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刻印術師の異世界生活  作者: 氷山 玲士
第三章:嫁の実家へ、挨拶回りの旅に出ます。アミスター王国編
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058・迷宮対策と今後の対応

「で、勢い込んでコアルームに突入したはいいものの、守護者は既に倒されてて、コアは跡形もなくなっていたっていうの?」

「ああ」


 気合十分でコアルームに突入したものの、守護者であるサイクロプス・エビルオーガは既に事切れており、コアもなかった。コアは石とも金属ともつかない物質で、心臓のように鼓動まで打っているそうだから、破壊せずに持ち出すことは不可能とされている。迷宮が生物だという説は、コアの特徴が大きな理由だ。

 そのコアが、あるべき場所になかった。破壊された形跡もなかったから、持ち出されたとしか思えないんだが、そんなことができる人がいるという話は、誰も聞いたことがない。そもそもコアが破壊されていれば、迷宮は存在を保てなくなるし、迷宮で生まれた魔物達だって存在できなくなる。迷宮から戻る時にも何度か魔物に襲われたから、やはりコアは破壊されていないと考えるべきだろう。


「何にしても、作為的なものを感じざるをえないな。だが現時点では、手がかりすらつかめん」


 陛下の言う通りだ。人為的、作為的なものだってのは間違いないが、誰がとか、目的とか、皆目見当がつかない。いや、一つだけ予想できることがあった。


「そいつが何をしたいのかはわかりませんが、アミスターを滅ぼすつもりだったのは間違いないでしょうね」

「それについては、疑念の余地はないと思っていいだろう。方法は不明だが、守護者を倒し、コアを持ち出し、迷宮氾濫を起こしたわけだからな」


 迷宮氾濫が偶然起きてそれに便乗した、と考えるには、あまりにも都合が良すぎるだろう。やはり問題は、迷宮の危険度ランクが跳ね上がったこと、単独か複数かはわからないが、守護者を倒し、コアを持ち去った存在がいるってことだな。まさか人為的に迷宮氾濫を起こせるとは思わなかったし、ランクまで上げられるなんて想像すらしなかったな。

 聞いた限りだが、この世界の迷宮には、小説なんかでよく出てくるダンジョン・マスターとかはいないそうだ。じゃあどうやって生まれてくるのかっていう話になるが、それについては一切不明で、ある日突然入り口ができるんだとか。生まれたばかりの迷宮は内部の魔物も弱く、階層も浅いため、Mランクハンターでも攻略が可能で、そのためコアを破壊したMランクのバカどもが、話をアホみたいに膨らませて周囲に自慢することもある。少し調べればわかるんだが、それでも迷宮のコアを破壊したことは事実だから、名前だけは勝手に広がり、どんどんそいつらが図に乗って好き勝手しだすこともあって、ハンターズギルドとしても問題視してるんだそうだ。

 それもあって、近々ギルドランクを見直すことが決まったらしい。もちろんフィールでの横暴な振舞いや迷惑行為なんかも考慮されている。

 シエーラさんが教えてくれたが、内容はSランクまでは変化なしで、Mランクの期間をレベル21~30、Gランクをレベル31~40、Pランクをレベル41~50、Aランクをレベル51~60に変更することになったんだとか。もちろん多くのハンターがランクダウンすることになるから混乱するだろうが、素行の悪いMランクハンターが容易にGランク以上にならないようにするには、ある意味じゃこれが一番手っ取り早いかもしれない。

 それに伴って、Gランクになるためには護衛依頼の完遂や、ハンター個人の素行、周囲の評価もしっかりと加味されることになった。素行が悪すぎると昇格どころか、ライセンス剥奪の上、隷属魔法を使って最低限の魔法以外の使用を禁止させられることにもなったそうだから、抑止力にもなるだろう。まあ、完全にいなくなるとは思えないし、実施されたら暴れだすバカも出てくるに決まってるからな。

 話がそれたが、ランク1,2の迷宮なら、Mランクでもなんとかなるわけだから、事前にフロートの迷宮を攻略していた可能性は否定できない。だが国とギルドに管理された迷宮を勝手に攻略することは、厳罰に処されることになっている。だから守護者を倒したことを隠しているのはわかるんだが、それだとコアがなくなっている理由と氾濫が説明できない。仮にそれに便乗したとしても、コアを持ち出したという事実は残るから、やはり第三者が関与していることは間違いない。


「じゃが事が事だけに、ハンターズギルドとしても無視はできん。ハンターに依頼を出す形になるが、騎士団とも連携し、常に監視、場合によっては内部の確認もしなければならんじゃろう」


 こちらのお年寄りみたいな言葉を話す男性は、ワーウルフの魔族で翼族のギャザリング・バイアスさんという。見た目は20代後半から30代前半の人族だが、実年齢は80歳近い高齢で、ハンターズギルドのグランドマスターであり、アレグリア公国を拠点にしているHランクハンターでもある。まあハンター活動はほとんど引退したも同然らしいんだが、それでもレベル71なので、そこいらの魔物においそれとやられはしない。というか、俺より強いんだよ、この人。

 魔族や妖族あやかしぞくはもともと老化が遅い種族だが、それでも老いから逃れることはできない。だがレベルの高い人は、老化がひどく遅くなるし、止まることもある。見た目が20代でも実年齢が60を超えてる人族っていうのもいるから、俺からすれば違和感が半端ない。

 だいたいレベル分は10代後半から20代の見かけ年齢を維持できるが、その後はゆっくりと年老いていくって聞いたな。平均寿命は意外と短く、60年ほどらしいが、レベルの高い人の中には100年、200年も生きた人もいるそうだ。ちなみに寿命は、どの種族でも変わらないんだとさ。


「感謝しますぞ、グランドマスター。では今後の方針だが……」

「へ、陛下!一大事です!」


 そこにディアノスさんがやってきた。すさまじく慌ててるが、また迷宮が溢れでもしたんだろうか?あれだけの魔物を放出したんだから、次の氾濫までは時間があるはずだけどな。


「何事だ?」

「フロートの迷宮が、消滅いたしました」

「何っ!?」


 迷宮が消滅!?つまりそれは、コアが壊れたってことだよな!?あ、コアは持ち出されてるんだから、壊れたっていうより壊されたっていうべきか?じゃない!んなことはどうでもいいんだよ!


「迷宮が消滅したということは、コアが壊れたということになるの。コアルームから持ち出したことによって自壊してしまったのか、意図的に壊したのかまではわからんが」


 さすがに冷静だな、グランドマスターは。確かに偶々壊れたのか意図的に壊したのかじゃ、意味合いが全然違う。前者ならあちらにとっても不慮の事態だが、後者ならもう必要ないっていうことになるからな。


「願わくば前者であってほしいが……」

「おそらくは前者じゃろう。今回のように異常種が十体以上も出現した迷宮氾濫は、ワシも経験がない。仮に実験をしていたとしても、それなら他にも氾濫を起こした迷宮があってもおかしくはないし、守護者が討伐されておればハンターの間で噂にもなるじゃろう。ワシらの知らん未知の迷宮で試したとしても、氾濫を起こしてしまえば必ず気づく。なにせ魔物が迷宮から溢れてくるんじゃからな、隠しようがない」


 確かにそうだ。それにグランドマスターですら経験がない程の大規模な氾濫となれば、今ヘリオスオーブに生きてる人達にとっても未経験といっても過言じゃない。実験をするにしても、何が起こるかわからないんだから、不測の事態も十分ありえる。ということは、だ。


「ということは、誰かはわからないけど、迷宮のコアを持ち出し、何か細工をして危険度のランクを上げて、意図的に氾濫を起こさせた。だけどコアが、細工か仕掛けに耐え切れずに崩壊してしまった。コアが消えたからフロートの迷宮も消滅して、今後実験だか何だかに使うこともできなくなってしまった。別の迷宮で試そうとしても、今回の結果を加味しなきゃいけないから、相応の時間がかかる。だけどいつどこの迷宮が氾濫を起こすかわからないから、警戒と監視はしっかりと継続しなきゃいけない、ってとこですかね?」


 まとめながら要点を口にしたつもりだが、途中から自分でもこんがらがってきた。


「だいたいはそんなところじゃな。付け加えるなら、今後迷宮に潜るには、ハンターならギルド、騎士なら国の許可を得るようにするべきじゃろう」


 確かに、それぐらいはした方がいいかもしれないな。現在の迷宮は各国が監視しているし、騎士団も常駐してるけど、内部に入るのは自己責任だから、誰でも簡単に入ることができる。だから今回みたいにいつの間にか守護者が倒され、コアが持ち出されるような事態になったと言ってもいい。だがギルドや国の許可がなければ入れないようにすれば、誰が迷宮に入ったかは確認できるし、ライブラリーを見れば偽名を使ったとしてもすぐにバレる。絶対というわけじゃないが、それでも悪くない考えだと思う。


「ではアミスターにある迷宮は、迷宮付近で監視している騎士団にライブラリー、もしくはハンターズライセンスを確認させたうえで、問題のない者にのみ許可を出すようにしましょう」

「他国にはワシから伝えておく。幸いワシはゲート・ミラーを使えるから、伝達だけならすぐにでも可能じゃ」

「それはありがたい。お手数ですが、お願いいたします」


 確かにゲート・ミラーが使えるなら、移動も一瞬だからな。いきなりグランドマスターが来てるって聞いたときは驚いたが、そういうことなら納得できる。他にもゲート・ミラーを使える職員は多いらしく、特にギルドマスターは半数が使えるため、各地への情報伝達も迅速かつ正確にできるそうだ。


「とりあえずじゃが、こんなところかの」

「フロートの迷宮、そして各地の迷宮に対する今後の対応については」


 フロートの迷宮があった所は、しっかりと調査が行われることになっている。特に今回はコアを持ち出されたということもあって、騎士団だけじゃなくトライアル・ハーツやホーリー・グレイブにも協力を依頼するそうだ。

 普通迷宮跡地は、今まで迷宮があったのが嘘のように何もなくなり、痕跡すら残らず、実害もないそうなんだが、今回はコアを持ち出されたというイレギュラーすぎる事態だから、何かあってもおかしくないと判断され、騎士団からはディアノスさんを、ハンターからはバウトさんとファリスさんに調査を依頼することで、不測の事態に対処する構えだ。何もないとは思うが、用心に越したことはないからな。

守護者は倒されておりました。強制バトルを強制回避になります。

で、ハンターズギルドのグランドマスター登場です。めっさつおいおじいちゃんです。ついでというわけではありませんが、作中の理由で近々ハンターランクの基準が変わります。変更後のランクは、次回以降に公開予定です。

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