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刻印術師の異世界生活  作者: 氷山 玲士
第二章:客人の遺したモノ
36/99

036・七人の妖精

 翌日、俺達は再び、マイライト山頂に赴いていた。今日こそ遺跡の調査をするのだ。三度目の正直というやつだ。二度あることは三度あるにならないことを願う。切に願う。


「これがその石碑か。綺麗ね」

「クリスタイトなんでしたっけ?」

「多分だけどね」

「クリスタイトって、ミスリルより魔力の伝達率が高くて、減衰率も少ないんだったよな?」

「ええ。そっち方面じゃ、オリハルコンにも匹敵するって話よ」


 ミスリル鉱山で稀に産出するクリスタイト。ミスリルと同じ淡い緑銀色を放つ水晶に似た鉱石。強度や硬度はミスリルどころか鉄にも劣るが、魔力の伝達率や減衰率は上回り、質が良ければオリハルコンにも匹敵すると言われている。魔力を流せばアダマンタイトやヒヒイロカネにも匹敵する強度や硬度になるが、非常に脆い鉱石でもあるので、加工が難しく、産出量も少ないため、武の装飾や魔道具の触媒として使われることが多く、お値段もかなり高い。


「これ全部がクリスタイトでできてるとしたら、とんでもない加工技術ね」


 件の石碑は、そこそこ大きい。42インチのテレビぐらいはあるだろう。これだけ大きなクリスタイトが産出することは非常に稀なので、それだけでもとんでもない値段だし、しっかりと石碑として加工し、文字まで刻んでいるわけだから、学術的にも計り知れない価値があるはずだ。


「だけどさ、遺跡って言ってもこの石碑だけしかないよ?どこをどう調べるっていうのさ?」


 ルディアがそうこぼすのも無理はない。遺跡とは言ったが、周囲にはこの石碑以外何もないんだよな。普通ならどうするかってとこなんだが、石碑の文字が読めるから、その心配はない。


「いや、調べるのはここじゃない。あっちだ」

「何もないけど?」

「いや、どうやら空にあるらしいんだ」

「え、ええええええっ!?」

「そ、空にっ!?」


 石碑には過去の客人が遺した天空島への転移陣も刻まれていた。多分これを使えば、俺は天空島とやらにいけるのだろう。ヘリオスオーブで転移といえばゲート・ミラーが真っ先に思いつくから、多分それを応用してるんじゃないかと思う。


「なるほど、天空島ね。面白そうじゃない」

「だろ?」


 俺が遺跡の調査をしたかった理由は、天空島という存在があるとわかっていたからだ。過去の客人まれびとが遺してくれた天空島がどんなものかはわからないが、島と言う以上、某天空の城が真っ先に思い浮かぶし、実際、そんなにかけ離れてはいないと思う。それに石碑はここにあるわけだし、この場所に戻ってくることもできるだろう。万が一戻ってこられなくても、ジェイドとフロライトがいるからそこから直接飛んで帰ることもできるしな。


「ちょっと怖いけど、興味深いですね」

「空に浮かぶ島かぁ。客人まれびとの遺産じゃなかったら信じられないところね」


 リディアとルディアも興味津々だ。もう行くしかないだろ、これは!


「ああ。それじゃ行くぞ」


 念のため、プリムと手を繋ぎ、リディアは俺の右肩、ルディアは左肩を掴んだ。俺だけしか転移できなかったら困るし、こうしとけば一緒に転移できるだろうからな。多分。

 俺はゆっくりと、石碑に刻まれていた転移陣に魔力を流した。すると転移陣が光を放ち、俺達を中心に直系2メートルほどの転移門が形成された。これが空間転移魔法ゲート・ミラーか。

 俺達はそのまま、転移陣が発動するに身を任せた。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「これが……天空島か」


 その島は、天空に浮かんでいるのが信じられなかった。山はあるし湖もある。森もあるし草原だって広がっている。雲を下に見下ろす形でなければ、信じられなかったと思う。


「すごい……」

「これって……お屋敷?」


 転移した先には一軒の屋敷があった。けっこう大きいし、庭も広い。それはいい。

 だがプリムが驚いたように、外観こそ石で造られている3階建ての建築物だが、見た目は日本にある伝統的な屋敷にそっくりだった。正直、俺も驚いた。異世界で日本建築風の建物を見れるとは思ってなかったんだからな。

 しかも庭の一部は日本庭園のようになっている。あ、ジェイドとフロライトもいつの間にか庭に来ていて、しっかりとくつろいでいたよ。俺達と一緒に転移できたみたいだからな。置いてけぼりにしなくてすんだから、本当に良かったと思うよ。


「フロライトもジェイドも、気に入ったみたいね」


 プリムも嬉しそうだ。正直、こんなもんがあるとは思ってもなかったからな。俺達の拠点にすることも視野に入れることができそうだ。問題があるとすれば、デカすぎることだな。


「とりあえず、ジェイドとフロライトは庭にいてもらえばいいから、俺達は屋敷に入ってみよう」

「そうね。大きすぎるのがあれだけど、私達の家にできるかもしれないし」


 俺達は玄関へ進むと、ドアを開けた。


「広いな……」


 家の中も、まさに日本といった感じだ。外見は武士とか大名とかの屋敷風だったが、中は庭を含めて城っぽいな。と思ったら噴水らしき物が見えたりもして、なんというかチグハグな感じがする。


「すごいわね……。こんな屋敷、初めて見たわ」

「俺の世界の伝統建築に近いな。まあ明確な違いもあるが」

「そうなんですか?」


 そうなのだ。日本の家は昔から玄関で靴を脱ぐ。だがこの屋敷は、靴を脱ぐ必要がない。何故わかるのかって?土間のようなものが延々と続いてれば、そう判断するしかないでしょう。


「そうなんだ。だけどそれって、ヘリオスオーブじゃ仕方ないことかもね」

「まあなぁ」


 ヘリオスオーブで靴を脱げない理由はいくつかある。いつ何時戦いになるかわからないし、何よりグリーヴやサバトンみたいな足鎧は一度脱ぐと履きなおすのが手間だ。俺達のブーツだって、サバトンに近いからな。まあそれはそれとして、これが日本風家屋であるならば、当然あの部屋もあって然るべきだ。


「お待ちしておりました、ご主人様」


 などと俺が期待に胸を膨らませていると、奥から人影が出てきた。だが人ではない。よく似ているが、決して人ではない。というか、なんで全員大正ロマンあふれる和モダンなメイド服なんだよ?


「我々はホムンクルスです。生前のご主人様のご意向によって、ハーフフェアリーをベースに作られております」


 ハーフフェアリーってことは妖精のハーフか。なんでまた、って家を守る妖精ってのがいたな、確か。


「ハーフフェアリーって、なんでまた?妖精じゃダメだったの?」

「確か俺の世界じゃ、妖精が家を守ってくれるっていう伝説があるんだよ」

「へえ、そんな伝説があるのね」


 まあ俺が知ってるのは、座敷童子ざしきわらしぐらいだけどな。見た人に幸福を与えたり、家を守ったり、けっこう有名だから知らない人はいないと思う。


「だけどいたずら好きでもあるし小さいから、人族と同じ大きさになるようにしたんじゃないかな?」

「おっしゃる通りです。我々はコロポックルと呼ばれておりました」


 コロポックルか。確か北海道に伝わるアイヌの妖精だったな。けっこう小さいって話だったはずだから、この屋敷を管理させるために大きくする必要があったってところか。


「そういえば大和の世界って、人族しかいないって話だったわよね。確かに小さい妖精じゃ、この屋敷を管理するのは大変よね」

「はい。ご主人様もそうおっしゃっておられました」

「で、それはともかくとして、なんで俺達がご主人様なんだ?」

「転移陣を使われたということは、ご主人様が遺された石碑を読むことができたということになるからです。ご主人様は文字を読み上げ、魔力を流すことではじめて、転移陣が起動するとおっしゃっておりました」


 なるほどな。確かに転移陣に魔力を流すだけなら、誰かがやる、あるいは既にやっていた可能性がある。なんで読み上げろなんて書かれてたのかと思ったが、詠唱の代わりだったのか。そういうことなら納得だ。


「つまりあなた達は、ずっと大和を待ってたってことなの?」

「おっしゃる通りです。申し遅れました、わたくしはシリィと申します。この島のコロポックル達の統括を任されております」


 どうやらこのコロポックルがリーダーらしい。金のロングヘアーに落ち着いた感じの雰囲気がするが、もしかしてエルフなんだろうか?


「カントと申します。野山の管理を任されております」


 こっちは緑がかった金髪でベリーショートだ。活発そうし、野山の管理をしてるってことは、見た目通りなんだろうな。驚いたのは猫耳と尻尾があることだ。確かにハーフフェアリーって言っても、相手が人とは限らないか。実際エドはドワーフだし、マリーナも水竜だしな。


「アトゥイと申します。湖の管理を任されております」


 青いセミロングのこちらの方は、腕とかに鱗っぽいものが見えるから、多分ウンディーネが入ってるんだろうな。湖の管理ってことだし、適任ではあるか。


「レラと申します。館の管理を任されております」


 一番髪が長いけど、それをしっかりと結わいているな。人族っぽいし、黒髪っていうのも親近感が持てる。


「ノンノと申します。牧場の管理を任されております」


 明るい赤髪ショートの犬耳っ娘か。この子も活発なんだろうな。


「コンルと申します。魔道具の管理を任されております」


 薄いブラウンの髪を二つのお団子にしてる一番小柄な子は、多分だがドワーフなんだろう。魔道具管理に相応しいな。


「キナと申します。畑の管理を任されております」


 銀髪ツインテールときましたか。一番大柄だけど角と尻尾が竜のそれだし、多分、地竜ディノソー系だろうな。


「俺はヤマト・ミカミだ」

「プリムローズ・ハイドランシアよ。プリムでいいわ」

「リディア・ハイウインドです」

「私はルディア・ハイウインドよ」


 名乗られたので俺達も名乗り返した。それにしても牧場や畑、魔道具なんかもあるとか、ますます興味がでてくるな。それにしても、見事に五種族揃い踏みだな。翼族がいないが、これは仕方ないか。


「色々と聞きたいことはあるが、俺を待っていたってことでいいのか?」

「はい。ご主人様が去られる間際、いつか自分のような客人まれびとが来られるのではと危惧されておりました。ご主人様のように複数なのか、それともお一人なのかまではわからない、とも申されていましたが」

「複数?ちょっと待って!この島を作った客人まれびとって、本当に複数いるの!?」


 リディアが驚いてシリィに質問するが、石碑を信じる限りじゃそうなるだろう。リディアも信じてなかったわけじゃないだろうけど、当事者(?)から聞かされると、それはそれで重みがあるからな。


「はい。ご主人様は七名おられました。私達コロポックルが七名なのも、それが理由です」

「なんで七人なのかと思ったらそんな理由なのか。じゃあなんで、全員女性なんだ?」

「ご主人様は皆様女性でしたので、同性の方がいいと判断されたそうです」


 納得せざるをえない理由だな。まさか全員女性だったとは思わなかったよ。


「じゃあさ、新しい主が男の大和って、けっこう辛いんじゃないの?」


 俺もそう思うが、その質問はやめてくれ!別の意味で辛いわ!


「いえ、ご主人様の御友人方がご宿泊なされたこともございますので、問題はございません。それにご主人様も、次の主様が男性である可能性は考慮なさっておられました」

「へえ。例えば?」

「夜のお相手です」


 ど真ん中のストレート、しかも100マイルの剛速球来ましたよ!?待て待て待て待て!ってことは何か?そういったこともできるようになってるってことなのか!?


「ご主人様のお相手もさせていただいたことがございます。男性と女性では全く違うとのことですが、その辺の知識もしっかりと、ご主人様に教えていただいております」


 まさかのカミング・アウト!?全員そっち系の人だったってことなの!?つか何教えてんの!?俺はそんなことするつもりは全くないよ!?ああ、やめてみんな!そんな下げ蔑んだ目で俺を見ないで!!


「よかったわね、大和。こ~~~んな美人が7人もいて」

「待て!そもそもなんでヤルこと前提なんだよ!?」

「ヤラないんですか?」

「当たり前だ!そもそもみんなとだってまだなんだぞ!あ……」


 ぬおおおおおっ!失言だった!確かにそうだが、だからってカミング・アウトするような内容じゃねえっ!見ろ、プリム達を!真っ赤になってるじゃねえかっ!


「ご安心ください、プリム様、リディア様、ルディア様。我々は命令がない限り、ご主人様のお部屋に入ることはございません。皆様の夜の生活が円満に進むよう、いくつかのアドバイスはさせていただきますが」

「シリィ、だったわね。お願いするわ」

「かしこましまりした」

「だから待て!」


 なんで嬉しそうなんだよ、プリム!いくら婚約してるからって、最後の一線だけは越えてないんだぞ!


「落ち着いてください、ご主人様」

「大和、楽しみにしててね?」


 プリムが妖艶な笑みを浮かべた。初めて見るその顔に、俺は戦慄しましたよ、はい。


「ヘリオスオーブの女はね、相手に尽くすのよ」

「それにけっこう、性欲も強いんですよ?」


 あ、なんか眩暈が。なんでも性欲は魔族が一番強く、獣族、竜族、人族、妖族の順に弱くなるんだとか。だからなんだって話ではあるが、魔族にはサキュバスがいるから、その順位には納得してしまった。人って意外と性欲強くないんだな。というか、なんでそんな積極的なんだよ、お嬢様達!?まだミーナが帰ってきてないから無茶はしないだろうけど、帰ってきたらどうなるかが本気でこええよ!

 え?地球の奴らに知られたら、生爪全部剥がされた上で、コンクリ抱いて相模湾に沈められるって?うん、絶対に知られたくねえな。


「それはそれとして、シリィ、外に従魔もいるんだけど大丈夫よね?」


 それとして、ぢゃねえよ!俺としては死活問題だよ!だけど確かに、従魔の世話も大切だから、あえて流すよ!


「もちろんです。従魔のお世話も、我々の仕事ですから。それで、どの種族と契約なされたのですか?」

「ヒポグリフよ」

「……珍しい種族と契約されたのですね」


 シリィ達の表情が一瞬ひるんだ。よし、勝った。


「ですが問題ありません。ヒポグリフのお世話はしたことはございませんが、知識としてならございます。それにこの島には山も湖もございますから、従魔も快適に過ごせると思います。従魔のお世話は、牧場を担当しておりますノンノにお任せください」

「任せてください、プリム様。ヒポグリフは初めてお世話しますが、生態は知っていますから」


 そういやそうだったな。ヒポグリフは元々山で暮らしてるわけだし、湖があれば主食の魚にも困らないだろう。うん、環境的には何も問題ないわ。強いて言うなら、まだ親離れできてない時期だってことか。ノンノが自信満々にしてるから、そこは大丈夫だと思いたい。

 もったいぶらずに(?)登場しました天空島。予想されてた方も多いと思いますが、日本家屋風の屋敷は予想外だったと思いたい。

 テンプレですけど、どこかに拠点を作るのは当然ですし、空を飛ぶ島って憧れがあるんですよ。

 大和の先代になる客人まれびとは、今のところ登場予定はありません。百年も前の人ですし、直接の接点もありませんので。名前はいつか出るかもしれませんが。

コロポックル達の名前は、アイヌ語からです。

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