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刻印術師の異世界生活  作者: 氷山 玲士
第四章:嫁の実家へ、挨拶回りの旅に出ます。バレンティア竜国編
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075・ハンターズギルドでの出会い

 とりあえずではあるが、無事に狩りを終えて、俺達はハンターズギルド、バレンティア本部に戻ってきた。

 ジャイアント・バッファローやロングノーズ・ボアもそれなりに狩ったし、フラムも依頼を無事にこなせたし、ラウスとレベッカのレベルも上がったし、なかなか充実した時間だったな。


「さすがはHランクハンターですねぇ……」


 呆れているのはギルドの受付で、リディアとルディアの友人だという竜族の少女だ。名前はレミー。

 現在俺達はギルドの鑑定室で素材を鑑定してもらっているのだが、俺がロングノーズ・ボアを19匹、プリムがジャイアント・バッファローを27匹狩ってきたもんだから、それだけで広い鑑定室の三分の一近くを占めてしまい、ギルド職員だけではなく、鑑定に来たハンター達まで目を丸くして驚いている。なにせ俺は、ロングノーズ・ボアの希少種ジャンボノーズ・ボアも2匹ほど狩ってきてるからな。


「一度にこれだけの数のロングノーズ・ボアやジャイアント・バッファローを狩るなんて、ライバートさんでもやらないですよ。しかもジャンボノーズ・ボアまで……」

「大きな群れに遭遇しちゃったのよ。放置でもよかったのかもしれないけど、せっかくの高級食材だし、私達は滅多に狩れない魔物だから、いい機会だと思ってね」


 プリムの言う通り、俺達だってここまで乱獲するつもりがあったわけじゃない。ジャイアント・バッファローもロングノーズ・ボアも群れで生活をしているが、それでも多くて10匹ぐらいで、冬が差し迫っているこの時期は群れのリーダーであるオスと数匹のメスだけで過ごしているから、20匹近い群れと遭遇することは滅多にない。だが皆無というわけではなく、俺達が遭遇した群れがまさにそれだった。


「まあこの時期に大きな群れを作っているとなると、希少種どころか異常種が生まれる可能性がありましたから、こちらとしては助かったんですけど」


 というのが、この時期に群れが大きくなっているとされる理由だ。実際ロングノーズ・ボアは希少種がいたわけだから、その可能性は高かっただろう。フェザー・ドレイクもそうだが、異常種が生まれる前には希少種の数が増える傾向があり、ジャイアント・バッファローやロングノーズ・ボアも同様とのことだから、早ければ春の繁殖期を待たずにロングノーズ・ボアの異常種が生まれていた可能性がある。


「リディアもルディアも、とんでもない人と婚約したのね……」

「もう慣れたけどね」

「だね。レミーも仲間に入りたかったら言ってよね?」

「遠慮しておくわ」


 呆れるレミーにリディアとルディアが嫁の仲間入りを勧めるも、あっさりと断られた。フロートで会ったミーナの友人シェリーさんと同じような顔してるし、俺としてもこれ以上嫁が増えると困るぞ。


「それで、これを全部査定するんですか?」

「いや、ジャンボノーズ・ボアは持って帰るよ。あとロングノーズ・ボアやジャイアント・バッファローも、半分ぐらいは引き取ろうと思ってる」


 高級食材だし、素材としても悪くはないからな。それにアルカをベール湖に降ろした後、何人かを招いてパーティーでもしようっていう計画があるから、いろんな食材を集めておきたいところでもある。


「わかりました。ではロングノーズ・ボア10匹、ジャイアント・バッファロー12匹、グラス・ビーク8匹ですから、全部で228,400エルですね」


 あ、グラス・ビークはフラムが討伐依頼を受けてたし、マナ達が新装備の試し切りに狩っただけだから、数が少ないんだよ。グラス・ビーク3匹の討伐依頼をこなしたことでフラムもCランクになったし、ジャイアント・バッファローやロングノーズ・ボアの狩りも俺とプリムだけでやったわけじゃないから、魔法の練習もしっかりできているぞ。


「次にランクアップの手続きですね。ユーリアナ様、ラウス君、レベッカちゃんは今回の依頼と倒した魔物でMランクに、フラムさんは初依頼達成ということでCランクとなります。おめでとうございます」


 今回ランクアップしたのは四人だけだが、ユーリが上がるとは思わなかった。M-Sランクだからミスリルランクまでは上がりやすいんだが、今回受けたのはグラス・ビークの討伐依頼だけだから、それだけじゃさすがに無理だと思ってたんだけどな。まあ、上がったんだから、それでいいんだが。


「それにしても、ユーリアナ様もラウス君もレベッカちゃんも、その年齢でミスリルランクになるなんて、本当にすごいですね。リディアとルディアがGランクになってたのも驚きましたけど、こちらはさらに驚きました」


 リディアとルディアがバレンティアを出た時のレベルは23、ランクはMだったそうで、俺達と出会う直前にレベル24になったと言っていた。だが今、二人のレベルは34と跳ね上がっている。魔法が体系化されておらず、魔力を体に巡らせることが難しいこの世界では、ここまで急激にレベルが上がることはほとんどない。だからレミーも、驚いてひっくり返りそうになっていたな。

 そしてユーリは14歳、ラウスとレベッカは13歳だが、この年齢で登録するハンターはさほど多くはない上に、ほとんどがBランク、良くてもSランクになれるかどうかというレベルばかりだ。なのに三人はMランクに昇格したわけだから、十分すぎる程有望なハンターということになる。


「大和さんやプリムさんのおかげです」


 魔法を少し教えただけだけどな。だけど俺もそうだが、見た目は子供の集まりだし、美少女揃いでもあるから、手を出してくるバカがいないわけじゃない。もちろん俺やプリムのライセンスを見た瞬間に顔を青ざめさせるが、それでも俺達が受けた不快感はぬぐえないから、相応の報いは受けてもらっている。まあフィールやフロートじゃ、そんなことしてくるバカはいないんだが。


「おい、あのガキども、けっこう稼いだみたいだぜ?」

「なら、すこしカンパしてもらうとするか」

「やめとけ。あっちの人族の男と翼族の女、Hランクだぞ。命がいくつあっても足りねえよ」

「バカ言ってんじゃねえよ。あんなガキどもがHランクなわけねえだろ」

「そうそう。ライバートさんみたいに熟練のハンターでもないと、その域には辿り着けねえよ」


 聞こえてんだよ、バカどもが。これだからMランクは面倒だ。全員が全員ってわけじゃないが、一部の素行が悪いと全員が白い目で見られるのはどこの世界でも同じだな。


「だからって、新人から金を巻き上げて、女を犯してもいいわけじゃねえから?」

「あん?誰だ……ら、ライバートさん!?」

「な、なんでここに!?」

「査定に決まってるだろ。話はしっかりと聞いてたがな。こいつの言う通り、あの人族の男と翼族の女はHランクで、レベルも俺より上だ。しかもあそこにおられるのはアミスターのお姫様達だから、下手に手を出せば、お前らの首だけじゃすまねえぞ?」

「え、ええっ!?」

「ら、ライバートさんより上のレベル!?」

「それにアミスターのお姫様って、なんでそんな人が!?」

「アミスターの伝統ってやつだ。それでも手を出すなら、俺は止めねえが?」


 あの人がライバート・ウェルネスさんか。俺達以外に三人いるHランクの一人でバレンティアに所属している雷竜サンダードラゴンの竜族。年齢は43歳だそうだが、見た目は20代だな。このタイミングで会えるとは思わなかったが、おかげで余計な騒動に巻き込まれなくてすむな。


「へっ、何がHランクだよ。あんなガキどもよりレベルが下ってこたぁ、このおっさんも大したことねえってことじゃねえか。Hランクが聞いて呆れるな」

「だね。どうやらHランクってのは、噂程のもんじゃなさそうだよ」


 と思っていたが、男女の二人組がライバートさんを煽ってやがる。周りのハンターは真っ青になってるが、普通はそうなる。つか何者だ、あの二人組は。人族と、青みがかった肌の色をしてるってことはサキュバスか?俺達のことはともかく、ライバートさんがレベル61以上のHランクハンターだってことは何年も前から周知の事実になってるんだから、知らないハンターはいないはずだぞ?


「別にどう思ってようが構わんが、相手の実力を見抜けないようじゃ、三流以下だぞ?」

「俺達が三流なら、あんたは五流以下だな。そこそこ有名らしいが、その程度で粋がってるようじゃ実力の方もたかが知れてるだろ」


 なんかおかしなことになってるな。


「大和さん、あの二人、ソレムネ帝国の軍人です。ですけど、レベルはどちらも40と少しなんです……」

「レベル40?」

「は、はい」


 おいおい、レベル40でレベル62のライバートさんにケンカ売ってるのかよ。いくらなんでも相手にならないぞ。

だけどそれ以上に気になるのは、ソレムネ帝国の軍人ってことだな。ソレムネ帝国はアバリシアに対抗するために、フィリアス大陸を統一したがってるって話だから、隣国のリベルター共和国とはしょっちゅう小競り合いをしているし、海を挟んだトラレンシア魔王国にも兵を送ってると聞いている。ハンターズギルド総本部があるアレグリア公国には手を出していないが、ソレムネ軍が見下すように圧力をかけてくるため、ハンターも数を減らしており、いくつかの町からは既にギルドが撤退している。ソレムネ帝国にもP-Hランクのハンターが一人いて、ソレムネに対して憤りを見せているそうだが、妻の一人が帝国貴族らしく、いまだ国外に出ることはできていないらしい。

 だがP-Hランクということもあって、その人のレベルは45。Aランクのハンターもいないそうだから、その人の実力を基準にしてるんじゃないだろうか。

 ちなみになんでフラムが見抜けたかだが、魔眼の一つにグレーディング・アイというものがあり、ライブラリーを鑑定することができる。名前、レベル、年齢はほぼ確実に見抜け、所属しているレイドや騎士団、軍なんかも多少はわかるが、レベル差がありすぎると途端に不正確になるらしい。だから自信なさげなんだが、レベルと所属がわかっただけでも大きいな。

 魔眼発動中は目の色が変わるから、使ってるってことは周囲にもわかってしまう。色は人によって異なり、フラムは青、レベッカは赤くなるが、どの魔眼でも同じ色になるから、何の魔眼を使ってるかは本人しかわからないんだけどな。

 っと、今はそんな分析してる場合じゃないな。


「プリム」

「わかってるわよ」


 さすがはプリム。俺の考えを理解してくれるとは、伊達に相棒やってないな。


「あんまり無茶しないでよ?」

「出方次第だな」


 そもそもフラムがグレーディング・アイを使えることを、相手は知らないからな。まあソレムネの軍人だろうと何だろうと、知ったことじゃないが。


「そこまで言うなら、あんた達の実力でも見せてもらおうじゃない」

「Hランクハンターにそこまでの大口を叩くんだから、お前等もそれに近い実力を持ってるんだろ?」

「お前ら……」


 一瞬顔色を変えたソレムネ軍人だが、あれだけ大口を叩いたんだから、簡単には引けないだろ。念のために、もうひと押ししておくか。


「まあ別に断ってもいいが、逃げるなら前言は撤回しとけよ」

「そうね。口だけなら何とでも言えるし、どんな理由をつけたところで、あんた達が口だけの臆病者だってことはすぐに広まるから、どこのギルドでも依頼なんて受けさせてくれなくなるでしょうね」

「まあ撤回しても、お前らがバカだって噂はバレンティアどころかヘリオスオーブ中に広まるだろうけどな」


 俺もプリムも、見た目は普通の少年少女なわけだから、経験を積んだ一流ハンターみたいな風貌してる軍人からすれば、かなりの屈辱だろう。実際今は、真っ赤になってプルプル震えてる。特に女の方が。


「なんだ、あそこまで言っときながら、結局手どころか口も出さないのか」

「そんなんで、よく今まで生きてこれたわね。ああ、そっか。Hランクは心が広いから、大抵のことは許してくれる。だから本人を前にしても、そんなバカみたいなことを言ったりできるわけね」


 周囲のハンター達も納得している。トラレンシアのHランクはわからないが、グランドマスターもライバートさんも、余程のことがなければ、自分の実力を貶されたり疑われたりするぐらいじゃ怒ったりはしないし、そんなことはハンターの間じゃ珍しい話でもない。レベルという概念があっても、レベル30がレベル50を倒すことも不可能というわけじゃないから尚更だ。まあ戦闘では絶対に不可能だし、寝込みを襲うぐらいしかありえないんだが。


「行きましょ、大和。ここまで言っても何も言い返してこないんじゃ、ほっといてもそのうち野たれ死ぬだろうし」

「だな。じゃあな、腰抜けさん達」


 最後まで挑発することも忘れない。というか、手を出してもらわないと困るんですけど。気絶させればライブラリーを全部見れるから、こいつらの所属も大っぴらにできるし、目的も聞き出しやすくなるだろうからな。

 だけど結局、軍人さん達は何も言い返さず、ただ怒りに震えてるだけだった。だから俺とプリムは、あっさりと背中を見せてその場を去ろうとした。


「あ、あぶねえっ!」


 ハンターの一人が叫んでくれた。気遣いありがとう。だけどそうくるだろうことも予想してたから、しっかりとドルフィン・アイで見てたんですよ。もちろんミラー・リングも生成済みだ。


「なっ!?」


 俺は発動させていた水性B級広域対象系術式コールド・プリズンでシールドを作り、女の投げたナイフを氷り付かせた。


「予想通りの反応、ありがとさん。不意打ちでナイフなんて投げたんだから、それなりの覚悟はできてるんだよな?」


 俺は連中を見もせずに、ソレムネ軍人の二人をコールド・プリズンで拘束した。


「う、動けない……!いつの間にこんな氷魔法を!?」

「答える義理なんてあるわけないだろ。それじゃおやすみ」


 ライトニング・バンドを少し強めに当てて、二人の意識を奪い去ると、すかさずプリムがマインド・ライブラリーを二人にかけた。


「やっぱりね。ほら」

「だと思ったよ。ライバートさんもどうぞ」

「まったく、若いのによくそこまで頭が回るな。どれ……そういうことか」


 二人のライブラリーを見ると、レベルは43とけっこう高いことがわかった。同時にソレムネ帝国陸軍の軍人だということもわかった。だが称号に「アバリシア陸軍の諜報員」とか「レティセンシアの工作員」とかあるから大問題だ。前者は予想してたけど、後者は予想外だったな。


「こいつらは城に突き出すことになるが、よくこいつらがスパイだってわかったな?」

「仲間のおかげですよ」

「なるほど、魔眼か。お前の魔法もすごいもんだったし、実力の方も噂通りってことか」

「それはお互い様でしょう。私達だったら、もっと早い段階で手を出してましたし」

「そっちも噂通りってことか」


 豪快に笑うライバートさんだが、どうやらフィールでのことも知ってるようだ。まあ隠してるわけじゃないし、いや、アミスターとしては隠したいんだろうけど、人の口に戸は立てられぬって言うからな。

バレンティアのHランクハンター登場です。大和達と違って大人ですから、無暗に力を振るったりはしません。理由があればしますけどね。

久しぶりにアバリシア、レティセンシアのスパイの方も登場です。この二国は、私の偏見ですがお隣の大きい国と半島の南の国を意識していますから、今後も目障りレベルで登場します。

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