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私が公園で出会ったのは未来のお嫁さんかも知れない

「何やってるんだろう……私」



家から離れた小さな公園のベンチで私は項垂れている。


朝方、親との言い合いの末、衝動的に家から飛び出して、もうお昼過ぎ。



「いい歳こいて、ほんと何やってんだろう……はあ」



大きくため息を吐くと同時にお腹の音も鳴る。お昼ごはんも食べず、朝もまだ食べてなかった事を思いだし、またもやため息を吐く。


春とはいえ、まだ肌寒いので上着だけを着て、他は何も持たずに家を出てきたので財布も携帯も持っていない。なのでコンビニとかでご飯は買えず、ベンチで項垂れている。

家に帰ろうとも思ったが、何となく帰る気にもなれない。


まぁ一日だけ食べなくとも何とかなるだろう、とも思うけれども、お腹が空いてると気づくと途端に何かを食べたくなり、目の前を見ると灰色の鳩が何羽か歩いていて、思わず、



「ドバトって美味しいのかな?」



と呟く。



「養殖の鳩は美味しいみたいですけど、公園にいる鳩は不味いみたいですよ。衛生上もよくないそうですし、食べようと捕まえると、反対に動物愛護の法律で捕まえられますよ」


「そうなんだ。なら止めとこう。捌き方もわからないし…………て、えっ?」



一人言の様に呟いたはずなのに返答がきて驚き、その声の方に顔を向けるといつの間にやら私が座っていたベンチにその人は座っていて、私の隣にいる。……気づかなかった。



「いつの間に……」


「少し前から座っていたのですけど、全然気がついていませんでしたね。……それほど悩んでいたんですか?」


「あー」


「無理には聞きませんけど……」



そう言うと、彼女は表情を変えずに目の前にいる鳩を見る。


私は唐突の事で一瞬、何も考えられなかったけど、少し落ち着いたので、話しかけてきた彼女を観察してみる。


さらさらのストレートの黒髪をそのままに流している彼女は美少女です。終わり。


って、違うけどちがくない。……どうやらまだ落ち着いていないみたいだ。


取り敢えず言えることは、彼女は確実に私よりも年下の大学生か、若しくは高校生で、良いとこのお嬢さんみたいな雰囲気の人。そんな人が何でこんな辺鄙な公園に?



「何ですか?」



じーっと彼女を見てるのを疑問に思ったのか、首を傾げながら聞いてくる。


うん、確かに不躾だったよね。と戸惑いながら言葉を返す。



「えーっと。何でこんな辺鄙な何もない公園にいるのかなって思いまして」



鉄棒とベンチしかない公園を見渡しながら私が言うと、彼女は頷き、少し間を置いてから一言。



「貴女がいたからです」



えっと、ん? どう言うこと?


よくわからないまま少し固まる。その間は鳩が鳴き、一羽の鳩が羽ばたく音がしているだけ。そして、少しして鳩の鳴き声以外の音がする。



ぎゅるーー



そう、私のお腹の音。


今まで表情を変えていなかった彼女は初めて変わる。きょとんとした感じの顔になり、私のお腹を見、また無表情になる。


そんなきょとんとした表情を見て、彼女を可愛いと思ったが、すぐお腹を鳴らして恥ずかしくなった私は穴に入りたいと思う。



「お昼ご飯を食べていないんですか?」


「……はい」



恥ずかしく思いながら彼女の言葉に頷くと、彼女は立ち上がり、私の手を取るとそのまま歩き出す。

困惑しながらも転ばないように彼女の後を付いていくけど、どうなってるの!?



「ちょっ!? どうしたんですか?!」



公園を出た辺りで私が声をかけると、彼女は、はっとしたかのように立ち止まり、手を繋いだまま私の方を向く。



「急にごめんなさい。ただ、わたしもお昼ご飯がまだでしたから一緒にどうかと考えたら身体が先に動いてしまいました」



申し訳なさそうに俯きながら言う彼女に何とも言えない、居た堪れない感じがして、思わず自分よりも背の高い彼女の頭を繋いでない手で撫でる。



「まあ、いいよ。でも私、財布忘れてきたから君だけで食べて来なさい」



私と彼女の背の関係のせいか、少し見上げながら言うと、彼女は頭を撫でられて恥ずかしいのか、頬を微かに赤く染めている。


彼女の頭から手を離すと、未だに手を繋いだままの手を彼女は両手で掴み、話しかけてくる。



「あの、一緒に来てくれませんか? 昔のお礼をしたいんです」



昔のお礼? この美少女とどこかで会ったっけ?


どこで会ったか思い出そうと昔の記憶を漁るが全然思い出せない。彼女をじっと見て、覚えがある親戚などと照らし合わせて見てもこんな美少女とは会ったことはない筈だ。でもな……。と思考していると、彼女は黙ってる私に不安を感じたのか、掴んでいる私の手をぎゅっと抱き締め、顔を近づけて、更に涙目の上目遣いで言う。




「……ダメ、ですか?」


「ダメじゃないです!」



即答で返した私は間違ってはいない筈だ。可愛いに罪はない!


即答した私に彼女は見るからにほっとし、また無表情になると私に背を向けて歩き出す。手は繋いだままに……



「えっと、どこに向かうんですか?」


「もうすぐ着きます」



暫く歩いて疑問を聞くと、彼女は私の方をちらりと見ただけで淡泊に答える。私はもうどうにでもなあれ。てな感じで諦めながら彼女に付いていく。


そして、寂れた公園から十数分歩いて着いたと言われた所は高級マンションみたいな場所。…… やっぱり良いとこのお嬢さん何ですね。彼女。



「ここです」



そう言いながらマンションに入って行き、エレベータで上の階まで上る。そして目的の階に着くとエレベータからおりて、はたと気がつく。


何で私は見知らぬ彼女の家に行こうとしてるのだろうか? でも彼女は私を知っているみたいだから見知らぬ、ではないのか? でもな……。と考えに没頭していたら、いつの間にか彼女の家にお邪魔していて、リビングらしきテーブルの側にあったソファーに座っている。ふかふかで座り心地が良いや。


ここに連れてきた彼女は何処だろうと振り返ればキッチンから持ってきたであろうお盆をテーブルの上に置き、そのお盆の上にあるコップを私の前のテーブルに置く。



「麦茶です。ご飯が出来るまで少しだけ待ってて下さい。テレビのリモコンはこちらに置いときますね」


「あ、はい。ありがとうございます」



渡された麦茶の入ったコップを手に取り、口をつけながらリモコンでテレビを付ける。



…………いやいやいやいや! 私は何してんのさ人様のお家で!?



何故だか知らないけど、何で私は仲のいい友達の家に来たみたいに寛いでるのさ? 確か私にとっては初対面みたいな人何だけどなあ。


流されるままに彼女の家に来たけど、どうしよう。このまま流され続けてみようかな。いつもみたいに。


そう、私はいつも流されるままの人間で、どうしようもないダメ人間だと自分でも思う。


はあ。これからどうしようかな? 親戚に合うたびに結婚やらいい相手は居ないのかとか聞かれるし、親にも正社員になってちゃんとしなさいとか、いい歳なのにとか色々言われて飛び出して来たんだよね。


いや、ほんとにいい歳なのに親に何か言われて飛び出すって……はあ。



少しの間、ぼーっとテレビを見ていると何やら美味しそうな匂いが漂ってきて、またもやお腹の音が鳴る。すると、料理をしていた彼女が私を呼びに来て、それに着いていくとテーブルの上には彼女が作ったであろうチャーハンとスープ、麦茶の入ったコップがある。



「簡単なものですみません」


「いやいや、こっちこそごめんね。家に上げさせて貰った上にご飯まで作ってくれて」


「いえ、それよりも食べましょう」


「うん。そうだね」



椅子に座り、二人でいただきます、と言うと私はスプーンを取り、チャーハンを食べる。


作った彼女はコップを持ち、お茶を飲んでこちらを見ていて、見るからに味の感想を聞きたそうにしているので一口食べた後に、



「美味しいね、このチャーハン」



と言えば、ほっとしたように顔がほころんで彼女も食べ始める。


……て言うか本当に美味しいチャーハンだ。料理も出来る美少女。彼氏さんも鼻高々だろうな。



彼女は食事中に話しはしない派なのか無言で食べていて、私も食事中はあんまり喋らないから気にはしない。


お昼ご飯も食べ終わり、一息ついて、食器を流し台に彼女と一緒に持って行こうとし、私が食器を洗うと言ったけど、彼女は嬉しそうにしながら、大丈夫です。と言い、食べ終わった食器を全部、彼女が持って行ってしまう。今はテレビのあるリビングのソファで私はテレビをぼーっと見ている。


少しして彼女はコップとお茶の入ったピッチャーを持ってリビングにやって来ると、私より少し間を開けて隣に座る。



「洗うの早いね」


「食洗機に入れるだけですから」



……ブルジョアですね。私の家は食器乾燥機です。


暫くの間、私と彼女はテレビを無言で見ていたけど、彼女はお茶を飲んだ後に私を見ながら口を開く。



「あの、わたしは貴女に助けて貰った事があるのでお礼をしたいです」


「充分、お礼は貰ったよ。ご飯、美味しかったし」


「さっきの公園で見た貴女はとても辛そうでした。わたしでは解決出来ないと思います。でも聞く事は出来ます。悩みがあったら話して下さい」



真剣な表情をしながら彼女はそう言って、私は少し困った。年下の彼女に愚痴を言うのはどうかと思うし、と迷っていたら、彼女は涙目で悲しそうに言う。



「やっぱり、年下のわたしでは話せないですよね……」



気まずい雰囲気になって、私は戸惑い、彼女の悲しそうな顔に観念する。どうやら私は彼女の涙目には敵わないらしい。いや、でも女の子の涙には大体の人達は勝てないと思うのだが、どうだろう? そんな事を考えながら私は言う。



「えーっと、楽しい話じゃないし、ただの愚痴だし、聞いても意味ないよ?」


「それでも良いです」



こくりと頷きながら言う彼女に、そこまで言うなら別にいいか、と思いながら話す事にする。



「今日の朝に母親にさ、お見合いを勧められて、断ったら、これから先、どうするんだとか、バイトじゃなくて社員になって早く安定した生活をしてくれ、とか言われて、何かイライラしちゃったから家を出たんだよね。しかも何も持たないで……」



俯きながら話し出して、区切った後にちらっと彼女を見ると真面目に聞いていて、何故だか笑えてくる。


失笑して、彼女を真っ直ぐに見れば、きょとんとした顔があって、かわいいなあ、と思う。



「いや、ほんとバカなんだよね私。いい大人が子供みたいでさ。でも本当に子供なんだよね、自分で言うのもなんだけど精神的にさ」



不思議そうに彼女は首を傾げ、何も言わずに続きを促してきて、私は前にあるテレビを見ながら話す。テレビの内容は頭には入ってこないけど。



「年をとれば、体が大きくなれば、勝手に大人になるんだと子供の頃は思ってたけど、それは違うんだと分かった。私は逃げながら流され続けて、このまま来て、大人になれない大人になっちゃったんだ。ほんとに、どうしようもないよね、はあー。……私が逃げ続けてきたのは責任と言う名の重り。多分、人ってさ、その重りがないと色んな事も宙ぶらりんになって、安定しないんだろうね。そして、安定しないと転んだりして大惨事になるんだ。きっと。まあ、その重りも重すぎると人は押し潰れるんだろうけど……他にも色々、問題はあるんだろうね。でも私はこれが一番の大人になれない理由なんだろうなあ」



もう一度、深いため息を吐くと私は彼女を見て、苦笑いしながら言葉を吐く。



「ごめんね。よく分からない話しをして……私も何が言いたいのか分からないんだ」


「いえ、それでも良いです。貴女がそれですっきりするなら」



そう言う彼女は私に安心させるように、戸惑いながらも、ぎこちない笑みを私に浮かべていて、私は少しだけほっとし、今更ながらの失礼過ぎる疑問を彼女に聞く。



「そう言えば、君の名前って何だっけ?」


「ちさと、です。木桜 千里」


「うん、ありがとう千里ちゃん。話を聞いてくれてありがとう。おかげで、すっきりしました」



微笑みながらそう言えば、彼女はとても綺麗に笑い、目から涙がこぼれ落ちてくる。

それに驚く私は慌てて彼女の頭を撫でながら自分の名前を言う。



「私はひとは、です。柳沢 一葉」


「あの、一葉さんは覚えてないんでしょうけど、わたしが小1の時に泣いている所を今みたいに撫でて貰って本当に嬉しかったんです。わたし、あの時、ちゃんとお礼を言いたかったんです。本当にありがとうございました!」



顔を赤く染めながらお辞儀をして、早口で言うので驚いたけど、私は微笑みながら、



「どういたしまして」



と言い、千里ちゃんの顔を上げて貰うと、彼女はまだ顔を赤くしながらも泣いている。


それを見て、私は前にもこんな事があったような、そんな光景と重なった気がする。なんとか記憶を遡れば、確かにランドセルを背負って黄色い帽子を被った泣いてる子に頭を撫でたことがあるなと思い出す。



「ああ! 確か就活中の帰り道に公園で泣いてた子がいたなあ。あれは千里ちゃんだったんだ」



思い出せなくて少しモヤモヤしていたけど思い出してすっきりしたので、改めて千里ちゃんを見てみると、未だに泣いている彼女は間違いなくあの子だ。だって泣き顔があの頃と同じだから。



「そっか大きくなったんだね。綺麗になってて、ビックリしたよ」



そう言いながら、千里ちゃんを見ると照れているのか、はにかんでいて可愛い。


あれ? でも、あの時って就活中で張り切ってた年でもあるから、6年くらい前だよね。と言うことは……。



「ねえ、千里ちゃん。今、何年生?」


「中学1年生になりました」



だよね。でも、見た目は高校生みたいだし、下手したら大学生にみられるような大人っぽさ。背もけっこう高いし、だから決して私は小さくはない。



「背はなんセンチ?」


「160です」


「いいね。私は155くらいだよ」



つまり、今の子は発育がすごいって事ですか。何か言葉が出ないや。泣きたいとかじゃないです。しっかし、そうか、12歳か。私は27だから干支が一周してちょっと通りすぎた感じ?



「いやー、若いね。色んな事を経験しなよ。友達も作って、別に沢山じゃなくて良いんだよ。たった1人でも信頼出来るような友達を作るだけで良いんだ。友達ができたら連絡とかは小まめにやるといいかもね。連絡しなかったら疎遠になるから……。経験者は言う。人の縁は簡単に途切れる、と」



そう、経験者とは私の事だ。面倒臭くて連絡とか取ってなかったから縁は途切れた。SNSで中学、高校、大学の頃の友達を見ると、結婚してたり、子供を生んでお母さんなっているのを見ると、なんとも言えない気持ちになる。……泣いてなんかない。今の歳でも結婚式にもまだ呼ばれてないな、とか全然知らされてなかった事も、悲しくなんか……やっぱり少しだけ悲しいです。


そう考えてると気分が落ち込んでくる。今はバイト先の人達しか関わり合いがないのも落ち込む。しかも挨拶か業務連絡くらいしかしない。


……ヤバイ、今更ながらも危機感が凄い。でも変に楽観的でまだ大丈夫だと思っている自分もいて、どうしようもない事になっていると自分でも分かる。



とりあえず落ち込むのはやめて千里ちゃんは若いのだから、こんな私みたいな未来にならないように忠告しといた方が良いのかな? と思ったので言ってみたけど、地味に自分にもダメージが来て辛い。



「まだ千里ちゃんは未来があるから大丈夫! 若いし! 私みたいになっちゃダメだよ!!」


「大丈夫です。一葉さんみたいにはなりません」



そう、はっきりと千里ちゃんに言われて、確かに、確かになっちゃいけないと言ったけど、何故だか胸が痛いです。



「そうそう、諦め癖もつけちゃダメだよ。若いうちに、すぐ諦めちゃ大変な事になるからね。何事にも諦めずに頑張った方がいいよ。頑張りすぎてもダメだけど、諦めるのはもっとダメ。オーケー?」



最後は軽く言った筈で、さっきまでは照れていた千里ちゃんはなにゆえに今は泣きそうになっているのだろうか?


思わず千里ちゃんの反応に私が固まっていると彼女が口を開く。



「本当に諦めなくていいの? どんな事も?」


「えっと、人道に反しない限り、いいのではないでしょうか」



唐突の事で、つい敬語で返してしまい、戸惑う私を置いてきぼりで千里ちゃんは続けて質問をしてくる。



「好きな人が同じ女の人でも? 歳が離れていてもいいの?」


「まあ、いいと思うよ。相手側が死ぬほど嫌そうじゃない限りは」


「そっか、そうなんだ。……なら、諦めませんね」



どこか吹っ切れた様子の彼女は私を見ながら微笑み、抱きついてくる。



「わたしは一葉さんを諦めなくてもいいんですね」


「はい?」


「わたし、あの時から一葉さんが好きです。毎日のようにあそこの公園を見に行って一葉さんがいないか見ていました。今日、見かけて、とっても嬉しかったです」



そう言う千里ちゃんはとても可愛らしく、年相応に笑っていて、自分も何故だか嬉しくなる。


まあ、あの公園は家から多少遠いけど、一応、歩ける距離だ。でも私は自分の行動範囲内しか行き来しない。バイト先も公園とは逆方向だし、あの時は就活中でそこを何回か通ったくらいで、後は小さい時に友達と遊んでいた弟のお迎えくらいしか行かなかったな。と思い出す。


そして今日、私があそこに行ったのは物凄い偶然だ。6年間も通い続けた彼女に私は凄く申し訳ない気持ちにかられる。



「そうなんだ。何かごめんね。私はあそこ方面はあんまり行かないから」


「いえ、わたしが好きでやってた事です。だけど、こうして一葉さんに会えました!」



抱きついている千里ちゃんは少し離れて私に向き直ると、改まって話し出す。



「もう一度言います。一葉さんが好きです。付き合って下さい」



それを聞いて私はそう言えば告白されてたな。と思い出して、少し考える、けど答えは決まっている


人生初の告白は10以上離れている中学生。私はアラサーのおばさんだから犯罪だよね。



「ごめんね」


「っ! 理由はやっぱり歳の差ですか?」


「まあ、それもあるけど、知り合ったばかりだし、まずは友達からだよね。他にもあるけど、後は君が若いからだね」


「若いってどういう事ですか。歳の差とどう違うんですか」


「若いって言うのは未来が沢山あり、目の前しか見ない事。今の君は振り返ることをしない若さがある。未来は未知で溢れているから心変わりもするし、いつかは今を後悔する事もあるから、かな? 上手く言えなくてごめんね」



どう言えばいいのか分からなくて、自分でも意味が分かんなくなってきた。やっぱり久し振りに家族以外の人と話すのは疲れる。と思いながら千里ちゃんを見れば、俯いていて、多分また泣きそうな顔になっているのかな、と考えてると、俯いていた顔を上げた千里ちゃんの表情を見て、それは違うと気がつく。



「わたしは変わりません。絶対に」



そう、真っ直ぐに私を見ながら言う千里ちゃんは大人びていて、でも直向きな若さがあって、私は羨ましく、眩しいと思う。



「何で断言できるの?」


「わたしはあの時から貴女を忘れた事がないからです。だから多分ずっと一葉さんを思い続けるんだと思います。これから先も」



凄いな。その歳でここまで言えるなんて。私が中1の時はそこまではっきりと言えなかったよ。私は今でもコロコロ変わる時があるし、ぐずぐずするからね。



「そっか、凄いね。そんなにはっきり言えるだなんて。私は変わる自信があるし、沢山、後悔もするからね」


「そうですか。ならわたしと恋人になる可能性もある、という事ですね」


「あー、そう言う場合もあり得るのか。でも今はそう言う風には全然見れないけどね」



苦笑しながらそう言えば、千里ちゃんはにこやかに返してきて、不意を突かれて少々驚いたけど、私は今の気持ちを言う。すると千里ちゃんはにこにこ笑いながら言う。



「大丈夫です。一葉さんは変わりやすいらしいので」



それを聞いて、一本取られた気分になった私はちょっぴり悔しく思い、ため息を吐く。そしたら千里ちゃんは満面の笑顔で、



「これからも、よろしくお願いしますね。一葉さん!」



と、言われたので私は苦笑して、一言だけ「よろしく」と言う。





あの後、千里ちゃんの連絡先を貰い、帰ったら、きちんと連絡をして欲しいと懇願された私は律儀にもそれを返して、めでたく千里ちゃんと友達になる。


そう言えば、今年の初詣に神社で友達が欲しいと願った事を思い出し、また神社に行ってお礼しに行かないとな、と考えていると、千里ちゃんからLINEが届く。


内容は今度の休日にどこか出掛けませんか? と言うお誘いだったので、私は「神社」と返す。たったそれだけなのに嬉しそうに千里ちゃんは返信をしてくれて、順調に千里ちゃんと友達付き合いをしている。



私は千里ちゃんと会って、中学生の頃の将来の夢を思い出した。それは漫画家。


漫画を書くのが楽しくて、それを読んで一喜一憂している人を見るのが嬉しくて、その時を思い出した。だから漫画家にはなれないけれど、漫画を書き、それをとある投稿サイトに載せて貰っている。私の書いた漫画は結構、好評みたいで、お気に入りに入れてくれている人が思ったよりも多くて嬉しい。


そう思いながら新しい日課になった漫画を書く。でも、私はまだ知らない。


その数時間に、でき婚した弟がお腹の大きくなったお嫁さんを連れて帰ってくる事も。子供が産まれると家が狭くなるからと強制的に私が独り暮らしをさせられる事も。


そして、千里ちゃんが高校生になり、自分の両親を説得した千里ちゃんと私が一緒に暮らす事になるとは、この時の私はまだ知らずに鼻歌を歌いながら漫画を書いている。







何回か見直しはしたのですが、おかしい部分がありましたら教えて下さい


サブタイトルは適当です

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