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刻印術師の異世界生活  作者: 氷山 玲士
第三章:嫁の実家へ、挨拶回りの旅に出ます。アミスター王国編
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049・王様との謁見

「よくぞ参られた。私がアミスター王国国王、アイヴァー・ラグナルド・アミスターだ」

「ヤマト・ミカミです」


 膝をついて一礼し、そこでようやく顔を上げることを許された。目の前にいたのは、どうみても20代にしか見えないエルフの男性だが、王冠もしている。この人がアミスターの王様か。


「貴公には礼を言わねばならん。バリエンテの動向を窺うばかりで、レティセンシア、そしてアバリシアがフィールを狙っていたことは、私はまったく気づけなかった。貴公とプリム殿の活躍によって、フィール、そしてアミスターは救われたと言っても過言ではない。そればかりかマイライト山脈に出現していたというオーク・エンペラー、オーク・エンプレスまでも討伐してくれたのだから、我らとしてはいくら感謝してもしたりぬ」

「いえ、どちらも偶然ですし、俺……私一人の手柄ではありませんので」

「そんなことはないだろう。ユーリを救ってくれたのは君だし、オーク・エンペラーは君が、オーク・エンプレスはプリム殿が一対一で倒したと聞いている。ユーリの兄としても、この国の王子としても、そして一人のハンターとしても、君には本当に感謝するし、同時に尊敬もするよ」


 こちらのお方がラインハルト・ラグナルド・アミスター第一王子殿下で、種族はエルフだ。隣には第一王子妃でハイエルフのエリス・ラグナルド・アミスター様と、第二王子妃で栗鼠リスの獣族マルカ・ラグナルド・アミスター様もいらっしゃる。マルカ王子妃はGランクハンターで、ラインハルト王子が懇意にしているレイド、トライアル・ハーツのリーダーの妹さんなんだとか。しかもエリス王子妃もトライアル・ハーツと縁がある人だから、妃同士の仲も良く、三人で狩りに出ることもあるらしい。


「もったいないお言葉」

「我が国の英雄に、いつまでもそのような恰好をさせておくわけにもいかん。楽にしてくれ」

「はっ」


 許可が出たので、俺はその場に立ち上がった。

 トールマンさんやディアノスさんに、許可がでるまでその恰好を崩さないように注意されてたからな。普段ならそこまでは言わないし、アイヴァー陛下も気にされないそうなんだが、初対面だし、何よりユーリ姫をいただきに参上したわけだから、礼を欠くわけにはいかない。


「ほう、見事な鎧だ。洗練されたデザインもさることながら、実用性も防御力も高い。もしや、リチャード師の作かね?」

「いえ、こちらの剣はそうですが、こちらはリチャードさんの孫、エドワードに作っていただきました」


 アイヴァー陛下はPランクの鍛冶師らしいから、俺の装備に目がいくのもわかる。


「ほう、エドか。なかなか腕を上げたではないか」


 どうやら陛下は、エドとも面識があるようだ。師匠の孫なんだから普通は当然なんだろうけど、それが王様だと普通の事でもすごく感じるな。


「そして、その剣がリチャード師の作か。少し見せてもらってもいいかね?」

「構いません」


 ディアノスさんも言ってたから、アイヴァー陛下が興味を持つだろうことは予想できてたよ。俺は剣を鞘ごと抜くと、ディアノスさんに手渡し、アイヴァー陛下はディアノスさんから剣を受け取り、鞘から刀身を抜き放った。


「うむむ……さすがは我が師。これほど見事な剣を作り上げるとは……。やはり私も、もう一度フィールに……」

「父上?」


 ラインハルト殿下がわざとらしく咳払いをしたが、大臣さん達も薄緑の美しさに見とれていたし、そのラインハルト殿下本人だって、チラチラと薄緑を見てたりする。実際性能はいいし、使いやすいからな。


「これほどの業物を見せられては、私が打った剣などナマクラでしかないな」


 アイヴァー陛下が大きく溜息を吐いたが、ラインハルト殿下、マナリース殿下の剣はアイヴァー陛下御自らが作ったと聞いてますよ。フロートのギルドでばったり会ったファリスさんも言ってたけど、市販の剣なんかより性能は上だし、トライアル・ハーツやホーリー・グレイブの何人かにも下賜かししてて、ファリスさんのバトル・アックスも陛下の作なんだそうだ。今までいくつかの斧を使いつぶしてきたファリスさんだが、そのバトル・アックスはアダマンタイトで作られていることもあって、今で使っていたどの斧よりも手に馴染むし、使いやすいって言ってたよ。


「さすがは陛下のお師匠様ですね」

「その時は、私達もお供させていただきますよ」


 第一王妃のロエーナ・ラグナルド・アミスター様と第二王妃のサザンカ・ラグナルド・アミスター様も、薄緑を見ながらうっとりしている。美術品としても、相当な価値がありそうだからな。あ、ロエーナ王妃がラインハルト殿下とマナリース姫の母君でエルフ、サザンカ王妃はユーリ姫の母君で人族だ。ロエーナ王妃はメディカルギルドに、サザンカ王妃はマーチャントギルド登録されていて、どちらもGランクだそうだ。


「いい物を見せてもらった。感謝するぞ」


 満足したアイヴァー陛下は、薄緑を鞘に納めるとディアノスさんに手渡し、俺はディアノスさんから受け取った。


「しかしこれほどの業物を見せられては、私が打った剣では褒美にはならんな。それだけで済ませるつもりもなかったが」


 いや、王様の打ってくれた剣って、それだけで十分すぎるほどの褒美だと思いますよ。実際に使うかどうかは別だけど。


「リチャード師の作は、アミスターでも最高峰の物ですからね」


 あ、やっぱりそうなのか。というかそんな人なら、王家に召し抱えられても不思議じゃないんだけどな。まあリチャードさんなら断るだろうけど。


「陛下、歓談は後程お願いいたします。簡易的な物とはいえ、式典の最中なのですからな」


 確かこの人、宰相だったか。名前は知らんけど、謁見の間に入ると同時にディアノスさんが教えてくれたな。というかこれ、式典だったのかよ。そりゃ俺の態度も、事前に注意されるよ。


「そうであったな。では続けるとしよう。Hランクハンター ヤマト・ミカミよ。レティセンシア、アバリシア、そして元ギルドマスターの陰謀からフィール、そしてアミスターを救ってくれたこと、深く感謝する。そしてマイライト山脈に出現していたオーク・キング、クイーンの異常種であり、我が国にとって亡国の災厄となりえたオーク・エンペラー、オーク・エンプレスを討伐してくれたことに対しても、重ねて感謝する。そしてその功績を称え、褒賞を授ける。本人の希望でもあるが、我が娘の第三王女ユーリアナ・ラグナルド・アミスター、そして第二王女マナリース・ラグナルド・アミスターをそなたに任せたい」


 こういった式典って、やっぱりかったるいよなぁ。

 一応こういった流れになるから、こんな感じで答えればいいとトールマンさんやディアノスさんにリハーサルに付き合ってもらって、オッケーをもらって、そして実際、その通りに話は進んだんだが、王様の話なんて、ほとんど耳に入ってねえよ。それにお姫様が褒美っていうのも、俺からすれば違和感バリバリだしな。王家の者がハンターに嫁ぐ場合、そういった方法を取るのが慣例ってことだから、そういうものかと無理やり自分を納得させたよ。


「はっ。姫様の御身、我が身命に変えましても、お守りいたします。……ん?」


 ちょっと待て!定番だったから聞き流してたけど、とても聞き流せない流れになってないか!?なんでそこに、マナリース姫の名前が出てきますか!?お姫様を二人もハンターに嫁がせるなんて話、聞いたことねえよ!


「今の大和殿の言葉、記録したな?」

「バッチリです、陛下!」

「でかした。後で褒美を取らす」


 書記官さんがとてもいい笑顔でサムズアップ。てめえ、その記録消せ!王様も、褒美を取らす、ぢゃねえよ!説明しろ、説明!


「すまない、大和殿。事前に説明しては、ユーリのことはともかく、マナのことは受けてもらえないと思ってな」


 ラインハルト殿下がとても申し訳なさそうな顔をされたが、マナリース姫とはさっき城の入り口で顔を合わせただけだから、受ける受けない以前の問題だ。

 腰まで届く美しいプラチナブロンドの髪、ハイエルフと見間違うほどに白い肌、エルフにあるまじき大きさを誇る二つの双丘を持つプリムの幼馴染にして、Gランクのハンターにして、才色兼備のこの国の第二王女様。

 非の打ち所がないように聞こえるかもしれないが、本人は城の中より狩場を好む、生粋のハンターでもある。王位継承権第二位だが、王位を継ぐ気はないと公言してはばからないお転婆姫様で、貴族からの縁談の話も断り続けてるし、懇意にしているホーリー・グレイブやトライアル・ハーツの男達だけではなく、フロートの全男性ハンターから高嶺の花と崇めるられている『狩人姫ハンター・プリンセス』。

 そんなお姫様が、なんでこんな話を受けたのよ!?


「それは私達が説明するわよ、大和?」


 待ってましたといわんばかりに謁見の間の大きな扉が開くと、そこにはプリム、ミーナ、リディア、ルディア、ユーリ姫、そしてマナリース姫の姿があった。お前らもグルか!?だからこの式典に参加してなかったのかよ!誰も不思議に思わないからおかしいと思ってたが、そういうことだったのかよ!

 ここが謁見の間だということも王家の方々の御前であるということも忘れて、俺は混乱しながらのたうち回ることになった。何でこうなったのか、しっかりと説明してもらうからな!

少し短めです。

簡潔に言ってしまえば、ご褒美としてお姫様を頂戴すると、まあそれだけなんですが。

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