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刻印術師の異世界生活  作者: 氷山 玲士
第二章:客人の遺したモノ
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037・天空島アルカ

アルカの面積を若干修正しました。

「ではご主人様、この館と島のご案内に移らせていただきます」

「あ~……そのご主人様っての、やめてくれないか?」

「では大和様とお呼びさせていただきます」


 さすがにご主人様はむずがゆすぎたが、普通に様付けになってしまった。そっちも勘弁してほしいんだが。


「大和は主人なんだから、それは無理よ」


 と、あっさりとプリムに言われてしまった。諦めるしかないのか……。

 その後ジェイド、フロライトとコロポックル達の顔合わせを終え、ノンノに世話を任せると、俺達は館と島を案内してもらうことになった。百年も前とはいえ、俺と同じ世界、同じ国から来た客人まれびとが遺した島なんだから、気にならないわけがない。そういえばこの島、なんて名前なんだ?


「なあ、シリィ。この島、名前とかってあるのか?」

「はい。ご主人様は『アルカ』と呼んでおられました」


 アルカか。なんとなくアークに似てる気がするけど、関係はないだろうな。多分、ヘリオスオーブの言葉か何かだろう。


「へえ、綺麗な名前ね」

「ありがとうございます。それではまず、このアルカの所在ですが、フィリアス大陸東部、ベール湖の上空にございます」

「ベール湖って、アミスターの領内じゃない。私達、その近くにあるフィールにいたんだけど、全然気が付かなかったわ」

「アルカは地上から5,000メートルの上空にございますし、知覚遮断結界が施されておりますので、視認することはできなくなっております」


 なるほど、結界か。そういうことなら納得だ。それにしても上空5,000メートルっていうわりには、そんなに息苦しくないな。


「結界のおかげで、アルカの環境は作られた時と変わりございません。例えドラゴンの上位個体であっても、突破できない強度の結界ですので、破られるおそれもないと申し上げていいかと」


 そんなとんでもない強度の結界なのかよ。

 ドラゴンはこの世界にもいるが、下位個体であってもとんでもない強さを誇る。Aランクハンターが束になっても勝てるかわからず、上位個体ともなれば亜人皇帝すら凌駕する。

 だが上位個体は人語を話すこともできるし、意思の疎通は不可能ではなく、さらに人間の世界には関与しない。

 唯一、リディアとルディアの生国であるバレンティア竜国だけが、ドラゴンと共生している。

 ドラゴン達はバレンティアの中央部にあるエレミア山を住処としている。長命でもあるドラゴンは数も少ないため、エレミア山周辺だけで十分に暮らせるみたいなのだが、稀に町を襲うドラゴンもいるらしい。

 それはドラゴンの長である聖母竜マザー・ドラゴンの意向を受け、バレンティア竜騎士に協力しているドラゴンが、バレンティア竜騎士と共に退治し、死体はバレンティアがどう扱ってもいいことになっている。それもあってバレンティアでは、純正の竜素材が取引されているんだとか。

 逆にドラゴン達に害をなした場合は、捕らえられた後、聖母竜マザー・ドラゴンの下へと送られ、そこで裁きを受ける。聖母竜マザー・ドラゴンは嘘を見抜くことができるので、無実であれば無事に帰されるが、そうでなければ生きて帰ることはできない。おっかない国だよな。


「ということは、ここから飛んで島の外に出ることはできないってこと?」


 ルディアに言われて気が付いた。そうだよ、この島の環境が地上と変わらないってことは、外気とかも遮断してるってことだから、島の外に出ることができなくてもおかしくないぞ。


「はい。残念ですが従魔であっても、転移を用いなければ島の外に出ることはできません」

「島の環境を保つためか。それはわからなくもないが、一時的に結界を解くとか、一部だけ通行できるようにするとかはできないのか?」

「できません。ご主人様はそうしたかったそうですが、どうしても結界の強度が落ちてしまいますし、再度展開することもできなかったと聞いています」


 それだけ魔力を使うってことか。島一つを丸ごと覆って、外界から遮断してるわけだから、それも納得ではあるが。


「また結界は、島からの転落を防いでおります。下が湖とはいえ、上空から牧畜などが落ちてくれば、さすがに何かあるのではと思われるでしょう」

「それは納得だけど、牧畜って、もしかしているの?」

「はい。後程ご案内いたします」


 まさか牧畜がいるとは思わなかった。この島がどれぐらいの大きさなのかはわからないが、自給自足はさすがに辛いんじゃないか?


「牧畜の世話って、どうしてたんですか?」


 リディアも気になるらしい。餌の問題もあるし、繁殖の問題もあるからな。確か親等が近すぎると、遺伝子とかに問題がでたんじゃなかったっけかな。


「時折町に降りて買い付けたり、繁殖のための売買を行っていたりしていますので、その心配はありません」


 一番シンプルな解決方法だな。わかりやすくていいけど、まさか町に降りたりしてたとは。


「それでは館のご案内からさせていただきますが、よろしいですか?」

「ええ、お願いするわ」


 ―プリム視点―


 この島、アルカって言ったっけ。本当に凄いわね。特に館なんて、客人まれびとの故郷にある物を可能な限り再現したって言ってたし。なんで部屋に草が敷き詰めてあるのかと思ったら、あれは畳っていう文化だって大和が教えてくれたわ。靴を脱いで素足で上がらないと痛めてしまうそうだけど、寝転ぶと気持ちいいのよね。この匂い、けっこう好きかも。

 大和も懐かしい懐かしいって言って、シリィや館担当のレラの案内そっちのけで見て回ってるけど、よく案内なしでわかるわね。そんな大和は放っておいて、次に案内してもらうのはお風呂。ここを作った客人まれびとは全員女性だってことだから、きっとお風呂も凄いものに決まってるわ。


「こちらが浴室です」

「すごい!」


 ほらね!リディアとルディアも目を丸くして驚いてるわ。


「こちらの浴槽は総ナビキ造りとなっております」

「総ナビキ造り!?だからこんなにいい香りがするんですね!」

「まって、姉さん!あっちにも浴槽があるよ!」


 そうなのよ!ナビキ造りのお風呂にも驚いたけど、それよりもっとすごいお風呂があったのよ!こんなお風呂なんて、考えたこともなかったわ!


「あちらが露天風呂でございます。アルカは結界があり、雲の上に位置している関係上、雨は降りません。いつでも星空を臨みながらご入浴していただくことができます」


 雨が降らないのも、それはそれで問題だけど、お風呂に入ってる最中に降られたりしたら大変だしね。それにしても広いわ。魔銀亭のお風呂も大きいけど、これはそれ以上だわ。滝は流れてるし、小さいけど庭も作られてるじゃない。貴族でもこんな贅沢なお風呂は持ってないわよ。


「こちらの露天風呂は、ご主人様のお気に入りでした。皆さんでご一緒に入られて、そのままお楽しみになられることも多々ございました。もちろん私達も、何度もお相手をさせていただいたものです」


 ……そうだったわ。その客人まれびと達、そっち系の人だったのよね。だけどこれはいい話を聞いたわ。こんな素敵な場所で大和とデキるなんて、思ってもみなかったもの。さっきから尻尾が止まらないけど、そんなことはどうでもいいわ。


「ここで大和さんと……」

「ここでなら、大和だってきっと……」


 リディアとルディアも、私と同じこと考えてるみたいね。気持ちはわかるわ。これは是非、ミーナも連れてこないといけないわ。四人で迫れば、いかに大和だって絶対に落ちる。昨夜は色々言って逃げたけど、今度こそ逃がさないわよ?


 ―大和視点―


「どうかされましたか?」

「いや、ちょっと悪寒が……」


 レラに案内してもらってたんだが、突然背筋が震えたんだよ。なんだ、これ?


「ご気分が優れないようでしたら、お部屋にご案内しますが?」

「いや、大丈夫だ、ありがとう。そういや部屋って、いくつあるんだ?」

「ご主人様が私室としてお使いになられていたお部屋は10程ですが、客間や資料室、遊戯室などをあわせますと50部屋はありますね」


 多いよ!いくらなんでも、使い切れんわ!


「ご主人様が使われていたお部屋もしっかりとお掃除してありますので、お使いいただいても何ら問題はございません」

「それだけどな、一応みんなと話してから決めることになるよ。反対はしないだろうけど、アルカの存在を大っぴらにするわけにもいかないから、簡単には決められないが」


 俺としては、このままアルカに定住してもいいと思っている。ハンターはどこを拠点にしているかは公表しないもんだが、それでもある程度は知られているし、毎回毎回町の外から来ているようじゃ、怪しまれること請け合いだ。それに国や高ランクのハンター相手じゃ、隠しきれるとも思えない。もちろん隠すつもりだが、それには俺達やコロポックル達だけでは足りない。信用できる人に協力してもらう必要がある。せめてもう少し、コロポックルがいればなぁ。


「コロポックルは私達七人だけですが、私達が使役するオートマトンがいますよ?」


 オートマトンとな?しかも使役するってどゆこと?


「私達七人だけではアルカを管理することはできませんから、私達の命令に忠実なオートマトンを作り、作業をさせているのです。魔力を認識させれば、大和様の命令も聞くようになります」


 なるほど、確かにそうだ。このアルカ、真円に近い形をしているが、面積は5k㎡ぐらいらしい。思ったよりは小さいがそれでも十分広いから、コロポックル達だけじゃ確かに手が回らん。


「そのオートマトンってのは、レラ達が作ったのか?」

「いえ、作られたのはご主人様です。私達も作って作れないことはありませんが、性能は著しく低下します。ですので今アルカにあるオートマトンは、休眠状態にしてあり、コンルが定期的にメンテナンスを行っています」


 魔道具管理担当のドワーフか。オートマトンってのは確か機械人形のことで、この世界じゃ魔法人形になるんだったか。ということは妖精のハーフドワーフでもあるコンル以外、メンテなんかもできないってことなのかもしれないな。エドが聞いたらひっくり返りそうな話だぞ、これは。

 なんにしても、どうするかは考えなきゃいけないな。

定番ですが、本拠地ゲットです。露天風呂は基本だと思うんです、はい。問題はどうやって定住するかですが、何やら大和に考えがある模様。いったい何を考えているのでしょうか?

ちなみに『アルカ』は、スペイン語で『方舟』という意味です。スペイン語習ってない大和がわからなかったのは、まあ仕方ないということで。

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