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刻印術師の異世界生活  作者: 氷山 玲士
第二章:客人の遺したモノ
34/99

034・忘れた頃のお約束

ユニーク5,000突破しました。ありがとうございます。

 ―ルディア視点―


「バッカ野郎がぁぁぁぁぁっ!!」


 ハンターズギルドにギルドマスターの怒声が響き渡った。怒られてるのはもちろん大和とプリムなんだけど、声が大きすぎるわよ。私まで耳がキーンってしちゃったわ。


「そんなに怒るなよ、おっさん」

「これが怒らずにいられるか!オークの集落を潰してくるだけならともかく、よりにもよってエンペラーとエンプレスにケンカを売ったとか、何考えてんだ、お前らはっ!!自殺志願者か!?」


 自殺志願者だってそんなことはしないと思うわよ。というかそもそも、エンペラーとかに会えるかどうかも疑わしいわ。


「なあ、なんでギルドマスターがマジ切れしてんだ?」

「……あれを見ろ」

「あれ?オーク・キングか!あいつらが倒したってのか!?」

「違う、そっちじゃない。あっちだ」

「あっち?な、なによ、あれ!?」

「まさか、エンペラーとエンプレスって!?」

「化け物か、あいつらは……」


 外野のハンター達も、一様に驚いてるわね。私もその意見に、全面的に同意するわ。

 大和達が怒られているのはハンターズギルドの鑑定室なんだけど、今のフィールには多くのハンターが訪れている。ハンターは魔物を狩ることを生業としているから、当然ギルドにも足を運ぶ。狩った魔物は鑑定室で鑑定するわけだから、ハンターの数が増えれば鑑定室に来るハンターも増える。だから大和達が正座させられて怒られてる姿も、多くのハンターが目にしているんだけど、怒られている原因に目を向けると、例外なく顔を青ざめさせていた。中には泣き出しちゃった人もいたわよ。それにPランクのハンターもいたけど、震えながらエンペラーやエンプレスの死体を見ていたわね。当然の話だけど。


「大和さんもプリムさんも、またデタラメなことしたんですね」

「あら、ラウスにレベッカじゃない」

「お久しぶりです、リディアさん、ルディアさん」

「ええ、久しぶり、ラウス君、レベッカちゃん」


 そこに大和達と同じタイミングで知り合ったラウス、レベッカも鑑定にやってきた。出会った時はCランクだったけど、今はSランクになってるし、大和達が目をかけている期待の新人ってことで、ギルドからの信頼も厚い。あの事件で、大和とプリムを除くと唯一残ったレイドなんだから、それもわかる話だけどね。


「それで、今度は何をしたんですか?」


 ラウスやレベッカも、大和達が無茶をするということはよく知っている。というか巻き込まれたわけだから、骨身に染みている。私も思い知らされたわよ。


「実はね……」


 姉さんが今日の出来事を簡潔に説明したけど、可哀そうになるぐらい二人の顔が青くなっていったわね。レベッカなんて、目に涙が浮かんでるじゃない。どう考えてもありえない戦果だし、非常識極まりない結果だから、それもわかる話だけど。


「もしかしてなんですけど、大和さん達はもちろん、リディアさんとルディアさんもレベル上がったんじゃないですか?」


 レベッカに言われて、私はライブラリーを見てみた。すると……


ルディア・ハイウインド Lv.31 16歳

ハンターズギルド:バレンティア竜国 ドラグニア

ランク:G

レイド:ウイング・クレスト

火竜かりゅうの竜族、双竜、客人まれびととの絆を深めし者、客人まれびとの婚約者、亜人の天敵


 上がってるし!しかもレベル31!?確かに何体かはトドメ刺したけど、別に私がやらなくてもそのうち死んでたわよ、あれは!それに亜人の天敵って何よ!?私も姉さんも、何もしてないに等しいわよ!


「その様子だと、ルディアも上がってたみたいね……」


 姉さんが疲れた顔でライブラリーを見せてくれた。とてつもなく嫌な予感がするわ……。


リディア・ハイウインド Lv.31 16歳

ハンターズギルド:バレンティア竜国 ドラグニア

ランク:G

レイド:ウイング・クレスト

水竜すいりゅうの竜族、双竜、客人まれびととの絆を深めし者、客人まれびとの婚約者、亜人の天敵


 うん、予想通りだわ。私と同じだけど、これは別にいい。問題なのはあの二人だ。ライブラリーを見るのがこんなに怖いなんて、思ったこともなかったわよ。そんなことを思っていると、姉さんが恐る恐るだが、足を踏み出していた。


「行くの、姉さん?」

「ええ。怖いけど、確かめないわけにはいかないから」


 本当に怖いわ。国を滅ぼしかねない戦力を撃滅したんだから、確実にレベルは上がってるでしょうし。だけどそれを確かめるとか、私にはそんな勇気ないわよ!見なさいよ、ラウスとレベッカを!全力で姉さんに尊敬の眼差しを送ってるわよ!


「あの、ライナスさん。お話し中申し訳ないのですが」


 行ったわ!本当に尊敬するわ、姉さん!心の底から全力で!


「ん?リディアか。すまんがまだ、説教が終わってねえ」

「いえ、そのことなんですけど、実は私達、レベルが上がってしまいまして……」


 とても言いにくそうに姉さんが告げると、ライナスさんが目を剥いて大和の胸倉を掴んだ。


「てめえ、すぐにライブラリー出せ。称号も隠すなよ」

「こええよ、おっさん」

「いいから出せ!プリム、お前もだ!」

「わかったから、そんな大声出さないでよ。もう耳が痛くて痛くて」


 獣族は耳がいいものね。狐の耳を抑えてるけど、その程度じゃあんまり効果ないでしょう。ブツブツ文句を言いながらライブラリーを出したけど、私も好奇心には勝てず、二人が出したライブラリーを覗き込んでみた。


ヤマト・ミカミ Lv.64 17歳

ハンターズギルド:アミスター王国 フィール

ランク:H

レイド:ウイング・クレスト

異界からの客人まれびと、異世界の刻印術師、魔導探求者まどうたんきゅうしゃ、ヒポグリフの主、公爵令嬢の婚約者、見習い騎士の婚約者、双竜の婚約者、天空の覇者、亜竜の天敵、亜人の天敵、亜人皇帝の屠殺者、亜人王の虐殺者



プリムローズ・ハイドランシア Lv.61 17歳

ハンターズギルド:アミスター王国 フィール

ランク:A

レイド:ウイング・クレスト

白狐の翼族、獣人連合の公爵令嬢、客人まれびととの絆を深めし者、ヒポグリフの主、客人まれびとの婚約者、極炎きょくえんの翼、亜竜の天敵、亜人の天敵、亜人女帝の貫殺者、亜人女王の滅殺者


 見るんじゃなかったわ!何これ怖い!なんでレベルが三つも上がってるのよ!?プリムもレベル61になってるし、何より二人の称号が怖いわよ!屠殺者とか虐殺者とか貫殺者とか滅殺者とか、物騒すぎるわよ!


「……もういい。お前ら、今回増えた称号は絶対人に見せるなよ?」

「さすがにそのつもりはないなぁ」

「私達だって、さすがにそれが問題だってことぐらいわかるわよ」

「わかってるヤツはこんなことしねえよ……」


 ライナスさんがエンペラー、エンプレスを見ながら、ガックリと肩を落とした。うん、その通りだと思う。


「ともかくプリム、リディア、ルディアのランクアップ手続きをしなきゃいけねえな。カミナ、悪いが頼む」

「またですかぁ?」


 猫の獣族であるカミナさんが、とても迷惑そうな顔をした。カミナさん、ウイング・クレストの専属に近くなってきてるから、本当に申し訳なく思うわ……。


 ―大和視点―


「ったく、ひどい目にあったな」

「本当にね。まだ耳が痛いわ」


 あの後プリムはHランクに、リディアとルディアはPランクに昇格したが、カミナさんはとても疲れた顔をしていた。ランクアップの手続きはそんな手間のかかるもんでもないだろうに。


「どうでもいいけど、どうするのよ、これ」


 ルディアが手にしているのは、今回の報酬が入った小袋だ。中には貨幣が10枚入ってるんだが、その全てが神金貨だったりする。国が傾きかねない戦力を潰したにしては安い気もするが、報酬が目的だったわけでもないし、遭遇戦みたいなもんだったから、臨時収入だぜヒャッホー程度だ。


「臨時収入ってことで、今度パーっと使うか」

「簡単に使い切れる金額じゃないですけどね……」


 リディアが溜息を吐いたが、確かに神金貨なんてそう簡単に使い切れるものじゃない。ここは拠点となる家でも買うのが一番だろうが、それこそ簡単に決められるもんじゃないしな。


「それも遺跡の調査が終わってから考えましょうか。何をするにしても、ミーナがいないと決められないし」


 プリムの言う通りだし、リディアもルディアも納得してくれた。もう一ヶ月も経つっていうのに、ミーナはまだ王都にいるから、俺達も遺跡の調査以外は動きにくいんだよな。


「それじゃご飯食べようよ。なんか色々あって疲れちゃったし」


ルディアは報酬の入った袋を俺に手渡すと、俺の左腕にしがみついてきた。ちなみに右腕には既にプリムがしがみついている。リディアが羨ましそうな顔で二人を見ているが、今日の移動は、ずっと俺と一緒にジェイドに乗っていたから文句も言えないんだよな。


「おい、兄ちゃん。両手でも持ちきれない花たぁ、羨ましいじゃねえかよ」

「こんな往来で女侍らせてんだから、一人ぐらい俺達が貰っちまっても構わねえよなぁ?」


 久しぶりだな、この展開。いったいどこの馬鹿だよ?


「大和、知ってる?」

「いや全く」

「フィールに来たばっかりなんでしょうね」

「ランクもMってところじゃない?」


 予想通り、いかにもな連中だった。周囲のハンター達も苦笑しているが、一ヶ月前と違って、俺達に絡んできた馬鹿どもを憐れんでいるのがわかる。以前のフィールがいかに異常だったか、よくわかるよな。


「ルディア、ちょっとだけいいか?」

「仕方ないわね。姉さん、ここどうぞ」

「あ、ありがとう、ルディア!」


 掌だけ自由にさせてもらってリディアを呼ぶと、喜んで手を繋いできた。


「シカトしてんじゃねえぞ、ゴルアァッ!」

「俺達を誰だと思ってやがんだっ!?Aランクハンター ヴァイス・トレンネルさんがリーダーのGランクレイド スカーレット・ウォーターだぞ!?」


 おっと、ここでまさかの名前がでてきたな。というかスカーレット・ウォーターって、まんま緋水団の英語読みじゃねえか。


「あっそ。それじゃあな」

「ぎゃあああああっ!」

「うぎゃああああっ!」


 絡んできた連中にサンダー・スフィアを当てて気絶させ、ライトニング・バンドで拘束。よし、完了。


「悪いけど、誰か騎士団の詰所に行ってくれないか?緋水団の一員だって言えばわかってくれるはずだから」


 外野のハンターに、ローズマリーさんへの伝言を頼むことも忘れない。


「俺達が緋水団だと?とんだ言いがかりだな」


 だがそこに、一人の男がギルドから出てきた。どっかで見たことある気がするんだが……あ、もしかして。


「察するに、お前がヴァイス・トレンネルか」

「そうさ。この町で唯一のAランクハンターでスカーレット・ウォーターのリーダーだ。無実の罪で投獄された兄のことを調べるために、仲間と共にわざわざレティセンシアからやってきた」


 聞いてもいない自己紹介をありがとうよ。というかプリムも、ついさっきまでAランクハンターだったんだがな。もしかして、ロクに下調べもせずにフィールに来たのか?別にどうでもいいが。


「そうか。じゃあな」

「何?ぴぎゃあああああっ!!」


 ヴァイス・トレンネルとかいう優男には少し強めにサンダー・スフィアを当てて、ライトニング・バンドで拘束した。ついでにライブラリーを確認してみたが、レベル41だった。Aランクになったばかりなんだろうが、兄貴より強いのか。というか称号に『緋水団幹部』とか『アバリシア陸軍特殊工作員』ってあるから、疑う余地のないスパイじゃねえかよ。意識を失ったり隷属魔法をかけられたりしたら称号とかは隠しようがないから、スパイかどうかは比較的容易に見抜けるのも致命的だろ。この世界じゃスパイとか密偵とかって大変な仕事だよな。その点だけは同情してやるよ。


「おい、てめえら!今度は何をやらかしやがった!?」


 うお、ビックリした!どうやらライナスのおっさんにも話が伝わったようだが、著しく曲解されてやがる。いちいち説明するのも面倒なので、俺はヴァイス・トレンネルのライブラリーを見せることにしたんだが、それを見た瞬間、おっさんの顔が引き攣った。こいつらが解決した事件を蒸し返しにきたのは明白だからな。レックス団長は王都に出張中だってのに、また騎士団の仕事を増やすことになっちまったなぁ。今度騎士団に、何か差し入れでも持って行った方がいいかもしれん。

マジギレのライナスさん。彼の心が休まる日が訪れるといいなぁ。久々のバカ登場もあったし、無理なような気がするけど(笑)


大和達の称号がまた増えましたが、特になにかがあるわけではないです。自称も含めた二つ名みたいなもんですから。

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