表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
刻印術師の異世界生活  作者: 氷山 玲士
第四章:嫁の実家へ、挨拶回りの旅に出ます。バレンティア竜国編
70/99

070・騎士団の大失態

「なんでこうなるのかねぇ……」


 俺は犯罪者奴隷「だったもの」が辺りに散らばってる中で、ウンディーネの少女に抱き着かれている。

ええ、そうです。全員醜い肉塊になってて、男だか女だかも判別できないし、所々氷ってるんですよ。

 現在俺は、プラダ村に来ている。ジェイドもフロライトも問題なく四人乗せて飛べることがわかったから、予定通りフィールでユーリの杖をオーダーし、ラウスとレベッカを拉致同然で連れ去り、そのままプラダ村に来たわけなんだが、丁度プラダ村を開発するためにスミスギルドやマーチャントギルドから招聘された職人や商人を護衛してきた騎士団も到着していたんだよ。見知った顔はなかったが、フロートで会ったミーナの同期であるシェリーさんの姿もあったから、どうやら第一騎士団が派遣されたらしい。

 そこまでは良かったんだが、犯罪者奴隷の一人がたまたま近くにあった隷属魔法の魔道具を手にしてしまい、犯罪者奴隷達を解放してしまうという失態を犯してしまい、さらに問題なことに、レベッカの姉であるフラムさんを奴隷にしてしまい、人質にしてしまっていた。

 その犯罪者奴隷達は、フィールで横暴を働いていた元ハンター達で、当然だが俺やプリムのことを覚えていた。俺達が捕まえたんだから当然かもしれないが、こっちは顔を見ても思い出せなかったんだけどな。で、以前リディアを人質にしようとしたハンター崩れどもと同じように、俺達の動きを封じた上で俺達や騎士団を皆殺しにし、女達は奴隷にしようと考えやがったもんだから、あの時と同じように騎士団も動けないし、プリムも動きが制限されてしまった。

だが俺は、あの時と同様に左手にミラー・リングを生成し、風性A級広域対称形術式アルフヘイムと水性A級広域対称形術式ニブルヘイムの積層結界を展開させ、逆に連中の動きをあっさりと封じ、魔道具を回収し、奴隷となってしまったフラムさんを解放し、連中には全員氷り付いてもらい、しっかりと粉々にし、助けたフラムさんが涙ながらに礼を言いながら俺に抱き着いてきたというわけだ。


「それにしても、隷属魔法の魔道具を奪われるなんて、これは大問題よ?」

「申し訳ありません……」

「しかもプラダ村の人を、一時とはいえ奴隷にしてしまったのですから、これは管理責任を問わなければなりません。それについては、お父様に報告させていただきますよ?」

「はっ。私の職務怠慢と受け取られても仕方のない大失態。マナリース様、ユーリアナ様にも多大なご迷惑をおかけしてしまったのですから、いかような処分でもお受けします」


 マナとユーリに頭を下げているのは、第一騎士団第二分隊の隊長さんだそうだが、確かに大失態だからな。だけど疑問もある。隷属魔法の魔道具を、なんで持ってきたのかだ。一度隷属魔法がかかってしまえば、誰であろうと奴隷になるし、解放するには隷属魔法を使わなければならない。これが見受け奴隷ならわかる話だが、犯罪者奴隷が解放されることはないから、必要はないと思うんだけどな。


「それで、隷属魔法の魔道具を持ってきたのは何故?犯罪者奴隷しか連れて来ていないのなら、魔道具は必要ないはずでしょう?」


 マナも俺と同じ疑問を感じたようで、隊長さんに質問してくれている。


「おっしゃる通りです。ですがプラダ村はフィールに近く、逃亡して盗賊に身をやつしたハンターが潜伏している可能性があると聞き及んでおりますし、これから行う大規模な開発において、犯罪を犯さない者が出ないとも限りません。ですので陛下のご指示で、魔道具を持参することが決められたのです」


 ああ、そういうことか。確かにその可能性は十分にありえる。フィールにも魔道具はあるが、わざわざそのためにフィールに行くのも手間だし、効率が悪すぎる。それなら魔道具を持ってきて、すぐに犯罪者を拘束できるようにした方がいい。


「なるほど、事情はわかりました。ですが何故、犯罪者奴隷の近くに保管していたのですか?」

「いえ、保管していた場所は騎士団の獣車です。当然ではありますが、犯罪者奴隷には触れさせてもいません。ですが村に運び込む際、かけてあった布が落ちてしまい、一部が露出してしまったのです。間の悪いことにそのタイミングで奴隷同士でケンカが起き、見張りの騎士が仲裁に向かったのですが、その隙をついて奪取されてしまい、あのような事態を起こしてしまったのです」


 なんて言ったらいいのかわからんな。ようするに布が落ちてしまったことで、隷属魔法の魔道具があることを犯罪者奴隷達にも知られてしまった。犯罪者奴隷からすれば、それを使えば奴隷から解放することもできるから、何としてでも手に入れたい。物資を完全に村に運び込んでしまえばチャンスはなくなるが、物資を運び込んでいる間なら管理も甘くなりやすいので、わざとケンカ騒ぎを起こし、見張りの騎士を魔道具から引き離して、まんまと魔道具を手にし、人質としてフラムさんを奴隷にしたってことか。完全に騎士団の管理不行き届きじゃねえか。


「その時に見張りをしていた騎士は?」

「それが、その……」

「どうしたんですか?」


 なんか隊長さんの口が重いな。何となく想像はできるが。


「まだ入団したばかりの見習いなのですが、此度の不祥事に責任を感じ、先程自害しようと試みたそうです」

「えっ!?」

「試みた、ということは、まだ生きてるのね?」

「はっ。偶然通りかかった騎士が止めました」


 やっぱりか。というか、既に死んでると思ってたんだけどな。まあ責任は取る必要があるし、勝手に死なれても問題があるか。


「その騎士の責任も含めて、あなたの処遇を……」

「ま、待ってください!」


 マナを止めたのは、フラムさんだった。自分の国のお姫様が配下ではないが、騎士の処遇を決めようとした瞬間に口を挟むなんて、とんでもない勇気がいるだろ。下手したら不敬罪に問われてもおかしくないぞ。


「フラム、だったわね。あなたは一度奴隷に落とされてしまったのだから、口を出す権利があるわ」


 どうやらマナは、そんなことは気にしないようだ。俺としても一安心だよ。さすがにフラムさんを不敬罪なんかに糺せば、俺も口を出さざるをえなかったからな。


「今回のことは、私にも責任があるんです。その魔道具を獣車から駐屯地に運び込んだのは、私なんです。ですが私が足を引っかけてしまったから布が落ちてしまって、それを私を人質にした人に見られてしまって……。私はすぐに捕まって、魔道具を奪われると同時に奴隷にされてしまったんです。ですから騎士団の方に、責任はないんです」


 フラムさんの告白に、マナも驚いていた。確かに誰が運んだとかは聞いてないし、布を落としてしまった人より見張りの騎士の方が問題視されてたな。


「……本当なの?」

「それは……」

「レベッカ、どうだ?」


 言いよどむ隊長を見て、俺はそれが事実だと悟ったし、おそらくはマナもだろう。だけどこの様子じゃ、隊長が答えてくれるかは怪しい。だから俺は、レベッカに結果を聞いた。


「本当みたいです。隊長さんはお姉ちゃんをかばって、罪を被るつもりです」

「な、何故……」


 隊長の目が、驚愕に見開かれていた。レベッカの固有魔法は魔眼で、今使っているのはファゾム・アイといい、相手が嘘をついているかどうかを看破することができる。正確には見破っているわけではなく、見える色で判断しているから正確性は欠けるそうだが、それでも嘘をついていれば赤くなり、本当のことを言っていれば青くなるそうだから、レベッカには隊長さんが赤く見えていたんだろう。

 ちなみに魔眼の数は多いが、実際に使えるのは二つから三つが多いそうで、レベッカは三種の魔眼を使うことができるらしい。


「私とレベッカの固有魔法は魔眼です。ですから……」

「そうか……」


 フラムさんが答えを告げたが、同時に隊長も諦めたように力を抜いた。事情はどうあれ、虚偽報告になるわけだよな?


「なるほど。ユーリ、どう思う?」

「事情はどうあれ、フラムさんが奴隷になってしまった事実は変わりません。それに魔道具の管理は、どんな理由があっても厳重に行うべきですから、やはり管理責任は問う必要があるかと」


 ユーリが真剣な表情でマナに返すが、姉の立場を考えて自分はあまり発言しようとはしていない。こういったところが政治向きだと思えるな。実際、マナより向いてるって王城でも聞いてるし、今も結論を出したわけではなく、意見の一つとして述べただけだから、姉がどんな決定を下そうとも、それを尊重するだろう。


「そうね。ではその見習い騎士ともども処遇を言い渡します。あなたは管理不行き届きの責任を取り、俸給を三割減、そして見張りをしていた見習い騎士だけど、自らの命で責任を取ろうとした気概に免じて、こちらは俸給を二割減。同時にプラダ村の外に出ることを禁じます。期間は三ヶ月よ」

「そ、それだけでよろしいのですか?」


 俺も驚くような甘い処遇なんだから、隊長さんが驚くのも当然だ。いや、給料カットはキツいけど、普通はその程度じゃ許されない失態だから、こんな処遇はあり得ないって。


「幸いというか、村に被害はないし、フラムの証言もあるしね。それに三ヶ月もプラダ村に籠りっぱなしになるわけだから、休みの日にフィールやザックに行くこともできないわよ?」


 騎士団の勤務体制がどんなものかは知らないが、プラダ村という辺境にやってきたわけだから、おそらく休みはフィールやザックに足を伸ばせるように考慮されているんじゃないだろうか。どちらの町にも酒場はあるし、娼館だってある。休みの日ぐらい羽目を外したいこともあるだろうから、そちらにお世話になる機会だってあるだろう。実際フィールの第三騎士団だって、休みの前日に娼館に行くことがあったし、俺も誘われたことがある。その時にはプリム達と婚約してたから断ったが、もっと前に誘われてたら喜んでついていったと思う。初心で純情なマナがそんなことを考えてるとは思えないけどな。


「いえ、寛大なるご措置をいただいたのですから、その程度のことは問題にもなりません。私は隊を指揮し、プラダ村の発展に力を尽くす所存です」

「期待してるわよ?」

「はっ!マナリース様、ユーリアナ様に、力を尽くすことを誓います!」


 マナに向かって跪く隊長さん。

後でユーリが教えてくれたが、これも人心掌握の一環なんだそうだ。騎士は忠誠心が厚いが、貴族なんかの横やりにはすこぶる弱い。王都でも貴族による不正や犯罪行為を調べていても、圧力によって捜査を中止させられることもある。その中止命令を下す騎士の上層部は、そういった貴族と繋がりがあったりするので、結果的に騎士団にも不利益が及ぶというのが大きな理由のようだ。日本でも政治家の汚職を調べている警察官に圧力をかけたりなんて話はよく聞くが、どこの世界でも珍しくないってのがまた世知辛いよな。

 で、なんでそこに王家の人心掌握が関係するのかだが、そういった場合は基本的に緘口令が敷かれることになるので、王家の方々の耳にも入りにくくなる。いわゆる情報操作の一環だが、王家に知られてしまえば王命で調査ができるようになるため、貴族だけではなく騎士の上層部にも捜査の手が入ることもあるため、自分達の利権が脅かされる恐れが出てきてしまう。これは今でも問題になっているから、王家としてもできるだけ情報が欲しい。そのためには王家に忠誠を誓う騎士が多く必要になるから、こういった場合はあえて温情措置をとることで、王家への忠誠心を高め、そこから情報を入手できるようにしているんだそうだ。

 近衛騎士を動かせば一発だと思うんだが、忠誠心にはバラつきがあるし、多角的に物事を判断するには必要なことだそうだ。なるほどねぇ。

上からの圧力で捜査ができなくなるって、迷惑極まりないですよね。

さりげなくレベッカの固有魔法暴露しましたが、残り二つは秘密です。決して考えてないわけじゃないですよ?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ