誘拐(父)
最愛の娘が誘拐された。
厳つい護衛を引き連れて出歩くのを嫌う愛娘は時折、多々、護衛を撒いてくれる。まだほんの九歳、小さな体が人ごみに紛れると探し出すのにも一苦労だろうが、可愛い娘には必要な護衛だ。
その護衛が今日も撒かれ、愛娘の代わりに屋敷に届けられたのは脅迫状。貧民街の人間が私の愛しい娘を誘拐し多額の身代金を要求してきたのだが―――
「これっぽっちの金の為にアリシアは誘拐されたのか?!」
身代金の額が気に入らない。確かに要求は大金だが、愛娘の為ならこの十倍の金額を払っても惜しくはないぞ。
取り合えず要求通りの金を用意し次の指示を待っていると家令が血相を変えて飛び込んできた。
「お嬢様がお戻りにっ!」
「ただいま、おとうさま。」
扉の向こうには誘拐されているはずの愛娘と―――汚らしい、一目で貧民街の住人と解る少年が仲良く手をつないで立っていた。
「アリシアお前…誘拐されたんじゃなかったのか?」
「うんそう。とても怖かったわ。でもこのお兄ちゃんが助けてくれたのよ。とても強くてびっくりしたわ。」
お父様からもお礼を言ってねと愛娘が愛らしい漆黒の瞳で見上げてくる。
「何が怖かっただよ。貧民街でも有名な幼児愛好家のハゲ親父と仲良く談笑してたのは何処のガキだ。」
「ようじあいこうか?」
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!
なんて事だ、我が愛しの娘はそんな男の餌食になっていたのか?!
「何かされる前に助けたから大丈夫だって。それより謝礼はずんでくれよ?」
それが目的で助けたんだと金を要求する少年に、身代金として用意していた金袋を渡して様子を窺ってみる。さすがにこれ程の大金は想像していなかったのだろう。灰色の目をこれでもかと丸めて袋の中を確認していた。
「お前、名は?」
大して役に立たない厳つい護衛より使えそうだ。
名を聞いた私を、その少年は用心深く睨みつけてきた。




