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刻印術師の異世界生活  作者: 氷山 玲士
第五章:鍛冶と魔法のターニング・ポイント
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097・獣人連合の現状

 プリムのフレア・トルネードとマナのシャイニング・テンペスト、アテナのマグマ・ブレスのせいで、アマゾネスを含む魔物達は一気にその数を減らした。アテナはともかく、プリムとマナはまだ未完成の魔法だし、プリムは火魔法、マナはエオスのファイア・ブレスが大元になってるから周囲の被害が半端じゃない。被害と言っても周囲には俺達と魔物達しかいないし、ここはヴィーナスの中だから死傷者が出てるってわけでもない。魔物の死体が原型を留めずに散らばってるだけだ。


「ったく、俺の分がなくなるだろ。『氷よ渦巻け。氷雪の螺旋 アイス・ストーム』」


 フレア・トルネードとシャイニング・テンペストの余波をアイス・ストームで消しながら、俺はマルチ・エッジとミラー・リングを生成し、プリム、マナと同様に開発していた魔法を唱えた。


「『霧よ舞い踊れ。氷霧の刃舞 ミスト・ダンシングエッジ』」


 アイス・スフィアでマルチ・エッジを保持させ、アクセル・ブースターで思考を加速させることで、全部で十のマルチ・エッジを思い通りに操る。刀身に発動している刻印術はミスト・ソリューション。アイス・スフィアからはアイス・アローを打ち出せるから、遠隔攻撃もできる。思考加速したところで制御が結構大変だから、まだ完成とは言えない。並列思考魔法があればいいんだがなぁ。


「大和の魔法って、制御大変そうよね」

「刻印術と魔法の融合だしね。というか、なんでアマゾネス・ディフェンダーだけ残してるの?」


 ミスト・ダンシングエッジは次々と魔物達を屠りながら、アマゾネスを中心に突き刺さり、ミスト・ソリューションによって次々と倒れていった。まだ亜人も魔物も残っているが、アマゾネスはアマゾネス・ディフェンダー以外全て倒れている。

 で、なんでプリムの言うように何故アマゾネス・ディフェンダーを残したかだが、単純に実力を知りたかっただけだな。


「呆れたわね。そんな理由で残したの?まだ魔物もけっこう残ってるってのに」


 ルディアも呆れてるが、その前にはゴールデン・ビートルが転がっている。胴体に拳大の風穴を空けながらプスプス焦げてる所を見るに、エーテル・バースト使ったな。

ゴールデン・ビートルはアイアン・ビートルの希少種で、体の多くが金になっているため、死体は高く売れる。特にオスの角は丈夫で、ミスリルに匹敵かそれ以上の切れ味を持つ剣になるため、高額で取引されている。

 魔物素材で作られた武器は、魔力を通しにくいことを除けば、ミスリルどころかアダマンタイトやヒヒイロカネに匹敵することもある。もちろん魔力を通す魔物素材もあるが、ほとんどはアダマンタイト以下の魔力しか通さない。ゴールデン・ビートルの角も同様だが、これは武器というより調度品としての方が人気が高く、好事家が喜んで買ってくれるな。ちなみにアイアン・ビートルの角もそれなりの値段で売れるが、強度は普通の鉄剣より強い程度だ。


「ここはヴィーナスの中だから、逃げられる心配もないしな。それにアマゾネス・ディフェンダーを倒せば、後は烏合の衆だろ?」

「アマゾネス・テイマーもいるから、完全にってわけじゃないわよ?」

「あ~、そうだったっけか。仕方ない、このままミスト・ダンシングエッジで倒すわ」

「あ!?ちょ、ちょっと!」


 俺は新たにマルチ・エッジを五本ほど生成し、再びミスト・ダンシングエッジとして放った。残ってるアマゾネスはディフェンダー、テイマー、グラディエーターの三体だが、さすがに全方位からの、しかも殺傷力の高い魔法攻撃は今回が初めてだから、上手く捌けていない。最初にテイマーにマルチ・エッジが突き刺さり、発動したミスト・ソリューションによって血飛沫を上げながら倒れた。グラディエーターは手にしている剣で切り払おうと試みるも、アイス・アローによって切り込めず、大振りした隙に刺さったマルチ・エッジによるミスト・ソリューション発動で、これまた絶命。残ったディフェンダーは盾を持っているだけじゃなく、土魔法で作り出した土壁によって防いではいるが、俺はミスト・ダンシングエッジによって土壁が氷りつかせ、ミスト・ソリューションによって泥水へ変えることで土壁そのものを消し去り、薄緑にミスト・ソリューションを発動させながら突っ込み、居合で斬り捨てた。


「タイミングが難しいな。まあ今後の課題ってことにしとくか」

「だからって、一人で突っ込まないでよね」


 呆れた声を出すマナだが、頭を潰すのは戦術の基本だろ。魔物達は倒れたまま動かないアマゾネス・ディフェンダーを見て戦意を喪失したのか、次々に逃げようとしているが、俺のヴィーナスによって退路を封じられているため、逃げることもままならない。


「まあいいけどね。それにしても大和の魔法もだけど、プリムやマナ様の魔法もすごいわね」

「本当ですよね。私達も何か考えましょうか」


 ルディアとユーリも呆れてるが、同時に俺達の魔法の威力に関心している。アテナのマグマ・ブレスは開発した魔法じゃなく、竜化魔法によるブーストって感じだから厳密には俺、プリム、マナの魔法にだが、そのアテナにも呆れられるのは納得がいかん。


「考えるのもいいけど、まずはこいつらを倒してからな」

「わかってるって」


 俺が言うまでもないだろうが、魔法の開発は簡単じゃないからな。リディアはフリーズ・ブレス、ルディアはエーテル・バーストを軸にすればいいだろうが、ミーナのトゥインクル・イージスやフラムとレベッカの魔眼だと組み込むのは難しいかもしれないな。ラウスの魔導武具生成魔法なら問題ないだろうけど。あ、ユーリの治癒魔法は組み込む以前の問題だ。精霊魔法が使えるようになれば、話は別だけどな。

 それは後で考えるとして、今はこいつらを倒すことが先決だ。


 ―プリム視点―


「プリムローズ様、ご無事のご帰還、心よりお喜び申し上げます」


 アマゾネス達を殲滅した私達は、近づいてきている村人達に事情を説明するため、あえて死体は片付けずにヴィーナスを解除してもらった。だけどアマゾネス達がレイル村に向かっているのは気が付いていたらしく、急いでポルトンに避難するつもりだったそうなんだけど、そのタイミングで大和がヴィーナスを展開したもんだから、今目の前にいる執事や戦士達が慌てて確認に来たんですって。当然といえば当然の話よね。


「ありがとう。みんなも無事で何よりだわ。だけど避難指示が遅すぎたんじゃない?」

「申し訳ございません。斥候からの報告では、まだ数日は猶予があるとのことでしたので」


 アマゾネス達は、レイル村まであと一、二時間といったところまで近づいていた。逃げるのは当然だけど、いくらなんでもギリギリすぎる。下手をしなくても追いつかれることになるし、そんなことになったら村人全滅は勿論、ポルトンだって危険だわ。


「結果論ではあるけど、私達が来たことで解決したってことになるわね。まあ放置してたら、マイライトを越えてアミスターに侵入されることになるから、そんなつもりもなかったけど」


 レイル村はマイライト山脈の麓にあって、同じくマイライト山脈の麓にあるプラダ村も遠くはない。もしレイル村を抜けられたら、高確率でプラダ村が襲われて、さらにその先にあるフィールも危険になってしまう。その可能性はけっこう高かったし、私達にはそれを防ぐことができる実力もあるし、何より気付いた以上見逃すことはありえない。結果、レイル村の人達も守ることができたんだから、私としては一安心よ。


「亜人や魔物の進行速度が早くなったり遅くなったりすることは珍しくないから、戦士団や騎士団、軍隊を基準にした時点で間違ってるけどね」

「そう言うなって。間に合ったんだからいいだろ」

「貴様、無礼ではないか!こちらのお方がバリエンテの次期獣王陛下であると知っておるのか!?」


 誰が次期獣王よ。というか、あんたの方が無礼よ。


「無礼はあなたよ。彼は私達の婚約者、Hランクハンターのヤマト・ミカミよ」

「Hランク!?」

「私達の婚約者でもあるわよ。というか、アミスターじゃとっくに公表されてるんだけど?」


 マナも呆れながら補足してくれたけど、私も知らないとは思わなかったわ。レイル村に籠ってたらそれも仕方ないけど、ポルトンにはよく行ってたはずだから、そこから噂の一つぐらいは聞いててもよさそうなものだけど。


「ついでに私は獣王になる気はないって、昔から言ってるわよね?」

「で、ですが!」

「ですがじゃないわよ。レオナスもバリエンテに戻ってきてるし、王位を継ぐとしたらそっちよ。そもそも私は、バリエンテの地はアミスターに返すべきだと思ってるわ。こんなことになってしまった以上はね」

「やはり翼族であることを、利用されたくはないと?」

「当然でしょう。そのせいで命を狙われたようなものだし、今の私は大和と同じHランクのハンター。何より領主ロード達が、黙って私を王位に就けるはずがないわ。領主ロード達はこの三年間、独自に動いてギムノスの圧政から民を守っていたんだから」


 バリエンテは獣人連合国の名の通り、いくつかの領地を治める五人の領主ロードと、領主ロード達をまとめる獣王の合議制によって成り立っている。もちろん他にも領主はいるけど、ロードと呼ばれるのは五人だけで、その五人は王爵と呼ばれて明確に区別されている。ロード達の領地にも領主はいるから、これは当然のことね。

 その王爵達はギムノスの即位以降、真っ二つに分かれて争いを繰り広げている。つまりギムノスに従っている者と抵抗している者ね。レイル村やポルトンがある地域の王爵は後者になるから、クロス達が私を王位に就けるために話を持ち掛けていたけど、私はその都度断っていたし、王爵も無理強いするつもりはなかったみたい。その話は三年も前に終わってるはずなんだけど、もしかしたら状況が変わったのかもしれないわね。あ、クロスっていうのは私の前で跪いている黒豹の獣族で、私の隠れ家を纏めていた家令なの。私を除けばレイル村で一番レベルが高いから、村の人達も頼りにしてるのよ。


「それにしても、大和やプリムがHランクになったのは二ヶ月も前よ。しかもフィールで活動してたんだから、レイル村はともかくポルトンに行けばそれぐらいの情報は得られるはずでしょ?」


 マナの言う通り、ポルトンはフィールから一日の距離だし、私達はそのフィールを拠点に活動していた。隣接しているアミスターの国境の町ザックでも私達の話は広まってるそうだから、ポルトンで得られないわけがない。いくらなんでも不自然だわ。


「もしかしてなんですが、プリムさんを王位に就けるために、情報を封じていたのでは?高ランクハンターがいないことも、中央府付近とは違う理由がありそうですし」

「そ、それは!」


 ユーリの予想通りっぽいわね。ということは王爵も一枚噛んでるってことか。そもそも私は、あの王爵が大っ嫌いなのよ。正確には王爵の跡取りだけど、あいつの顔を思い出すだけでも反吐がでるわ。

大和も同意見らしく、クロスに詰め寄って吐かせてたけど、まさか私を王位に就けるかわりに、そいつを王配にでもする約束してたなんてね。ふざけるんじゃないわよ。


「クロス、私はあなたを信頼してたんだけど、こんな形で裏切られるとは思わなかったわ」

「う、裏切ってなどおりません!プリムローズ様が王位に就けば、バリエンテがソレムネにいいように使われることもなくなるのです!すべては国のためなのです!」

「それが裏切りだって言ってるのよ!正当な継承者であるレオナスを差し置いて私を王位に就けようだなんて、国のためになるわけがないでしょう!それこそ国を割る愚行だわ!」

「で、ですが今のバリエンテをまとめることができるのは!」

「なんでレオナスを飛ばしてるのかって聞いてるのよ!」


 本気で頭にきた。バリエンテ北部を治める王爵トレム・トライアルはやり手と評判だけど、獣王の座を狙っているともっぱらの噂だ。トレム自体は高齢だしレベルもさほど高くないから無理だけど、息子のギルファ・トライアルはGランクハンターに匹敵するレベルと実力を持ってるから、トレムは息子を王位につけようとしているっていう方が正確かもしれない。ちなみに獣王になるには、最低でもレベル30なければならず、それが王位継承権として必須になっている。つまりトレムは王位に就ける程のレベルに達していないということ。

 だけど息子のギルファはレベル40を超えている。継承順位が低いとはいえ、王爵も王位継承権を持っているから、ギルファが王位に就くことは不可能な話じゃない。だけど私はともかく、レオナスを無視していい理由にはならないし、何よりギルファはギムノス同様、民のことは一切考えていない暴君。トレムがギルファの行いを隠蔽してるっていう噂もあるぐらいだ。そんな奴に嫁ぐぐらいなら、死んだ方がマシね。

 そのギルファと結婚させようだなんて、裏切りもいいとこだわ。レオナスがどうするかはわからないけど、無視していい問題でもないしね。


「つまり何か?プリムを王位に就けて、しかもそのギルファっていうバカ息子と結婚させて、バリエンテを安定させようって考えなのか?そんなバカが王配、あるいは獣王になったところで、バリエンテが安定するとは思えないし、今よりひどいことになるのは目に見えてるじゃねえか。というかな、そんなこと、俺が許すとでも思ってるのか?」


 大和がクロスに向かって殺気を放った。私としては嬉しいけど、クロスは真っ青になってるからたまったもんじゃないでしょうね。愛されてるって素晴らしいわ。


「そういうわけよ、クロス。私は王位には就かないし、そのつもりもない。ましてやレオナスを押しのけてなんて、論外もいいところよ。そのことはトライアル家にも、しっかりと伝えておきなさい。私が大和と婚約したことも含めてね」

「……承知いたしました」

「それと、今日は村の外で泊まって、明日お父様とお母様のお墓に婚約したことを報告します。それが終わったらフィールに戻り、年が明けたらフロートでここにいるマナやユーリを含めた婚約者達と合同で結婚式を挙げることになってるから、あなた達もそのつもりで」

「かしこまりました。ですがなぜ、村の外で?」

「それぐらい、言われなくてもわかってるでしょ?私から見ても、あなた達はトライアル家に取り込まれてるわ。そんなとこに泊まるなんて、自殺行為よ」

「お姉様のおっしゃる通りです。プリムさんが信頼されてると伺っていましたが、そんなことを考えているようでは裏切られたと感じるのも無理はありません」


 マナとユーリも辛辣だわ。信頼してた人に裏切られるなんてショックだったし、大和やマナ達がいてくれなかったら自暴自棄になってたかもしれない。こんな事態を見越してたつもりは微塵もないけど、大和と婚約したのがこの娘達で本当に良かったって思うわ。

 クロスは思ってもなかったって顔してるけど、私から言わせれば当然よ。この分じゃ他の使用人だって信用できないわ。お父様とお母様のお墓参りが済んだら、彼らの処遇もしっかり決めないとね。

大和の魔法は刻印術との組み合わせです。固有魔法の融合魔法を使うことで、刻印術を組み込むことに成功したという設定です。開発自体はフロートの迷宮氾濫後からやっていたので、その頃から融合魔法が発現していたことになります。

そしてプリムの部下というか、家令さんの裏切り。こんなつもりじゃなかったのに……。

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