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刻印術師の異世界生活  作者: 氷山 玲士
第五章:鍛冶と魔法のターニング・ポイント
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094・固有魔法の発現

「ようこそ、バシオン教国へ。私は今代の教皇を務めていますイデア・リプセット・バシオンと申します。歓迎しますよ、マナリース殿下、ユーリアナ殿下、プリムローズ殿下、アテナ殿下。そしてウイング・クレストの皆々様」


 俺達の目の前にいる、20代後半ぐらいに見える薄い緑の髪をショートボブに切り揃えている碧眼の女性がバシオン教国の教皇様で、バシオン教のトップでもある。女性が教皇だとは思わなかったが、主神でもある父なる神が男性であることから、教皇職には代々女性が就くことになっているそうだ。ちなみに男性の最高位は枢機卿で、こちらは女性が就くことはできないらしい。俺達を案内してくれたフリッグ枢機卿もその一人だってことは、ちょっとびっくりだったな。


「ありがとうございます、教皇猊下」

「突然の訪問の無礼、心よりお詫びいたします」

「とんでもない。フリッグ枢機卿より伺いましたが、あなた方は魔法の女神様へ属性魔法を奏上されるために来られたのですから、むしろ無礼はこの場に呼びつけた私の方です」


 俺達は予定していた魔法を奏上したんだが、問題なく全て登録された。これで一応ではあるが、属性魔法が体系化されたことになるだろう。


「属性魔法の体系化は、私どもにとっても悲願です。ですが私だけではなく、枢機卿や大司祭も奏上させていただいたことがあるのですが、残念ながら女神様はお認めになられませんでした」


 教皇様は少し悲しそうな顔をされている。属性魔法の奏上は、サユリさんと同時にヘリオスオーブにやってきた客人まれびとの暗殺が理由で、ほとんどされなくなってしまっていた。それでも代々の教皇様や司祭達は、何とか属性魔法を体系化させようと頑張っていたんだな。


「微力ですが、教皇猊下のお力になれて、私達も嬉しく思います」

「何をおっしゃいますか。微力どころか、私達の長年の悲願を叶えてくださったのですから、私どもとしましても感謝しかありません」

「それも全て、ここにいる大和のおかげです」

「いや、そんなことはないだろ。教皇様や枢機卿の人達も頑張ってたんだから、そのうち登録されてたと思うぞ」

客人まれびとの世界に魔法はないと聞いていましたが、まさか魔法を体系化するために必要な知識まであったとは、さすがに思いませんでした。本当に感謝します、大和さん」

「いえ、お力になれて良かったです」


 俺が客人まれびとだってことは、アミスターの友好国であるバレンティア、トラレンシア、アレグリア、そしてバシオンには伝えられている。だから教皇様も当然、枢機卿や司教さん達も知っているんだが、どうやら俺が刻印術師だってことまでは知らなかったようだ。

 確かに俺のいた世界に魔法はないが、刻印術という似た術式ならある。コロポックル達には聞いてないから推測になるが、サユリさん達は刻印術師ではなさそうな感じだし、百年前といったら三度目の世界大戦前後になるから、刻印術も世に出ていなかった。そう考えると、技術の進歩ってすさまじいよな。


「本来であれば私どもの悲願を叶えてくださった皆さんに、お礼の一つでもしたいのですが……」

「でしたら、お願いしたいことがあります。いえ、猊下にとっては大した手間ではないと思います」


 属性魔法の奏上は女神様に行うものだし、個人の御祈りなんかに近い行為だから、いくら初の成功とはいえ、報酬が出ないのは当然の話だ。俺達は属性魔法の体系を行った者として名前は残ることになるそうだが、本音を言えばそれも控えてもらいたい。無理だったけどな。


「私に、ですか?もちろん構いませんが?」

「ありがとうございます。実は大和は、客人まれびとということもあって、固有魔法が何なのかわからないのです。彼は刻印術という魔法に似た技術を使えますが、刻印術は大和の世界の技術ですから、固有魔法とは言えません。ですから猊下のお力で、彼の固有魔法が何なのかを調べていただきたいのです」


 固有魔法は個人専用の魔法で、ヘリオスオーブの人なら誰でも使うことができる。もちろんどの魔法が使えるかは個人差はあるし、だいたい平均で二種類ぐらいの固有魔法を使えるようになるそうだが、どの魔法が発現するかはその時にならないとわからない。

 例えばマナの固有魔法は召喚魔法だが、エオスと契約した辺りから精霊の力を借りて魔法を使うことができる精霊魔法という魔法も使えるようになってきている。精霊魔法は妖族の固有魔法なんだそうで、種族専用の固有魔法とあと一つっていうのがヘリオスオーブでは常識になっている。

 ちなみに種族専用の固有魔法は、人族が魔力を物理的な力に変換する魔力魔法、妖族が上記の精霊魔法、獣族が触媒を獣の姿に変化させることができる獣化魔法、竜族がリディアのフリーズ・ブレスやルディアのエーテル・バーストみたいな竜人魔法、魔族がフラムやレベッカのような魔眼、そして翼族が精霊の翼となっている。ドラゴンから竜族へ転生したアテナは竜化魔法という固有魔法を使えるが、これはドラゴンからの転生者だけが使える固有魔法なので、ある意味では竜族の固有魔法と言ってもいいだろう。

 俺はこの世界ではミーナや教皇様と同じ人族になるが、今の今まで固有魔法は使えていない。刻印術が固有魔法みたいな感じではあるし、使い慣れてることもあるからあまり気にしてなかったんだが、サユリさん達にも固有魔法は発現したってコロポックル達が言ってたから、俺にも使える魔法はあるだろうってことで、みんな気にしてくれていたんだよ。


「そういうことでしたら、喜んで協力させていただきます。大和さん、ご足労ですが女神像の前までお願いできますか?」

「わかりました、ありがとうございます」


 ―ルディア視点―


 私達は再び、奏上の間にやってきた。固有魔法も魔法だから、誰がどんな固有魔法を持っているのかは魔法の女神様に聞くのが一番なんだ。神官や巫女でも確認するだけならできるんだけど、大和は客人まれびとでヘリオスオーブで生まれたわけじゃないから、教皇様や枢機卿でもないと確認が難しいって言われている。実際サユリ様の固有魔法を確認したのも、当時の教皇様らしいよ。


「……終わりました」


 イデア教皇様は女神像の前で跪き、祈りを捧げていた。魔方陣の中にいる人の魔力を女神様に伝えて、神職の人が祈りを捧げることで、魔方陣の中にいる人の固有魔法が何なのかを知ることができるようになるんだけど、普通はここまで時間はかからない。バシオン教以外の神様に仕えてる人だと、その人の魔力が女神様に伝わりにくいから、その分時間がかかってしまうってことらしいわ。客人まれびとも元の世界じゃ信仰する神様がいるだろうから、それが原因なのかもね。


「大和さんの固有魔法ですが、どうやら三つ発現しているようです」

「三つもですか?」


 発現してるということは、大和はその固有魔法が使えるってこと。というか、三つも発現してるの?


「はい。固有魔法が発現するのは、普通に暮らしている人々なら一つですが、騎士やハンターのような人は二つが多いようです。もちろん絶対ではありませんし、中には三つどころか四つの固有魔法を使いこなす方もいますね」


 最初大和は、固有魔法って一人一つだって思ってたのよ。確かにそんな説明をした覚えはないし、使いこなすのは大変だから、複数の固有魔法を使ってるハンターはPランク以上ばかりだったから、知らないのも無理はないかもね。

 それより、大和の固有魔法って何なんだろ?


「それで、大和の固有魔法はどのような魔法なのですか?」


 ユーリ様も興味津々だわ。見れば他のみんなもみたいだし、当の大和も気になってるみたい。別にどうでもいいって感じを装ってるけど、雰囲気が隠しきれてないわよ。


「大和さんの固有魔法は魔力魔法、付与魔法、そして融合魔法です」


 魔力魔法は人族の固有魔法だからわかるけど、他は融合魔法に付与魔法ときたか。刻印具を使ってよく魔法や刻印術を付与させてたけど、それって無意識に付与魔法を使ってたってことなんでしょうね。というか融合魔法って初めて聞いたんだけど、何なのその魔法?


「魔力魔法は人族の固有魔法ですし、付与魔法も使い手は少なくありませんから、説明は省かせていただきます。残る融合魔法ですが、この魔法の使い手はほとんど存在しません。潜在的にはそれなりの数がいるでしょうが、実際に使える者となると、おそらくは両手の指で足りるはずです」


 教皇様が言うには、融合魔法っていうのは異なる物を融合させることができる魔法で、優れた使い手なら火と水みたいな真逆の魔法ですら融合させることができるんだって。どんな状態なのかは想像できないけど、とんでもないってことはよくわかった。


「魔力魔法に付与魔法、融合魔法か。なんていうか、意外って感じはしなかったし、むしろ納得しちまったな。ありがとうございます、教皇猊下」


 付与魔法も融合魔法も、刻印術と大いに関係がある気がするわ。獣車にプリムのストレージ・ミラーを付与させたことがあるけど、あれってもしかしなくても付与魔法のおかげなんでしょうね。


「お力になれたなら幸いです。せっかくですし、皆さんの固有魔法も確認しておきましょうか?」

「よろしいんですか?」

「もちろんです」

「ありがとうございます。それではお願いします」


 教皇様のご好意で、レイドメンバー全員の固有魔法も確認してもらうことになった。あ、種族限定固有魔法は使えるから、今回は省略ね。

 その結果、プリムとマナが二つ発現してることがわかった。二人とも気付いてなかったみたいだから驚いてたけど、同時に嬉しそうだわ。高ランクのハンターは複数の固有魔法を使いこなすけど、プリムもマナも固有魔法は一つしか使ってなかったんだから、気持ちはわかるわよ。羨ましいけどね。


「私のもう一つの固有魔法は結界魔法、マナのは精霊魔法ね」

「プリムの固有魔法が結界魔法だったのは意外ね」

「獣族の固有魔法じゃないからか?」


 精霊魔法は妖族の固有魔法だから、マナ様が使えるようになったのは不思議なことじゃない。だけどプリムの固有魔法が結界魔法だったのは、ちょっと意外だわ。使えるようになるとしたら獣族の固有魔法、獣化魔法だと思ってたのに。

 あ、結界魔法はミーナも使えるんだけど、ミーナのトゥインクル・イージスは完全な防御用なんだけど、確かトゥインクル・イージスは土と光の合成魔法だったかな。結界魔法は二属性以上の合成魔法なんだけど、使える魔法は一つだけ。竜人魔法もなんだけど、それだけ使いこなすのが難しいのよ。

 それから妖族の固有魔法精霊魔法だけど、これは精霊の力を借りて固有魔法や無属性魔法を使うことができる魔法なの。召喚魔法と同様、精霊と契約しなきゃいけないんだけど、契約した精霊が覚えている魔法を使えるようになるから、魔法に関しては妖族が一番適性が高いかな。まあ契約できる精霊の数は個人差があって、レベルによって決まってるんじゃないかって言われてるけど、精霊は気難しいらしいから、契約できない人もいるそうだよ。


「ええ。プリムは白狐だから、獣族の固有魔法も使えるはずなのよ。精霊の翼は翼族の固有魔法だけど、すっごく難しいって言われてるから、翼族でも使えない人は少なくないわ。でしょ、アテナ?」

「うん。何度かプリムに教えてもらって灼熱の翼を試してみたんだけど、全然ダメだったよ」


 精霊の翼は翼族の固有魔法だから、私は使えない。私にも火竜の翼があるから使えそうなもんなんだけど、翼族の翼は体内に収まらない魔力が翼という実体を持ったものらしいから、多少のダメージならすぐに治っちゃうそうなのよ。その精霊の翼、アテナも翼族として転生したから使えるはずなんだけど、翼に魔力を流して、それを維持するのはかなり大変らしく、アテナはまだ灼熱の翼を使うことができていない。竜化魔法も使いこなしてるとはいえないから、これはこれで仕方ないかもしれないんだけど、プリムは六属性全ての精霊の翼を使いこなしてるし、さらには火と風の合成魔法、極炎の翼まで完成させてしまっている。大和も大概だけど、プリムもデタラメなのよね。

 そして問題の獣化魔法だけど、これは竜化魔法のように自分を獣化させるわけじゃない。獣化魔法は魔法を動物の形で放つ魔法で、炎の虎とか風の豹とかが有名ね。他にもあるけど、だいたい自分の種族と同じ動物、同じ属性になるそうよ。もちろんそれだけじゃなく、自分の意思で自由自在に操ることもできるから、けっこう強力な魔法なのよ。ちなみにスフィア系の魔法は、その獣化魔法を元に開発したんだって。

 ちなみに竜化魔法のように自分を狼化させることができるのは、魔族・ワーウルフの固有魔法フルムーン・ウェイクだけだよ。


「結界魔法ね。フレア・ペネトレイターに組み込めるといいんだけど」

「契約してくれる精霊がいるといいんだけど」


 プリムはフレア・ペネトレイターを強化するために何やら思案してるし、マナ様はどんな精霊と契約しようか考えている。プリムの結界魔法がどんな魔法かはわからないけど、多分火属性の結界になるだろうから、フレア・ペネトレイターが強化されるのはほぼ確定。マナ様も精霊と契約するとなると、またレベルが跳ね上がるわね。召喚魔法と精霊魔法は似たところがあるし、ドラゴンとまで契約してるわけだから、精霊も契約してくれやすい気がするわ。

 まったく、私の周りって、本当に化け物が多いわ。

大和の固有魔法は、既に発現していました。自分が理解できてなかっただけですね。

プリムとマナの固有魔法も追加していますが、全ての人が複数の固有魔法を使えるわけではありません。使えるから偉いってわけではありませんが。

あ、教皇様の名前に国名が入ってますが、これは代々の教皇が名乗ることになっているだけで、称号みたいなものです。

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