のお店に入りましょうか』


 シエルが視線を一つのお店に向けたので、わたしもそれに同意した。





 先ほどまではいわば高級住宅地のようなところを歩いていたけれど、今はそこよりも少し高級感に欠けるところまでやってきていた。

 小金持ちとかが集まるところ、だろうか?


 入ったのはその中の服を売っていることはわかるお店。

 女性向けなのはそうなのだけれど、なんだか普通のお店とは雰囲気が違う。何かと思ったら、おしゃれ用の服に加えて、防具のようなものもおいていた。


 なるほど女性ハンター向けと言ったところなのだろう。

 上級ハンターであれば、お金持っているだろうし、女性であればおしゃれをしたいと。

 あまり広くない店内には、女性の店員が一人。こちらに気を向けているものの出て行けと言う様子はない。


 出来損ないのマネキンのようなものに着せられた服をシエルが眺めているものの、はっきり言ってわたし達に合うような大きさの服はなさそうだ。

 シエルの年代で、このお店で服を買えるようになるくらいに稼げるハンターはまずいないから、当然か。


 なかなかに良いお値段している。

 わたし達にしてみたら、そこまで高いという感じはしないけれど。

 でもたぶん、普通の服よりも一回りくらい高いような気がする。


 シエルが熱心に服を眺めていると、こちらの様子をうかがっていた女性店員が近づいてきた。

 入ったときからわかっていたけれど、B級ハンターになれるくらいの魔力を感じ取れる。

 隠している可能性を考えると、A級ハンターレベルはあるだろう。


 と言うか、元ハンターとかそんな感じの人なのだろうか?

 見た目はカロルさん達より少し若く見える。背はそれなりでスレンダー。なんだか人なつっこいというか、明るい印象を受ける。何というか、いつも楽しそうにしているような、鼻歌を無意識に歌っているようなそんな感じの人。

 そして耳がとがっていて、相変わらずついてきているリシルさんをちらちらと見ている。


 うん。エルフの人か。詳しいことは知らないけれど、見た目と年齢が一致しない筆頭のイメージがある。

 カロルさんより年下でこれだけ強ければ、有名になっていそうなものだと思ったけれど、エルフであればこの見た目で50歳とかあるのかもしれない。

 人の時間感覚で言って意味があるかは知らないけれど。


 彼女はまじまじとシエルを観察してから、声をかける。


「貴女に合う服はないんじゃないかな?」

「やっぱり。どうして?」

「このお店に貴女くらいの子が来るのは想定していなかったからね。

 でも……うん。貴女なら納得かな。と言うか、もしかしてあたしより強くない?」


 驚いた彼女が見たのは、たぶんわたしの結界だけれど、どこまで見えたのだろうか。

 自分より強いと言っているので、球状の最も内側あたりかな?

 表面を覆っている奴は頭おかしいらしいから、これくらいの反応にはならないと思う。そんなに難しくないのに。


「貴女はハンター?」

「あたしはシュシー・シャガル・メスィ。服を作るための素材を集めるためにハンターになって、気が付いたらA級になっていた服職人!」


 胸を張ってシュシーさんは話していたのだけれど、すぐに背中を丸める。

 何があったのかなと思っていたら、気落ちした声で話し始めた。


「って言うのが自慢だったんだけど、貴女に言ってもね。

 あたしの方が弱いからね……。これでも二つ名持ちなんだけどなー……」

「氷の魔女とか、灼熱の美姫とか?」

「うんうん。そう言うの。……で、貴女はもしかして、フィイヤナミア様の娘のシエルメール様だったりしますか?」


 何かを察したらしいシュシーさんの口調が急に丁寧になる。

 何と言うか、独特なリズム感を持っている人らしい。


「うん」

「はい、はい。そうですよね。特徴そのままですもんね。高位の精霊連れてますもんね……」

「駄目なの?」

「いえ、会うことがあったらくれぐれも丁重に扱うようにと、姉に厳命されていまして……。

 最初の対応を間違えたかなと思いまして……はい」

「別にいい」

「えっと、普通に話しても?」

「構わない。服が欲しい」


 こうやって見ると、シエルってだいぶマイペースなんだなと思う。

 それがシエルの良いところかもしれないけれど。少なくとも権力に溺れることはない。

 無頓着すぎて、何か引き寄せそうな感じもするけれど、その時にはその時。


 シエルの要求にシュシーさんが困った顔をする。


「サイズがないから、作ることになるけど大丈夫?」

「作る?」

「シエルメール様に合わせてデザインから考えることになるんだけど……」

「私も考えられる?」

「意見を取り入れるくらいならいけるかな?」


 シュシーさん。なかなかに大物な気がする。すぐに話し方戻したし、デザインを全てシエルに任せる気はないらしい。

 その辺は職人としてのプライドというものだろう。

 シエルとしても、よりいいものを作るためにはその道の人の意見を聞くことも大事だろうし、良いことだとは思うけれど。


「それでいい。でも私のためじゃない」

「プレゼントってこと?」

「そう」

「誰になのかな?」


『双子の姉妹と言っておけばいいと思いますよ』


 シエルが言いあぐねていたので、助け舟を出す。

 わたしが外に出ることが増える以上、双子ってことにしておいた方が何かと便利だろうし。


「双子の姉妹」

「じゃあ、サイズとかはシエルメール様と同じ?」

「全く一緒。髪と目が黒い」

「じゃあ、シエルメール様のサイズを測らせてもらうけど、良いのかな?」

「構わない」

「それなら、こっちに来てくれる?」


 そう言われて、お店の奥に案内された。

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