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刻印術師の異世界生活  作者: 氷山 玲士
第三章:嫁の実家へ、挨拶回りの旅に出ます。アミスター王国編
63/99

063・記念パーティーが始まるよ

 ―ルディア視点―


「やっぱりこの格好、落ち着かないなぁ」


 私は今、フィールで買ったドレスに身を包み、王城の中を歩いている。

 迷宮氾濫から一週間が経って、迷宮が消滅して以来、迷宮から出てきたと思われる魔物達も一切見なくなったし、迷宮跡にも異常はないことが確認されたし、他の町や村にも被害はないことがわかったから、フロートの迷宮はもう完全に消えて、危険もないと判断されたから、今日は簡単なパーティーをすることになっている。私達だけじゃなく、ホーリー・グレイブやトライアル・ハーツも招いてるし、バウトさんの婚約も正式に決まったそうだから、お披露目も兼ねるって聞いてるわ。

 だけどこんなヒラヒラした格好、私の趣味じゃないし、動きにくくて仕方がないのよね。


「今日まで着る機会がなかったし、大和さんも見てみたいって言ってくれたんだから、それぐらいは我慢しないとね」


 そういう姉さんも、着慣れてない感が漂っている。一応実家じゃ何度か着る機会があったんだけど、適当な理由をつけて逃げてたから、数えるほどしか着たことないのよね。

 ちなみに私と姉さんは、けっこう趣味が似通っている。だから二人して大和に恋しちゃったわけだし、今着てるドレスも色違いというだけよ。私が薄い赤で姉さんが薄い青の、袖のないオフショルダー、膝下まで丈のあるロングドレス。私は翼があるから背中のデザインはちょっと違うけど、胸元には花をあしらったブローチをつけてるんだけど、これも同じ花をモチーフにしたものよ。


「私もあまり着たことはないですけど、これからはこういった機会も増えるでしょうから、少しは慣れておかないといけませんね」


 そう言ったのはミーナ。白を基調とした、肘まで隠れるような長い袖と膝丈のフンワリしたスカートのドレスで、肩にはショールを掛けている。ミーナって可愛いというより美人といった方がいい顔立ちをしてるから、私達より似合ってるのよね。羨ましい……。


「そうなのよね。面倒なことだけど、大和は天騎士アーク・ナイトの称号を賜ったんだし、フィールを拠点にするんだから、どこかの貴族とかが訪ねて来ることもあるでしょうし、王家は言わずもがなね」


 確かにプリムの言う通りなのよね。あ、プリムのドレスは私と同じく赤が基調なんだけど、大胆にも肩を全部露出していて、足下まで隠れるAラインのスカートで、肩はミーナみたいにショールを羽織っている。さすがにバリエンテのお姫様だけあって、着慣れてるわ。


「そうですね。それにお父様もお兄様に王位を譲られたら、フィールに定住、とまではいきませんが、何度も足を運ぶことになるでしょうし」


 真っ白な袖の少し短いワンピースドレスを着たユーリ様の言う通り、陛下はフィールに住んでいるリチャードさんの弟子だそうだから、退位されたらフィールに来ることは十分考えられる。それにしても王女様だけあって、違和感が一切ないわね。


「何年かは住み込んで、リチャードさんに師事したいって言ってたわね、そういえば。ファリスやバウトにもそう言ってるみたいだから、二人にあのサーコートを上げたのかもしれないわ」


 マナ様の言う可能性って、けっこう高そうね。それにしても同じ王女様なのに、なんでこっちは着慣れてない感がでてるのかしら?プリムのドレスとほとんど同じデザインで、肘まである袖の長い薄い緑のドレスを着てるマナ様だけど、失礼だけど違和感があるのよね。

 今日はこの後、簡単な食事会をすることになってる。招待されたのは私達だけだけど、ホーリー・グレイブやトライアル・ハーツは迷宮跡の調査に狩り出されてるから、都合がつかなかったのよね。まあ大和がマナ様とユーリ様と婚約してから、初めてゆっくりと時間が取れたわけだから、そっちの意味もあるんだけど。そのくせあいつは、いつものアーマーコートなのよ。タキシードとかでも買えばいいのに。


 ―大和視点―


 なんか今日は王城で『みなさんのおかげで迷宮氾濫を防ぐことができました、ありがとうパーティー』とやらをするんだそうだ。とりあえずこれで俺達も解放されるわけだし、明日バレンティアに向かう許可ももらったんだが、俺達が主役なんだから参加しろとのお達しが来てるんだよ。バウトさんの新しい婚約者のお披露目もするんだから、そっちがメインでいいじゃんなぁ?

 だけどみんなのドレス姿を見ることができたから、差し引きトントンってことにしておこう。なにせせっかくフィールで買ってきたってのに、一度も着なかったんだからな。俺?いつも通りアーマーコートですが、何か?


「よう、大和君」

「こんばんは、クリフさん。あれ?ファリスさんはどうしたんです?」


 ホールにはクリフさんをはじめとしたホーリー・グレイブが勢揃いしていた。あの後、グランドマスター立会いの下で新ライセンスに更新してた時にわかったんだが、クリフさんもレベル41になってて、目出度く新Pランクに昇格していたんだよ。元々Pランクだったから、昇格というか据え置きになるんだが。


「ファリスは陛下の所だ。下賜かしされたサーコートに付与された魔法が、あいつの固有魔法に良い影響を与えることがわかったから、その報告に行ってるんだよ」

「そうなんですか。それは頂戴したファリスさんにとっても、作った陛下にとってもいい話ですね」

「まあそうなんだが、どうも陛下は、それを見越して作られてた感じがしてな。おそらくだが、バウトのサーコートもそうだと思う」


 ああ、やっぱりそうなのか。まあ俺が気付くんだから、クリフさんも気づいてたんだろうけど。


「まあバウトさんも婚約が決まったんですし、名誉ランクとはいえHランクになったわけですから、お相手も喜んでるでしょう」

「まあな。っと、紹介してなかったな。俺の妻の一人でライラック、そして娘のリリーと息子のブレイズだ」


 ああ、なんかハンターらしくないと思ってけど、奥さんだったのか。まあファリスさんもそうなわけだから、ライラックさんだけを置いてくるわけにもいかないってことになるし、そうしたらまだ小さいお子さんたちはどうなるのかってことにもなるもんな。リリーちゃんは12歳でファリスさんとの娘で、ブレイズ君が9歳でライラックさんとの息子になるそうで、マナやユーリとも面識があるらしい。ちなみにライラックさんは王都の家具屋さんの娘さんだそうだ。こないだ行きましたよ、そのお店。


「ところで大和君、君の婚約者達は?」

「マナとユーリのことがあるんで、あっちについてますよ。俺もどうかって言われたんですけど、そういうのは苦手だし、この格好で参加するつもりだったから逃げてきました」

「それもどうかと思うがな。Hランクハンターなんだから、王家や貴族に招待されることは多いぞ。君もそれなりの服を用意しておいた方がいいんじゃないか?」

「やっぱり必要になりますか?」

「当然だろう。ファリスやバウトだって、貴族や商人から招待を受けていたんだから、君が招かれないわけがない」


 正直、興味がないどころか煩わしすぎる。魔物を狩ることを生業としてるのに、なんでんなもんまで用意しなきゃいかんのよ?ハンターなんだし、アーマーコートでいいじゃん。陛下にも失礼にならなかったんだしさ~。


「そう考える気持ちもわかるが、礼儀だからな。そのコートもいいが、しっかりとした礼服も用意しておくべきだぞ。知り合いとかの結婚式にも使えるんだからな」


 ああ、そういう考えもアリか。確かに知り合い、例えばエドとかの結婚式に、この格好で出る勇気は俺にはない。たとえ問題がなかったとしても、結婚式には黒のスーツに白いネクタイっていうイメージがある俺としては、一着ぐらい用意しておく必要があると思えてしまう。


「諸君、待たせてすまない。今宵は先の迷宮氾濫を防いでくれたハンターの中でも、特に目覚ましい活躍をした者達を呼び、簡素ではあるが祝いの席を設けたいと思う」


 おっと、陛下がお出ましになられてたか。隣にはロエーナ王妃とサザンカ王妃もいらっしゃるし、ラインハルト殿下にマナ、ユーリはもちろん、エリス様とマルカ様もラインハルト殿下の隣にいらっしゃる。レスハイト殿下はエリス様の腕の中だ。というかプリム達は……いた。なんでか知らないが、ファリスさんと一緒だな。リディアが俺を見つけたみたいだが、遠すぎて何を言ってんだかわからんぞ。まあいいか。


「今宵招いたレイドについて、それぞれに目出度いことがあったことは、諸君らも知っていると思う。宴席に先立って、私から改めて紹介したい。まずはマナリースが懇意にしているレイド、ホーリー・グレイブだが、リーダーであるファリス・リーンベルの夫にして創設者でもあるクリフ・リーンベルが、Pランクへ昇格した。此度からハンターズギルドが改定した新しい規定に則っているため、現在のPランクは旧来のAランクに相当するランクとなり、有事の際はA、Hランクとともに前線に立つ、我が国でも有数の実力者の証となっている」


 そう、既に王都ではこの新ランク制度が施行されてるし、王都以外のアミスター国内はもちろん、他国でも開始されているはずだ。

 もちろん多くのハンターがランクダウンしたと錯覚するわけだし、特に旧GランクはMランクに戻ることにもなるわけだから、王都だけでもすごい反発があったんだよ。多くはギルドの説明に納得してくれたんだが、最後まで抵抗したバカも数人ほどだがいて、残念だがそいつらはライセンスを剥奪されて投獄された。俺もギルド規約を全部読んでないんだが、規約には事前に通知なく制度が変更されることがある、って明記されてるから、ギルド側に落ち度はないし、何よりそんなバカどもが原因でできたようなもんだからな、新制度は。

 そのライセンスを剥奪されたバカどもがなんで捕まったかなんだが、受付さんに手を上げてギルド内の設備を手当たり次第に破壊していてな。たまたまギルドに顔を出していたバウトさんが取り押さえて、そのまま騎士団に引き渡されたんだとさ。叩けば余罪とかも出てきそうだし、捕まってよかったんじゃないかって思うよ、本当に。


「パパ、すごいのね!」

「ちょっと照れるけどな」

「すげえや、父さん!」


 リリーちゃんがクリフさんに尊敬の眼差しを向け、ブラスト君は肩車されてはしゃいでいる。なんかいいな、こういうの。ライラックさんも嬉しそうだし、こういうのが理想の家族って感じがするよなぁ。


「次にラインハルトが懇意にしているレイド、トライアル・ハーツだが、こちらはリーダーであるバウト・ウーズが名誉ランクではあるが、グランドマスターから直々にHランクに任命された。現在この場にHランクハンターは三名いるが、明確に我が国に属していると言えるのはバウトだけであり、ギルドとしても六人目の名誉ランク拝命者でもある」


 こっちも拍手が凄いな。バウトさんを含めると十一人になるHランクハンターだが、そのバウトさんを含む六人はPランクのハンターだ。元はAランクなんだが、今回の改定で変わったからこれは仕方がない。他の名誉ランクハンターも、バウトさんと同じくP-Hランクになるそうだからな。

 で、そのP-Hランクハンターだが、アミスターのバウトさん以外にソレムネ帝国に一人、リベルター共和国に二人、トラレンシア魔王国に一人、アレグリア公国に一人がいて、やはりその国の貴族と結婚してるんだとか。名誉ランクとはいえHランクとギルドから認定されてるんだから、国としても繋ぎ止めておきたいと考えるのはわからない話でもないからな。


「そのバウト・ウーズだが、この度目出度く、ホーリンス侯爵家の長女と縁談がまとまり、正式に婚約することとなった。元々バウトはアミスターに所属していると明言してくれていたが、此度の婚約は、私としても実に嬉しく思う」


 へえ、バウトさんのお相手って、侯爵家の長女だったのか。というか長女って、跡取りとか大丈夫なのか?


「ホーリンス侯爵には三人のお子さんがいるが、そのうちの一人がバウトと婚約した長女のカナリオ様で、その下に弟と妹が一人ずついる。後継に関してはなにも問題はないよ」


 クリフさんが教えてくれた。ホーリンス侯爵は王都のすぐ南にあるアルコ地方を治めている。鉱山が多いので、鉱物資源が豊富なんだが、いつかは資源が尽きてしまうと予想された先々代が領内に革命を行い、病気に強く、特に世話をしなくとも勝手に育つ薬草、クラル草の栽培に着手し、新しいポーションの開発まで行った。クラル草を材料に使ったポーションは怪我と魔力を同時に回復するため、ギルドも諸手を上げて歓迎し、その功績からホーリンス家は侯爵になったそうだ。

 そのポーションは外傷治療ポーションや魔力ポーションに比べれば効果は劣るが、一度に両方を回復できるし、価格もポーションの中では安価なので、新人からベテランまで、多くのハンターに愛用されており、今ではマルケス・ポーションと呼ばれている。俺とプリムがジェイド、フロライトと契約した時に使ったのも、このマルケス・ポーションだ。

 いずれ資源が尽きることまで考えて領地に改革を加えるなんて、すごい先見性を持った人だったんだな。その先々代の遺志をしっかりと受け継ぎ、鉱山とクラル草の栽培をしっかりと行っているため、アルコはアミスター内でも比較的裕福で、治安もしっかりしているそうだ。

 お、バウトさんが奥さんと婚約者を伴って出てきたぞ。確かバウトさんの奥さんは、一人が同じトライアル・ハーツのメンバーで、もう一人が元奴隷だったよな。縁談がまとまった以上、相手も承知の上なんだろうけど。お子さんはクリフさんとこと同じく二人だけど、まだ小さいな。見たとこ5,6歳ぐらいか?その子達も含めて六人で陛下に頭を下げると、陛下も満足そうに頷いた。


「最後にまだ名を聞いたこともない者もいるだろうが、新鋭のレイド、ウイング・クレスト。このレイドは設立されてまだ二ヶ月足らずではあるが、Hランクハンターが二人も在籍しており、フィールでの元ギルドマスターの暗躍や此度の氾濫においても最も活躍し、我が国を救ってくれた。リーダーであるヤマト・ミカミ殿は隣国バリエンテの姫君であるプリムローズ・ハイドランシア殿、そして我が近衛騎士団副団長にして天騎士アーク・ナイトのディアノス・フォールハイトの娘ミーナ嬢、友好国であるバレンティア竜国の近衛竜騎士フレイアス・ハイウインドの娘リディア嬢、ルディア嬢とも正式に婚約しており、そこに我が娘達、マナリースとユーリアナも加わることになった。まだ正式にアミスターに留まると決まったわけではないが、これは我が国にとっても、まごうことなき良縁である」


 うおい!こんなところで公開処刑ですかい!しかもリディアとルディアは、まだご実家に挨拶もしてねえよ!陛下が正式に、なんて言ったら、バレンティアとの友好にヒビが入るだろうが!つかなんで俺がリーダーなんだよ!?

 いろいろと言いたいことはあるが、どうやら先に会場に入ってしまった俺が悪いらしい。後で聞いた話では、陛下としても予想外だったそうだが、俺が近くにいない方が都合がいいと思ったらしい。マナとユーリのことは既に公表されてるが、プリム達のことは婚約者の一人としてしか知らされてなかった。おそらくプリムが望んだことなんだろうし、ミーナも父であるディアノスさんが天騎士アーク・ナイトになったわけだから、注目されることは間違いない。そしてリディアとルディアの件だが、驚いたことに飛竜ワイバーンを使って連絡を取っており、既にバレンティアの王家とも話がついているそうだ。むしろ早く来いとせっついてきてるらしい。俺の知らない所で事体は動いていたわけだが、そんな大事なことはしっかりと伝えてくれよ!

 前回の式典の時もそうだったが、俺はまたしても身悶える羽目になってしまい、隣にいるクリフさんに、すさまじく憐れんだ目をされましたよ。

 そんな俺のことなどお構いなしにパーティーは始まった。

第三章の最後になりますが、ちょっと長めです。

大和達はフロートの迷宮には詳しくないので、基本調査は手伝っていません。安全を考えれば手伝うべきなんでしょうが、迷宮の知識はないので、場合によっては邪魔になると両者が判断したためです。

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