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刻印術師の異世界生活  作者: 氷山 玲士
第三章:嫁の実家へ、挨拶回りの旅に出ます。アミスター王国編
56/99

056・狩人姫と翼の脅威

 ―マナ視点―


 もうなんて言ったらいいのかわからないわ。プリムは単独でゴブリン・ウイングエンペラーを、しかも空中戦で倒しちゃうし、門から伝令に来たホーリー・グレイブの一人は、自分達が必死の思いで抑えていたメタル・ブルードラゴンを、救援に駆け付けた大和があっさりと倒したって言ってくるし。どっちもAランクどころかHランクに匹敵するような、普通なら国が傾きかねないレベルの魔物なのに、それをたった一人で倒すなんて、いったいあの二人はどうなってるのよ?


「マナ様、色々と言いたいことはあるだろうけど、後にして!来たよ!」


 ルディアの声で、私はなんとか現実に帰還した。そうだった、今はそんなこと考えてる余裕はなかったんだったわ!どこにいたのか、コボルトとサハギンの群れがでてきてるし、遠くにはサイクロプスまでいるわ。サハギンは水辺でないと強さが半減するからなんとかなるけど、コボルトは亜人の中でも知能が高く、犬みたいに嗅覚が鋭いから、一度狙われたら逃げるのは難しい。さらにサイクロプスは、私達の倍はあろうかという一つ目の巨人。あそこにいるのは幸いにもレッサー・サイクロプスだから、そこまで強くはないけど、それでもGランクの強さはあるはず。


「マナ様、あの魔法って使えますか?」

「ええ。まだ風魔法ぐらいしか使えないけど、なんとかなると思う」


 私とユーリはこの数日間、大和達が開発したっていう魔法を教えてもらっていた。無属性魔法みたいに魔力に指向性を持たせることで、あんなに使いやすくなるとは思わなかったし、威力も段違いになったから、これが大和達の強さの一つだっていうことは間違いないわ。


「『ブラスト・ウォール』!」


 私の得意魔法は風。偶然だけど、大和の得意魔法と同じよ。ユーリは水魔法で、こっちも大和の得意魔法だから、それを知った私達姉妹は、飛び上がって喜んだものだわ。まあ大和はこの二つが得意というだけで、普通に全属性使えるんだけど。

 私が作り出した風の壁は、こちらに向かってくるコボルトやサハギン、サイクロプス達の前に発生し、小柄がコボルト達を吹き飛ばしながら侵入を拒んでいる。だけど目の前に展開させるのが精一杯だから、回り込まれたらどうしようもないわ。他の亜人ならともかく、コボルトならそれぐらいは気づく可能性が高いし、周囲の警戒も続けなきゃ。


「たああああっ!」


 ブラスト・ウォールを抜けようとしたレッサー・サイクロプスの一体に、ルディアが固有魔法エーテル・バーストを纏いながら、ドレイク・ガントレットにフレイム・アームズを纏わせて殴り掛かった。

 エーテル・バーストは竜族の固有魔法で、自分が生まれ持った属性と身体能力を同時に上げることができる魔法よ。しかも強化魔法のエーテル・ブースター、マナ・ブースターと併用することもできるから、今のルディアはPランクどころか、Aランクに匹敵するかもしれない突進力と膂力、魔力を持っているわ。

 そのルディアの一撃を受けたサイクロプスは、炎に包まれながら吹き飛び、追撃のフレイム・アローを受けて絶命した。


「危ない、ルディア!」


 そのルディアに、サハギンが水魔法を放ってきた。水辺じゃないから威力半減とはいえ、火魔法を得意とするルディアにとって、水魔法は相性が悪い。しかもあのサハギンは上位種、メイジだから、たとえ半減していても受けるダメージは深刻なものになる。

 私はブラスト・シールドを使って、その水魔法を受け止めたけど、さすがに上位種のサハギン・メイジの魔法だけあって、完全には防げなかった。


「こ、っのおおおっ!」


 威力を削いだとはいえ、サハギン・メイジの魔法を食らったルディアは、吹き飛びながらもアース・ランスでサハギン・メイジを狙い撃ったけど、それは想定内とでも言うように、コボルト・ウィザードが放った火魔法で迎撃されてしまった。


「ルナ!」


 私は召喚獣のルナに光魔法のライト・アローを撃たせながら、ブラスト・ストームを放ち、ルディアの後退を援護する。魔法を同時に使うコツも教えてもらったけど、すっごく大変なのよ、これ。


「大丈夫?」

「ありがとうございます、マナ様!」


 ルディアは私にお礼を言うと、すぐに体勢を整えたけど、さすがに数が多すぎるわね。バウトは全体の指揮をしなきゃいけないから動けないし、トライアル・ハーツには街に散ってもらって、逃げ遅れた人や怪我人の救助をお願いしてるから、私達も二人で動くことになってしまったんだけど、これは失敗だったわ。

 そう思っていたら、上空から炎のブレスが放たれ、サハギンを何体か、まとめて燃やしてくれた。空を見ると、そこにいたのは二匹のヒポグリフ。ジェイドの口から魔力が漏れてるから、撃ったのはジェイドに違いないわ。大和の従魔だけあって、そこいらの魔物じゃ相手にならないし、実力的にはフロライトも同様のはずよ。


「ミーナ!リディア!」

「ご無事ですか、マナ様!ルディアさん!」

「ええ、ありがとう!」

「助かったわ」


 ジェイドとフロライトが地上に降りると、二匹の背からミーナとリディアも降りてきた。同時にミーナが固有魔法トゥインクル・イージスを使って、私達全員を包み込み、リディアが亜人達に向かって固有魔法フリーズ・ブレスを放った。

 ミーナのトゥインクル・イージスは光の多重結界だから、レベル差があっても簡単に突破することはできない、完全に防御用の魔法よ。結界と言ってもそれほど広くはないし、ミーナも最近まで使うことができなかったと言っていたから、魔力の消耗も激しいみたい。だけどそのおかげで、亜人達の攻撃やリディアのフリーズ・ブレスの余波を受けずに済んでるわ。

 リディアのフリーズ・ブレスは、そのまま氷系ドラゴンのブレスで、竜族の固有魔法の一つよ。さすがにドラゴン程の威力はないけど、魔力を帯びた氷の吐息は石畳の道を凍てつかせ、亜人達の体温を奪っていった。サハギン達は寒さに弱いし、実際に動きが鈍っているから、行動を封じることもできたと思う。


「ルナ!」


 私はルナに命じて、アクア・ストームを撃たせ、私はブラスト・ストームを放った。サハギン相手に水魔法なんて、普通なら愚の骨頂なんだけど、リディアのフリーズ・ブレスで弱っているなら話は変わるわ。自分の魔法なら合成することもできるけど、他人との魔法は無理。できないわけじゃないみたいだけど、すごく難しいって聞いてるわ。だけどルナは私の召喚獣。ルナの魔法は私の魔法であり、私の魔法はルナの魔法でもある。つまり合成できるってことよ。これが従魔魔法より魔力の繋がりが強い召喚魔法の使い方なんだからね。

 私はルナのアクア・ストームにブラスト・ストームを重ね、さらに亜人達の体温を奪うことに全力を注いだ。リディアも私の意図を理解してくれて、もう一度フリーズ・ブレスを撃ってくれたけど、こちらは重ならない。だけど私の予想以上に亜人、特にサハギンが弱っていくから、こういう使い方や戦い方もアリなんだって思うわ。


「ルディアさん!」

「ええっ!」


 そのサハギン達に向かって、ミーナがアース・ウェーブを、ルディアがフレイム・アローを放った。だけどそれは、一体のコボルトによって阻まれてしまった。


「う、嘘……」

「なんでコボルトが……」


 二人が驚くのも無理はないわ。コボルトは寒さには強い方だけど、風魔法に対する耐性はほとんど持ち合わせていない。現に私のブラスト・ウォールを突破できなかったし、ブラスト・ストームで動けなかったはずなのよ。だけど今、私のブラスト・ストーム、ルナのアクア・ストーム、ミーナのアース・ウェーブ、ルディアのフレイム・アロー、そしてリディアのフリーズ・ブレスを防ぎ、打ち破ったのは、間違いなくあのコボルトだ。


「つ、翼が……」

「まさか、変異種なの!?」


 目の前のコボルトはアークナイトというナイト種の最上位種で、キングやクイーンの護衛についていることが多く、防御力だけなら上回る個体もいるという噂がある。そのコボルト・アークナイトは、背中に翼があった。さっきプリムが倒したゴブリン・ウイングエンペラーと同じ、翼を持った亜人。


「コボルト……ウイングナイト!」


 これはマズいわ!コボルト・アークナイトはPランクの亜人で、亜人の中でも力が弱いゴブリン・キングと同等の危険度になっている。その変異種であるウイングナイトとなれば、ゴブリン・キングどころかコボルト・キングすら凌駕する存在に間違いない。そんな上位個体が相手じゃ、私達じゃどうすることもできないわ!


「ですがジェイドとフロライトに乗って逃げたところで、ウイングナイトが相手では……」


 リディアの言う通り、普通のアークナイトなら逃げるという選択肢もあるけど、ウイングナイト相手なら逃げ切れるとは思えない。私達を乗せればジェイドやフロライトでも速度は落ちるし、無茶な動きはできなくなる。自分の翼で空を飛ぶウイングナイトから逃げるのは、いくらなんでも無理だわ。いえ、ウイングナイトだけなら、時間を稼ぐことぐらいはできると思うけど、亜人達やサイクロプスもいるから、いくらなんでも多勢に無勢ね。まだ回復しきってないみたいで、サハギンなんかはまだフラついてるのが唯一の救いかしら。


「来るよ!」


 だけどコボルト・ウイングナイトにとっては、そんなことは関係ないわよね。むしろ私達の攻撃を防ぐための盾扱いぐらいはしそうだわ。


「ギャウアアアアアアッ!」


 だけど私の予想に反して、コボルト・ウイングナイトは単身で突っ込んできて、それに追従するようにサイクロプスやファイター系の亜人が続き、ウィザード系の亜人が魔法で援護をし始めた。亜人の知能が低いとはいえ、自分達の役割は理解しているから、即席でもこれぐらいはやってのける。だけど私達にとって最悪の事態だ。これならまだ、亜人達を盾にしてくれた方がマシだわ。


「こ、っのおおおおっ!!」

「ルディアッ!」


 エーテル・バーストを使ったルディアが、コボルト・ウイングナイトに向かっていったけど、隣にいたコボルト・ストライカーに捕まって、建物の壁に叩きつけられた。それを見ていたリディアがフリーズ・ブレスを使ったけど、そっちはコボルト・ウイングナイトの火魔法が、ミーナのトゥインクル・イージスごと貫いてしまった。リディアはその火魔法を避けきれず、ミーナは巻き込まれて吹き飛ばされ、気を失ってしまったみたい。ルディアは起き上がったけど、足元がおぼつかないぐらいダメージを受けてしまっている。そんなルディアに、サイクロプスが群れで襲い掛かろうとしていた。


「みんなっ!え?」


 声を上げた私だけど、いつの間にかコボルト・ウイングナイトが剣を振り上げ、私を見下ろしていた。そんな……。距離はあったはずなのに……なんでこんな一瞬で……?

 訳がわからないまま、コボルト・ウイングナイトが私に向かって剣を振り下ろし、私はこのまま命を落とすんだ、と思っていた。


「ギャウウウウン!!」

「これって……結界、なの?」

「マナ!ミーナ、リディア、ルディア!」

「あ、ああっ!大和っ!!」


 だけど大和が来てくれた。どんな魔法を使ったのかはわからなかったけど、私に斬りかかろうとしていたコボルト・ウイングナイトも、ルディアに襲い掛かろうとしていたサイクロプス達も、そして亜人達もまとめて氷り付いて、動きを止めていた。サハギンはそのまま氷り付き、コボルトも完全に動きを止め、サイクロプスはルディアが拳を叩き込むことで砕け散った。


「こいつも翼を持った亜人か。アクセル・ブースターまで使うとは思わなかったが、俺の女達に手を上げたんだ。死ぬ覚悟はできてんだろうな!」


 アクセル・ブースターって、そういうことだったのね。移動速度を加速させるぐらいなら、高位の亜人なら使ってもおかしくはないし、実際に使う亜人を見たこともあった。なんで気づかなかったのかしら。

 でもそんな私を、大和が助けてくれた。ミーナやリディア、ルディアを傷つけたコボルト・ウイングナイトに向かって、とてつもなく怒ってくれている。俺の女達って言ってくれて、すごく嬉しいけど、とても恥ずかしいわ……。

 唯一、氷り付いてはいなかったコボルト・ウイングナイトは、大和の怒気に押されて、顔を恐怖に歪め、翼を広げて空に逃げようとした。だけど大和は、あっという間に距離を詰めると、たった一太刀でコボルト・ウイングナイトを斬り捨ててしまった。私達を絶望に染め上げたコボルト・ウイングナイトを一瞬で倒してしまうなんて、私の夫になる人は本当にとんでもないわ。だけど今は、そんなことはどうでもいい!


「大和……大和ぉっ!」

「無事で良かった」


 私は大和に飛びついて、泣いてしまったわ。大和はそんな私を支えながら、今にも倒れそうなルディアにフライ・ウインドを発動させ、ルナと一緒にジェイドの背に乗せてくれた。


「ミーナとリディアは……気を失ってるだけか」

「ありがと、大和。助けてくれて」

「当たり前だろ。というか、遅くなって悪かった」


 ミーナとリディアに治癒魔法を施しながら、私達に謝罪の言葉を口にしたけど、大和は悪くないわよ。これは戦力を分散させてしまった私のミス。伝達速度が遅くなろうと、トライアル・ハーツか近衛騎士についてきてもらうべきだったのよ。住民の安全も大切だけど、伝令がしっかりと情報を伝えないと、助けられるものも助けられない。危うく私は、そんな愚を犯す処だったわ。


「いや、そもそも俺が勝手に戦いに行ったから、こんなことになったんだ。もっとみんなの安全にも気を配るべきだったよ」

「それは確かにね。おかげで私達は助かったんだけど」

「ファリス!?」

「マナ様もご無事のようですね。いきなり大和君が飛んで行った時は何事かと思ったけど、間に合ったようで良かったですよ」

「マナ様が無事で良かったんだが……」

「やっぱり認められん!いくらHランクハンターとはいっても、まだケツの青いヒヨっこじゃねえか!」


 どこから現れたのか、ファリス達ホーリー・グレイブも姿を見せてくれたけど、大和に抱き着いている私を見て、一様に血の涙を流しているわね。中には私に好意を持ってくれていた人もいるけど、残念だけど私は、とっくに大和のものなのよ。というか私、今って大和に抱えられて……ボッ!


「あんた達、マナ様を恥ずかしめてどうしようっての?いい加減に諦めて祝福ぐらいしなさいよね」


 大和は困ったような顔をしているけど、私を抱く手を放そうとはしない。私は恥ずかしさでどうにかなっちゃいそうだったから、思わず大和の胸に顔を埋めて、時が過ぎるのを待つことしかできなかった。

マナ、ミーナ、リディア、ルディアの戦闘シーンを書くのは、何気に初だったりします。四人ともランク以上の実力を持ってはいますが、実際にキング種クラスと戦えばこうなるのも無理はないんですけど。他のハンターでも大差はなく、Aランク相当の実力者でやっと互角に持っていけるかどうか、といったところです。

大和とプリムがいかにチートかを表現して、かつお姫様でもあるマナを助ける描写を入れるためだけに、ウイングナイトさんにご登場いただきました。

ええ、種族がコボルトなのは、その名の通りかませ犬さんだからです。サハギンやサイクロプスはゴブリンやオーク以外の亜人を出したかったというだけの理由です。

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