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刻印術師の異世界生活  作者: 氷山 玲士
第二章:客人の遺したモノ
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038・天空島の利用方法を決める会議

 ―リディア視点―


「俺としてはフィールに家を買って、そことここを転移陣で繋いだら、と思うんだ」


 アルカを案内してもらった私達は、これからどうするのかを館の一室で話し合っています。私としてもここに住むのは賛成なんだけど、大和さんが心配するように、アルカの存在を明かすのはよくないと思うんです。これだけ大きな島を空に浮かせたり、結界を発生させたりしている魔道具もあるから、それだけで十分狙われる理由になりますからね。だけど大和さん、それはそれで問題じゃありませんか?


「大和の考えもわかるけど、フィールの方でも誰か雇う必要が出てくるわよ?誰もいなかったら泥棒とか入るかもしれないし、かと言ってコロポックルに任せたら、アルカがどうなるかわからないし」


 そうなんですよ。アルカはコロポックルとオートマトンが維持してくれてますけど、フィールで家を買ったとしたら、そちらの管理まで任せてしまうことになるし、そうなったらコロポックルの手が回らなくなります。オートマトンは貴重な魔道人形ですし、作れる人は少ないですから、フィールで使うわけにはいきません。どこで手に入れたのかとか、誰が作ったのかとか、絶対に聞かれます。

 かといって安易に人を雇うのも、問題があります。もちろんアルカのことを口外しないことは約束してもらいますけど、それだって絶対じゃありません。何かのはずみで知られてしまうことは、十分に考えられるんですから。


「それは俺も思ってるんだが、他に考え付かなくてな」


 私も代案が思いつきません。プリムさんやルディアも同様みたいで、さっきからうんうん唸ってます。


「問題はさ、ユーリアナ姫だと思うよ?あのお姫様、本当に大和のお嫁さんになれると思う?」


 ルディアの言う通りです。目下最大の問題は、国王陛下を説得しているであろうユーリアナ姫様なのです。もしユーリアナ姫様が大和さんに嫁いできたら、当然ですけど私達と一緒に住むことになります。それはいいのですが、そうなると当然、国王陛下にもどこに住むのかお伝えしなければなりませんし、訪ねてこられることもあるかもしれません。そこで、フィールの家はダミーで実はアルカで暮らしてます、なんて言うわけにはいかないのです。国を転覆させるとか、王位を狙ってるとか、そんなことは考えていませんが、大和さんのことを快く思わない貴族なんかは、必ず陛下に翻意有りと吹聴し、軍なんかを差向けてこようと考えるかもしれません。それこそ国を割る愚行ですが、どこにでもそんなことを考える馬鹿な貴族はいるものです。


「大和がHランクになったことは向こうも知ってるはずだから、王家としても繋がりを持ちたいはずよ」

「確かアミスターには、Hランクのハンターはいないんだったよな」


 Hランクは大和さんとプリムさんを含めると十人ですが、そのうち五人はレベル50になっていない、A-Hランクという特別なランクになっています。なのでレベル61以上のHランクハンターは、バレンティアに一人、トラレンシアに一人、アレグリアに一人、そして大和さんとプリムさんの五人しかいないのです。プリムさんは女性で、さらに大和さんと婚約していますから除外しますが、他の三名の方も、どこかの王家の方とご結婚されていますから、大和さんも王家の方と結婚される可能性は非常に高いわけです。


「王家の人となりがわかってれば、ここまで悩まなくてすんだんだけどな」


 アミスター王家は、国土が大きいにも関わらず、領土欲や支配欲は持ち合わせていません。中にはそういった方もいるでしょうが、基本のんびりしていますし、一般市民の生活を第一に考えている方が多いともっぱらの評判です。それにこのアルカを作った客人まれびとも、アミスター王国を拠点にしていたのは事実ですから、ある程度は受け入れてくれる可能性があります。


「ユーリ姫が俺に嫁いでくるとしてだが、王都に住むことになるわけじゃないよな?」

「それは大丈夫だと思う。ハンターとしての活動拠点がなければ別だけど、あるならそっちを優先しないと、国としても困ることになりかねないわけだし」

「それもそうか」

「それにフィールを拠点にしていれば、レティセンシアにも睨みを利かせられるから、アミスターとしても願ったり叶ったりじゃないかしらね」


 私もそう思います。プリムさんは言いませんでしたが、バリエンテ方面も警戒することができますから、まさに一石二鳥です。

 この一ヶ月で、バリエンテからは高ランクのハンターが、ほとんど撤収してしまいました。暴獣王ギムノス・バジリウス・バリエンテがハンターの逮捕命令を出したからです。理由はプリムさんと、従兄のPランクハンターであり王位正統継承者でもあるレオナス・フォレスト・バリエンテ王子の二人を捕まえるためです。

 先代獣王を暗殺し、王位を簒奪したギムノス暴獣王は、アミスターやバシオン教国を侵略したいようなのですが、プリムさんとレオナス王子を強固に支持している派閥も多いため、内部分裂に近い状態なんだとか。特にレオナス王子の支持者にはハンターも多いため、レオナス王子の支持基盤を弱体化させるために、安易にハンターを捕まえているそうなんです。

 もちろんハンターも、理不尽極まりない理由で捕まるつもりはないので、バリエンテ戦士団と一戦交えたという話もよく聞きます。当然ですがこれはハンターズギルドにケンカを売っていることになるので、総本部からも使者が赴いたそうですが、生きて帰ってはこなかったとライナスさんが言っていました。プリムさんには申し訳ないですけど、バリエンテはもうどうにもならないような気がします。


「レティセンシアやバリエンテの牽制ぐらい、いつでも勝手にやるけどな」

「それはそれでしょ。ところで肝心なことを聞き忘れたんだけどさ、アルカに来るにはどうしたらいいの?」

「あー、そういやそうだ。俺も石碑を持ってこようと思ってたから、それ以外じゃまったくわからん」


 確かに忘れていました。毎回毎回マイライトの山頂から、石碑の転移陣を使ってくるのは大変です。かといって空を飛んでくるのも、結界があるので無理ですから、石碑を使う以外、まったくわかりません。


「どうなの、シリィ?」

「方法はございます。私達が町へ赴く際には、ゲート・ミラーを付与させたクリスタイト製の魔道具を使用しております。一度魔力を認識させれば、他人が使用することはできなくなりますので、安全面も問題ないかと。また一人だけですが、一緒にお連れすることも可能です」


 魔力認識で他人の使用を防ぐことができるなんて、これ以上の安全対策はないですね。普段はボックス・ミラーに入れておけばその心配もないから、壊される可能性も低いし、一緒に連れてくることができるのが一人だけというのも悪くありません。ユーリアナ姫様やミーナさんを連れてくるにしても、わざわざマイライトを経由しなくてすみます。


「なるほどな。で、その魔道具は?」

「こちらです。ゲート・クリスタルと名付けられております」


 ゲート・ミラーを付与させたクリスタイト製の魔道具だからゲート・クリスタルって、けっこう安直ですね。だけどわかりやすくていいかも。それに思ったより数があるから、私達が一つずつ持っておくのがいいでしょうね。


「魔道具だから、魔力を流せば使えるのよね?」

「はい。それから館の玄関と対になるよう、マーカーを設置していただきたく思います」

「どういうこと?」

「ゲート・クリスタルはゲート・ミラーが付与されているとはいえ、用途はアルカへの往復です。外からの転移は玄関門のクリスタイトをマーカーにしているため、問題はありません。ですがアルカからの転移は、マーカーがなければ転移することができないのです」


 それはまた……問題ですね。つまり今ゲート・クリスタルを使っても、私達は転移することができないわけですか。ということは石碑を使ってマイライトに転移して、そこからジェイドとフロライトに乗って帰ることになるわけですね。


「マーカーか。自宅に設置ってのが無難なんだろうな」

「そうなるわよね。となると、やっぱり家を買うしかないってことになるわね」


 それもまた難題なんですよね。家を買うにしても、ユーリアナ姫様が大和さんに嫁いでこられるかどうかで条件が変わるわけですから、おいそれと購入するわけにはいきません。かといって適当な所に設置するのも問題があります。それなら思い切って、ベール湖に着水させた方が簡単です。


「いっそのこと、ベール湖に浮かせちまうか?」

「そんなことして、大丈夫なの?」

「橋かなんかでフィールと繋げばいいし、周囲を結界で覆えば泳いで侵入するのも無理だろう。その場合、知覚を遮断する必要もないからな」


 そういえばアルカを覆っている結界は、環境保護と知覚遮断を主目的にしているんでしたっけ。ベール湖に降ろせば保護する必要もなくなるし、私達が住むわけですから存在を隠す必要もなくなります。その代わり侵入者を防ぐための防護結界にするわけですか。


「そちらも可能です。というか、アルカが完成してから数年は、そのようにしておりました」


 つまり空に浮かべたままにしておくか、ベール湖に浮かべるかを選べるわけですか。これは悩みます。


「私はこのままの方がいいかな。ベール湖に降ろしたとしても、絶対に不法侵入してくる人はいるよ。私達がいるならともかく、留守にすることも多いんだから、下手なリスクは避けたほうがいいと思う」

「私もルディアと同感。ベール湖上っていうのも魅力的だけど、余計な騒ぎになるのは間違いないし、バリエンテやレティセンシアがまた余計なことをしてくる可能性が高くなるわ」


 プリムさんとルディアさんが反対します。確かに客人まれびとの遺産となれば、どの国だって喉から手が出るほど欲しいですからね。それこそミスリル鉱山の比じゃありません。アバリシアが本腰を入れてくることだって、十分にあり得る話ですから。


「それは俺も同感だが、Hランクが二人もいるんだから、簡単に手を出してはこないだろう。それにライナスのおっさんが言ってたんだが、遺跡の出土品みたいなもんは、手に入れたヤツのモンらしいぞ。トレジャーハンターになるヤツもいるらしいからな」


 確かに、Hランクハンターが二人もいるわけですから、手を出せばどうなるかは火を見るより明らかです。しかもこのお二人は、オーク・エンペラー、オーク・エンプレスという、下位種ドラゴンを軽く凌駕する亜人最上級異常種を、一対一で屠っていますから、手を出してくる人はいないと思いますけど。


「確かにそういった話はあるけど、アルカは出土品ってレベルじゃないわよ?」

「話を聞く限りだけど、アミスターの王家はそんなこと言ってこないんじゃないか?」


 それはあり得ます。アミスター王家はのんびりしていますし、過去の客人まれびとの遺産だろうと、一個人の所有物を取り上げるなんてことはしないでしょう。そしてベール湖はアミスター王国に属するわけですから、隣国のレティセンシアやバリエンテも何も言えないでしょうし、言う権利もありません。


「確かに、これが他の国だったらともかく、アミスターなら問題はない気がしてきたわね」

「バレンティアでも、調査ぐらいはするでしょうからね」

「以前ならともかく、今のバリエンテなら、絶対取り上げるわよ。それを思えば、アミスター領内に置いておいた方が安全だわ」


 先のことを考えるなら、ベール湖に降ろした方がいいのかもしれませんね。それにおそらく大和さんは、アミスターに自分の正体を明かすことも考慮しているはずです。アミスター王家はおおらかでのんびりしていますが、家臣までそうとは限りませんから。


 ―大和視点―


 どうやら決まりかな。まあ問題がないわけじゃないし、その時に考えてもいいだろう。


「それじゃあアルカは、ベール湖に降ろすってことでいいな?」

「ええ」

「はい」

「うん」


 よし、これでミーナも楽に連れてくることができるようになったし、ユーリアナ姫対策もできた。エドやマリーナ、レックス団長達も招待できるから、下手に隠すよりこっちの方がいい。


「シリィ、コンル。そういうことに決まったんだが、問題はあるか?」

「私はございません」

「ボクからは一つだけ。アルカを降ろしてからなんですが、結界をどうするかを決めていただきたいです」

「そうだな、知覚遮断を止めて、入り口以外からは入れないようにすればいいか」

「待って大和。そんなことしちゃったら、フロライトとジェイドはどうやって出入りしたらいいのよ?」


 忘れてた。というか召喚できるから、それでいいと思っていたな。


「プリム様、入り口を少し大きくすれば、問題ないと思います。それに結界があれば、空から侵入することもできなくなりますから」


 空飛ぶ従魔や召喚獣もいるし、野生の魔物もいるから、確かにそうしといた方がいいかもしれん。それにジェイドとフロライトは頭もいいから、入り口から出入りすることを教えれば、ちゃんとするだろうしな。


「なるほどね。そういうことならいいわ。町の外になる可能性が高いから、魔物への警戒は必要だしね」


 アルカは天空島というだけあって、それなりに大きい。琵琶湖並に大きいベール湖に浮かべる分には問題ないが、それでもフィールの結界内には入らない。とすれば魔物がやってくる可能性は低くないから、それを防ぐための結界は必要だ。あとは橋をどうするかだな。


「現地を見てみないと何とも言えませんが、アルカの資材で何とかなると思いますよ」


 とはコンルの談だ。そんなもんをどうやって調達したのかは気になるが、昨日の亜人討伐の報酬で資金はあるから、足りなければ買い足すし、必要なら人を雇ってもいい。


「それでは皆様、今日はもう遅いですので、このままお泊り下さい」


 おっと、そうだった。なにせもう、日が沈みかけてる。今からフィールに帰ろうと思ったら、間違いなく真っ暗になるだろう。地球と違って夜は明かりがないに等しいから、いくら空を飛んでも危険なことに変わりはない。それなら今日はこのまま泊まって、明日帰った方がいい。準備もあるし、町長にも話を通さなきゃいけないからな。明日からが楽しみになってきたぞ。

アルカを天空島のままにしておくか悩みましたが、招待する人もでてきているので、あえてベール湖に降ろすことにしました。

まあ空の上でも湖の上でも、大和の運命は変わらないんですけどね。

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