050・新婚約者はお姫様
―プリム視点―
式典とやらはグダグダのうちに終わって、私達は今、マナの私室に通されている。私はマナと再会してから式典が始まるまで、この部屋でいろんな話をしていたのよ。私が今までどこにいたのかとか、なんでハンターになったのかとかもだけど、一番驚かれたのは大和と婚約したことね。まさかマナも、大和に惚れてたとは思わなかったけど。
大和とマナは全く面識がないけど、大和は私から、マナは侍女のマリサを直接フィールにやって調べたらしいから、その時点ではまってたんでしょうね。
それで今、マナの部屋には大和、私、マナ、ユーリ、ミーナ、リディア、ルディアの他に、ラインハルト殿下とエリス殿下、マルカ殿下も来られている。マリサもいるけど、彼女はマナの侍女だから、あえてノーカウントにさせてもらうわ。
ふてくされた大和をなだめて連れてくるのは一苦労だったけど、私だって幼馴染の恋は応援したいし、アミスターの思惑も理解できるから、この話は受けるべきだと思ったのよ。幸いなことにミーナ、リディア、ルディアも賛成してくれたし、理解もしてくれたわ。
「で、なんでマナリース姫も、俺に嫁ぐことになったんだ?」
大和はテーブルに片肘ついて、空いた手の指をトントンとリズミカルに打ち付けてるわ。機嫌悪そうね。不意打ち、だまし討ちみたいな感じで言質を取られたとはいえ、一度了承しちゃったんだから、今更断ることもできないし、本人だってお姫様姉妹を嫁にするなんて、考えたこともないでしょうからね。私だって聞いたことないわよ。私達以外のレベル61以上のHランクハンターはどこかの国のお姫様と結婚してるけど、そのせいでその国に拠点を移すことになっちゃったし。
「説明の前に謝らせてもらうわ。今回の話は、私が無理を言ってねじ込んだの。あなたと話すのはこれが初めてだけど、その……プリムやユーリがベタ惚れなあなたに興味があって、色々と調べさせてもらったわ。本当にごめんなさい」
「別に調べられるのは構いませんが、なんでそれがこんなことになるんです?」
「それは……その……」
「鈍いですよ、大和さん。あなたにゾッコンだからに決まってるじゃないですか」
「……はい?」
リディアの言う通りなんだけど、やっぱりわかってないわね。異世界でだってある話だと思うわよ。興味が恋愛感情に発展するっていうお話は。
「ああ、そういうことなのか……」
それを教えると、一応納得はしたみたい。あくまでも一応よ。
「それにしても、よく陛下が許可なさいましたね」
「本当よね。お姫様を二人も嫁がせるなんて、聞いたことありませんよ?」
リディアとルディアが言うように、お姫様と結婚するということは、その国を拠点にすることになる。王家との繋がりもできるわけだから、これは当然の話ね。私も一応バリエンテ王家に連なる者だけど、バリエンテじゃお尋ね者になってるし、アミスターに返還した方がいいと思ってるから、アミスター王家との縁を優先してもらっても問題ないし、そうするべきだと考えている。アルカのこともあるしね。
「父上は早く引退して、リチャード師の下でもう一度鍛冶の勉強をしたいと常々おっしゃっている。私もまだハンターとして活動したかったから、王位を継ぐのは先延ばしにしていたんだが、先日マナが直訴してきてね」
「大和さんとプリム様はともにHランクで、しかも婚約までされています。つまり大和さんと婚約するということは、二人のHランクハンターと繋がりができるということになるんです」
「それはわかりますが……」
「当然他国も、大和さんとの縁を作るために、姫を嫁がせることを考えます。ユーリアナ様がアミスター、プリム様がバリエンテの王家の者ですから、付け入るスキはいくらでもあるわけです」
そうなのよ。私がなんと言おうと、世間から見れば私はバリエンテ王家の姫になる。まあ私は公爵家の生まれだから、厳密にはお姫様じゃないし、マナやユーリ姫みたいな称号はないんだけど。
それはともかく、つまり大和は、既に二人の姫と婚約しているということになってしまうのよ。それなら他国だって、姫を娶らせればいいと考えることは簡単に予想できるわ。
しかも大和は、Hランクハンターとしては若すぎる。A-Hランクを含めても、ほとんどのハンターは40近い年齢になってるし、中には60近い人だっているんだから、Hランクハンターが拠点にしている国だって、そう考えてもおかしくはないわ。
「そんなことしなくても、しっかりと断りますよ」
と大和は言うけど、それもそれで失礼なのよ。特に今回のように、褒美として姫をあてがわれた場合は。
「それは無理だ。まあ余程無茶な話は、プリム殿をはじめとした婚約者達が止めるだろうが、君が直接断るのは難しいと思っていた方がいい。君がどう思っていようと、既にアミスター、バリエンテの姫と婚約しているのだからね」
ラインハルト殿下にそう言われて口を閉じたけど、やっぱり納得いってないみたいね。大和の世界じゃ一夫一妻が普通で、恋愛結婚がほとんどだって話だから、そう考えるのもわからないでもないけどね。
「だけどアミスターからお姫様が二人も嫁いで来れば、簡単には大和を引き込むことはできなくなるのよ。アミスターとしてもHランクハンターを手放したくはない、私達としてもフィールを拠点にするわけだから都合がいい、マナやユーリアナ姫としても望みが叶うわけだから、むしろ大歓迎、というわけ」
「俺の意思は!?」
「まあまあ。つまりそうすることが、すべて丸く収まることになるわけですよ」
それでも問題は出てくるだろうけどね。国としては強く出れなくなるけど、個人としてとなると話は変わるから。
「迷惑なのはわかってるわ。だけどこんな気持ち、初めてなのよ。今日だってプリムと再会できることを楽しみにしてたはずなのに、あなたに会える喜びの方が大きかったし……」
「お姉様……」
「ごめんね、ユーリ。あなたの方が先に好きになったのに、私が割り込む形になっちゃって……」
「謝らないでください、姉様。私は嬉しいです!みなさんとも上手くやっていけると思いますけど、やっぱりお姉様がいてくださると、安心できますから!」
健気よね、ユーリアナ姫は。今回の事だって最初はすごく驚いてたけど、そこはやっぱり一国のお姫様。アミスターの利点を伝えると、ちゃんと納得してくれたんだから。
「というわけよ、大和」
「わかったよ。俺がどう考えてようと、周りがそれを理解してくれるかは別だし、フィールでも動きやすくなる。それに一度了承したんだから、ユーリ姫もマナリース姫も泣かせないし、幸せにするよう努力するさ」
さすが大和。マナもユーリアナ姫も嬉しそうで何よりだわ。
「よかった。国としても前例がないことだったから、家臣を説得するのはなかなか骨が折れたが、これで私の苦労も報われるというものだ」
でしょうね。ユーリアナ姫を嫁がせることでさえ反対はあったでしょうし、そのうえマナもとなれば、反対しないほうがどうかしてるわ。
これがAランクだったら難しかっただろうけど、単身でオーク・エンペラーを倒すことができるHランクハンターともなれば、絶対に手放したくはないし、是が非でも囲い込みたいと考えるわよ。そう考えると、オーク・エンペラーとかを狩っておいたことは、プラスに働いたことになるわね。
「それに関する話になるんだが、近々父上は退位され、私が王位を継ぐことになる。フィールでの暗躍に気づけなかった責任を取らなければならないし、今回の婚約でマナとユーリの王位継承権は消滅してしまうから、区切りとしても丁度いいと判断されたようだ」
それは初耳ね。だけどフィールでの暗躍を気づけなかったのは王家の責任でもあるし、大和がいなければ最悪の事態も十分ありえたわけだから、責任を取って退位するのはわからない話でもないわ。他国でもそうだけど、ハンターと結婚した王女の王位継承権はなくなるから、問題が起きる前にラインハルト殿下が新国王として即位するっていう考えもわかる。あ、私の継承権はとっくの昔に剥奪されてるから、何の問題もないわよ。
「兄様が即位されるということは、継承権はレスハイトが第一位になるわね」
レスハイト・ラグナルド・アミスター殿下はエリス様の御子息なんだけど、まだ2歳なのよね。だけどマルカ様だっておられるし、この先も子供がレスハイト様だけってことはありえないから、王位継承問題は何とかなるんじゃないかと思うわ。この問題に関しては、ラインハルト殿下に丸投げする形になるけど。
「いつ即位されるのですか?」
「年が明けてからになるだろう。準備もあるし、君達も招待したいから、なるべく早く、アミスターに帰ってきてもらいたい」
年明けということは、二ヶ月後ぐらいかしらね。それぐらいなら、私達もフィールに戻ってる可能性が高いわ。
私達はこの後、バレンティア竜国に向かうことになっている。もちろんマナとユーリアナ姫も連れていくわよ。二人ともハンターなんだからね。
―大和視点―
「君とマナ、ユーリの婚約は明日発表されることになってるから、バレンティアに向かうまでは、城に滞在するといい」
「ありがとうございます」
正直、納得できたわけじゃないが、わからない話でもない。だがユーリ姫とは約束してたし、マナリース姫はプリムの大切な幼馴染だから、これ以上俺がごねてしまえば、二人だけでなく、他のみんなまで傷つけてしまうかもしれない。それだけはしたくないからな。決して、エルフのお姫様が二人も嫁になったぜヒャッホイ、なんて思ってないぞ?
「では私達は失礼するよ。マナ、ユーリ、幸せになるんだぞ?」
「ありがとう、兄様」
「はい!」
そういうとラインハルト殿下、エリス様、マルカ様は部屋を出て行った。
「さて、それじゃ今後の予定を決めちゃいましょうか」
「そうですね。バレンティアに向かうのは当然としても、しばらくは王都にいなければいけませんから、それまでどうするかを決めないと」
「私達としては、ユーリアナ姫様だけでなく、マナリース姫様もご同行されることになるとは思ってなかったんですけど」
俺もだよ。ユーリ姫を迎えに来たら、もう一人お姫様がついてくるとは夢にも思わなかった。しかもそれを明日公表とか、王都を歩いてたら刺されるんじゃなかろうか?
「それについては、本当にごめん。だけど私もGランクだから、迷惑はかけないと思うわ」
「私はまだM-Sランクですから、みなさんにご迷惑をおかけすることになると思います……」
一か月前に登録したばかりだからな、ユーリ姫は。あ、それならこうすればいいか。
「ならミーナだけじゃなく、ユーリ姫とマナリース姫にも、俺達が使ってる魔法を覚えてもらえばいいだろ。それにアルカにも連れていきたいしな」
「大和様、正式に婚約したのですから、ユーリと呼び捨てにしてくださいまし」
「わ、私もよ。その、マナって呼んでくれれば……。も、もちろん、みんなもよ!?」
なんていうか、ユーリよりマナの方が初心だな。本人達の希望だし、正式に婚約したわけだからそう呼ばせてもらおう。
そのマナは、今まで恋とかしたことがないらしく、俺が初恋になるんだとか。物語なんかも読まないし、そんな暇があれば剣を振ってたそうだから、今の感情を持て余してる感じだな。
逆にユーリは、サザンカ王妃の影響もあって物語を愛読してたし、王城内の恋愛関係にも興味津々だったんだと。どうりでマセてるわけだが、それは別にいいか。
「そういえば、マナは剣を使うけど、ユーリの武器は?」
そういえばそうだ。マナの剣はさっき見せてもらったけど、陛下が作られただけあって、立派な物だった。だけどユーリは、一応訓練はしていたみたいだが、剣とかは苦手だって聞いた覚えがあるぞ。
「私は杖です。お父様がミスリルで作ってくださいましたから、剣より軽くて、丈夫です。特別な技術がなくても使うことができるからと、お兄様にアドバイスもいただきました」
杖ってことはハンマーとかの鈍器系か。確か白い魔導士系が使ってたな。
鈍器と侮るなかれ、叩き潰すことを目的とした鈍器は、剣や斧なんかよりも高い威力を出すことが珍しくないし、刃を通しにくい重装鎧なんかにはとても効果が高い。最低限の技術は必要だが、ユーリだって訓練はしてたわけだし、レベル的にもそれぐらいはできるだろう。それにマナを含めても、俺達は全員が近接前衛だ。それならいっそ、後方支援タイプになってもらうのもアリかもしれない。
ちなみにこちらが、マナとユーリのライブラリーになります。
マナリース・ラグナルド・アミスター Lv.30 19歳
ハンターズギルド:アミスター王国 フロート
ランク:G
アミスター王国第二王女、狩人姫、客人の婚約者
ユーリアナ・ラグナルド・アミスター Lv.21 14歳
ハンターズギルド:アミスター王国 フロート
ランク:M-S
アミスター王国第三王女、客人の婚約者
ユーリはこの一ヶ月ちょっとの間に誕生日を迎えたそうで、14歳になっていたし、マナはレベルが30と、Pランクに片足を突っ込んでいた。レイドの表示がないのは加入してないからで、何かしたい場合は懇意にしているレイドに協力を求めることになるんだとか。俺と婚約したからウイング・クレストに入るのは決まってるが、それでも問題は起きそうなんだよなぁ。
「そういえば大和、マリサに調べてもらったけど、あなたがフィールに来るまでの足取りが、どうしてもつかめなかったのよ。あなたってどこの出身で、どうやってその強さを身に着けたの?」
マナが疑問を挟んできたが、わからなくても当然だな。マナとユーリにも話すつもりだったし、せっかくだしアルカに連れていくか。
「ちゃんと説明するよ。だけどここじゃなく、アルカでな」
「先程もおっしゃっていましたが、アルカとは何なのですか?」
「行ってからのお楽しみだ」
俺はボックスから石碑を取り出し、転移陣を起動させ……
「大和、さすがにここじゃマズいわよ」
「王城には結界がありますから、多分石碑も使えないと思います」
ようとしたんだが、プリムとミーナに止められた。確かにゲート・ミラーで王城に侵入されたりしたら大変だから、それなりの対策はしてあるよな。となると、場所を変える必要があるな。さて、どこがいいかね。
もっともらしい理由で、お姫様二人が婚約者の仲間入りをしております。ユーリはともかく、マナも予想されてた方が多いとは思いますが、何も考えてないわけではないですよ?




