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刻印術師の異世界生活  作者: 氷山 玲士
第四章:嫁の実家へ、挨拶回りの旅に出ます。バレンティア竜国編
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066・さあ注文だ

「大和、お早いお帰りだな。フロートの後はバレンティアに行くって言ってなかったか?」


 防具屋に入ると、エドとマリーナが揃って店番していた。それなりに客はいるが、二人は暇そうにしてるな。


「そのための準備だよ。お前に頼みがあってな」

「俺に?」

「その前に紹介するよ。俺の新しい婚約者で、マナだ」

「マ、マナリース様!?」

「久しぶりね、エド。元気だった?」


 ああ、会ったことはあるんだったっけか。そういやエドの父さんはスミスギルド、アミスター本部のギルドマスターだから、その関係もあるんだろうな。


「は、はい、それはもう!大和、お前確か、ユーリアナ様を迎えに行ったんだよな!?なのになんで、マナリース様が来てんだよ!?つかマナリース様もお前の婚約者って、いったいどういうことだよ!?」

「あ~、まあ色々あってな」

「その色々についての噂は聞いてるけど、それとマナリース様との婚約が結びつかないわよ?」


 マリーナも突っ込みながらも呆れているが、本当に色々としか言いようがないんだよな。そもそも俺からしても、マナまで婚約者になるとは露程も思ってなかったんだし。


「それは簡単。マナも大和に惚れてたってことよ」


 プリムの説明で、マナの顔から火が吹きそうになった。俺の背後に隠れているが、そんなことされたら認めたも同然ですよ。


「……もういい。聞いた俺が悪かった」

「本当にね。で、今日はどうしたのよ?溢れたフロート迷宮を攻略して氾濫を終わらせたって噂で聞いてるけど?」

「異常種を倒しまくったのはともかく、二人でフロートを襲った魔物を全滅させたって、いったい何やってんだよ、お前らは」


 一応情報規制はされてるから、世間一般じゃ俺とホーリー・グレイブが迷宮を攻略して氾濫が終わったってことになってるんだよ。フロートを襲った魔物達を退治したことはかなり脚色されて伝わってるようだが、噂なんてそんなもんだろう。


「私達だけで倒したわけじゃないけどね。バレンティアに行く前に、マナとユーリの防具を頼もうと思ったのよ。デザインも決まってるし、素材はボックスに入れっぱなしにしてあるからよろしくね」

「毎度毎度、よくもこんなデザインを思いつくな。ええっと、マナリース様の鎧はプリムに似た感じで、ユーリアナ様の鎧は……大和、これってローブじゃねえのか?」


 やっぱりそう見えるか。まあゲーム内での名称もローブだし、完全後衛用装備だからエドがわかるのも当然なんだが。


「俺達ってマナも含めて、全員近接前衛だろ?だけどユーリはそこまで戦闘訓練をしてたわけじゃないから、後方支援をしてもらおうと思ってるんだよ」

「それでローブか。わからんでもないが、これだけじゃ防御力に難がありそうだな。ミスリルを使うが、それはいいよな?」


 ハンターは基本的に近接前衛が多く、後方支援といえば弓使いぐらいだ。稀に遠隔攻撃用の固有魔法を使える人がいるが、魔力の関係もあってやはり近接武器も併用している。だからハンターの防具は、金属板で急所をカバーする感じの革鎧が多い。それもあってヘリオスオーブでローブを纏うのは、宗教関係者とかぐらいだろう。

それと、俺達が何の素材を用意しているかはエドも承知の上だから、それを前提に話してくれている。皮だけじゃこっちとしても心許ないからな。


「もちろんだ。こんな感じにしてくれれば、材料は任せる」

「わかった。で、ユーリアナ様は来られてないのか?ジェイドとフロライトがいるんだから、連れてくることはできただろ?」

「そうなんだけど、今回は別の人を乗せてきたから、お留守番してもらってるのよ。だけどサイズは図ってきてるから大丈夫よ」


 プリムがユーリのサイズを記してある紙を、マリーナに手渡した。本当はユーリも連れてくる予定だったんだよ。ジェイドなら三人ぐらい乗せても問題なく飛べるからな。だけどバウトさんの理由も理解できるし、大切なことだからってことで、一度フィールを訪れたことのあるユーリには遠慮してもらったというわけだ。


「オッケーよ。ではマナリース様、採寸させていただきますので、こちらまで来ていただけますか?」

「ええ、お願いするわ」


 マナはここで直接採寸する予定だったから、後はマリーナに任せよう。


「大和、私はリチャードさんのとこに行ってくるけど、あんたはどうする?」

「俺はエドと話でもしながらマナを待っとくよ。終わったらそっちに行く」

「了解よ。ああ、エド。素材はこれでよろしく」

「やっぱりウインガー・ドレイクかよ。見る度にこいつらが気の毒になってくるな。あんまり狩ってやるなよ?」


 プリムはボックスからウインガー・ドレイクを取り出し、そのまま店を出た。

ウインガー・ドレイクはフェザー・ドレイクの希少種なので、当然だがフェザー・ドレイクより価値が高い。フィールでも何年も見ていなかった魔物だが、俺達が狩りまくって持ち込んだもんだから、既にエドの中じゃ希少素材っていう認識が薄くなってきている。それどころかやけに同情的だ。


「大丈夫だ。俺達の姿を見たら逃げていくんだから、狩りようがない」

「それが異常だって言ってんだよ。で、まだ何かあるんだろ?」

「さすがエド。実はだな……」


 俺はエドに、まだ誰にも婚約の品を渡してないことを、包み隠さずに話した。ついでにライブラリーも見せて、エドにも俺が客人まれびとだってことも打ち明けといた。


「お前、まだ何も渡してなかったのかよ。呆れたバカだな」


 当然のように俺をディスるエド。うるさいよ。


「知らなかったんだから仕方ないだろ」

「まあいい。お前が客人まれびとだってことは驚いたが、今更だから納得しちまったよ。で、俺とマリーナにはブレスレットと髪飾りを、じいちゃんには短剣を作れってことだな?」

「すまんが頼む」

「それで納期も、マナリース様とユーリアナ様の防具と合わせろって言いたいんだろ?」


 できれば、だが、一緒に引き取りたい。そうでないといつ取りにこれるかわからないし、その間ずっとみんなを待たせとくのも悪いし、だからと言って適当な物を見繕うのもどうかと思う。大変だってのはわかってるんだが、可能なら頼みたい。


「キツいのは承知の上だが、何とか頼めないか?」

「マリーナにも聞いてみないと何とも言えないが、微妙なとこだな。幸い、まだ納期の話はしてないから、十日もあれば何とかなるだろう」

「それでいい。リディアとルディアの防具もそれぐらいかかったわけだから、納得してくれるだろう」

「あの時はミーナさんのもあったからな。今回はユーリアナ様の防具が少し手間がかかりそうだから、それを理由にすればいいんじゃないか?」


 リディアのミスリル・マリンドレス、ルディアのミスリル・フレイミングドレス、そしてミーナのミスリル・ドレスサーコートは、一度に頼んだこともあって、仕上がりまで十日程かかったんだよ。ミーナは王都に出張してたとはいえ、いつ帰ってくるかわからなかったから早めに用意しておきたかったし、リディアとルディアはレイドを組んだこともあったから、そっちも急いでほしかった。本来なら二週間は欲しかったそうだから一切の値引きはなかったが、それでもこっちの注文通りの物を作ってくれたんだから、俺達としても文句はなかったし、こうして今も、安心して頼めるってわけだ。


「いや、実際にそうなんだろ?」

「まあなぁ。というか、他に素材になりそうなもん持ってないのか?」


 ウインガー・ドレイク素材にミスリル、クリスタイトは確定としても、他にもいい素材があれば使いたいってことのようだ。確かにそれはわかる。


「他になぁ。こんなことならメタル・ブルードラゴンの鱗でも取っときゃよかったな」


 残念ながら、他に素材になりそうなもんはないんだよ。全くないわけじゃないが、どうしてもウインガー・ドレイクには劣ってしまう。なんで俺は、メタル・ブルードラゴンを粉々にしちまったんだろうなぁ。


「お前……そんなバカみたいな異常種、どこで倒したんだよ?」


 エドも驚くより呆れ果てている。実際上位ドラゴンの異常種なんて、ドラゴンが住むバレンティアでも数十年は出現してないし、迷宮でも滅多に見かけないそうだからな。

上位ドラゴンの素材は普通に白金貨で取引されてるのに、その異常種となれば神金貨様がお出ましになられても不思議はないし、出回ることが稀すぎる素材だから、希少価値もとんでもなく高い。実際メタル・ブルードラゴンの鱗は、水魔法をほとんどシャットアウトしてくれるし、魔力を流して氷で覆えば、オリハルコンの武器ですら防げるらしい。まんまメタル・ブルードラゴンの特性そのままだ。


「フロートだ。氾濫の時に一匹出てきたぞ」

「さよですかぃ。どうせお前のことだから、氷り付かせて粉々にでもしたんだろ?」

「よくわかったな」

「バカだろ、お前?」

「うるさいよ」


 あの時はあんまり余裕なかったんだよ。フロート中に魔物が溢れてたんだから、メタル・ブルードラゴンばかりにかかりっきりになるわけにもいかなかったし、他にも異常種がいたんだからな。あ、原型を残してた異常種の死体はギルドが買い取ってくれたから、今のフロートにはそれなりに希少素材があるっちゃあるぞ。


「まあいい。ウインガー・ドレイクでも十分な素材は取れるし、要所要所をミスリルで覆って、アクセントにクリスタイトを使えば、多分なんとかなるだろう」

「さすがエドだ。悪いが頼む」

「言っとくが、びた一文まけねえからな?」

「こっちもそのつもりだ。婚約記念に贈るんだから、まけられたりしたら逆に問題だろ」


 そもそも急いでくれと言ってるのはこっちなんだからな。むしろまけたりされたら、逆に気を遣うわ。


「わかってるじゃねえか。短剣はじいちゃん次第だが、マナリース様の鎧は7万エル、ユーリアナ様のローブは9万エル、ブレスレットと髪飾りは一つ5万エルだ」

「総額76万エルか。上等だよ」


 俺はボックスから白金貨七枚と金貨六枚を取り出し、カウンターに叩きつけた。ウイング・クレスト内での報酬の分配は、個人で使う分以外は基本的に俺のボックスに入れてある。だがいくらあるかは全員がしっかりと把握してるから、勝手に使ってしまえばボコボコにされること間違いなしだ。現在俺のボックスには800万エルちょっと入っているが、俺が使えるのはそのうちの173万エルだ。他のみんなは50万エルぐらいだが、それは服や部屋の調度品を買ったりしてるから、けっこう使ってるんだよ。

 それに依頼は護衛や危険度の高いもの以外は個人で受けるものっていうレイドルールを設けたから、俺はコツコツと依頼をこなして、その分もしっかりと貯金してあるから、他のみんなよりも蓄えが多いってわけだ。


「毎度ありっと。んじゃちょっと隣に行って、じいちゃんにも伝えてくる……わけにはいかねえな。お前が武器屋でプリムの気を引いてる間にじいちゃんに短剣の値段を聞いてやるから、その分は後でいいぞ」

「ついでに納期もな」


 ある意味俺にとっては、値段より大切なことだ。


「あいよ」

「お待たせ、大和」


 どうやらマナの採寸も終わったようだ。後はバウトさんの買い物が済めば、石碑を使ってアルカに戻るだけかな。


「ああ。それじゃエド、マリーナ。悪いがよろしくな」

「任せといて。あたしもけっこう楽しんでやってるしね。マナ様も、仕上がりを楽しみにしててください」

「ええ、そうさせてもらうわ。大和達の鎧を作ったのはあなた達って聞いてるし、父様も褒めていたから、けっこう楽しみなのよ」


 マナは俺達の防具を、たまに羨ましそうに見てたから、本当に嬉しそうだし、楽しみにしてるな。多分ユーリもそうだろう。


「そんなハードル上げないでくださいよ。まあ、こいつのよりは気合いれて作りますが」

「おい?」


 この野郎。上客に向かってなんて口の利き方だ。


「そうだろ。いつも思うんだが、お前に防具って必要あんのかよ?」

「それはあたしも思うね。異常種相手に無傷で勝てるんだから、スミスギルドの新入りが作った出来損ないの皮鎧でも十分なんじゃないかい?」

「ひどいな、お前ら!」


 なんてこと言うんだ、このフェアリーハーフどもは!しっかりした防具があるから、俺も無茶ができるんだぞ!わかってるのか、そこんとこ!?


「そういえばフロートでも、メタル・ブルードラゴンやコボルト・ウイングナイトをあっさり倒してたわよね。特にコボルト・ウイングナイトなんて一撃だったし」

「まあウイングナイトじゃなぁ」

「そうよねぇ」


 こいつら、なんでさも当然って感じで頷いてやがるんだ?フロートのハンター達なんて、あの後俺達と目を合わそうともしなかったってのに。特に何かしたわけでもないのに避けられると、けっこう傷つくんだぞ?


「あなた達、驚かないのね?」

「そりゃそうですよ。二人と知り合ってから、何度驚かされたかわかりませんから」

「マナリース様がご存知かはわかりませんが、フィールにいる間はマイライトに行く度にフェザー・ドレイクやらオーク・キングやらクイーンやらを大量に狩って帰ってきましたからね。多分フィールの人なら、その程度じゃ誰も驚かないと思いますよ?」


 それは初耳だぞ。そんなデタラメなこと……してたな。それも頻繁どころか、下手うちゃ毎日。


「ウイングナイト相手にその程度ってのも、どうかと思うけどね」


 俺も後から聞いたんだが、コボルト・ウイングナイトはゴブリン・キングと同格の亜人らしいからな。いや、格じゃゴブリン・キングの方が上なんだが、強さは空を飛べる分、コボルト・ウイングナイトの方が上だって評されてるそうだ。上からの攻撃が有利なのは、どこの世界でも変わらないってことになるんだろうけど、それ以前にゴブリンは亜人の中じゃ一番格下で、他の亜人よりワンランク下なんだよな。だからどうしたって話ではあるんだが。

久々のエドとマリーナです。マナとは面識がありますが、ユーリとはありません。いえ、こないだフィールで会ったじゃん、というツッコミは勘弁してください。王都で会ったことはないってことなんです。

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