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刻印術師の異世界生活  作者: 氷山 玲士
第五章:鍛冶と魔法のターニング・ポイント
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098・さらばレイル村

 ―ミーナ視点―


 アマゾネスをはじめとした魔物達を倒した翌日、私達はレイル村の外れにある墓地を訪れました。本来でしたらプリムさんが暮らしていたお屋敷か空家を借りて過ごす予定だったんですが、家令のクロスさんが独断でバリエンテ北部を治めているトライアル王爵と繋がりを作ってしまっていたため、昨夜はアルカに泊まることにしたんです。しかも目の前で石碑を使って転移することで、彼らに関与させる隙も与えません。

 あ、当然ですけど、石碑は獣車の中に出してから使いましたから、誰がゲート・ミラーを使ったかも彼らはわかっていませんよ。


「お父様、お母様、ご無沙汰しています。今日はご報告に参りました。私は彼、Hランクハンターのヤマト・ミカミに嫁ぎます。ハイドランシア公爵家を継ぐことができないのは申し訳なく思いますが、私は私の道を、彼や同じく彼と婚約したマナ達と一緒に歩いて行きます」


 ハイドランシア公爵ご夫妻のお墓に、プリムさんが跪いて報告されています。お墓と言っても石碑が建てられているだけで、公爵夫妻のご遺体は何も埋葬されていないので、今回のこともあってプリムさんはお墓をアルカへ移築することも考えているみたいですけど。

 っと、それは今考えることじゃありません。私達もプリムさんに倣って、お祈りを捧げないと。


「プリム、誰か来たぞ」

「え?」


 私達と同じくお祈りを捧げていた大和さんですが、普段から無意識に探索系の刻印術を使っています。今もソナー・ウェーブを使って、この墓地に立ち入る人を確認していたみたいですね。


「プリムローズ様、よろしいですかな?」

「村長?どうかしたの?」


 やって来たのはレイル村の村長でした。ですがこの人も、プリムさんに獣王の座に就いてもらいたいと思っていたはずなんですが。


「クロス様からお聞きしましたが、プリムローズ様は獣王の座には就かれないと申されたとか?」

「ええ、言ったわよ。レオナスという正当な後継者がいるんだから、私が王位に就く理由はどこにもないわ」

「いえ、ございます。プリムローズ様は王族であると同時に翼族でもある。翼族が優れたお力を持っていることは周知の事実です。レオナス王子も優秀ではありますが、先代の獣王陛下が崩御されてから三年経ってもギムノスを討伐できない以上、王子の資質を疑わざるをえないと私は思っております」


 プリムさんの伯父に当たる先代獣王が現獣王であるギムノスに暗殺されたのが今から三年前で、レオナス王子がバリエンテに戻って来たのはその数ヶ月後と言われています。

 レオナス王子は二人の王爵と手を組み、ハンターズギルドとも連絡を取り合い、ギムノス獣王を倒すために日夜行動されていますが、三年という年月はバリエンテ国民にとっては長く辛いものだったらしく、レオナス王子は王としての器ではないというのが、バリエンテに住む人達の認識になっていると村長は言います。


「そう、分かったわ」

「お分かりいただけましたか。では!」

「何勘違いしてるのよ。私が分かったのは、あんた達が何も分かってないってことよ。簒奪者とはいえ、ギムノスは正式な手順を取って王位に就いている。それを覆すには、こっちも相当の手間と準備が必要になるのよ。ただギムノスを倒しただけじゃレオナスに犯罪者の称号がついて、それこそ王位に就くことができなくなる。これはどの国でも共通、というか、ヘリオスオーブという世界の常識よ。あんただって知らないわけじゃないでしょ?」


 ヘリオスオーブにはライブラリーというものがあります。名前、年齢、レベル、登録ギルド、そして称号を確認することができるんですけど、一番厄介なのは称号です。犯罪者系の称号がある場合、いかなる理由があろうと要職に就くことはできません。当然、王位など以ての外です。誰が称号をつけているのかは所説ありますが、バシオン教では父なる神と五種族の女神だとされています。

 要職に就くためには称号を公開しなければならず、もし隠していることが発覚した場合、重罰が科せられることになっていて、それが一国の王であっても例外ではないんです。神々の御意思に反する者が、上に立つ資格はないということですね。

 ですから正当な手順で王位に就いているギムノス獣王を引きずり下ろすのは簡単ではなく、レオナス王子だけではなく、プリムさんが王位に就くとしても相当の手間と時間が必要になるんです。


「そ、それは……。ですがプリムローズ様が起たれたとなれば、王爵様方も手を貸してくださるはずです!」

「二人の王爵がレオナスに手を貸してるのに?バカ言ってるんじゃないわよ。五王爵家のうち二つがレオナスに、二つがギムノスに与してる以上、そんなことは不可能だし、レオナスの今までの苦労を水の泡にさせるつもりも私にはないわよ」


 だんだんとプリムさんの目が険しくなってきています。レイル村の人達はプリムさんのご実家、ハイドランシア公爵家の財産でなんとか持ち直すことができた村ですから、プリムさんを支持する理由はわかります。ですがプリムさんが獣王になったとしても、この村には大した影響はないはずです。影響があるとすればクロスさん達使用人、そしてこの辺りを収めているトライアル王爵家ぐらいでしょう。


「では我々は、どうやって生きて行けばいいのですか!プリム様が王位に就かなければ、我々はこのまま飢えて死を待つしかないのですぞ!」

「そういうことかよ。甘ったれてんじゃねえよ!」

「まったくね。ハイドランシア公爵家の財産を食い潰すだけじゃ飽き足らず、どこまでプリムに頼ってるのよ。自分達で畑の世話もしてないような連中が、これ以上プリムにすり寄ってくるんじゃないわよ!」


 大和さんとマナ様が怒りを露わにした瞬間、村長の顔が真っ青になりました。そういうことなんですね。


「姉さん、どういうことなの?」

「この村の畑、思ったより小さいと思わなかった?」

「それは思ったけど、森が近いから狩りで生計を立ててると思ってたよ」

「もちろんそれもあるでしょうけど、それを考慮しても畑が小さすぎるのよ」


 ルディアさんの疑問に、リディアさんが答えていますが、まさしくその通りで、この程度の大きさでは税を支払うこともできないはずです。中央府からは既に滅んだ村と思われてるかもしれませんが、トライアル王爵家とは繋がりがあるわけですから、支払わないわけにはいきません。


「この村の人達を賄うにはとても足りません。多分ですけど、プリムさんがハイドランシア公爵家の私財を投じて、レイル村の人達を養っていたんでしょう」

「最初は自分達でも畑を耕していたと思いますが、援助になれてしまった村の人達は、畑を今以上に拡張することもせず、現状に甘んじていた、ということですか?」

「フラムさんのおっしゃる通りだと思います。ですが三年もそんな状態が続いていれば、いくら公爵家の私財でも底が見えてきます。今更働きたくない村の人達は、プリムさんに王位に就いていただき、その後も援助してもらいたかったのでしょうね」


 ユーリ様も事態を飲み込めたようで、フラムさんにご自分の推測を述べていらっしゃいます。もしかしてプリムさんがお一人でフィールに来られたのは、レイル村の現状に嫌気が差したことも理由かもしれませんね。


「村長、この場ではっきりと断言させてもらうわ。私は金輪際、レイル村には関わらない。同時にクロス達使用人も解雇。二度と私の前に姿を見せるなと伝えておいて」

「な、何故ですか!?私どもはプリムローズ様をギムノス獣王から匿い、ここまで共に歩んできたではないですか!」


 プリムさんも冷たく突き放しますが、村長としては受け入れられないようです。私達からすれば、あまりにも自分達に都合がよすぎですから、今更何を言ってるのかといった所ですが。


「私は何度も言ったわよね?援助できるとしても二年。よくて三年だって。それまでに畑を増やし、森に入る狩人を育てるように苦言したのに、実行してくれたのは村の若者だけで、その彼らも事故や魔物の襲撃で命を落として、私が村を出る頃には半分以下になってしまっていた。それもこれも年寄り達が畑仕事を手伝わず、彼らに負担を強いていたからでしょう?去年の魔物の襲撃だって、あんた達年寄りは我先に隠れて、小さな子が何人も犠牲になってるのよ。むしろ今まで援助を打ち切らなかっただけ感謝しなさいよ!」


 がっくりと手をつく村長さん。当然ですよ。というか若者に重労働を押し付けたり、小さな子を押しのけて自分達が助かろうなんて、人として大問題です。


「プリム、この墓石だけど、これも持って行った方がよくないか?」

「いいの?」

「いや、当たり前だろ。そもそもこんなとこに置いていくなんて、できるわけないし」


 私も同感です。プラダ村のような所でしたら何も問題はありませんが、この村はひどすぎます。そんなところにプリムさんのご両親を置き去りにするなんて、考えられません。


「私も賛成です」


 ですから私も、他のみなさんもすぐに賛成しました。


「ありがとう。幸いというか、ここには墓石しかないから、すぐに掘り起こすわ」

「それは俺達がやります。プリムさんは大和さんと一緒に、残ってる私財を持ってきた方がいいと思いますよ」

「私もラウスに賛成。ハイドランシア公爵家の家宝だってあるでしょ?」

「さすがにそれはボックスに入れてあるわよ。残してあるのは本当にお金ぐらいだから、別に構わないわ」


 あまり残ってないしね、という呟きが聞こえました。大和さんもマナ様も眉を顰めていますが、そこまでだったなんて。もっと早くに援助を打ち切るべきだったと思いますが、プリムさんもこの村以外行く場所がなかったようですから、断腸の思いで決断されていたのでしょうね。


「よしっと。ラウス、そっち持ってくれ」

「わかりました」


 大和さんとラウス君が墓石を掘り返し終わったようで、二人で持ち上げています。その墓石をプリムさんが一撫でしてから、ご自分のボックスに収納しましたから、ここでの作業は終わりですね。


「プリムは顔も見たくはないだろうから、私と大和が使用人に解雇通知してくるけどいい?」

「私としてはありがたいけど、本当にいいの?」

「構わないぞ。というか、これ以上プリムに余計なことしてくるなら、物理的に潰すだけだな」

「大和に同感。そうそう、そっちに余計な手出ししてこれないように、エオスを召喚しておくわ」


 大和さんもマナ様も、本当に怒ってらっしゃいます。私もここまでとは思ってませんでしたけど、エオスさんまで召喚する必要はないんじゃないかと思うんですけど……。


「ド、ドラゴン!?」

「私の召喚獣よ。余計な手出しをしたら、命がないと思いなさい」


 マナ様の召喚したエメラルドドラゴンを見て、村長さんが腰を抜かしてまいます。ドラゴンを召喚する召喚魔法士はいませんから、驚くのは当然なんですが、こんなところで召喚したらバリエンテにもバレて後々面倒なことになる気がするのですが。


「その時はその時よ。というかギムノスはアミスターを侵略しようって考えてるんだから、ここで釘を刺しておくのも悪くはないと思うわよ」


 確かにドラゴンに正面から戦いを挑む人はいませんけど、それでも用心してもらいたいものです。マナ様に何かあったら、大和さんが悲しまれるんですから。もちろん私達もですけど。

 結局大和さんとマナ様がクロスさん達の元に赴き、一方的に解雇通告を行い、私達はレイル村を発ちました。この村に来ることは二度とないと思いますから、ハイドランシア公爵ご夫妻のお墓を持ってこれて良かったと思います。

お待たせしております。

当初の予定じゃ、クロス達使用人はアルカで働いてもらうつもりだったんです。プロットもできてたんです。

だけど気が付いたらこんなことになってたので、とんでもなく修正に時間がかかりました。


あ、アマゾネス達の素材ですけど、当然ですが全部持って帰ってます。ハイドランシア公爵家の財産も、上手く使えばあと2年ぐらいは現状維持できると思うので。クロス達が持ち逃げすれば別ですが。

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