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刻印術師の異世界生活  作者: 氷山 玲士
第四章:嫁の実家へ、挨拶回りの旅に出ます。バレンティア竜国編
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084・マナリースの召喚獣

アテナが転生魔法を使った翌日、予想だにしない事態が起きた。


「バレンティア王家に嫁ぐイーリスと違い、アテナはあなた方と行動を共にすることになります。もちろんアテナも身の回りのことぐらいはできますが、世話係が一人いてもいいでしょう。それにアルカという島にも興味がありますし、アミスター様式の服や調度品などは私好みでもあります。ですから私は、あなたと契約しようと思います」


 などと言って、エオスがマナの召喚獣になることになったのだ。アテナの世話とか言ってるが、どう考えても自分の趣味優先してるよな?そんな俗物的な理由で召喚獣になってもいいのかよ?あと俺の中のドラゴン像は全壊してるんだが、どう責任を取ってくれるんだ?

 まあエメラルドドラゴンは風の最上位ドラゴンだから、マナとも相性がいいし、俺たち全員を乗せて飛ぶこともできるから、ある意味じゃ結果オーライかもしれんが。


「そんな理由でドラゴンと契約できるとは思わなかったけど、継承権を失くしたとはいえ、私はアミスター王家の人間よ。いざというときは、あなたの力を貸してもらうことになるけど、それはいいの?」

「それは当然です。あなた方を乗せて飛べというなら、いつでも呼んでください」


 マナも釈然としてない感じだが、ドラゴンと契約した召喚魔法使いはいないって話だから、理由はどうあれ心強いことに違いはない。アミスターの戦力ってわけじゃないが、何かあれば力を貸してもらえることができるのも大きい。

 ドラゴンは従魔契約を結ぶことはできないため、召喚魔法を使えないアテナとは契約ができない。だが幸いといっていいかわからないが、マナの固有魔法は召喚魔法だから、マナとなら召喚契約を結ぶことができる。アミスターの状勢も理解してくれてるから、普段はエオスの好きにしてもらうことで契約も成立した。いい加減な契約のような気もするが、いるのといないのとでは大違いだから、これは良しとしておくしかないだろう。


「よろしくお願いします、マナリース様」

「マナでいいわ。こちらこそよろしく」

「はい。では早速ですが、召喚を試してみてください」

「試すって、近くにいるのに?」


 マナが首を傾げたが、これは当然の反応だろう。召喚魔法や従魔魔法は、遠距離にいる召喚獣、従魔を呼び寄せる魔法だ。もちろん近くにいても使うことはできるが、正直意味はない。


「ええ。私も話を聞いたことしかありませんから、試してみたいことがあるのです」

「試してみたいことって?」

「マナ様にはお伝えしておかなければなりませんね。お耳を拝借」


 エオスはマナの耳元で何かを伝えているが、別に隠すようなことじゃないだろ。ああ、成功するかわからないから、召喚魔法を使うマナにだけは教えてるってことか。


「ふむふむ。そんなことが……。それじゃ、行くわよ」


 エオスに言われて、マナがプラチナムソードを抜き、召喚陣を描いた。そして魔力を流すと、中からは一頭のエメラルドドラゴンが姿を現した。


「えっ!?」

「エオスはここにいるのに、なんで?」

「成功ですが、力は私の半分ほどでしょうか。マナ様の魔力が頼りかもしれません」

「けっこう大変よ、これは」

「どういうことだ?」


 エオスが言うには、ドラゴンを召喚する方法は二通りあるそうだ。一つは従魔魔法と同じく、召喚獣を自分の近くへ転移召喚させる方法。こちらは召喚魔法使いに限らず、従魔を持つ者も使っている魔法だから、世間での認知度は高い。

 だがそれとは異なるもう一つ方法に、召喚獣の力の一部だけを召喚する、というのがあるらしい。召喚魔法使いの魔力と召喚獣の魔力で作られた体を、召喚魔法使いの魔力を消費することで維持できるため、魔力量が多ければ召喚している時間も長くなる。魔体召喚またいしょうかんというそうだが、それができるのはドラゴンだけなんだそうだ。

 マナはその魔体召喚を行い、エオスを召喚したんだが、そのマナはかなり大変そうだ。ドラゴンは年齢=レベルだから、247歳だというエオスはレベル247ということになる。力は半分ぐらいだと言ってるが、それを考慮してもレベル120は超えている。マナのレベルは37になっているが、三倍以上の開きがあるから、魔力で作られたエオスの体=魔体またいを維持するにはマナの魔力をかなり消耗させるようだ。


「なるほどね。ということはマナの魔力量を増やすか、エオスの魔体とやらのレベルを下げるかしないと、マナの魔力がすぐに枯渇しちゃうのか」

「だけど確か、ドラゴンのレベルを人間のレベルに換算すると、エオスさんのレベルは60と少しになるんじゃないですか?」

「ああ、そっか。それだけで判断すると大和やプリムと大して変わらない感じだけど、実際はそんなことはないだろうから、違いがよくわからないか」


 そうなんだよな。ドラゴンの強さを表すハンターズギルドのランクは、最低でもPで、エオスやガイア様のような最上位ドラゴンならOランクになる。Oランクの時点で対処不可能に近いわけだが、強さもピンからキリまであるので、ドラゴンだけでランクを付け直してもいいんじゃないかという案もあるらしい。

 だが今問題なのは、ドラゴンの年齢と人間換算した場合のレベル差だから、変更があったらライナスのおっさん辺りにでも聞けばいいだろう。


「そのレベルですが、ドラゴンの年齢と転生時のレベルから計算した結果、合致しただけにすぎませんよ」


 エオス曰く、人間の都合で解釈された数字になるから、ドラゴンの間では意味はないことになっているそうだ。

 確かによく考えてみればそうだ。エオスは風の最上位であるエメラルドドラゴンだが、ドラゴンの中では若い部類に入る。当然エオスよりレベルの高い風のドラゴンもいるんだが、実力はエオスより劣っていることを考えると、年齢=レベル説は間違ってる気がするな。


「私達としてはどうでもいいのですが、人間にとってレベルは強さを計る基準になっていますから、そう考えてしまうのも仕方ないことなのでしょうね」


 ごもっとも。そもそも俺は、レベルという概念のない世界から来たわけだから、エオスがそう思う気持ちも理解できてしまう。が、飛ばされてきてまだ数ヶ月だというのに、既にレベルで強さを計る癖がついてしまっている。これはこれで問題があるし、レベルは魔力の量や親和性を意味しているんだから、あまり過信するのはやめておくべきだろう。今更ではあるんだが。


「それじゃあ今日は、アテナやエオスをアルカに連れていくか」

「それがいいわね。私達の部屋も改装しなきゃいけないし、エオスの部屋も用意する必要があるわ」

「アルカ?それ、何なの?」


 まだアテナには、アルカのことを説明できていない。昨夜はそんな余裕もなかったからな。


「直接見た方が早いかな。それよりアテナ、体は大丈夫か?」

「え?う、うん。まだ何か入ってる感じはするけど、イヤな感じじゃないし、その……優しくしてくれたから……」


 赤面するアテナ。転生魔法の影響が俺にもあるって話は聞いたが、そこまで強い強制力ってわけでもなさそうだ。ドラゴンにとっては一生を左右する大事なんだから、これぐらいは許容範囲だし、そんなものなくてもアテナを見捨てるつもりは毛の先ほどもない。意識しなければいいだけの話だ。アテナが可愛く見えるのも、断じて転生魔法の影響なんかじゃないぞ。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 そんなわけでマナは無事にエオスと契約を終え、アテナと一緒にアルカに連れてきた。


「ここがアルカですか。まさか空に浮かんでいたとは……」

「すごいね、ここ!ボクもここに住んでいいの?」


 アテナもエオスも驚いているが、これはいつものことだ。


「もちろんよ。アテナの部屋はこれから作ることになるけど、エオスは二階の空いてる部屋を使ってくれればいいわ」

「それはありがたいですね。ですが普段は、あの山の中腹辺りで過ごさせていただこうと思います」


 そのエオスの部屋もアルカの館に用意することになった。普段はアルカの山にある洞窟で過ごすそうだが、人化魔法も使えるわけだし、趣味である買い物も楽しんでもらうつもりだから、部屋は必要だと判断されたわけだ。


「それは構わないが、ジェイドやフロライトも山は好きみたいだから、あいつらが近くを飛ぶこともあるぞ?」

「ヒポグリフですからそれは当然ですね。問題はありませんよ」


 ウィルネス山にはドラゴン以外いないから、エオスとしても新鮮に感じられるようだ。特にジェイドはドラゴン相手でもあんまり怯えた様子が見られないから、仲良くやってくれるんじゃないかと思う。


「そして、そのカーバンクルがルナですね。召喚獣としては私の先輩になるわけですか」

「そういうことになるのね。私にとっては姉妹も同然なの。ルナ、挨拶して。エメラルドドラゴンのエオスよ」


 ジェイドの足下に隠れてるルナだが、マナの魔力を感じているようで、おっかなびっくりではあるが、エオスに興味を向けている。だが意を決してエオスの所へ行くと、震えながらも頭を下げてご挨拶。


「そんなに怯えないで。私もあなたと同じ主を持つ召喚獣なのだから」


 エオスがルナを頭を撫でると、ルナは安心したようにエオスの足下にすり寄っていった。まだぎこちなさが感じられるが、こちらも大丈夫だろう。


「問題は、やっぱりあの仔みたいね。ごめんね、エオス」

「気にしないでください」


 プリムが気にしているのは、フロライトの様子だ。フロライトは本格的に怯えてしまって獣舎の陰に隠れて出てこないんだが、ジェイドやルナがエオスの近くにいるのが気になっているようで、逃げようとはしていない。人見知りが激しいから多少は仕方ないんだが、ここまで怯えるとは思ってなかったな。


「ジェイド、悪いんだけど、フロライトを落ち着かせてきてくれる?エオスはマナの召喚獣だし、あなた達に危害を加えることはないって教えてあげて」


 ジェイドは了解したように鳴くと、フロライトの所に歩いて行った。こっちはジェイドに任せるのがいいだろう。


「時間はありますし、あの仔とも仲良くできるよう努力しますよ。では私は、山の様子を見させていただきます」

「ああ。っと、待った。カントに案内してもらったほうがいい。野山はカントが管理してるから、エオスが過ごせそうな洞窟についても知ってるだろう」

「なるほど、わかりました」


 エオスは人化魔法を解くと、カントを背に乗せて山へ向かって飛んで行った。ルナもカントに抱えられてた気がするが、いいのか?


「ルナもエオスも私の召喚獣だし、仲良くなってくれるに越したことはないでしょ」


 ごもっとも。ジェイドとフロライトは……ああ、いたいた。フロライトはまだ引きずってるな。


「フロライト、無理はしなくていいけど、エオスもここに住むことになるし、マナの召喚獣だからそんなに怖がらないで」


 プリムもフロライトの頭を撫でながら慰めているが、こっちは時間かかりそうだな。


「それじゃあ俺達は、部屋の片付けをしてますね」

「ああ。何かあったらシリィかレラに頼めばいいから」

「わかりました」


 次にラウスとレベッカが、館の二階に与えられた部屋の片付けに向かった。

 館は三階建てで、三階は丸ごと俺達の部屋、というかレイドルームになっていて、屋上に露天風呂がある。

 一階には玄関や食堂、風呂、客間が10室ほどあり、二階はほとんど客間となっている。ラウスとレベッカには、そのうちの二部屋を使ってもらっているが、何年かして結婚したら、離れでも建てようと思っている。


「それじゃ私達も行きましょう」

「そうね。ノンノ、悪いけどジェイドとフロライトをお願いね」

「わかりました、お任せくださいです」


 ジェイドとフロライトをノンノに任せて、俺達は館の三階にある部屋に向かうことにした。

エオスがあっさりとマナの召喚獣になりました。アテナの世話3割、自分の興味、趣味が7割ですが、そんな召喚獣ってあんまりいないような気がします。いませんよね?

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