096・レイル村の危機
遅くなりましたが、更新です。
―プリム視点―
「見えてきたわ。あれがレイル村よ」
バシオン教国を発った私達は、エオスの背に乗ってバリエンテ北部にある、私が住んでいたレイル村へ向かった。三年前、ギムノスが当時の獣王である伯父を暗殺し、従兄で王太子だったタイラスを処刑し、私の両親を殺し、私とレオナスの王位継承権を剥奪し、無理やり即位してから私が隠れていた村。
私についてきてくれた侍従達は、レイル村やザックと隣接している国境の町ポルトンを含むバリエンテ北部の領主に協力を依頼し、私を王位に就けたかったみたいなんだけど、私は王位に就くつもりはなかったし、レオナスも行方知れずになってしまったことから、当時からバリエンテの地はアミスターに返還するべきだと思っていた。アミスター王家ならバリエンテの領主達を無碍にすることはないだろうし、むしろ後のことを考えるとそのまま領地を任せてくれることになると思う。もちろんギムノスに従順な領主は処分してしかるべきだけど。
「何となくですけど、プラダ村に似ていますね」
「同じマイライトの麓にある村だしね。とりあえず、エオスから降りましょう。こんな所をドラゴンが飛んでるって知られたら、戦士団が出てくるわ。そうなったらレイル村が無事だってことも知られちゃう」
「お姉様がエオスと契約してることも、感づかれてしまう恐れもありますよね」
「それならそれでいいんだけどね。今度王都に行った時、父様達には紹介するつもりでいたし、遅かれ早かれだと思うわよ」
契約した直後は余程の時しか召喚しないつもりだったみたいだけど、今考えてる魔法にはルナはもちろん、エオスの協力もどうしても必要になるみたいだから、マナも覚悟は決めたみたいよ。ドラゴンと契約した唯一の召喚魔法士にして竜騎士、しかもそのドラゴンが最上位のエメラルドドラゴンなんて、どう考えても騒ぎになるもの。大和と婚約してるから、無理やり捻じ込んで来ようと考える王家や貴族はいないけどね。仮にいたとしても、大和が潰すだけだけど。
「おーい!何してるの!早く行こうよ!」
「あ、ごめん。すぐ行くわ」
ルディアに呼ばれて気付いたけど、みんなは既にフライ・ウインドを発動させて、エオスの背から飛び立っていた。大和が刻印術を刻印化してくれてるから、ウイング・クレストのみんなは簡単に空を飛ぶことができるんだけど、私とアテナ、それからルディアは自分の翼を使って飛べるように調整してくれているの。大和はフライ・ウインドを刻印化した魔道具を広めるつもりはないみたいだけど、欲しがる人ってすっごく多いわよ。翼族は間違いないしね。
私とマナもフライ・ウインドを発動させてエオスの背から飛び降りると、エオスは人化魔法を使ってゆっくりと降下。翼があるドラゴンは人化魔法を使っても、自分の翼で自由に空を飛べるのよ。翼族からしたら羨ましい限りだわ。
「お待たせ。もう遅いし、今日はアルカに泊まって、明日村に行きましょう」
レイル村は小さな村だから私が住んでいた家も小さいんだけど、村長の家よりは大きいのよね。私は空家を使わせてもらうつもりだったんだけど、村長や村人が好意で建ててくれたの。その家には、今も私と共にハイドランシア領を出た数人の侍従が暮らしているはずよ。さすがにこれだけの人数を泊めることはできないから、アルカに泊まるしかないんだけどね。
「ああ。じゃあ石碑を出すぞ」
「ま、待ってください!何か来ます!」
大和が石碑を出そうとしてたら、ラウスが何かに気が付いた。言われて私も気が付いたけど、みんなは気付いてない。獣族は動物や魔物並の感覚を持っていて、狼の獣族のラウスは嗅覚が鋭い。私も鋭い方なんだけど、私は聴覚の方が強いから、嗅覚じゃラウスの方が上なのよ。常時鋭いわけじゃなくて、魔力で強化してるだけだから、普段は他の種族と大差ないんだけどね。
「この臭い、ゴブリンとコボルトです!魔物もいますけど、数が多すぎるし、俺の知らない魔物もいます!」
亜人の生息地は国によって異なるけど、山の多いアミスターにはオークが、湖が多いレティセンシアにはサハギンが、砂漠が多いソレムネにはアントリオンが多数生息している。その傾向が強いっていうだけで、どの国にも生息しているし、ゴブリンとコボルトが生息してない国はないぐらい多いんだけど、亜人は他にもいる。そしてバリエンテには、バリエンテにしか生息していない亜人がいて、私の鼻はそいつらの臭いも捕らえていた。
「アマゾネスまでいるわね。ガグン大森林にしか生息してないはずなのに、なんでこんな所に?」
「アマゾネス?」
大和だけじゃなく、アテナやフラムも知らないみたいだけど、これは仕方ないか。
「アマゾネスは、ガグン大森林に生息している亜人です。見た目はダークエルフなんですが、女性だけの亜人らしく、繁殖期に入ると男性を捕らえることがあるそうです」
隣国にだけ住む亜人のことだから、さすがにユーリは知ってるわよね。
ユーリが説明してくれたように、アマゾネスにはメスしかいないんだけど、見た目はまんまダークエルフなのよ。正確には耳が短いからハーフダークエルフになるんでしょうけど、言葉は話せないし、ゴブリンやオークとかとも子供を作ることができるって聞いてるわ。
だけど性格は好戦的で、他の亜人よりワンランク以上強く、繁殖期に入ると生息地のガグン大森林近くの町や村を襲って男の子を攫っていく。アマゾネス側にも基準があるみたいで、攫われる男の子は魔力が高い子が多く、稀に自ら望んでアマゾネスについていくバカな男もいるらしい。誰も生きて帰ってこないし、気に入られなければその場で殺されるだけだから、アマゾネスの生態はよくわかってないんだけどね。
ちなみにアマゾネスのように女性だけの亜人は他にもワルキューレ、セイレーンっていうのがいるんだけど、ワルキューレはハーフハイエルフの翼族、セイレーンはハーフエルフによく似ているわ。
「そんなわけで、大和とラウスは危険なのよ」
大和がすっごく疲れた顔してるけど、私達にとってもアマゾネスにとってもすごく真面目な話よ。大和が遅れをとるとは思わないけど、個体によってはラウスなら連れ去られる可能性があるんだから。
「問題はあとで考えましょう。アマゾネスはもちろん、ゴブリンもコボルトも放置はできないわ」
マナの言う通り、亜人を放置するなんていう選択肢はない。しかもこの先にあるのはレイル村だから、放っておいたら村が蹂躙されることになる。そんなことはさせるわけにはいかないわ。
「わかった。ここで止めるぞ」
「もちろんよ」
みんなも武器を構えて、戦闘態勢を整えている。
アマゾネスは最下級でもMランクとされている上に、ゴブリンやコボルト、他の魔物までいるから、普通なら村に伝えてみんなで逃げるのが正解。だけどここには大和と私がいるし、エオスと契約したマナもいるから、余程のことがなければ村に手を出されることはないはず。問題があるとすれば、こちらに向かってきているアマゾネス達の存在を、バリエンテも知っているんじゃないかっていうことね。アマゾネスが何体いるかはわからないけど、ガグン大森林から出たっていう話は繁殖期ぐらいしか聞かなかったし。
あ、見えてきたわ。アマゾネスやゴブリン、コボルトの他にはソードトゥース・タイガー、スピアテイル・リザード、アイアン・ビートル、ゴールデン・ビートルまでいるじゃない。いずれもガグン大森林に生息してる魔物だけど、けっこう数が多いわね。あんなのに襲われたら、レイル村ぐらいなら簡単に滅びちゃうわ。絶対にここで止めないと。
―大和視点―
アマゾネスね。
小説やゲームなんかじゃ、繁殖のために人間を利用する亜人や魔物もよくいたが、大抵はゴブリンやオークだったな。ヘリオスオーブのゴブリンやオークはそんなことはしないが、そういうことをする亜人はいるって話は聞いている。まさかそれがアマゾネスだとは思わなかったが。
もう視界に入ってるが、マジでダークエルフだな。ドワーフも入ってるか。武器は剣とか弓とかで、いかにもアマゾンの女戦士っていう感じのビキニアーマーなんだが、単体で歩いてたらダークエルフのハンターと間違えるぞ、あれは。
なんでも妖族っていう種族名は、こいつらと混同されてた名残なんだとか。いい迷惑だよな、ホントに。
「けっこうな数だな。先頭を歩いてるアマゾネスがリーダーってことで間違いなさそうだが」
「間違いないわね。あれ、アマゾネス・ディフェンダーだわ。防御特化のアマゾネスで、確かランクが……Pだったかしら?」
えらい高ランクだな。Pっていったらゴブリン・キングやクイーンと同ランクだぞ。他の亜人よりワンランク強いって話だが、ゴブリンだとツーランクは違いそうだ。そのゴブリンだが、ゴブリン・ハイナイトにゴブリン・ハイテイマー、ゴブリン・ハイシューターと、やけに高位ランクが揃ってやがる。アマゾネスに捕まりでもしたか?
「色々言いたいことはあるが、ともかく殲滅するか」
「そうね。ここを抜けられたらレイル村はもちろん、アミスターにも被害が出るから、殲滅以外の選択肢はないわ」
「力押しはやめてって言いたいけど、そんなこと言ってる場合じゃないか。みんなもいい?」
全員が頷く。レイル村の人に気付かれるのは構わないが、時間を掛け過ぎて獣王側に感付かれると厄介だから、速攻で倒すことにしますかね。希少種はいるが異常種はいないみたいだから、薄緑とスカーレット・ウイングを使っても大丈夫だろうし。
おっと、あちらさんも俺達に気付いたな。プリムの言うように、アマゾネス・ディフェンダーが群れのリーダーで間違いないらしく、魔物達が一斉に俺達に向かってきた。
俺は風性A級広域干渉系術式ヴィーナスを発動させ、結界を作り出した。こんな所でエメラルドドラゴンの姿に戻ったエオスを見られるわけにはいかないし、一匹たりとも逃がすわけにはいかないからな。
「『土よ穿て。塊土の連弾 アース・アロー』!」
「『氷よ穿て。雹矢の連弾 アイス・アロー』!」
「『炎よ穿て。烈火の連弾 フレイム・アロー』!」
「『風よ穿て。旋風の連弾 ブラスト・アロー』!」
「『水よ穿て。水滴の連弾 アクア・アロー』!」
ミーナ、リディア、ルディア、ラウス、レベッカが奏上されたばかりの詠唱を唱えながら、アロー系の魔法を放った。いや、リディアの氷魔法は奏上してないんだが、基本は同じだから俺達が使う分には何も問題はない。教皇様からも、体系化された属性魔法を広めるために、できれば詠唱は行ってほしいって言われてるんだが、こんな誰もいないとこで詠唱しなくてもいい気はする。まあ詠唱した方が威力も精度も増すみたいだから、詠唱する癖をつけるのは悪いことじゃないと思う。
「「『水よ渦巻け。豪水の螺旋 アクア・ストーム』」」
四人のアロー系魔法で足を止められた魔物達に、ユーリとフラムのアクア・ストームが命中した。何匹かは水の竜巻に巻き込まれて宙を舞い、落下している。威力はレベルにも左右されるようで、俺やプリムが使うストーム系より威力は控えめだし、竜巻の高さも3メートルぐらいか。変に殺傷力が高いと犯罪に使われる場合に厄介なことになるから、これはこれで良しだ。
『いっくよー!!』
竜化魔法を使ってクリスタルドラゴンの姿になったアテナが、口からブレスを吐いた。アテナの得意な属性は火と土なので、ブレスもそれに準じてマグマみたいになっている。エオスのブレス程じゃないが、それでも突然ドラゴンが現れたからなのか、ゴブリンやコボルトは驚いて直撃を受けていた。さすがに高ランクの亜人どもだけあって、アテナのマグマ・ブレスとでも言うブレスにも耐えてるが。
「『極炎よ舞え。炎舞の翼槍 フレア・ペネトレイター』!」
プリムのフレア・ペネトレイターで次々に貫かれて息絶えていく。極炎魔法にも詠唱を加えたのは、魔力の消費を少しでも抑えるためだ。なにせ極炎魔法は、普通の属性魔法より魔力の消費が激しくて、同じアロー系で試したところ、どうやら五倍以上らしい。だが詠唱を加えることで三倍程度にまで抑えることができたそうだから、プリムは他にも開発している極炎魔法の詠唱も色々と考えている。
「ルナ、エオス!」
「いつでも」
「オッケーよ!『光よ乱れ舞え。竜炎の光乱 シャイニング・テンペスト』!」
うお!マナがルナ、エオスと同時に使う新魔法をブチかましやがった!
シャイニング・テンペストはマナのブラスト・ストームとブラスト・ランス、ルナのライト・アロー、そしてエオスのファイア・ブレスの合成魔法だ。合成魔法は二つ以上の魔法を同時に操り、別の魔法として使う技術で、俺達が奏上した魔法以外でも使い手はけっこういるが、なかでも多いのは召喚魔法士と召喚獣だ。魔法の合成は同じ魔力パターンでなければできないんだが、召喚獣の魔力は契約者の魔力と同じパターンになるため、合成することができる。今までは炎の竜巻とか土石流程度だったそうだが、いや、それでも十分実用的なんだが、威力の調整はほぼできなかったらしいし、魔力の消耗も半端じゃなかったらしい。
だがプリム同様、体系化された魔法を使うことで、魔力の消費は二倍弱、しかも合成した魔法を使うことで制御も容易になるため、エオスのファイア・ブレスですらマナの魔力で威力を調整することもできるそうだ。
そのエオスのファイア・ブレスをマナのブラスト・ストームで煽って無数のブラスト・ランスに変え、そこにルナのライト・アローを重ねることで無数の光の槍をぶっ放すのがシャイニング・テンペストっていう魔法だ。光の槍っていうのは控えめな表現で、拡散レーザーって言った方が早いかもしれん。
その“未完成”のシャイニング・テンペストを、マナはブチかましやがったんですよ。
「へえ、けっこうすごいじゃない。なら、私もあれを使ってみようかしら。『極炎よ吹き荒れよ。獄炎の竜巻 フレア・トルネード』!」
うおい!プリムもジャンボノーズ・ボアを葬った新極炎魔法フレア・トルネードぶっ放したぞ!
フレア・ストームとフレア・ウォールを組み合わせることで竜巻を作り、その中にフレア・スフィアを流し込み、そこからフレア・アローを雨のように撃ち込むのがフレア・トルネードの概要らしい。制御が難しいって言ってたし、その証拠に竜巻の外にも極炎の矢が降り注いでるから、俺達も迂闊に近寄れねえ!
新魔法のお披露目です。詠唱考えるのに時間かかりました。大和も刻印術と組み合わせた魔法を開発してますが、お披露目は次回になります。




