089・討伐完了と後継
俺達も加勢したことで、ロングノーズ・ボアの団体はあっさりと全滅した。まあ俺やプリムはそんなに倒してないんだが。
「俺達がロングノーズ・ボアの群れを倒せるなんて……」
「強くなったとは思ってたけど、ここまでだったなんて……」
ラウスとレベッカが、自分達のやらかした結果に驚いている。ロングノーズ・ボアはMランクの魔物だが、それはMランクハンターが数人がかりでやっと一匹倒せるという意味なので、Mランクになって日が浅いハンターでは返り討ちに会うことも珍しくはない。それはユーリやフラムも同じなんだが、20匹以上いたロングノーズ・ボアのうち6匹を倒しているわけだから、四人が驚くのも無理はないというわけだ。
「エオスが倒してくれたのもいるけど、それを差し引いても普通のMランクならできないでしょうね。やっぱり大和の魔法ってレベルが上がりやすいだけじゃなく、レベル以上の力を使えるってことだと思うわ」
そういうマナも驚いている。マナはエオスと契約したことでレベルが上がり、Pランクに昇格しているが、エオスを召喚して戦ったのは初めてなので、いつも以上に容易くロングノーズ・ボアを倒せてしまったことに戸惑っているようだ。
「マナの場合、それだけじゃない気がするけどね。やっぱりエオスがいるから、魔力が強くなってるんでしょうね」
そのエオスは、ロングノーズ・ボアの丸焼きを食べながらご満悦の表情だ。ドラゴンの姿のまま食ってるから一匹じゃ足りないと思い、もう二匹ほど余分にあげたんだが、だらしなく涎垂らしやがったからな。これでドラゴン最上位種と言われても、正直信じられん。
「召喚魔法使いは召喚獣を召喚すれば、その魔力も自分の力にできると言われてますから、それはありそうですね」
ミーナはトゥインクル・イージスを維持していたからあまり戦ってはいないが、それでも土魔法を使って2匹ほど倒している。トゥインクル・イージスは俺の惑星型刻印術に近い特性を持ってるようだから、何度かアドバイスらしきものもさせてもらっているが、ミーナは素直に聞き入れ、試行錯誤を繰り返していたから、この結果は驚くようなことじゃない。
「エオスのおかげなのはわかるけど、自分の力じゃないのが不満ね。そもそもエオスは、頻繁に召喚することはできないし」
それはそうだ。最上位のエメラルドドラゴンと契約するなど、バレンティアの竜騎士でも無理だ。そもそもバレンティアの竜騎士は召喚契約をしているわけではないので、マナのように恩恵を受けているわけじゃない。結婚した竜騎士は別だが。
「そりゃな。で、俺はいつまでアルフヘイムを張ってりゃいいんだ?」
「エオスの食事が終わるまででしょうね。終わったらウィルネス山まで飛んでもらうつもりだし、それまでは頑張って」
やっぱりそうなるか。アルフヘイムの範囲は狭めてあるが、後で背中に乗るなら必要ない気もするんだがな。
「バレンティアなら珍しくはないけど、背中に誰かを乗せて飛ぶのは別ですからね。人がいないとわかるまでは、できれば維持しておいてもらいたいです」
リディアの言うこともわかるが、バレたところで文句言ってくるようなアホはいないんじゃないか?
「食事中の姿を好んで見られたがる女性はいませんよ?」
確かにそれはユーリの言う通りなんだろうが、普通の人が食事してるドラゴンを見たら、一目散に逃げるだろ。バレンティアのドラゴンはガイア様の意向を受けて人を襲うようなことはないが、皆無というわけじゃないんだからな。
「ご馳走様でした。やはりロングノーズ・ボアは美味ですね」
好物のロングノーズ・ボアの丸焼きを三匹たいらげたエオスはご満悦だ。
「ありがとう、エオス。ついでってわけじゃないんだけど、ウィルネス山まで乗せてもらってもいいかしら?」
「わかりました。どうぞ、お乗りください」
おお、それは助かる。なにせここ数日、ジェイドには獣車を引いて歩き回ってもらったからかなり疲れてて、あまり無理はさせたくなかったんだよ。
「それじゃあジェイドとフロライトは送還しとくか」
「そうね。今日はアルカでゆっくりしてもらいましょう」
俺とプリムがジェイドをフロライトを送還すると、エオスは乗りやすいように体を伏せてくれた。さて、それじゃあ報告といきますかね。
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エオスの背に乗りウィルネス山へ向かい、そこから徒歩でドラグニアに向かった俺達は、夕暮れと同時にハンターズギルドに到着することができた。そこで報告と換金、アテナのランクアップ手続きを済ませてから竜のねぐらに戻ることになった。
エレファント・ボアが40万エル、ジャンボノーズ・ボアが5万エル、ロングノーズ・ボアが1万エルなんだが、エレファント・ボアとジャンボノーズ・ボアはこっちで引き取ることにしたので買い取り価格は21万エル、そして俺とプリムへの指名依頼でもあるのでそちらの報酬が合わせて30万エルずつと、けっこう稼ぐことができた。俺とプリムへの指名依頼の報酬は、半分はレイドの活動資金に回すことになってるが、それでも15万エルほどは自由に使えることになる。みんなへの婚約品でけっこう散財してたから、これはありがたい。
そしてアテナのランクアップだが、この戦闘でアテナのレベルが31になっていたので、Gランクに昇格することになった。レベルはみんな上がっているが、ユーリ、フラム、ラウス、レベッカは3つほど上がっていたな。俺達も一気にレベルアップしたことはあるが、やっぱり練習で使うより実戦で使う方が上がりやすい感じはするな。
ちなみに今のライブラリーはこちらになっております。
ヤマト・ミカミ Lv.66 17歳
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ランク:ヒヒイロカネ(H)
レイド:ウイング・クレスト
異界からの客人、異世界の刻印術師、魔導探求者、ヒポグリフの主、公爵令嬢の婚約者、騎士の婚約者、双竜の婚約者、天空の覇者、亜竜の天敵、亜人の天敵、亜人皇帝の屠殺者、亜人王の虐殺者、アミスター王女姉妹の婚約者、ドラゴンスレイヤー、天騎士、人魚の婚約者、聖竜の婚約者
プリムローズ・ハイドランシア Lv.64 17歳
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ランク:ヒヒイロカネ(H)
レイド:ウイング・クレスト
白狐の翼族、獣人連合の公爵令嬢、客人との絆を深めし者、ヒポグリフの主、客人の婚約者、極炎の翼、亜竜の天敵、亜人の天敵、亜人女帝の貫殺者、亜人女王の滅殺者、亜人翼帝の焦殺者、翼騎士
マナリース・ラグナルド・アミスター Lv.42 19歳
ハンターズギルド:アミスター王国 フロート
ランク:プラチナ(P)
アミスター王国第二王女、狩人姫、客人の婚約者、客人との絆を深めし者、翠玉竜の契約者
ユーリアナ・ラグナルド・アミスター Lv.27 14歳
ハンターズギルド:アミスター王国 フロート
ランク:ミスリル(M)
アミスター王国第三王女、客人の婚約者、客人との絆を深めし者、癒しの魔法士
アテナ・ウィルネス・クリスタル Lv.32 15歳
ハンターズギルド:アミスター王国 フロート
ランク:シルバー(G-S)
聖母竜の愛娘、客人の婚約者、ドラゴンからの転生者、聖竜の翼族、客人との絆を深めし者
ミーナ・フォールハイト Lv.32 17歳
ハンターズギルド:アミスター王国 フロート
ランク:ミスリル(M)
レイド:ウイング・クレスト
客人との絆を深めし者、客人の婚約者、白麗の騎士、大地の結界士
リディア・ハイウインド Lv.38 16歳
ハンターズギルド:バレンティア竜国 ドラグニア
ランク:ゴールド(G)
レイド:ウイング・クレスト
水竜の竜族、双竜、客人との絆を深めし者、客人の婚約者、亜人の天敵、氷刃の双剣士
ルディア・ハイウインド Lv.38 16歳
ハンターズギルド:バレンティア竜国 ドラグニア
ランク:ゴールド(G)
レイド:ウイング・クレスト
火竜の竜族、双竜、客人との絆を深めし者、客人の婚約者、亜人の天敵、炎撃の武闘士
フラム Lv.25 18歳
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ランク:シルバー(M-S)
レイド:ウイング・クレスト
客人の婚約者、客人との絆を深めし者、激流の弓士
ラウス Lv.27 14歳
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ランク:ミスリル(M)
レイド:ウイング・クレスト
疾風の剣士
レベッカ Lv.27 13歳
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ランク:ミスリル(M)
レイド:ウイング・クレスト
水流の弓士
みんなけっこうレベル上がってきたし、実力的にはGランクにもひけをとらないと思う。ランクだが、アテナはG、フラムはMランクのレベルなんだが、二人とも登録したばかりでもあるから、本来のランクまでは到達できてないだけだ。フィールに戻り次第ランクアップ作戦を開始するので、あんまり気にしなくてもいいだろう。あとさりげなくラウスが誕生日を迎えていたので、エレファント・ボア討伐の祝勝も兼ねてこれから宴会予定だ。
「それでは異常種エレファント・ボアの討伐成功とラウスの誕生日を祝って、乾杯!」
「「「かんぱ~いっ!」」」
「おめでとう、ラウス」
「おめでとうございます。年下だと思ってたんですけど、同い年だったんですね」
「ありがとうございます。俺もユーリ様と同い年だったとは思いませんでしたよ」
ユーリも少し前に誕生日を迎えたからな。まあこの世界じゃ年齢より階級や身分の方が物を言うから、あんまり意味はないんだが。
「ラウスも14歳か。あと3年もすれば、レベッカと結婚できるようになるし、それまで子供は作らないように気を付けてね?」
「わ、わかってるよ、フラム姉さん」
「そういうお姉ちゃんは、大和さんとの子供を作らないの?」
なんか流れ弾が飛んできた!?
「マナ様がご懐妊されてからかしらね」
「ちょ、ちょっとフラム!何を言ってるのよ!?」
俺と同じく、流れ弾を食らったマナが慌てているが、一応その理由は予想がつくな。
「フラムさんの気持ちもわかりますよ」
「なんでよっ!?」
「マナ様、大和の第一夫人じゃないですか。ハンターだから後継とかはあまり関係ないけど、それでも第一夫人とか正妻とかより先に私達が妊娠しちゃうのは問題ありますよ」
「だから待ちなさいよ!確かに私がそう決まったけど、それはアミスターで活動するための建前じゃない!それなら最初に大和と婚約したプリムこそ、最初に子供を産むべきでしょ!」
予想通りの理由だったな。拝領とかしたわけじゃないし、天爵っていう爵位も当代限りのものだから生まれてくる子は名乗れないんだから、誰が最初に妊娠しても問題ないんじゃないかと俺も思う。
「問題はあるわよ。アルカ、どうするの?」
「あ……」
「それにアルカを降ろそうとしているフィールは王家の直轄地ですが、直轄ということはいずれ外戚である公爵に拝領される可能性もあるということです。私やお姉様の子は公爵になる可能性がありますから、後継はともかく、継承問題は無縁とはいかないと思いますよ」
そうだった。確かに領地はないが、アルカっていう客人の遺産の存在があった。というかユーリさん、そこまで具体的なこと言われると、それはそれで怖いんですが。
「それに私はバリエンテの問題が片付くまで、子供を産むつもりはないわよ」
真っ赤になってたマナだが、プリムの宣言で我に返った。みんなも驚いているが、俺はプリムと婚約した直後にそう告げられている。だから驚いたわけじゃない。プリムは寂しそうな顔をしているから、子供を産みたいっていう気持ちはあるんだろうが、妊娠、出産、育児となればほとんどフィールから動けなくなる。
正直、獣王を討つだけなら難しくはないと思う。だがハンターが一国の王を討つなんてことは、戦争でもなければ許されないことだから、すぐにギルドから指名手配されてしまうことになる。特にHランクハンターは、単独で国を滅ぼすことも可能だと言われているから、ギルドも高ランクハンターに指名依頼を出すだろう。そんなリスクを負ってまで討つ価値が獣王にあるかと言えば、俺はないと思う。
プリムは子供好きですが、自分の手で獣王を討ちたいので、まだ子供を作るつもりはないわけです。
今のプリムなら簡単に獣王を討つことができるんですが、従兄であるレオナス王子が王位に就くにしろ、アミスターに併合してもらうにしろ、混乱を招くだけだとわかっているので、討たないのではなく討てないという状況なんです。




