027・ハーフエルフのお姫様
ユーリアナ姫の年齢を変更しました。
「すごいです!ヒポグリフ二頭立ての獣車に乗れるなんて、夢にも思いませんでした!」
ジェイドとフロライトが引く獣車に乗って、アミスター王国第三王女ユーリアナ・ラグナルド・アミスター様が無邪気にはしゃいでいらっしゃる。まあヒポグリフ二頭立て獣車なんて、今までなかったんだから仕方ないか。
「どこからツッコんだらいいのかしらね……」
「ツッコむだけ無駄な気もするけどね……」
リディアとルディアは派手に呆れている。さっきプリム達を紹介したんだが、プリムもレベル54、ランクAだと知って滅茶苦茶驚いてたんだよ。なにせこないだの襲撃で、プリムのレベル上がったからな。俺も驚いたが、プリム本人が一番驚いていたよ。ますますレベルと魔力の関係がわからなくなったな。
「それはそれとして、大和、ギルドマスターとパトリオット・プライドのリーダーは?」
「まだ気絶中だから静かなもんだ。まあそのうち、目が覚めるだろうが」
ギルドマスター サーシェル・トレンネルとパトリオット・プライドリーダー バルバドスは、フライ・ウインドとサウンド・サイレント、そしてライトニング・バンドを刻印化させた魔石を使い、獣車の後ろに括り付けている。まだ白目を剥いてるが、けっこう振動がすごいから、そのうち目が覚めるだろう。
「すごいです、大和様!お一人でギルドマスターとパトリオット・プライドを倒しただけではなく、魔石に魔法を付与させることができるなんて!」
ユーリアナ姫は噂のハーフエルフなんだが、目をキラキラさせて俺の左腕にしがみついている。うん、さっきからずっとこんな感じです。ちなみにラウスとレベッカは、ストレアさんの獣車に移っている。お姫様と同じ獣車に乗るなんて恐れ多いって言ってたし、それ以上にこの状況に耐えられないんだとさ。
「大和く~ん?新しいお嫁さんが3人もいるからって、こんなとこでユーリアナ様に手を出していいとでもぉ?」
「プリムさん、僕には何のことかさっぱりわかりません」
ギルドマスターとパトリオット・プライドの魔手からユーリアナ姫、リディア、ルディアを助けてからしばらくして合流したんだが、その時からずっと、ユーリアナ姫は俺にひっつきっぱなしだ。お姫様が相手だからプリムも強く出れないし、ミーナにいたっては恐縮してしまって今も緊張しまくっている。
「ねえ、なんか私達も数に含まれてなかった?」
「みたいね」
で、さりげなく嫁候補にされたリディアとルディアだが、俺とユーリアナ姫を挟んで左右に座っている。リディアがユーリアナ姫の隣で、ルディアが俺の隣ね。つか君らも、距離が近いよ。
「まあいいわ。大和がしっかりと面倒見れるなら、私は反対するつもりはないし」
「わ、私もです!」
「では私も、大和様の妻に立候補してもいいのですね!?」
そうなんです。ユーリアナ姫様、目が覚めてからずっと、俺と結婚するって言ってるんです。プリム、ミーナの二人と婚約してるって説明しても、まったく聞いてくれないんです。いや、まだミーナの方はレックス団長に話してないから、正式に婚約したわけじゃないんですが。というか、なんでリディアとルディアも嫁候補になってんだよ!?
「姫様、お気持ちはわかりますが、陛下のお許しもなく嫁ぐことはできません。大和さんはAランクハンターで、フィールを救ってくれた実績もありますから、陛下も否やとは言わないと思いますが」
やめて!まだミーナの家族にご挨拶も済んでないのに、この上王様にまで挨拶なんて、ストレスマッハで胃がぶっ壊れる!というかユーリアナ姫って、まだ13歳だよね!?なんでそんな年で結婚とか考えてんの!?
「その認識、いい加減改めなさいよ。王族や貴族なんて、成人前に婚約、結婚は当たり前なんだから」
「政略結婚なんかもあるから、それはわからんでもないんだけどな……」
「なんていうか、あんたって大変なのね」
本当に大変だよ。ただでさえプリムとミーナを娶るってのに、その上ユーリアナ姫、リディア、ルディアまで嫁にするなんて俺の世界の奴らに知られたら、確実にフクロにされたうえで相模湾の藻屑にされる。
「と、ともかく、話をまとめよう。俺達はフィールから商隊の護衛をして、プラダ村に行っていた。で、ついさっきユーリアナ姫の獣車がギルドマスターとパトリオット・プライドに襲われて、そこにリディアとルディアが割って入り、しばらくしてから俺が到着して、連中を捕まえた」
「そこまではいいわ。確か殿下は、姉君と一緒にバリエンテに行っていて、今はその帰りなんですよね?」
「はい。お姉様の幼馴染を探すために、バリエンテの中央府ベルジュへ赴きました。ですが手掛かりすら見つけることができず、私は噂になっているフィールの様子を見るため、一足先に帰国したんです」
ここでプリムが少し顔を引き攣らせた。さっき聞いたんだが、ユーリアナ姫の姉 アミスター王国第二王女マナリース・ラグナルド・アミスターはプリムの幼馴染で、暴獣王が即位するまではよく会っていたらしい。と言ってもプリムはほとんどバリエンテから出ず、マナリース姫がバリエンテに来ていたそうだが。
「私達は一週間ほどザックにいたんですが、昨日ユーリアナ姫様が到着されたということで、駐屯している騎士が警戒態勢を取っていました」
「だから私達は、姫様がザックにいたのは知ってたんだけど、フィールに向かってたことまでは知らなかったよ。てっきり王都に帰ったと思ってたからね」
つまり三人はザックから来たというわけだ。姫は獣車を使ってて二人は徒歩だから、そりゃ姫が先に十字路に着くわな。そのタイミングで連中と鉢合わせしたとは、運が悪いとしか言いようがないな。護衛の騎士は残念ながら全員亡くなっていたが、遺体はボックスに入れて運搬中だ。普通ならライブラリー確認のために体の一部だけしか持ち帰ることはできないが、俺とプリムの魔力量なら問題なく全員を入れることができる。ちなみにパトリオット・プライドは右手だけ残して、全員火葬してあります。
「つまり殿下は、最悪のタイミングでフィールに来たってことになるわけね」
「あうぅ……」
「それを言ったら私らもだけど、大和やプリムと知り合えたわけだから、悪いことばかりってわけでもないか」
今日リディアとルディアがザックを発ったのは偶然で、俺達と知り合えたのも偶然だが、こっから面倒事のオンパレードだぞ。
「ルディア、フィールに着いたら、騎士団やギルドから取り調べが待ってるのよ?正当防衛とはいえ、ハンター同士で戦ったんだから」
ハンター同士の私闘は禁止されているからな。Mランクハンターは素行が悪いのが多いから、発覚すればギルドから厳しく罰される。以前俺達もスネーク・バイトというレイドと私闘を行ったことがあるが、あの件はギルドから正当防衛として認められている。まあフィールじゃ、あんまり守られてない規則なんだよな。それもこれも、ギルドマスターが特例として認めてやがったから、ハンター同士の諍いは大なり小なりあったし、フィールの人に迷惑もかけていた。普通なら降格か、場合によってはライセンス剥奪だぞ、これ。
「そこまで緊張しなくても大丈夫ですよ。ギルドマスターが不正行為を行っていたことは総本部にも報告していますし、証拠もつかんでいます。ですから騎士団もギルドも、あなた方の行動を問題視することはありません」
ローズマリーさんの一言で二人とも安心している。そりゃ副団長に言われたら安心するよな。俺達だって二人のことは証言するし、今までのギルドマスターやパトリオット・プライドのしでかした罪から考えれば、無罪放免どころか金一封ぐらい出てもおかしくないしな。
「ん?ちょっと待って。殿下、マナリース殿下とベルジュで別れたとおっしゃってましたが、マナリース殿下もフィールに来られるのですか?」
「いえ、お姉様はあと数日ベルジュに滞在して、その後は飛竜で王都に帰られることになっています」
それはよかった。プリムのことが露見するのは避けられるし、余計な騒ぎに巻き込まれることもないだろう。プリムの幼馴染っていうだけで、何かしらのトラブルの臭いがするからな。
「マナが来ることはないのね。本当に良かったわ……」
それを一番よくわかってるのか、プリムもほっと一安心って感じだ。
そんな話をしてると、ようやくフィールが見えてきた。ローズマリーさんの指示で騎士が二人、伝令に向かった。ユーリアナ姫が乗ってるなんて、騎士団だって予想外だから当然だ。そういやビスマルク伯爵もまだフィールにいたはずだな。伯爵の飛竜のおかげで最悪の事態を防げたようなもんだから、本当に助かった。帰ったらお礼に、保管してあるフェザー・ドレイクを一匹譲ろう。うん、そうしよう。
ハーフエルフ姫登場です。今後どうなるかは作者にもわからない。




