071・五種族コンプリート
「それでフラムのことだけど、隷属魔法はしっかりと解かれてるのよね?」
「はっ、問題はありません」
「あ、あの……申し訳ありません、マナリース様!私などが口を挟んでしまって!」
フラムさんが恐縮して、というか怯えてるな。まあ当たり前のことだが。
「気にしないで。あんな状況で口を挟むのって、けっこう大変だったでしょ」
「は、はいっ!あ、いえっ!そんなことは!」
「正直でいいわね。あなたのミスってことだけど、実際に被害にあったのはあなたなんだし、管理に問題があったのも事実だから、あなたに罪を問うことはないわよ。それよりもプリム、みんな」
マナは本当に気にしてないみたいだな。ハンターやってればそんなことはしょっちゅうだから、気にするほどのことでもないってことなんだろうし、マナの性格的にも多少のことは笑って過ごしそうだよな。
「言いたいことはわかってるわよ。私は賛成」
「私もいいと思います」
「私は話を聞いてからですね。最終的には、マナ様に賛成ってことになると思いますけど」
「私は姉さんに賛成かな」
「私もリディアさんやルディアさんと同意見です」
「それじゃフラム、ちょっとこっち来てくれる?」
というか、プリム達に意見を求めたが、いったい何の話だ?フラムさんに用があるみたいだけど、面識があるのってプリムとミーナだけのはずだぞ。
「ま、マナ様?いったい何を?」
「レベッカも来てくれる?妹さんも聞く権利があると思うし、知っておくべきだと思うわよ」
「……何となく想像つきました」
どこか呆れたように俺を見たレベッカだが、マナに呼ばれてついて行ってしまった。だから何のことなんだよ?
「大和さん、本当にわからないんですか?」
「何がだ?」
ラウスにも呆れられたが、マジでわかりませんよ。
「鈍いにも程があるって話だろうな。それよりありがとう、大和殿。おかげで村人にも犠牲を出さずに済んだ」
隊長さん、名前はリゲル・ブラウンフォードといって地竜の竜族なんだが、けっこう感謝された。あんな失態を犯してまんまと奴隷を逃がしたとなれば、死罪は免れないだろうし、騎士としても容認できるもんじゃないからな。
「いえ、被害らしい被害がなくて良かったですよ」
「俺達が来たのって、偶然ですしね」
確かにそうだ。逆に今日プラダ村に来なければ、最悪の事態になっていただろう。それを防げただけでも、プラダ村に来てよかったと思う。
「おかげで助かったが、何故マナリース様やユーリアナ様までお連れしたんだ?君が姫様方と婚約されたことは知っているが、確かバレンティアに向かったはずでは?」
リゲルさんの疑問も当然だ。リゲルさん達は氾濫が終わってから派遣されたそうだから、俺達が婚約したことをフロートで直接聞いたそうだ。バレンティアに向かうことも隠してたわけじゃないから、知っていても不思議じゃない。
「ええ、この後向かいます。プラダ村に来たのは、マナやユーリの希望ですね。以前の件で、プラダ村に来ることを約束してましたから」
「そうだったのか。私達と同じタイミングで到着したのは驚いたが、ヒポグリフを使ったのなら当然の話か」
リゲルさん達は商人や職人、犯罪者奴隷を伴って来たから十日程かかってしまったが、俺達はジェイドとフロライトに乗れば一日で着けるし、今回はアルカを経由したからさらに早い。まあアルカのことは話してないんだが。
「ところで自殺を図ったっていう見習い騎士って、今どうしてるんですか?」
とりあえず解決したわけだが、後はフラムさんと見習い騎士がどうなるかだ。フラムさんのことはアフターケアみたいなもんだから、プリム達に任せておけばいいだろうが、見張りをしてた見習いはそういうわけにはいかない。
「今はテントで眠っている。マナリース様の温情をいただいたのだから、あいつも改めて気を引き締めてくれるだろう」
「その方がいいですね。死んだところで責任がとれるわけじゃないですから」
死んで責任を取ることもあるが、俺から言わせれば逃げてるだけにしか聞こえない。自分から死を選ぶってことは、結果や後始末からも逃げるってことになるし、死者に何を言ってもどうすることもできない。なにせ二度と動くことはないし、話を聞くこともできないんだから、残された者達は推測するしか方法がなく、それすらも正しいのかわからない。ある意味じゃ究極の現実逃避だと思う。さすがに死罪ってなると別だが。
「その通りだな。では私は作業があるので、これで失礼するよ」
「はい。頑張ってください」
「プラダ村をよろしくお願いします」
「ああ!」
新たに気合を入れなおしたのか、リゲルさんはやる気に満ちた顔で作業に戻っていった。これなら任せても大丈夫だな。
「あれ?リゲルは?」
少ししてからマナ達が戻ってきた。なんかすっごくいい笑顔なんだが、いったい何があったんだよ?
「さっき作業に戻ったよ」
「そう、丁度よかったかもしれないわね。大和、紹介するわ。あんたの七番目の婚約者、ウンディーネの魔族のフラムよ」
「……え?」
「……はい?」
俺だけじゃなく、ラウスまで氷り付いたように固まった。今プリムはなんて言った?七番目の婚約者?フラムさんが?
「待て待て待て待て!なんでそんなことになってんだ!?」
「ラウス、あんたはわかってたんでしょ?」
「え?え、ええ。そりゃフラム姉さんが大和さんに好意を持ってたことぐらいは、見ればすぐにわかりますし」
「だからなんでだよ!?フラムさんとは一度しか会ったことないんだぞ!?」
俺がフラムさんと会ったのは、以前プラダ村に商隊の護衛で来た時だけしかない。レベッカの姉だからってことで話す機会があったわけだが、プリムやミーナ、レベッカと話してることの方が多くて、どちらかと言えば俺は避けられてた気がするぞ。
「お姉ちゃんって照れ屋で考えすぎちゃう人なんですよ。皆さんと一緒で、大和さんに一目惚れしてたのに、既にプリムさんと婚約してて、ミーナさんともって時期でしたし、何より初めて会った高ランクのハンターですから、どう接していいかわからなかったんです」
さすがレベッカは妹だけあって、姉のことをよく見てるな。というか、説明になってないぞ!
「正確には一目惚れじゃなく、気になる人だったみたいだけど、私と同じであなたの噂とかを聞いてるうちに、それが恋心になって、さっき助けてもらったことで気持ちを抑えきれなくなっちゃったってことよ」
そういうことか。この世界じゃ情報は鳥を飛ばすか陸路で直接運ぶかしかない。例外はあるそうだが、例外のことを考慮しても意味がないから、実質的に持参するしかないの一択だ。マナは侍女に調べさせていたが、フラムさんはプラダ村に入ってくる噂ぐらいしか俺達の話を聞く機会はなかっただろうから、情報としては不確定な上に偏りがあるんじゃないかとも思う。さらにそこに恋する乙女補正がかかったりすれば、もう別人の話になってるんじゃないかって気がして仕方ないんだが。いや、別に納得したわけじゃありませんよ?
「そういうわけでフラムさんも、大和さんの婚約者になっていただいたんです」
何がそういうわけなのか、俺にはさっぱりわからない。確かにフラムさんは青みがかった黒髪をショートで纏めたナイスバディの美人さんで、しかもウンディーネだが、なんで俺の婚約者になるのかその理由を説明しろ。
「私達の口から言ってもいいんですか?」
リディアが妖艶な笑みを浮かべ、フラムさんが真っ赤になってしまったが、それだけで俺も理解せざるをえなかった。すいません、ごめんなさい、勘弁してください。
「それで大和さん、うちのお姉ちゃんはダメですか?」
レベッカが心配そうな顔で訪ねてくるが、ダメかどうかと聞かれればダメなわけがない。
「ダメってことはないけど、フラムさんは本当にいいんですか?」
正直、俺としては断りたい気持ちもある。だけどフラムさんを傷つけてしまうかもしれないし、プリム達が納得、というか説得したこともあるから、無碍にするのもどうかと思う。ハーレムって女性同士の仲がいいと、男に発言権って一切ないよな。
「わ、私は、その……できれば、大和さんのお傍にいたいです……」
フラムさんとレベッカの両親は、5年前の流行病で亡くなっている。その時に村の子供も多く命を落としたため、今プラダ村にいる子供はラウス、レベッカを含めても十人程度だ。フラムさんは一番年長だったってこともあって、子供達の面倒を見ており、村のお姉さん的存在でもある。だから今まで恋には縁がなかったらしい。だから妹のレベッカとしても、この機会を逃したくはないそうだ。ユーリもそうだが、レベッカもしっかりしてるんだよな。レベッカにはラウスがいるから、さすがにそこまでは考えてないだろうが。
「わかった。だけど見ての通り、俺には婚約者が多いし、お姫様だっている。ゴタゴタに巻き込まれることだってある。そんな俺でもよければ」
「は、はい!」
プリム達が小さくガッツポーズ取ってるのが納得いかんが、フラムさん、いや、フラムも喜んでくれてるし、これでいいんだろうな。本当にいいのか?
「ということは、大和さんが私のお義兄ちゃんになるってことですよね」
だな。レベッカはフラムさんの妹なんだから、必然的に俺の義妹ってことになる。
「あー、まあ、そういうことになるわな。よろしくな、義妹、それから義弟よ」
「えっ!?」
「お、義弟って……私達は別に……」
隣でニヤニヤしてるラウスに腹が立ったので、軽くジャブで牽制してみたら、レベッカまで真っ赤になりおった。何?やっぱり君達もそういうことなの?
「隠さなくてもいいじゃない。そうでもなきゃ、いくら幼馴染でも二人だけでハンターになろうとはしないし」
「そうですね。実際フィールでも、よく二人で歩いてる姿を見かけましたし、今も二人だけで狩りをしてるんですから、誰が見てもそうです」
プリムとミーナは二人の事情を知ってるし、俺もたまに見てたから、さすがに仲がいいのは知っている。そこまでだったけどな。
「それじゃ村長にも報告して、明日フィールでフラムのハンター登録とラウス、レベッカの加入手続きをしましょうか」
「え?フラム姉さんはわかりますけど、なんで俺達も?」
「フラムの妹とその彼氏なんだから、当然じゃない」
「それにフラムさんの妹なんだから、この先よからぬことを考える人に狙われる可能性もあるしね」
ルディアとリディアの言うように、レベッカはフラムの妹だから、俺とフラムが婚約したことを知れば、大抵の奴はレベッカにも手を出そうとはしない。だが中には、俺を利用するために狙おうとする輩もいる。婚約者達はレベルが高いし、常に俺と一緒にいるからそんな隙はないが、ラウスとレベッカはそういうわけにはいかないから、隙は必ずできてしまう。もちろんフラムの妹だから、俺が手を出す理由は十分すぎる程あるんだが、それでもレイドが違うと後々面倒になりかねない。それなら元々誘ってたんだし、この機会に加入させた方が俺達としても守りやすいし、行動もしやすくなる。別行動してたとしても、レイドメンバーに手を出されれればいろんな意味で動きやすくなるからな。
「ついでにあなた達も、バレンティアに連れていくからね。Mランク目前だし、そろそろ旅に出てもいい頃よ」
ラウスとレベッカは、レベル20になっていた。近いうちにMランクになるだろうし、マナの言う通りそろそろ遠出してもいい頃合いだ。この先もまだまだハンターとして活動していくことになるんだから、チャンスがあれば経験は積極的に積んでいくべきだ。
色々あったが村長に婚約したことを伝えることにした。村長だけじゃなく、村の人達もフラムの想いには気が付いてたそうだが、Hランクハンターと村娘じゃ釣り合わないし、さすがに無理だと思ってたそうだから、腰が抜けんばかりに驚かれた。その後で村中から祝福してもらって、夜は飲めや歌えの大宴会になってしまったが、これはこれで楽しかったな。
フラムはその日のうちに出立の準備を整え、翌日フィールに戻り、フラムのハンター登録とラウスとレベッカの加入手続きをしてから三人をアルカに連れていき、俺が客人だってことも話すことにした。驚かれたのはいつものことなのでその時の様子は割愛するが、館は俺達の家兼ウイング・クレストの拠点ってことになるので、ラウスとレベッカが恐縮しまくりだったな。
二人に戦い方を教えたのはフラムということなので、村娘にしては高いレベルになっていたし、レベッカと同じ弓を使うってことだから、リチャードさんにフラムとレベッカの弓とラウスの剣も頼んで、さらに防具も追加注文してきた。納期は延ばされたがこれは仕方ないだろうな。
フラム Lv.18 18歳
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ランク:アイアン(S-I)
レイド:ウイング・クレスト
客人の婚約者
ラウス Lv.20 13歳
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ランク:シルバー(S)
レイド:ウイング・クレスト
レベッカ Lv.20 13歳
ハンターズギルド:アミスター王国 フィール
ランク:シルバー(S)
レイド:ウイング・クレスト
ラウスとレベッカには称号がないが、Sランク以下ならそういうことも珍しくはないそうだ。あとウンディーネは種族特性みたいなもんで、総じて水魔法が得意な反面、火魔法がほとんど使えない。人魚なんだからこれは当然だよな。
そういやエドやマリーナ、ライナスのおっさんに、五種族コンプリートおめでとう、と嫌味ったらしく言われたが、確かに魔族のフラムを入れれば、全種族から嫁を娶ったことになる。プリムは翼族だが、種族的には獣族になるからな。言っとくが、俺はそんなこと、一切意識したことないからな?
それはともかく、これで準備は整った。いよいよバレンティアに向かって出発だ。
フラム、ラウス、レベッカに苗字がないのは、貴族や騎士じゃないからです。
いつものごとく大和が鈍感さんですが、一流の刻印術師は色恋沙汰に鈍い、という設定がありまして、大和もこの設定を踏破してるだけなんです。
フラムさんも嫁入りしましたが、チョロインとか言わないでください。予定通りなんです。本当です。
人族がミーナ、獣族がプリム、妖族がマナとユーリ、竜族がリディアとルディア、そして魔族がフラムと、最初から五種族から嫁を取らせるつもりだったんです!
フラムも本当はフロートに行く前に嫁にするつもりだったんですが、ちょっとしたミスで順番が前後してしまったんです。本当なんです、お巡りさん!
あ、サイズはプリム(92)>マナ(90)>フラム(85)>ルディア(84)>ミーナ(83)>ユーリ(80)>リディア(79)です。




