062・不安感と羞恥心と
翌日、俺はプリム達に気を遣ってもらい、なんとか平静を取り戻した。しかも王城にいるというのに、何故か昨夜は獣車に泊まったんだよな。言ってしまえばそれだけ俺が打ちひしがれてたってことなんだが、だからって全員で一緒に獣車の風呂に入って、全員で一緒のベッドに寝なくてもいいと思うんだよ。マナとユーリにはまだ手を出してないし、昨夜も手を出してないけど、あんな話を聞かされた後だから、誰かを抱きたくて仕方なかったんだぞ。
それもあって昨夜は珍しく寝付きが悪かったから、みんなが寝静まった後に、同じく起きてたプリムに頼んで、体内に放出させてもらったよ。まあ微かに臭いが残ってたようで、朝起きたらミーナ、リディア、ルディアに迫られて、プリムがマナとユーリを外に連れ出してから一回ずつ体内放射させられたが。
そんなこともあって、俺達は王都で待機しなければならないので、今日は服屋と家具屋を見て回ることにした。移動はもちろん獣車だ。
「このタンス、ちょっと小さいわね」
「マナにはそうかもしれないけど、私達はあまり服は持っていないから、これぐらいで十分だったのよ」
今もプリムとマナが家具屋でタンスを選んでいる。マナとユーリをアルカに連れて行った際、俺達の部屋を拡張し、二人の部屋を作るようレラに頼んであるから、その部屋用の家具を探してるんだよ。一度泊まってるから寝室の準備が必要ないってことは二人もわかってるし、タンス以外にも買う物は多いから、さっきから女六人であれでもないこれでもないと、店内を物色しまくってるというわけだ。いつも思うんだが、女の買い物って長いよなぁ。
「大和、これなんてどう?鏡台もついてるし、これだけ大きければマナの服も入りきると思うのよ」
「ああ、いいかもしれないな。鏡台もあるから化粧なんかもできるし、髪を整えるのにも使えるし。ん?どうした、マナ?」
「い、いえ!ななななな、なんでもないわっ!」
なんでもないわけないだろ。今日は俺とプリムを見るたびに真っ赤になってるんだからな。特に何かした覚えはない……あ、まさか……。
「プリムさん、何か聞いておりますでしょうか?」
「聞いてないけど……これはそうかもしれないわね。うわ、マナに見られてたの?恥ずかしいわ……」
「夜中にあんなことしといて、どの口が言うのよ!」
俺もプリムも、顔がすごく熱くなっていくのがわかった。いや、一応みんなを起こさないように、けっこう抑えてたはずなんだよ。実際、ミーナ達は起きてこなかったんだからな。マナも言ってくれればよかったと思うんだが、幼馴染が合体してる現場を目撃してしまったわけだから、起きるに起きれなかったってことになるのか?
「おーい、ユーリ様の買う物、だいたい決まったよー」
「あ、ああ、わかった」
そこにルディアがやってきて、あらかた目的を達成したことを教えてくれた。た、助かったぁ!
「それじゃマナも、この鏡台付きのタンスでいいわよね?」
「え?え、ええ、とりあえずは」
「どうかしたの?顔真っ赤だけど?」
「だ、大丈夫よ!それより支払いをすませたら、私のボックスに入れておくわ。次は服屋よね?」
「かな。あとはレイアウトしてみないと、何とも言えないしね」
うん、そうだよな。部屋の大きさは全員同じで、だいたい畳二十畳ぐらいなんだが、内装はそれぞれの好みになってるんだよ。例えば俺の部屋は中央に畳を十二畳敷いてあり、壁面には大きめの本棚を備え付け、畳二畳分ほどのウォークインクローゼットも作っている。このアイディアは画期的だったらしく、プリム達の部屋にも作ってあるし、マナとユーリの部屋にも作っている最中のはずだ。他には座卓に座布団、コレクション陳列用のキャビネットなど、日本を意識した調度品を置いてある。
本当はコタツとかも欲しかったんだが、館は暑さや寒さの対策はもちろん、湿気にもしっかりと対処してあるから、そこまでするほど寒くはならないみたいだ。
フィールはマイライト山脈の麓にあるから、夏は過ごしやすいんだが、冬はけっこう雪が積もるそうだから、漁師さん達も漁にはでず、副業の方に力を入れるんだそうだ。マリーナなんて、副業でやってる裁縫の仕事もすごいからな。
さて、次は服屋か。今日も時間かかるんだろうなぁ。
―マナ視点―
私達は家具屋を出て服屋に向かったんだけど、大和の顔を見る度に昨夜のことを思い出しちゃうから、今日はまともに顔を見れてないのよね。だって何か揺れてるなと思ったら、大和とプリムが……その、し、ししししし、シちゃってたのよ!?プリムがあんな女の顔するなんて思ってもいなかったし、大和を受け止めた時はとっても幸せそうだったけど、せめて場所は考えてほしかったわよ!あ、ベッドでシてたんだから、場所は間違ってるわけじゃないのか。ないのよね?
だけどそのおかげで私はロクに眠れなかったし、その……最後まで見ちゃったから、プリムが羨ましいなんて思ったりもしちゃったりもするわけで……。
はっ!私ったら、なんてはしたないことを!まだ結婚もしてないのに、一緒のベッドで寝るだけでも私には高すぎるハードルなのに、これから毎晩あんなのを見せつけられると思うと、ちょっと気が滅入ってくるわ。決して私も抱いてほしいなんて思ってないわよ?
それに式だってバレンティアのリディアとルディアの実家にご挨拶に行ってからになるし、大和はバリエンテにあるプリムのご両親の墓前にもご報告したいみたいだから、どんなに早くても年が明けてからになってしまうし、それまでお預けなんて、私はともかく、大和が大変だってプリム達からも散々言われてるのよ。
だけど私は、まだ決心がつかないでいる。もちろん結婚したらそうも言ってられないんだけど、結婚前にってなると、やっぱり怖いのよ。ユーリは乗り気だけど、同じ姉妹なのに、なんでこうも違うのかしら?
「マナ、着いたぞ。降りないのか?」
「え?」
気が付くと獣車は服屋の前に着いていて、既にみんな獣車から降りていた。あれ?いつの間に着いたの?
「大丈夫か?」
「え、ええ。その……ごめん!」
私は慌てて獣車から降りようと思ったんだけど、昨夜の光景が目に焼き付いてるし、大和の言葉が耳に残ってるから、プリム達に後から行くと伝え、そのまま大和の隣に座ることにした。
「その……ごめんなさい。見るつもりはなかったんだけど……」
「あ~……いや、あれは俺が悪いだろ。みんなで一緒に寝てるんだからな」
「でも、私がひと声かければ辞めたり……は、できないのよね?」
「すまん、最中は流石に無理だ。それに昨夜はちょっと……グランドマスターの話で不安になってたからな」
やっぱりそうだったんだ。プリムを抱きながら謝ってたからそうじゃないかとは思ってたけど、それだけグランドマスターの話がショックだったのね。私もそんなことは考えたこともなかったけど、大和もそうだと思う。だから余計にショックが大きかったというわけなのね。
「だからプリムに謝ってたのね?」
「聞かれてたのか。ああ、不安を紛らわすために誰かを抱いたのって、初めてなんだよ。そんなことのために婚約したわけじゃないし、するつもりもなかったんだが、どうしてもな……」
それは仕方ないと思う。誰だって不安を感じて心細くなるし、あんな話を聞かされた後じゃ、尚更でしょう。特に大和は、そうなってしまう可能性が高いんだから、それで不安を感じなかったら神経構造を疑うわね。
プリムもそれをわかっていて、優しく大和を包んでいたもの。
「私は少し安心したけどね。私より年下なのに私より大人に見えてた大和が、ああまで不安がるなんて、思ってもみなかったわ。だから大和も、私達とおんなじなんだなぁって」
「そりゃそうだよ。周りがどう見てるかは知らないが、俺だって人間だからな。不安を感じることだってあるし、寂しくなることだってある」
「だからって、場所は考えてほしかったけどね」
「す、すまん……」
大和は私が思っているよりも、ずっと辛い経験をしたことがあるんでしょうね。そもそもヘリオスオーブにも一人で来たわけだし、元の世界にはご家族だっているんだから、普通なら里心がつくだろうし、帰る方法を模索したりもするはずよ。だけど大和は、私達と一緒に、このヘリオスオーブで生きると決めてくれた。正確にはプリムとだけど、そこに私達も加わったわけだから、少しは彼の気持ちを紛らわせることもできると思いたいわ。
「それじゃ私も行ってくるわ。獣車の番、よろしくね?」
「ああ。マナ、その、なんだ……ありがとう」
「どういたしまして」
少しはお姉さんらしいとこ見せられたかしら?だけど私、あっち方面じゃ一番奥手みたいなのよね。昨夜のこともあるし、大和を不安から解放させてあげるには、私も覚悟を決めないといけないんだけど、どうしても恥ずかしさが邪魔をするのよ。何度か裸は見られてるし、一緒のベッドで寝たこともあるんだけど、いざとなると怖気づくものなのね。このままじゃ結婚しても一生デキないままかもしれないわ。何か方法を考えた方がいいかもしれないわね。
短いですが、大和とマナの心情描写になります。内面描写ってとっても難しいわぁ。




