081・人間とドラゴンの違いは解決できます
―マナ視点―
「ま、待ってください、ガイア様!その言い方だと、アテナが大和に嫁ぐことになりませんか?」
「え?違うんですか?ドラゴンの間では、共に行くということは結婚を意味するんですけど?」
大和がすごい勢いで椅子から転がり落ちた。気持ちはわかるわ。なにせ最初に了承の返事をしたのは、当の大和なんだから。
それにしても、一緒に行くってことがドラゴンの結婚を意味してたなんて、さすがに知らなかったわ。人間とドラゴンじゃ生態も寿命も違うけど、まさかプロポーズまで違うなんて思いもしなかったわね。
「アテナ、いいの?」
「え?何が?」
リディアも意外だったみたいで、困ったような顔でアテナに尋ねてるけど、アテナはアテナでわかってない顔してるわね。
「大和と結婚するってことよ。会ったこともないどころか、どんな奴かも知らないでしょ?」
私やフラムも似たようなものだったけど、私はマリサに調べてもらって、フラムは噂で聞いていたから、初めて会った時も初めてって感じはしなかった。だけどアテナはどう考えても初対面だし、そもそもガイア様達に大和のことを聞いてた気配もない。つまり本当に、出会ってすぐに結婚ってことになってしまう。貴族とかの政略結婚でも、相手のことを調べるのは当然だから、これは本当に人間とドラゴンの違いって考えるしかない気がするわ。
「そうだけど、リディアとルディアの旦那さんになる人なんだから、いい人に間違いないでしょ?それぐらいはボクにだってわかるよ」
それについては全面的に同意ね。大和は私達を大事に想ってくれているし、夜はその……激しいけど、ちゃんと気遣ってくれてるのはよくわかる。
「予想外の展開になってきたけど、みんなはどう思う?」
だからってさすがにこの展開は私達も想定外。だからもう一度、みんなの意見を聞いてみないといけないわ。まあリディアとルディアの友達だし、ガイア様のご息女でもあるんだから、聞くまでもない気がするけど。
「私は賛成かな。思ってもみなかったけど、アテナのことは親友だと思ってるから、アテナがいいなら私は反対しないよ」
「私もルディアと同意見です」
「私も認めていただいた身ですから、特に意見はありません」
リディアとルディアは想定通り、フラムは最近婚約したから辞退みたいだけど、特に反対っていう雰囲気じゃないわね。
「私も賛成します。ちょっと申し訳ないですが、アミスターの状況が状況ですから」
「リディアさんとルディアさんのお友達なら、問題はないと思います」
ミーナとユーリも賛成っと。あとはプリムだけね。
「プリムは?」
「私?賛成よ。ガイア様との縁ってわけじゃないけど、ドラゴン達も迂闊な真似はしてこなくなるでしょうからね」
そうなのよね。ミーナも言ったけど、アミスターもリベルターのように、いつ両隣の国から戦争を仕掛けられるかわかったもんじゃない。大和は私達と婚約したことで、アミスター、フィールを拠点にすることに決まったし、必然的にプリムもそうなる。だから今のアミスターに戦争を仕掛けるということは、バウトを含むHランク三人を相手にすることになる。
その大和の婚約者にガイア様のご息女まで加わるとなれば、ドラゴンまで相手にすることになると受け取られても不思議じゃない。Hランク一人でも大変なのに、それが三人、さらにドラゴンまで加わるとなれば、普通なら戦争を仕掛けた時点で国が滅ぶと考えるでしょう。ガイア様の名前を利用する形で心苦しいけど、アミスターとしてもそれぐらい今の状勢が気になっているのよ。
「ということで私達は全員賛成なのですが、私達はアミスター北部にあるフィールという街を拠点にすることになっています。つまりリディアやルディアも、アミスター王国に籍を置くことになり、アテナも例外ではありません。同時にアミスターは、いつ隣国から宣戦布告をされるかもわかりません」
「それはフォリアス陛下からも聞いています。私の名を出すことで牽制できるというなら、それは当然のことです。名を出すことで戦を回避できるなら、それに越したことはないのですから」
ご理解いただけて、本当に助かるわ。まあそんな事情がなくても、反対はしなかったけど。
残るは大和ね。さっき椅子から転げ落ちた際、頭を打ったみたいで今も抑えてるけど、話自体はしっかりと聞いてたはずよ。
「というわけよ、大和」
「ってぇ……。え?ああ、アテナのことか。ここで断ったりなんかしたら、アテナは一緒にこれなくなるんだろう?それにアミスターの状勢は俺も気になるしな」
「思ったよりあっさりと受け入れたわね。反対すると思ってたのに」
「ここまで来ると、一人増えたぐらいじゃ大して変わらないだろ」
それはあるかもね。
「というわけでガイア様。大和も含めて、全員意見が一致しました」
ラウスとレベッカには聞いてないけど、これは私達の問題っていう事情の方が大きいし、二人からすれば旅の同行者ってことに変わりはないから、それこそ反対する理由がないのよね。
「ありがとうございます。不束な娘ですが、末永くよろしくお願いします」
「よろしくね、大和、みんな!」
これで八人目ね。コロポックルが七人だったから婚約者も七人でいいと思ってたけど、聖母竜ガイア様のご息女だし、政治的な理由でも受けた方がいい話だし、何よりリディアとルディアの友達なんだから、さすがに断り切れないわよね。
だけど問題が解決したわけじゃないわ。むしろもっとも大事な問題かもしれない。
「ところでガイア様、イーリスというドラゴンも竜王陛下に嫁ぐということですけど、やはりその場合、人間とドラゴンの寿命や加齢が問題になります。これはどうされるのですか?」
ユーリの言う通り、人間の寿命は約50年だけど、ドラゴンの寿命は約1,000年。しかもドラゴンの年齢を人間換算すると、十年で一つ年を取ることになるから、これはどう考えても大問題よ。
「そこは問題ありません。バレンティアに住む者ならば知っていることですし、リディアとルディアも同様です」
「そうなんですか?」
みんなの視線が、リディアとルディアに集まった。
「はい。人間と結婚するドラゴンがいないわけではないので、その場合はドラゴンも人間として生きていかなければなりません」
「だからドラゴンには、一度だけ使える転生魔法があるんだって」
「転生魔法?」
初めて聞く魔法ね。
「どんな魔法なの?」
「ドラゴンの体を捨て、人間になる魔法です。この魔法がなければ、人間と共に生きていくことはできませんから」
ドラゴンの体を捨てるって、随分と思い切った魔法があるのね。しかも一度だけしか使えないってことは、本当の意味で相手に寄り添って生きることになるから、残された時間を孤独に過ごすこともないかもしれない。
「寿命だけではなく、体のつくりや生態も人間になりますから、子供を作ることもできます。竜の姿にも固有魔法を使えば戻ることができますから、完全に捨てるわけではありません」
なんというか、けっこう無茶苦茶な魔法ね。確かに人間とドラゴンじゃ子供は作れないから、それは当然なんだけど、まさか固有魔法を使えばドラゴンに戻れるとは思わなかったわ。さすがに一度転生してしまえば二度と元には戻れないそうだけど、何度も転生できたりしたら、そっちの方が驚きよ。
「思ってたより大事になってるけど、アテナはそれでいいの?」
「うん。ボク、ドラゴンらしくないってよく言われてたからね」
「ドラゴンは長寿故に、あまり時間に頓着しません。そればかりか無駄にすることの方が多いでしょう。ですがアテナは、リディア、ルディア、あなた方に出会ってからではありますが、時間をとても大切にするようになりました」
「私達と出会ってから、ですか?」
「そうです。アテナは以前から人間の世界に興味を持っていましたが、あなた達と出会ってから、より強くなったのです。ですがアテナはまだ幼竜から成長したばかり。万が一があってはいけませんから、私も許可を出さなかったのです」
それは確かにそうね。ドラゴンパピーやリトルドラゴンはMランクハンターが数人いれば倒せるし、クリスタルドラゴンに成長してから50年ほどのアテナでも、Gランクハンターなら倒すことはできると思う。人化魔法を使ったドラゴンと竜族の違いはバレンティアの人なら誰でも知ってるから、もしものこともない話じゃないわ。
「それと、これは転生魔法を使った者に共通しているのですが、転生すると時間の感覚も人間のものになるようですし、体や心の成長も同様です」
それは当然かもしれないわね。ドラゴンにとっての10年が私達にとっての1年って感じられるっておっしゃったけど、それがドラゴンのままの感覚だったら、残りの一生がわずか数年ってことになってしまう。それにドラゴンの生活はのんびりしてるみたいだけど、人間は忙しなく生きているとこがあるから、けっこう大変だと思うわ。体や心の成長も、それに合わせてってことになるんでしょうね。
「なるほどね。ということは時間の感覚は、人間になっても大きく変わったりはしないってことか」
「けっこう重要な所よね。ところでガイア様、ライブラリーってどうなるんですか?」
「ライブラリー?ああ、個人識別魔法ですね。内容は少し変わりますが、ドラゴンにもそういったものはありますよ。過去にはそれを使って、ハンターになった者もいましたから」
どうやらドラゴン時の経験はそのまま移行するみたいね。レベルも人間換算になるみたいだから、そこまで強くなるわけじゃないっていうのも助かるわ。高ランクハンターは転生した元ドラゴンばかり、ってことになりかねないしね。
「ちなみにボクのライブラリー、だっけ?これだよ」
アテナ 157歳
クリスタルドラゴン 若竜
聖母竜の愛娘、客人の婚約者
意外とシンプルね。名前と年齢、それから種族だけだわ。称号もあるけど、これはガイア様と大和に関したものだけだから、実質的にはなしに近いわね。
ドラゴンのレベルは、年齢とイコールに近いとされている。それだけ聞くととんでもない話だけど、人間のレベルに換算すると、だいたい四分の一ぐらいになるんですって。つまりアテナのレベルは39、つまりPランクの手前ということになって、500年生きたドラゴンはレベル125ということになる。うん、とんでもない数字だわ。
「それはあくまでも人間側の基準ですし、転生する場合はレベルというものを犠牲にすると聞いていますから、そこまでの強さは持っていないでしょう。アテナは経験も少ないですからね」
今まで転生したドラゴンの話を纏めると、その人間換算レベルの半分が転生のために使われることになる感じね。その線で計算すると、アテナの転生後のレベルは20前後ってことになるから、フラムやラウス、レベッカと大差なくなってしまう。だけど人間の年齢で考えれば、十分に高いレベルってことになるから、バランスが悪いってわけでもないわね。
「なら、アテナの武器と防具もオーダーしなきゃだな」
当然ね。私達についてくるってことは危険もあるってことだから、自分で自分の身を守ってもらう必要がでてくる。もちろん大和がしっかり守ってくれるけど、それとこれとは別。それにアテナも女の子なんだから、しっかりと着飾ってもらいたいしね。
「え?ボクもみんなみたいな服を着れるの!?」
「もちろんです。他にもアテナさんに似合うような服も用意しなければいけませんから、しばらくは大変ですよ?」
「やったー!!」
なんていうか、すごく無邪気よね、この子。ドラゴンとは思えない程表情も表現も豊かだから、本当にドラゴンらしくない気がするわ。
「大和さん、もちろんアテナさんにも婚約の品は贈るんですよね?」
「当然だ。一緒に頼んでくるよ。そろそろ資金繰りもしとかなきゃだけどな」
ラウスとこそこそ話し合ってるけど、丸聞こえよ。あんまり買い物とかしなかった大和だけど、私達に婚約の短剣、腕輪、髪飾りを注文したせいで、自分の貯蓄分がけっこうピンチになってる感じなのよね。
私達の装備を取りに行った時に受け取ったそうだけど、エドやマリーナ、リチャード師に無理を言ってたんだろうから、多分100万エルぐらいはかかってるでしょうし、そこにアテナの分が加わるんだから、懐は火の車かもしれないわね。まあ大和なら、すぐに稼げるでしょうけど。
頑張ってね、旦那様。
一名様、ご案な~い。
八人目です。近いうちにドラグニアで装備を買って、その後フィールで注文といういつもの流れになります。
さて、そろそろ話を動かすか。




