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刻印術師の異世界生活  作者: 氷山 玲士
第三章:嫁の実家へ、挨拶回りの旅に出ます。アミスター王国編
55/99

055・Hランクハンターの実力

 ―プリム視点―


 私は今、大聖堂の上空で、ゴブリン・ウイングエンペラーと空中戦の真っ最中。大和がこのアーマー・ドレスに刻印化してくれたフライ・ウインドは、私の体を軽くして、生じる風で翼を羽ばたかせるアシストをしてくれる。普通は自分自身に使うそうなんだけど、私が自分の翼で飛べるように、苦心してくれたのよ。それまでは魔力も使うけど、翼を羽ばたかせるための体力の方がごっそりと持っていかれるから、大変なんてもんじゃなかったしね。

 おかげで空を飛べるようになったし、翼を持つ亜人皇帝とだって戦えているわ。まだ自由自在とはいかないからちょっと苦戦してるけど、私が夢にまで見た光景なんだから、負ける気はちっともしないわよ!


「グギャアアアッ!」

「おっと!『フレイム・スフィア』……『フレイム・アームズ』!」


 ウイングエンペラーの放った炎を避けながら、私はフレイム・スフィアを三つ、ウイングエンペラーに放ち、スカーレット・ウイングにフレイム・アームズを纏わせて突っ込んだ。あっさりと避けられたけど、それはこっちの想定通りよ!


「『フレイム・ランス』!」

「ギャウアアアアアアッ!!」


 フレイム・スフィアは、避けられたぐらいじゃ消えたりしないし、私の思い通りに動いてくれる。元々そういうコンセプトで開発したのがスフィア系だし、全方位から攻撃ができる空中なら、そこから遠隔で別の魔法につなげやすいから、使い勝手はかなりいいわ。ウイングエンペラーは避けたと思っていたフレイム・スフィアをフレイム・ランスに変化させて、左右と下方向から打ち出したけど、下方向のフレイム・ランスは予想外だったみたいで、剣を持っていた右手に大きなダメージを負うことになったし。


「これで決めさせてもらうわよ!」


 私は右の翼に灼熱の翼、左の翼に爆風の翼を纏い、極炎の翼と成した。同時にフレア・スフィアを作り出し、そこからフレア・アローを撃ち出しすことで、ウイングエンペラーを釘付けにし、結界の代わりにする。まだ結界魔法は使えないから、今の私にはこれが精一杯。


「グ、グギャアアッ!!」


 ウイングエンペラーは、魔力を全開にすることで、なんとか凌いでいる。普通ならこれで終わるんだけど、さすがは翼の亜人皇帝ね。だけど私だって、これで倒せるなんて思ってない。私は極炎の翼を全開にして、フレア・ペネトレイターを纏い、フレア・アローと同時にウイングエンペラーに向かって突っ込んだ。

 私のフレア・ペネトレイターは、風で炎の勢いを煽り、フレア・アームズの要領で私自身に炎を纏わせ、穂先にフレア・ランスも展開させて貫通力を増大させ、フレア・スフィアを周囲に展開させてフレア・アローを撃ちながらアクセル・ブースターで突撃する、攻防一体の魔法よ。魔法って言っていいのかは疑問だけど、魔法を使っての攻撃だから、魔法でいいわよね。


「しまった、全部燃やしちゃったわ……」


 ゴブリン・ウイングエンペラーは真っ二つになると同時に、フレア・ペネトレイターの炎によって塵一つ残さずに燃え尽きていった。加減間違えたわ。だけどとりあえず、この場は何とかなるでしょう。さて、私は大和の所に戻って、援護しなきゃ。あっちも終わってる気がするけどね。


「「「うおおおおおおおおおおおおっ!!」」」


 街からハンターや騎士の歓声が上がってきた。私は軽く手を挙げて彼らに応えると、王都を襲っている魔物を狩るために、その場から移動することにした。


 ―大和視点―


「なるほど、けっこう頑丈だな。魔力を流した薄緑で斬れないとは思わなかった」


 俺は今、フロートの入り口でドラゴンと戦っている。先にホーリー・グレイブが足止めをしてくれてたんだが、このドラゴンの相手で手一杯になっており、他の魔物はほとんど素通りでフロートに入り込んでたんだが、さすがにこいつが相手じゃ仕方ないだろう。

 なにせ今俺の目の前にいるのは、ただのドラゴンじゃなく、異常種なんだからな。


「だから言っただろう!そのメタル・ブルードラゴンの鱗は、アダマンタイトやヒヒイロカネですら通さないんだ!」


 ファリスさんが教えてくれたが、メタル・ブルードラゴンはブルードラゴンの異常種だ。ブルードラゴンは氷系ドラゴンの上位種で、ランクはA。その異常種なんだから、少なく見積もってもHランクはあるだろう。鱗は異常なまでに硬く、オリハルコンですら通さないこともあるそうだ。そしてドラゴンの最大の武器でもあるブレスは、あらゆるものを凍てつかせるアブソリュート・ブレスだ。まだ使ってきてはいないが、さっき氷の塊を吐き出してきたから、使い分けでもできるんだろうな。


「よっと」

「お、おい!人の話を聞いているのか!?」

「聞いてますよ。だけどいくら硬かろうと、生物であることに違いはないですし、弱点なんていくらでもあります。例えば、こんなのとかね!」


 俺は風性B級広域干渉系術式トルネード・フォールを発動させた。メタル・ブルードラゴンの大きさは20メートル弱。本来はもっと大きいのかもしれないが、迷宮にいたことを考えれば、これが限界だろう。というか、迷宮にこれほどデカい生物がいたことの方が驚きだ。

 そのメタル・ブルードラゴンが、トルネード・フォールで発生した巨大な竜巻に飲まれた。竜巻の中で上昇と下降を繰り返させるトルネード・フォールは、同時に風の刃で領域内の全てを切り刻むこともできるが、さすがにオリハルコンより硬い鱗を傷つけるのは無理だったようだ。だけど平衡感覚は狂うし、簡単には脱出できない。


「グルアアアアアッ!!」

「あら」


 と思っていたんだが、けっこうあっさりと脱出された。そういや翼があるから、飛べるんだったっけか。だけどフラついてるし、ノーダメージってわけでもなさそうだ。よく見れば目や鼻から血を流してるし、すぐに地上に降りたことを考えるに、平衡感覚も怪しいんだろうな。


「そら、よっと!」

「アアアアギャアアアアアアッ!!」


 俺はアクセル・ブースターで加速して、ブラッド・シェイキングを薄緑に発動させて、むき出しになっている目に向かって斬り付けた。どれだけ体が硬かろうが、目には鱗がないからな。


「なっ……!」

「嘘……だろ……!」


 メタル・ブルードラゴンの左目はブラッド・シェイキングを受けたことによって、完全に吹き飛んだが、さすがに図体がデカいだけあって、一撃じゃ致命傷にはならないようだ。けっこう面倒だな。


「仕方ない、奥の手を使うか。『アース・スフィア』!」


 俺はマルチ・エッジを五本ほど生成し、柄をアース・スフィアで保持したマルチ・エッジを、自分の周囲に漂わせた。


「グルアアアアアッ!!」

「ま、マズい!離れろ!!」


 危険を感じたのか、メタル・ブルードラゴンが大きく口を開け、アブソリュート・ブレスを放ってきた。だが残念。既に俺がニブルヘイムを展開させてるから、全てを凍てつかせる氷のブレスだろうとなんだろうと、結界内の水や氷は俺の思いのままだ。


「ガ、ガアアアッ!!」


 アブソリュート・ブレスを封じられたメタル・ブルードラゴンが怯んだが、もう一度大きく口を開けた。だから無駄だっての。


「マジかよ……」

「アブソリュート・ブレスを……防いだの?」

「じゃあなっ!」


 さっきも思ったことだが、アブソリュートというわりには、絶対零度には遠いんだよな。俺はマイナス250度ぐらいまでの冷気を操れるけど、このメタル・ブルードラゴンは、せいぜいマイナス200度ってとこだろう。それでも液体窒素より低い温度だから、周囲を凍てつかせるには十分だ。

 だけど父さんや伯父さんは絶対零度ぐらい朝飯前で使えるし、それを超えて原子を破壊することもできるから、何度も凍死するんじゃないかと思ったよ。それに比べれば、本気でどうってことはないな。

 マルチ・エッジに発動させている刻印術は、俺の切り札でもある無性S級対象干渉系術式ミスト・ソリューション。俺はマルチ・エッジを撃ち出し、喉元の一枚の鱗の間に突き刺した。大きな悲鳴を上げるメタル・ブルードラゴンだが、その悲鳴が徐々に小さくなり、体の至る所から血を吹き出し始めた。

メタル・ブルードラゴンの鱗がオリハルコン以上に硬い理由は、鱗そのものが頑丈で硬いこともあるが、その鱗を魔力でコーティングした氷で覆っているからだ。俺の薄緑もそうだが、ミスリルだって魔力を込めれば強度も硬度もアダマンタイトやヒヒイロカネ以上になるし、アダマンタイトやヒヒイロカネ、オリハルコンだってそうだ。人間より魔力が高いドラゴンなら、それぐらいは簡単にやってのけても不思議じゃない。

 だが俺のミスト・ソリューションは、その氷すら溶かせる。もちろん魔力を帯びた氷を溶かすのは簡単じゃないが、一点でも突破することができれば、連鎖的に崩壊に持っていくことができるし、血管を破壊し、血液の流れを加速させれば集中力も落ちる。集中力が落ちれば魔力を維持するのは難しくなるから、氷の強度だけでなく、鱗を覆っている魔力の強度も著しく落ちる。そうなってしまえば、いかにドラゴンの鱗であっても、断ち切ることができるようになる。

 俺は薄緑に魔力を込め、ミスト・ソリューションを刀身に発動させ、明らかに強度が落ちた喉元の鱗に向かって突き刺し、そのまま首を切り落とした。


「鱗は硬くても、体の中はそうじゃなかったみたいだな。仮にできたとしても、そんな余裕はなかっただろうが」


 メタル・ブルードラゴンは血の雨を降らせたまま、俺のニブルヘイムによって氷り付き、粉々に砕け散っていった。鱗の一枚でもとっときゃよかったかな。


「あ、あなた……いったい何者なの?」

「ただのハンターですよ」


 驚いて固まったままのファリスさんに、俺はそう答えた。ただのハンターがドラゴンの異常種を単独で狩れるかって言われたら、やっぱり無理なんだろうけどな。


「ああ、陛下から伝言を預かってます」

「陛下から?」

「ええ。治癒魔法を使える人を王城に集めているので、怪我人は速やかに運んでくれ、と」

「先に言いなさいよ、そんな大事なことは!」


 メチャクチャ怒られた。確かに先に伝えておくべき内容だから、これは俺が悪いよな。


 ―リディア視点―


 まったく。プリムさんがゴブリン・ウイングエンペラーを倒してくれたのはいいけど、一人で戦うなんて無茶すぎますよ。あんな戦いに割り込めるのは大和さんぐらいですから、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれませんが。

 ですがおかげで、ハンターや騎士の士気も上がり、魔物達を次々と倒していっています。ジェイドに乗って上空からフロートを見ていますが、おそらくはそんなに残っていないでしょう。


「リディアさん、あそこ!」


 フロライトに乗り、私と一緒にフロートの空を飛んでいるミーナさんが、何かを見つけました。目を向けると、そこにはコボルト・ハイナイトとサハギン・グラディエーターがいました。サハギンの方はともかく、コボルトは上位種ですから、放っておくわけにはいきません。


「ミーナさん、マナ様とルディアは?」

「トライアル・ハーツや騎士団と一緒に、残敵を掃討しながら陛下の指示を伝えているみたいです。父さんやトールマン様も出陣されていますから、ここは何とかなると思います」


 トールマン様やディアノス様も出てきていたんですね。まあ王都の危機なんですから、近衛騎士が出るのも当然の話ですし、アミスター最強騎士のお二人ですから、本当に何とかしてくださるでしょう。それに……


「『フレア・エクスプロージョン』!」


 上空からプリムさんが遠慮なく極炎魔法を使って、厄介そうな魔物を優先的に排除してくれていますから、町の人やハンター、騎士の方達の被害も最小限に抑えられています。少しは手加減してほしいところですが、町にも被害が出ないようにされていますから、口を出すのも憚られてしまうんですよね。


「ここはプリムさんや父さん達に任せておけば大丈夫でしょうね。私達はマナ様とルディアさんの援護に向かいましょう」

「そうですね」


 トライアル・ハーツもいますし、Aランク相当の実力者が三人もいますから、指揮に関しても問題ありません。それよりもミーナさんの言う通り、マナ様とルディアの援護に向かうべきです。二人は今、陛下からの伝言を伝えるために、魔物を倒しながら街中を走っていますから。

 魔物の数はだいぶ減っていますが、油断は禁物です。まだゴブリン・ウイングエンペラーみたいな強力な魔物がいる可能性はありますし、チラッと聞いた限りですがドラゴンまで出てきたということですから、まだまだ予断は許しません。そのドラゴンは、大和さんが何とかしているような気がしますけど。

うーん、ゴブリン・ウイングエンペラーもメタル・ブルードラゴンも、相当な強さの魔物なんですが、思ったよりあっさりとケリがついてしまいました。

現在大和がレベル64、プリムがレベル61ですが、大和は刻印法具一つにつきレベル+5、プリムは灼熱の翼で+4、爆風の翼で+3、他の精霊の翼で+2、極炎の翼で+8になっていますので、実際のレベルよりかなり強いです。

他にもマナが召喚している召喚獣の数だけレベル+2とか、ルディアの固有魔法がレベル+3とかの設定があります。ライブラリーには反映されないので、一般には知られていないんですが。

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