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刻印術師の異世界生活  作者: 氷山 玲士
第四章:嫁の実家へ、挨拶回りの旅に出ます。バレンティア竜国編
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079・聖竜の親娘

「リディア!ルディア!」


 やしろに入ると小さなドラゴンが出迎えてくれた。白く輝く水晶のような鱗が綺麗だが、思ったほど大きくはない。というか、ドラゴンとしては小さい。


「久しぶり、アテナ!」

「元気だった?」

「元気だよ!最近来てくれないから、すっごく寂しかったんだからね!」


 ルディアにアテナと呼ばれた竜、おそらくはクリスタルドラゴンだろうが、すげえ喜んでるな。ドラゴンも嬉しいと尻尾を振るとは思わなかった。バタンバタンと激しく左右に振られてるから、少し地面が揺れてるし、小さいとはいっても10メートル近い大きさだから、あれに巻き込まれたらさすがに怪我じゃすまないな。


「アテナ、少し落ち着いてよ」

「喜んでくれるのは私達も嬉しいけど、せめて尻尾は止めて」

「あ、ごめんね。嬉しくてつい」


 なんか俺の中のドラゴン像が崩れていくが、多分まだ仔竜なんだろう。


「落ち着きましたか、アテナ?」

「うん。それで、あっちの人達は?あの人って、バレンティアの王様だよね?」


 何とかリディアとルディアがアテナに近寄り、優しく撫でてやると、尻尾の勢いは少し衰えた。そこで初めて、二人以外にも誰かがいることに気が付いたようだ。


「そうだよ。バレンティアの竜王陛下と私達のお父さん。それから仲間達」

「そしてこの人が、私達の婚約者よ」

「え?リディアもルディアも、結婚するの?」


 俺を見て驚いてるな。リディアは婚約者の中で一番積極的だから、今もしっかりと俺の腕を取っているが、ルディアはおずおずと俺と手を繋いでくるが、すげえ真っ赤になってる。


「そうなのよ」

「え?ええええええっ!!??」


 そしてアテナは、後ろ足で立ち上がって驚いた。器用にも前足で顔を抑えるなんて芸当までやってのけている。というかドラゴンって、こんなに表情豊かなのか?


「落ち着いてください、アテナ。ガイア様が彼らを招いたのも、リディアとルディアを祝福するためでもあるんですから」

「そ、そうなの!?」

「そうですよ、アテナ。ですから少し落ち着きなさい」


 突然声が響いてきた。やしろの奥からのようだから、多分これが聖母竜マザー・ドラゴンの声なんだろう。


「アテナ、我々は彼らの案内役だ。積もる話はガイア様との接見が終わってからできるだろうから、しばらくは我慢してくれ」

「は~い……」


 不満そうに頬を膨らませたアテナ。だから表情豊かすぎるだろ。

 だがアテナもついてくるつもり満々なので、四匹のドラゴン達は苦笑しながら先に進みだした。やがて開けた場所に出たが、そこは鍾乳洞のようになっており、いたるところに石筍や石柱が形成され、青く輝いている。人間サイズの階段や展望台みたいなものも備え付けられているが、幻想的な光景に、俺達は感動し、絶句してしまっていた。


「すごい……」

「綺麗……」

「ここがガイア様の御住いだ」

「いつ見ても、すごい光景よね」

「本当に」


 リディアとルディアをはじめとするバレンティアの人達は、何度か来たことがあるらしいが、それでも感動はあるようだ。俺も京都にある質志鍾乳洞しずししょうにゅうどうぐらいしか行ったことがないから、幻想的な光景に目を奪われてるよ。


「美しい景色は、ドラゴンでも人間でも変わりなく見えるようですからね。私も気に入っているのです」

「うおっ!」


 思わず驚いてしまった。鍾乳洞の一部が突然動いたと思ったら、実はそれが巨大なドラゴンだったんだから、驚くのも無理はないと思うが、さすがに聖母竜マザー・ドラゴン相手に失礼だったか。


「謝る必要はありません。私の道楽の一つですから。ようこそ、クリスタル・パレスへ。私の名はガイア。歓迎しますよ、若きHランクハンター、ヤマト・ミカミ、プリムローズ・ハイドランシア。そしてバレンティアの若き竜王、フォリアス・ドラグール・バレンティア」


 青く輝く洞窟のせいで体色はわからないが、おそらくは白系だろう。大きさは百メートルはあるんじゃなかろうか。それだけ大きな体でありながら、とても美しく、優しさで満ちているように感じられる。これが聖母竜マザー・ドラゴン、ガイアか。


「お久しぶりです、ガイア様」

「ええ、久しぶりです。そして婚約おめでとう、リディア、ルディア」

「ありがとうございます、ガイア様」


 アテナや四竜を見て予想してたけど、やっぱり聖母竜マザー・ドラゴンもフレンドリーだな。


「フォリアス陛下、お手数をおかけしました」

「とんでもありません。では私達は、少しクリスタル湖の周囲を見せていただいてから、竜都に戻ることにします」

「わかりました。アレス、トリトン、陛下達を丁重にお送りするのですよ?」

「かしこまりました」

「お任せください」


 そういうと竜王陛下やフレイアスさん達はガイア様に一礼し、アレスやトリトンと一緒に踵を返した。え?一緒に帰るんじゃないの?


「先日来られた際、陛下にも私の意向は伝えてあります。まだ若い、いえ、幼いですが、彼は立派な王の資質を持っていますから、私の考えも理解してくれているでしょう」


 そういやフォリアス陛下の即位には、ガイア様も関わってたんだよな。これって聞いてもいいことなんだろうか?


「恐れ入りますがガイア様、お聞きしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」


 うおう、ユーリさん、勇気ありますね!いったい何を聞くつもりなのよ?


「構いませんよ、アミスターの妹姫。聡明なあなたのことですから、おそらくはフォリアス陛下の即位について、でしょう?」

「そ、その通りです」


 自分の質問を言い当てられて、ユーリが驚いている。俺も驚いたけど、同じこと考えてたのか。


「あなたも聞いているでしょうが、私はバレンティアの王位継承問題に口を出したことは、今回が初めてです。なにせ一国の王を決める問題なのですから、私が口を出していい問題でも、出せる問題でもありません。ですが今回フォリアス陛下の即位に関しては、私達としても少なからず関わることになります。ですからあえて、口を出させてもらったのです」

「あえてって……あれ?そういえばアテナ。イーリスは?」

「イーリス?」


 また知らない名前が出てきたぞ。ドラゴンってことに間違いはないんだろうけど、いったい誰なんだ?


「イーリスならクリスタル湖だよ。フォリアスが来たから、嬉しいんだと思う」

「ああ、そういうことなのですね」


 だからどういうこと?みんな納得してるけど、僕にもわかるように説明プリーズ。


「イーリスはアテナの妹よ。アテナと違って臆病な仔だから、私達もあんまり会わなかったんだけど、フォリアス陛下とよく会ってたって話は聞いてるわ」


 そうなの?


「そうです。私達が人化魔法を使えることは聞いていると思いますが、それでもドラゴンと人では寿命も何もかもが違いすぎますし、フォリアス陛下は王なのですから、後継者問題もあります。イーリスも幼いながらもそのことを理解していましたが、それでも胸に秘めた想いはどうしようもなかった。ですから私は、一つ条件を出したのです。フォリアス様が王として即位されたなら、イーリスを妃として迎え入れることを認める、と」


 いやいや、待ってくださいな。人とドラゴンじゃ何もかもが違うって言ったばかりじゃないですか。なのになんで、そのイーリスっていうドラゴンがフォリアス陛下に嫁ぐって話になるんですか?


「方法がないわけではありません。そしてそれはアテナ、あなたにも関係のある話なのです」

「ボクにも?どういうことなの?」

「その前に、話を勧めさせていただきます。エオス」

「かしこまりました」


 なんのことかさっぱりわからないが、ガイア様とエオスは魔力を集中させ、突然光に包まれた。光が収まると、そこは白いドレスを纏った30代前半ぐらいの美女と、メイド服を着た20代前半の美女の姿があった。ちょ、何それ!?


「え?」

「人化魔法です。ドラゴンのように知能の高い魔物が使うのは、さほど珍しいことじゃありません。私も初めて見ましたけど」


 さすがにフラムは、自分も使っている魔法だからすぐに言い当てた。いや、だからって大きさまで変わってるじゃねえか!


「人化魔法はその名の通り、人間に化けるための魔法ですからね。魔力を凝縮させていますから、この体でも力は変わりません」


 つまりドラゴンの体を、無理やり人間の大きさに圧縮してるってことか。それでいて魔力量とかが変わらないなら、確かに力も変わらないだろうし、もしかしたらスピードは上がってるかもしれないな。どちらも竜族と同じ容姿だが、尻尾だけは獣族のように長いから、すぐにドラゴンだってことはわかる。翼もあるしな。っていうかガイア様、翼が二対あるな。


「もしやガイア様は、翼族なのですか?」

「少し違います。私の本来の体は、先程ご覧いただいたようにドラゴンの中でも一際大きいですから、どうしても余剰魔力が生じてしまいます。その魔力が、翼として表れているのです。これはプリムさん、あなたも同じことですよ」

「そ、そうなのですか?」

「ええ。今は見かけませんが、昔は高レベルの者が、余剰魔力を翼の形にすることで、さらなる力を引き出していました。確か翼人化よくじんか、と言ったかしら」


 余剰魔力が翼になるって、つまり体に収まりきらない程膨大な魔力を持ってるってことか。昔はそんな人もいたってことだが、それってOランククラスの人なんじゃないだろうか。


「そこまではわかりません。ですが大和さんとプリムさんなら、いずれはその域に辿り着けるかもしれませんね」


 魔力を翼に、って言っても翼状の刻印法具ってわけじゃなさそうだ。まあ刻印法具は刻印がないと生成できないし、どちらかと言えば魔導武具生成魔法の方が近いんだろうけど。

刻印法具には様々な形状があって、親戚の叔父さんと叔母さんは翼状の刻印法具の生成者だったりするから、俺としてはそれなりに見慣れている。初めてプリムと会った時、プリムが翼状の刻印法具生成者だと思ったのも、叔父さんや叔母さんのことがあったからだしな。

 それにしても翼人化か。まるでゲームとかアニメとか小説の主人公の強化変身みたいだけど、いざ自分がなれるかもしれないと思うと、軽くテンション上がってくるな。


「アテナ、あなたも変わりなさい。いつまでもその姿じゃ、皆さんに迷惑がかかるでしょう?」

「あ、はーい」


 軽い返事をすると、アテナも人化魔法の光に包まれた。アテナの人化形態は白い二対の翼と尻尾に白いワンピース、薄い桜色がかった白い綺麗な髪をツインテールでまとめた15,6歳ぐらいの美少女だった。親子だけあってガイア様の面影があるが、ユーリより幼い感じがするな。体つきは立派だが。


「アテナ、相変わらず大きいのね……」


 リディアが打ちひしがれていたが、その理由は察しがつくので、ここは触れずにいるべきだろう。


「ではこちらへどうぞ」


 エオスに案内され、俺達はその場から動くことになった。

聖母竜マザー・ドラゴンガイアと娘のアテナ登場。

イーリスも名前だけ登場ですが、当初の予定では妹竜はいなかったんです。ギリシャ神話の女神様の名前を拝借しているだけなので、けっして星座の聖衣を纏うアニメに影響されたわけじゃないですよ?

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