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刻印術師の異世界生活  作者: 氷山 玲士
第三章:嫁の実家へ、挨拶回りの旅に出ます。アミスター王国編
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047・エクスキューション・オブ・メンタル

 ついに来た。俺達は今、フォールハイトの屋敷の前に立っている。めさめさ緊張して、口から心臓が飛び出してきそうだ。

 フォールハイト家は貴族ではなく騎士の家系だが、お義父様は騎爵きしゃくという、実力のある騎士が当代だけ名乗ることを許された爵位を授かっているため、騎士でありながら貴族でもあるという、俺からすればややこしい話になってるんだそうだ。


「ちょっと大和、さっきからずっと黙ってるけど、大丈夫なの?」

「お、おう……!」


 大丈夫なわけがない。心の準備はしてきてるが、いざ実家に来てみると、これまでとは全く違う緊張が次から次へとやってきて、俺の覚悟と決意を鈍らせてくれる。


「ミーナ、帰ってきたか」

「はい、ただいま戻りました、父さん」


 お義父様ですと?いつの間に俺の背後に!?少なくとも、家から出てきた気配はなかったぞ!?


「うん、いい感じで緊張してるね。まさか、周囲が見えてなかったとは思わなかったけど」

「本当にね。男の人にとって、相手の実家への挨拶は命がけだって聞いたことがあるけど、大和さんを見てると本当なんだなって思えるわね」


 ルディアとリディアの言う通りだよ。又従兄が結婚する時も、相手の、特に父親がすごい剣幕だったって言ってたからな。俺より強い又従兄が、本気で死を覚悟したって言ってたんだぞ。そら怖気付きもするわ!


「まったく。ミーナのお父様には、トールマンさんが報せてくれるって言ってたでしょう」


 あ、そういや聞いた気がする。しかもついさっき。あれ?だけどなんで、記憶にないんだ?


「緊張しすぎて、会話が右から左に抜けちゃってたんですね」


 ……そうみたいですね。我ながら情けないと思う。初対面でいきなり情けない姿を晒すことになるとは……。


「遠いところを、よくぞ参られた。こんな所で立ち話もなんだ、続きは屋敷に入ってからにしよう。じきにレックスも帰ってくる」

「ありがとうございます」


 俺達は屋敷の居間に通された。家令の執事さんやメイドさんなんかもいたけど、正直アウト・オブ・眼中だ。俺の頭は、どうやってお義父様やお義母様、そしてお義兄様になるレックス団長に挨拶するかでいっぱいいっぱいなんだよ。


「改めて自己紹介をさせてもらおう。ミーナの父、ディアノス・フォールハイトだ。アミスター近衛騎士団の副団長を務めている」

「初めまして、ミーナの母、アンナ・フォールハイトです。皆さんにはミーナがお世話になっています」

「い、いえ、こちらこそ。ミーナには色々と助けられています」

「アミスターの英雄である貴公にそう言っていただけると、私としても嬉しいな」

「そうですね。それにこちらのお嬢さん達だけでなく、ユーリアナ殿下ともご婚約されているのですから、そんな方がミーナとも婚約してくださったことは、私達としても感謝しかありません」


 いや、そんなご大層なことじゃないでしょ。Hランクハンターとの縁は、貴族なんかが喉から手が出るほど欲しがるって聞いてるけど、俺はハンターになったばかりの若造ですよ?


「大和からすればそうなんだろうけど、Hランクハンターは世界に十人しかいないんだよ?」

「しかも半数は実ランクはAですからね。それにプリムさんとも縁ができるわけですから、普通なら飛び上がって喜ぶところですよ」


 ああ、そういうことになるのか。Hランクに女性は二人しかいなくて、しかも一人はA-Hランクだから、実質的なHランクの女性ハンターはプリムだけになる。そのプリムとも婚約してるわけだから、確かに二人のHランクと縁ができるな。ミーナとの結婚を最初に薦めてきたのが、他でもないプリムなわけだからな。


「レックスから聞いたが、なんでも大和殿とプリム殿が初めてフィールに訪れた際、町を案内したのがミーナだったとか」

「はい。ハンターズギルドだけじゃなく、宿や武器・防具屋も案内してもらいました。俺達が今身に着けている装備も、その店で作ってもらったものです」


 実際、武器・防具を買うだけなら、リチャードさんの店でなく、ギルドでも良かったわけだからな。教えてくれたミーナには、すごく感謝したよ。


「ほう、作ったということは、オーダーメイドか。フィールでそのような物を作れるとなると、リチャード殿か?」

「ご存知なんですか?」

「無論だ。なにせ、陛下の師匠に当たる方だからな」


 マジですか?王様が弟子って、どういうことなんだよ?あ、スミスギルドは徒弟制だから、たとえ王様であっても、誰かの弟子にならないといけなかったんだっけか。それにしても王様が弟子って、すごい話だな。


「武器はそうですけど、防具はリチャードさんの孫のエドワードが作ってくれたんです」

「ほう。変わったデザインだと思っていたが、リチャード殿のお孫さんも関わっていたのか。まだ若いというのにこれほどの物を作り上げるとは、さすがはリチャード殿の孫だ」


 本人の与り知らないところで、密かに株を上げるエドが不憫だ。実際はマリーナにも手伝ってもらってたから、全部があいつの手柄ってわけでもないんだけどな。


「それで、王都へはユーリアナ殿下のお迎えに?」

「は、はい。それもありますが、ミーナ、さんのご家族にも、ご挨拶をと思いまして!」


 ついに来てしまった、この時が!ヤバい!今まで生きてきた中で、一番緊張してるかもしれん!頭が真っ白になってきた!ヤベ、なんて言おうとしたのか思い出せねえぞ!


「それはそれは、ご丁寧にありがとうございます」

「感謝しますぞ、大和殿」


 いや、まだ何も言ってないのに礼を言われても、こっちが困るんですけど!?早く何か言わないと!ああ、でもなんて言えばいいんだ!?こんな時、どうすればいいんだ!助けて、ドラ○もん!!


「えっと、その……俺はハンターです。もしかしたら聞いてるかもしれませんが、無茶なこともしますから、ミーナ、さんに、心配をかけることもあるでしょう。それに……ここにいる子達や、ユーリアナ様といった婚約者もいます。だけど、必ず、ミーナを幸せにします。ですから……ですからミーナを、俺にください!」


 ヤベえ、自分でも何言ってんだかわからなくなってきた!なんかすっげえ顔が熱いぞ!頭を下げてるから周りがどんな顔してるかわからんが、怖くてとてもじゃないが見る勇気はでないぞ!


「……顔を上げてくだされ、大和殿。貴公が娘をどう思っているのか、しっかりと伝わってきましたぞ」


 無理です、上げれません。清水の舞台から飛び降りたとしても、ここまで怖い思いはしないと断言できる。心臓バクバクしまくってるけど、これ、元に戻るんだろうな?確か心臓の鼓動って、一生で回数が決まってるって聞いたことあるぞ。こんだけ早く動いてたら、俺の寿命なんてマッハで削られて無くなりそうな気がして仕方ないんだが。


「大和殿、他の婚約者殿達と同様に、ミーナを頼みますぞ」

「娘が幸せなら、それでいいのですから」

「え?」


 思わず顔を上げてしまったが、ディアノスさんもアンナさんもとても優しい顔をしていた。本当にミーナの幸せを願ってるのがわかる。というかこれは、認めてもらったってことでいいのか?


「ありがとうございます、大和さん!」


 ミーナの方を見ると、感極まって涙を流していた。そこでようやく、俺は実感することになった。


「必ず、幸せにします!」


 俺はもう一度頭を下げると、今度は力強くご両親に告げた。


「ただいま。大和君達が来てるって聞いたんだが?」


 丁度そのタイミングで、レックス義兄さんが帰ってきた。お久しぶりです。


「遅いぞ、レックス。今しがた、大和殿からご挨拶をいただいたところだ」

「お久しぶりです、レックスさん。もうちょっと早く帰ってきてれば、赤面必死の大和のプロポーズが聞けたのに」

「ミーナなんて、感極まって泣いちゃってるしね」

「それは残念だな。俺も見たかったよ」


 やめて、その公開処刑!もうなんて言ったのか、自分でも覚えてないんだから!赤面必死どころか、こっちは本当に命だけだったんだから!ミーナだって、顔から火を吹いてますよ!比喩じゃなく、本当に周囲の空気が燃えてるよ!?


「そうすると、やはり拠点はフィールで?」

「え?ええ、そのつもりです」


 もともと、ってわけでもないが、ハンターになってからずっとフィールにいたからな。それにアルカをベール湖に降ろすから、フィールを拠点にすることは決定事項になっている。


「ふむ、私達も行ってみたいものだが、この後は陛下にも挨拶をするのだろう?」

「……そのつもりです」

「あなた、陛下にも教えて差し上げたら?これだけ熱意と誠意のあるご挨拶なんて、初めて聞いたことだし」

「それもそうだ。陛下もご自分の娘を嫁がせるわけだから、彼が誠実な人間だとしれば安心なされるだろう。明日にでもご報告させていただくことにしよう」


 何そのロイヤル・エクスキューション!?俺にまた、あんな挨拶をしろってこと!?覚えてないし、何よりユーリ姫とは数日しか話してないんですよ!?それなのにそんな無茶ぶりされても、どうしたらいいのかわかりませんよ!?


「うん、いい塩梅に混乱してるわね」

「それでもしっかりと、陛下にご挨拶なさるんでしょうね」

「ついでにうちの実家にもね」


 プリム達も面白そうだな、って顔してやがる!確かに見てる分には面白いんだろうが、俺からすれば、斧を構えたエクスキューショナーが背後に立ってるのと変わらんのだぞ!


「ですね。そういえば父さん、トールマン様から聞いてませんか?」

「聞いているが、さすがにすぐには無理だ。一両日中には準備が整うだろうから、それまではうちに滞在するといい」

「ありがとうございます」

「私達も、よろしいんですか?」

「無論だ。大和殿の婚約者なのだから、私達にとっても娘同然だよ。厚かましく思われるかもしれないがな」

「とんでもありません。ご厚意、ありがたくお受けさせていただきます」


 というわけで、俺達は王城から呼び出しがかかるまで、ミーナの実家に厄介になることになった。ご両親にも認めてもらったし、これでミーナは、名実ともに俺の婚約者になったわけだが、式はリディアとルディアの実家にも挨拶するまで待ってもらうことにした。娘の花嫁衣裳を見たい気持ちはどこの世界でも変わらないみたいで、残念そうな顔をされてしまったが、ユーリ姫のこともあるから、式を挙げるのはフロート一択になる。そうなるとリディアとルディアのご家族も招待しなきゃいけないし、アルカのこともあるから来年になるのは間違いないんだよな。ヘリオスオーブの式がどんな感じなのかも知らないから、そこから始めないとだし。それにしても結婚するって、本当に大変なんだなぁ。

私は経験ありませんが、相手の親御さんへのご挨拶って、本当に緊張するそうですね。大和は最低でも後二回しなきゃいけないわけですから、心労も相当なものだと思われます。

初ということもあるので大袈裟なタイトルにしてますが、既に認められてたということもあるので、そこまででもなかったわけです。

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