美少女と不細工(グレイ)
アリシアの護衛を始めたばかりのグレイのお話。
誤解の始まりは彼のせい?
丸く大きな瞳が見上げて来る。今にも涙が零れ落ちそうな程に潤んだ瞳で見上げる美少女は、けして泣くまいと赤い唇を噛んで必死に耐えていた。
そんな美少女を俺は容赦なく叱りつける。
「何度言ったら解るんだ、このクソ餓鬼!」
「ごめんなさい……」
肩を震わせる美少女は俺の様な最下層出身の人間から発せられる罵声にも素直に頷き、そして謝るほどに素直で健気な大金持ちのお嬢様だ。
素直なのはいい、一緒にいてえらく扱い安くて助かるからな。しかしそれは俺の前だけにして欲しいものだ。
「知らない男について行ったらどうなるか、この前もその前もそのもっと前にも何度も何度も教えたよな!」
美少女は俺の罵声にも肩を震わせながら素直に頷いた。
「覚えてんなら言ってみろ!」
「かんきん、ふじょぼうこう、いっしょうかえれない……」
「覚えてんならなんでついてったんだっ!?」
「だって…かわいいねっていってくれたんだもん。」
「馬鹿野郎、お前はブスだって何度も何度も口がすっぱくなるほど言ってんだろうがっ。そんな変態の嘘を真に受けてどうすんだよっ!」
「だって、ジエルやマシェットもかわいいっていってくれたもん。」
ジエルやマシェットと言うのは美少女の屋敷に勤める使用人だ。そしてこの美少女は誰の目から見ても可愛くて、一歩外に出れば変態親父たちの格好の餌食となる。
これじゃいかんと悩んだ俺は、護衛としての仕事を少しでも楽にする目的でこの美少女を洗脳する事にしたのだ。
「そいつらは嘘をついている。そもそも使用人はお嬢様を可愛いと褒め称えるのが仕事みてぇなもんだからな。」
「でもお父さまだって―――」
「親父は不細工な娘が生まれても絶対に可愛いっていうように法律で決まってんだよっ!」
「そっ、そんなっ…じゃぁお父さまは、ずっとわたしに嘘をついていたのね……」
驚き蒼白になる美少女に悪い事をしたかとほんのちょっと胸が痛んだが、それもこれも全部こいつの為だと俺は己に言い聞かせた。あの成金親父だって娘が無事なら文句はあるまい。
だってそうだろ?
この美少女はかわいいって言葉と手招き一つで裏の世界に引っ張られて行くんだ。変態達の餌食になって泣くくらいならちょっとした嘘も許されるってもんさ。
「いいか、お前は不細工。可愛いって寄って来る奴はお前の親父が持ってる金目当てなんだ。今度そんな奴に出くわしたら股座蹴りあげて一目散に逃げんだぞ!」
「うん、わかったよグレイ。うわぁぁぁんっ!!」
素直に頷いた美少女は鼻を啜って泣き出した。それを俺は抱きとめてよしよしと慰めてやる。
可愛い可愛い妹の様な美少女だ、絶対に変態どもから守りきってやると誓っていた。
俺は真っ白な心で縋ってくれるこの美少女が大事で大事でたまらないんだ。だからこいつを傷つける奴は絶対に許さない。
美少女が泣きやむと俺達は手を繋いで歩き出した。しっかりと握り絞められる温もりに捕われた俺もちょっとだけ変態なのかもしれないと思いながら。




