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閑話 幸せとは ※シエル視点

 気を取り直して朝食の席に行く。

 フィイと挨拶をして、昨日のお礼を言ったところ「役得」なんて返ってきた。

 無理に聞く気はないけれど、羨ましいことこの上ない。


 昨夜エインは何を話したのかしら?

 それはきっと、エインの悩みだと思うのだけれど、いつかエインは話してくれるかしら?

 無理に聞くことはないけれど、少しくらい「ずるい」というくらいは許されるわよね。


 羨ましいけれど、こういったやり取りは楽しい。

 それに昨夜のエインは私は知らないけれど、私はフィイの知らないエインをたくさん知っているから、羨ましいけど、羨ましくないのだ。


 朝食を食べつつ、フィイが今日の予定を聞いてきたのだけれど、エインが私に話したいことがあるらしく、部屋の中でエインの話を聞くことになった。

 何だか声に緊張が混じっていたけれど、エインは何を話す気なのだろうか。





『シエルはわたしが三日間何処にいたのかは、知っているんですよね?』


 部屋に戻ってきてベッドに座って待っていたら、エインがそう尋ねてきた。


「フィイが、たぶん神界に行ったって言っていたわ」

『それで間違いありません。創造神様に呼ばれて、神界に行っていました』

「神界ってどんなところだったのかしら?」

『綺麗なところでしたよ。この屋敷の庭に近いでしょうか。

 ですが見たことがない花も多くて、とても日差しが柔らかでした。

 そこで創造神様とお茶会のような席で話をしていたんです。さすがに綺麗な人でした。神……でしょうか?』


 とても綺麗なところだったらしい。

 いつか私もエインと行けるといいのだけれど……。

 飲んだお茶もきっと、私が知らないものなのだろう。


 ……!?


 そこでとても重大なことに気が付いた。

 間違いがないかエインに確認してみる。


「今なんて言ったのかしら?」

『今と言うとどれでしょう?』

「席で話したって言わなかったかしら?」

『そうですね。綺麗な椅子に座って話しました』


 椅子に座ったとなれば、確定して良い。

 エインが椅子に座れたのだ。


「座ったのね? つまり神界にはエインの体があるのね? そうなのね?」

『えっと、体があるというかわたしの魂が人の形を取っていたんだと思います』

「エインが1人の人だったらこういう姿、と言うのがあるということね?」

『そうなりますね』


 それはとても興味深いわ。興味深いのよ。

 何とかしてエインの身体を作れないかなとは思っているけれど、どんな姿にしたらいいのかと言うのは問題だものね。

 これは少しでも多くの情報を集めなければいけないわ。


「それでどんな姿だったのかしら? かしら!」

『シエルみたいな見た目でしたよ。シエルの体を使っているから、魂が影響されたみたいです。

 でも色は前世の配色でしたね。髪と瞳が黒くて、肌が薄い橙色……でしょうか?』


 黒い髪に黒い瞳。肌の色も少し濃いのね。

 今までにあまり見なかった配色だけれど、エインにはきっと似合うと思うの。


「いいわ、いいわ。私も見てみたいわ!

 どうにかして、エインの姿を見られないかしら?」

『そうですね……。それとも少し関係する話と言いますか、本題に入ってしまいましょうか』


 そうだ。これが本題ではなかった。

 今は落ち着いて、エインに話を聞くことにしよう。


 そう思って話を聞いていたけれど、最初はエインがどうして私のところに来てくれたのかという話だった。

 これまでの道筋であの男が度々かかわってきたのは癪だけれど、エインがすごいということが分かったので私は満足。

 ここまで話を聞いたところで、エインが一度区切りを入れてから話し始めた。





 とりあえず、エインはどんどん神様になるらしい。

 10年もしないうちに、神様の側に入るらしいのだけれど、フィイのようになるって事かしら?

「置いておきましょう」、なんて言ってしまうけれど、エインのそう言うところは好ましくない。もっと自分に興味を持っていいと思うのだけれど。

 話を途中で遮るのもどうかと思ったので続けて聞いていたら、エインがとても言い難そうに、でもはっきりと宣言した。


『わたしが神に近づいていくと、シエルも引っ張られて神になっていくんです』


 エインが神様に近づくと、私も一緒に神様になるのね?

 そうね。大変なことかもしれないわ。

 だけれど、それってエインと一緒に居られるってことよね?

 もしかして、神様になるとエインと離れ離れになってしまうのかしら?


「私が神に近づくとどうなるのかしら?」

『そうですね。ある程度神に近づくと、精霊の声が聞こえるようになったり、精霊と触れ合えたり出来るようになります』

「それは素敵ね」

『それから神の側に足を踏み入れた段階で不老になり、徐々に食事や睡眠が不要になったり、死ににくくなったりするそうです。

 問題は不可逆であること。一度神の側へと足を踏み入れてしまうと、人に戻ることは出来なくなります』


 どうやら離れ離れってことはなさそうね。

 食事や睡眠が不要って言うのは便利そうだし、精霊と触れ合えるのはとても素敵だと思うのだけれど。でも、人でなくなるというのが、エインには引っかかっているのかしら?

 私はエインと一緒に居られれば、人だろうとなんだろうと気にしないのだけれど。


『シエルが神にならないようにするためには、わたしが消える必要が……』

「なら考える必要はないわね。エインが消えるのは無しよ」


 エインが馬鹿なことを言い出さないように、はっきりと伝える。


 本当に何を言い出す気かしら。エインが消えるなんて許せるわけがないのに。

 それでも念を押してくるエインに、少しだけムッとしてしまう。

 よく考えてみて、というけれどよく考えるまでもないことなのに。


「エインこそちゃんと考えているのかしら。言ったでしょう? エインが居なくなったら、私はずっとエインを探すのよ? 死ぬまで探すのよ?

 まさか嘘だと思っていないわよね?」

『思ってませんが、人でいたいと思ったときにはもう遅いかもしれません』

「それはエインが消えても一緒だわ。エインに会いたいと思っても、エインが消えたら遅いのよ。

 それに神になっても、エインはいるし、精霊もいるし、フィイもいるのよね?

 私が必要としているものは揃っているのよ。分かったかしら?」

『はい……わかりました』


 分かればいいのだ。分かれば。

 エインに怒ったのは初めてかもしれない。


 だけれど、エインには私がどれだけエインを大切に思っているのか、少しでも知っておいてもらいたい。


「ねえ、エインセル。エインは私が嫌いなのかしら?」

『いいえ、大好きです。そうでなければ、今まで一緒に居ませんよ』

「私もね、エインのこと大好きなのよ?

 だからね。私は何があってもエインを選ぶの。それでは駄目かしら?」

『いいえ。……いいえ』


 噛みしめるようにエインが私の言葉を否定する。

 私が欲しかった言葉なのに、望んでいた反応なのに、エインは何かを考えている。


「何か引っかかるのね?」

『わたしは……わたしはシエルと離れたくはないです。

 ですが、シエルを幸せにし続ける自信がありません。シエルをわたしに付き合わせて、不幸にさせてしまったらと思うと不安なんです』


 どういうわけか、心臓がトクンと跳ねた。

 こんな風に後ろ向きなことを言うエインは初めてだと思うけれど、そう言う姿を見せてくれたことが嬉しかったのかもしれない。

 離れたくないと言ってくれたことが、嬉しかったのかもしれない。

 こんなにも私のことを考えてくれているのが、嬉しかったのかもしれない。


 でも不安そうなエインを前に喜んでばかりもいられない。

 私に何が言えるだろうか。エインを慰められるだろうか。


 エインはきっと、神様からこの話を聞いて考えていたに違いない。苦しんでいたに違いない。

 だけれど、私はそれを嬉しく感じてしまう。

 エインは私を喜ばせるために考えていた? 苦しんでいた?


 たぶんどちらでもない。あくまでエインは私に選んで欲しかっただけ。

 私が良いと思う選択をして、本当にそれが良いものなのかと指摘してくれているだけ。

 それは将来の私を喜ばせるものであっても、今の私を喜ばせるものではないはずだ。


 でも私は嬉しく思う。


 なるほど、たぶん。これで良いんだ。

 うまく言葉にできるかわからないけれど、何とか言葉にしてみよう。


「ねえエイン。私はエインのことが好きよ。エインが笑ってくれるのが好きだし、歌ってくれるのが好きだし、楽しそうにしているのも好き。

 だけどね、私はエインが困っているのを見るのも好きなの。恥ずかしがっているのも好きだし、私のために怒ってくれるのも好き」

『そう……なんですか?』

「でもねでもね、本当に困っているエインは見たくないし、悲しんでいるエインも見たくないのよ?

 えっとね、エインが私を幸せにしたいって思ってくれているのは嬉しいし、それだけで幸せなのだけど、たぶんエインが私を幸せにするって言うのは無理なのよ」

『どういうことですか?』


 一生懸命まとめているつもりだけれど、私の中でも曖昧な感じ。

 エインは何と言っていたかしら? 私を幸せにし続ける自信がないだったわよね。

 でも私の幸せって何かしら?


 エインが私にしてくれようとして、してくれたこと。

 私を守ってくれていること。私のために考えてくれていること。

 それはもちろん幸せ。


 だけれど、エインが困っている姿を見たり、歌っている姿を見たり、そう言う時でも私は幸せなのだと思う。幸せを感じているのは()なのだ。

 エインが与えようとしなくても、私はエインを見て幸せでいられる。

 だけれど、どんなエインでもいいかと言われるとそれは違う。悲しんでいる姿は見たくない。エインが泣いている姿を見たら、私はどうなってしまうのだろうか。


 そう考えると私は私の幸せを全部知っているわけではない。

 私でもわからないのに、私ではないエインがすべてを与えるなんて無理なのだ。

 エインは頑張りすぎなのだ。


 私はきっとエインが思っているよりも、ずっとずっとたくさん幸せを感じてきている。

 エインが与えてくれたもの。自分で見つけたもの。

 だからエインだけが頑張らなくていい。エインもエインの幸せを見つけてほしい。


 幸せそうなエインを見るのは、きっと幸せなことなのよ。


「私とエインは違うもの。エインが困ってしまうことでも、私は困っているエインを見て喜んでしまうわ。そのことをエインは今まで知らなかったでしょう?

 それに私がどういうことが嬉しいのか、私も全部わからないの。きっとまたエインの知らない一面を見たら、嬉しいとか悲しいとか思うのよ。

 同じように私がどうやったら幸せなのかなんて、私にもわからないの。


 だからね。私は私で勝手に幸せを感じるのだと思うのよ。

 きっと、エインもエインで勝手に幸せを感じているのではないかしら?

 それでもね、私は私が幸せになる方法は分からないけれど、少なくともエインが必要なことだけは分かるのよ」



 私は私の幸せをすべて知っているわけではないけれど、私が幸せであるためにはエインが必要なことだけは分かる。

 エインもそう思ってくれるなら、私達はずっと幸せでいられるはずなのだ。


「エインはどうかしら? エインの幸せに私を必要としてくれるかしら?」


 エインが答えてくれるまでじっと待つ。どんな答えでも冷静に返せるように。

 少ししてエインの声が聞こえてきた。


『必要……です』


 そう言ってくれただけで、嬉しい。幸せだ。

 冷静にいたいとおもったけれど、笑顔になる顔は止められない。


「それなら大丈夫ね。エインは私を幸せにする必要はないのだもの。

 これからもずっと、それぞれが勝手に、でも一緒に幸せになりましょう。

 だからエイン。もう消えるとか言ってはダメよ?」

『わかりました』


 今度はちゃんと分かってくれたみたい。

 エインがいなくなるなんて、絶対、絶対ダメなんだから。

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[気になる点] 同じ場面を何回も書かないでほしい 三人称にすればいいのでは?
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