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刻印術師の異世界生活  作者: 氷山 玲士
第四章:嫁の実家へ、挨拶回りの旅に出ます。バレンティア竜国編
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082・転生の儀式

 俺は今、とてもとても困惑している。完全に慣れたわけではないが、政治的な問題で嫁が増える覚悟はできつつあったが、まさか聖母竜マザー・ドラゴンの娘が来るとは思わなかった。しかも俺達の懸念も転生魔法という便利魔法で解決するんだから、作為的なものを感じずにはいられない。


「せっかくですから今日はここに泊まってくださいな。人間用の客間も用意してありますし、アテナに転生魔法を使う準備もさせなければなりませんから」


 ドラゴンが一生に一度しか使えない転生魔法だが、使うためには条件がある。間違えて使ってしまえば、その時点でドラゴンには戻れなくなるんだから、安全装置の一種があるのは当然だろう。

 その条件だが、そこまで厳しいものではない。月夜に泉に入り、転生陣を展開させるだけだ。ヘリオスオーブの月は常に満月だから、曇ってたりしない限り、その条件は満たせることになる。

 つまり夜しか転生魔法を使うことはできないわけだが、その場合は一緒に行く、つまり結婚する相手も同席することになっているから、必然的に宿泊することになってしまう。だからクリスタル・パレスには、人間用の客室が用意されているんだとか。アテナの妹であるイーリスも、竜王陛下の都合がつき次第転生魔法を使うことになってるそうだ。


「わかりました。ではすいませんが、ご厄介になります」

「ヘルメスが腕を振るって料理を作っていますから、楽しみにしててくださいね」


 ヘルメスっていうと、確かトパーズドラゴンか。

 なんでも料理が趣味だそうで、クリスタル・パレスに調理台を用意して、本格的な料理を作ることが多いらしい。小説やゲームとかのドラゴンって、確か普段は寝てることが多かった気がするから、その時間を趣味に使えるとなると、けっこう上達も早そうだ。ドラゴンってけっこう暇を持て余してる感じだよな。


「ヘルメスの料理って、久しぶりね。何を作ってるのかしら?」

「ヘルメスってたまに食材を狩りにいろんな国に行ってるから、想像できないよね」


 エオスの趣味が買い物でヘルメスの趣味が料理ってことは、アレスとトリトンも何かしらの趣味がありそうだな。食材からこだわるとか、どこの一流料理人だよ。


「お父さんから聞きましたけど、ヘルメスが王城の料理長に弟子入りしたって本当なんですか?」

「本当です。今から100年ほど前ですが、20年ほど修行していました。ドラゴンは趣味に対して、一切妥協はしませんから」


 少しぐらい妥協しろよ。王城で20年修行って、人間でもなかなかできないぞ。ちなみにメニューは?


「さあ?実際にできてくるまで、私にも教えてくれないんですよ」


 むう、飯の時間までお預けか。


「ならそれまで、アテナさんの身の回りの物を運ぶ準備をしましょう」

「それがいいですね」

「そうね。ガイア様、よろしいですか?」

「もちろんです。よろしくお願いしますね」

「はい。行こう、アテナ」

「うん!」


 女性陣はアテナの私物整理か。確かに必要だな。アテナはまだ町に行ったことがないって話だからそんなに量はないだろうけど、ドラゴンの趣味は侮れないから何とも言えない。エオスが買ってきてる可能性はあるからな。


「私もお手伝いしてもいいですか?」

「もちろんよ、いらっしゃい」


 レベッカもか。さすがに俺やラウスは手伝いにくいし、かといって飯まではまだ時間があるから、手持無沙汰になってしまったな。


「俺達はクリスタル湖にでも行ってみるか」

「ですね。本当なら狩りでもしたいところですけど、ここには魔物はいないようですし」

「ああ。まあ滅多に来れる場所でもないから、大人しく観光でもさせてもらうか」


 それぐらいしかすることないからな。ウィルネス山はドラゴンの聖域だから、普通の魔物は怖がって近づかないし、ウィルム湖やクリスタル湖にもいないが、普通の魚は生息しているそうだから、釣りでもするか。


「ガイア様、クリスタル湖で釣りをするのは構いませんか?」

「構いませんよ。もしかしたらトリトンがいるかもしれませんけど」


 トリトンっていうと、あのサファイアドラゴンか。こっちは釣りが趣味なのかよ。確かに奥が深いとかって言われてるが、こいつもすげえ凝ってるんだろうな。なるべく遭遇しないように気を付けよう。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 女性陣がアテナの荷物をまとめ、俺とラウスがトリトンに釣りの何たるかを叩きこまれている間に夕食の準備が整った。女性陣は和気あいあいとしていたが、俺とラウスはぐったりだ。しばらく釣竿は見たくない。なにせトリトンの奴、竿を握った瞬間、人?竜?が変わったように蘊蓄を語りだしたからな。しかも自分は爆釣だからって調子に乗りやがって。思い出すだけでも腹が立つ。


「一匹も釣れなかった大和が悪いんでしょ」


 とルディアに言われた。そう、俺は一匹も釣れなかったのだ。ラウスはビッグマウスカープという魚を三匹程釣っていたが、食用には向かないので、その都度ダメ出しを食らっていた。対してトリトンの釣果は、クリスタルサーモンというとても美味な魚を十匹以上。釣り上げる度にドヤ顔しやがって、あの野郎……。

 というわけで俺とラウスは、メンタルを削られたまま夕食に逃げることしかできなかったわけだ。

 ちなみに夕食は、ライムカルーというバレンティアの伝統料理で、言ってしまえばカレーライスだ。辛さも甘口や辛口など5種類程取り揃えており、みんなにも大好評だった。


「食事も終わりましたし、これからアテナの転生の儀式を行います。大和さん、お手数ですが同席をお願いします」

「俺だけ、ですか?」


 俺は首を傾げた。確かにアテナは俺の婚約者ってことになるが、八人目になるわけだから、他のみんなだって参加する権利はあるんじゃないかと思うんだが。


「えっと、それについてなんですけど、私達は事前に説明をいただいているんです」

「そうなのよ。ドラゴンにとって転生の儀式は神聖なものとされているから、実際に見ることができるのは、結婚する相手だけなんだって」

「申し訳ないですが、そうなのです。これはお相手が王族であっても、例外ではありません。ですから彼女達には申し訳ありませんが、遠慮してもらうことになるのです」


 プリムとミーナの説明をガイア様が補足してくれた。王族でも例外じゃないんなら、これは仕方ないのか。


「わかりました。では僭越ながらアテナの儀式の立会い、俺が務めさせていただきます」

「ええ、よろしくお願いします」

「アテナ、しっかりね」

「う、うん……」


 アテナは緊張してるのか、さっきまでの元気の良さがなりを潜めている。若干顔が赤い気がするが、さっき激辛カルー食ってたから、そのせいだろうな。

 というわけで俺とアテナは、ガイア様に先導される形でクリスタル・パレスにある転生の泉へ向かうことになった。


 ―アテナ視点―


 ついに、ついに来ちゃった。ここが転生の泉。ボク達ドラゴンが、転生魔法を使うためだけに、クリスタル・パレスに作られた泉。大昔はクリスタル湖でやってたってママが言ってたけど、色々と問題があるからクリスタル・パレスの一部を改造して、儀式をやりやすくしたって教えてくれた。だから四方はパレス内と同じで、ママの魔力で青く輝いている。


「ここが転生の泉か。クリスタル・パレスの中だけあって、綺麗なとこだな」


 呑気なこと言ってるこの人族の男がボクの夫になる人間で、リディアやルディアだけじゃなく、アミスターやバリエンテのお姫様とも婚約してる生粋の女たらし。だけど二人は当然、プリムもマナもユーリもミーナもフラムも、みんなぞっこんなんだ。

ボクは大和のことは、ママやエオス達から聞いたぐらいしか知らない。でもとんでもない魔力を持ってるし、すごく強いってことはわかる。しかもまだ完全に目覚めてない気がする。もしそれが目覚めたら、ママだって勝てなくなるかもしれない。それぐらい大和はすごいよ。

だけど会ったばかりだし、人間の男のことはよくわからないから、大和がみんながいうようないい男かどうか、ボクには判断ができない。だから大和と結婚することにも、少しだけ躊躇いがある。

でも転生の儀式をすればリディアやルディアと一緒にいられるようにもなるし、会ったばかりだけどみんなと一緒にいると楽しいから、それもいいと思う。


「大和、ボク人化魔法を解くから、少し離れてくれる?」

「ああ、了解だ」


 ―大和視点―


 アテナが人化魔法を解き、クリスタルドラゴンの姿に戻ると、ゆっくりと泉に入っていった。俺は立会いではあるが、ぶっちゃけてしまえばやることはない。儀式が終わった後のドラゴンは魔力を消耗しているし、人化魔法を使った時とは違う感覚になるそうだから、手伝えるとしたらそれからだ。俺である必要はないんだが、これが儀式に必要なことだって言われたら、見たことない俺としては、そうですか、としか言えない。


「大和、今から始めるよ」

「わかった」


 そんなことを考えてると、アテナが声をかけてきた。アテナとしても緊張してるようだが、完全にではないとはいえ、ドラゴンの体を捨てて人間になるわけだから、それは当然だろう。

 そのアテナは、月の光を浴びながら、ゆっくりと翼を広げ、魔力を解放し、七芒星の魔法陣を描いた。火、土、風、水、光、闇、そして無の七つの属性をイメージしたもので、刻印術と同じ属性構成の魔法陣は、俺もそれなりに見慣れている。その魔法陣が月の光によって輝きを増し、アテナに降り注ぐと、クリスタルドラゴンの体がゆっくりと小さくなり、人の形へと集束されていった。


「アテナ!」

「だ、大丈夫……とりあえずはだけど」


 儀式にはドラゴン自身の魔力をほとんど使うことになるし、体のバランスとかも変わってしまうから、アテナは人間になると同時に、泉に倒れこんでしまった。俺は急いで泉に入ってアテナを抱き起したんだが、そこで思わず手を放しそうになってしまった。


「あ、アテナ、お前……服は?」

「あるわけないじゃない。人化魔法じゃないんだから……」


 そう、アテナは全裸だった。しかもマナに近い大きさの双房に水が滴り、とてつもない色気を放っている。これはかなりマズい。


「と、とりあえず、これでも巻いててくれ」


 俺は慌てて視線を逸らし、ボックスから布切れを取り出すと、アテナに手渡した。


「あ、ありがと……。あ、あれ?上手く巻けない……」


 手で胸を隠しながら俺から布切れを受け取ったアテナだが、片手ということもあってか、けっこう苦戦している。ウィルネス山は暖かいから冬が近いこの時期でも水浴びぐらいは問題ないが、いつまでも浸かってるわけにはいかない。


「悪い、アテナ。少し我慢してくれよ」

「え?ええっ!?」


 俺は右手でアテナの肩を抱き、左手を膝下に伸ばし、そのまま抱き上げた。体は布切れで隠れてると思うが、それでも目を開けるわけにはいかないから、事前にしっかりと岸を確認してある。あとはアテナにナビしてもらえば大丈夫だろう。


「アテナ、悪いが陸まで誘導して……く、れ……!?」


 だが俺の体は、そこから動くことはなかった。


 ―アテナ視点―


 な、何これ!?すっごく恥ずかしいんだけど!

 正直ボクは、なんで人間が服なんて着てるのか、さっぱり理解できなかった。人化魔法を使うと魔力で作った服を着ることになるけど、これはそういうものだと思ってた。だってドラゴンって、元々裸なんだもん。だから転生の儀式を行えば大和に裸を見られることになるのはわかってたんだけど、そんなに大したことじゃないって思ってた。

 だけどそんな大したことだったよ!なんで人間が服を着てるのかも、すっごく理解できた!確かに服を着ないと、いつもこんな恥ずかしい思いをすることになるよ!

 大和はボクが裸だったことに驚いてたけど、すぐに目を逸らすとボックスから大きめの布切れを出して、ボクに渡してくれた。これで体を隠せってことはすぐにわかったけど、なんか人化魔法を使った時とは感覚が違うし、片手は胸を隠してるから、上手く体に巻けないよ!確か人間の体って、あんまり長い時間、水の中にいられないんじゃなかったっけ?


「悪い、アテナ。少し我慢してくれよ」

「え?ええっ!?」


 ボクはすごく慌ててたんだけど、それは大和も同じだったみたいで、ボクの足の下に腕を入れて抱き上げてくれた。なんだろう、すっごく恥ずかしいんだけど、すっごく嬉しい。大和の顔を見ると、キツく目を瞑って、ボクの体を見ないようにしてるのがわかる。

 そこでボクの胸が、ドクンと跳ねた。あれ?さっきまで何ともなかったのに、なんでこんなにドキドキしてるの?ボク、どうしちゃったの?


「アテナ、悪いが陸まで誘導して……く、れ……!?」


 ボクは自分でも気付かないうちに、大和の首に自分の腕を回していた。なんで!?こんなこと、するつもりじゃなかったのに!でもさっきよりドキドキが強くなってきたし、全然止まらないよ!


「ア、アテナ?」


 ここで大和が、困惑した顔をしながら目を開けてボクの顔を見てきた。ああ、そっか。転生の儀式って、相手がいないとできないんだったっけ。自分の荷物をまとめている時に、みんなから大和がどんな人間なのか教えてもらったし、どれだけ優しく、激しく抱いてもらったのかも聞かせてもらった。みんな楽しそうだったし、嬉しそうだったなぁ。

 つまりボクは、大和に少なからず興味があったんだ。あの時はまだドラゴンだったけど、今は人間になってるし、感覚や感性も人間のそれになってるから、大和がどんな人なのか、やっと理解することができたんだ。だからボクは、自然に大和に抱き着いているんだ。


「大和って、優しいんだね。そ、それじゃ、儀式の続きをしよっか」

「つ、続き?」

「うん」


 ボクは布切れを手放し、大和の唇に自分の唇を押し当てた。勢い余って歯がぶつかっちゃったけど、これが人間のキスってやつなんだ。そのボクのファーストキスを捧げたのに、なんでそんなに驚いてるのかな?

 ああ、そっか。大和には説明してなかったんだっけ。


「えっとね、転生の儀式は人間になったドラゴンの体を、相手に受け止めてもらう必要があるんだ。男と女じゃ少し違うみたいだけど、ボクの場合だと大和の命の元を体の中に入れてもらうことが必要で、それをしてもらわないと、すっごく不安定な体になっちゃうんだ」

「相手の体を受け止めて、命の元を体の中に入れるって……それってつまり、俺にお前を抱けってことか!?」


 人間の表現だと、そうなるのかな。ストレートに言えば子作りだけど、それが済むまでは完全に人間になったわけじゃないから、子供はできないらしいけどね。


「いや、しかし……いいのか、こんな所で?」

「むしろ、なんで躊躇うのかがわからないよ。だけどお願い、大和。このまま中途半端に儀式を終えちゃったら、ボクは子供が作れなくなるし、いつ突然、ドラゴンの姿に戻るかわからないんだ。そんなの、ボクはイヤだよ。みんなが言ってたこと、やっとわかるようになったんだから!」

「まあ結婚するってのはそういうことだが……ええい、わかった!なるべく優しくするが、痛かったらちゃんと言えよ?」

「う、うん……」

もっともらしい理由付けですが、ヤることに違いはありません。

そして実はさりげなく初の一対一なのです。どーでもいーですが(笑)

転生前後でアテナの気持ちに変化がありますが、転生魔法で人間になった影響です。次回で簡単に説明予定となっています。

アテナのライブラリーも次回公開予定です。

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