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刻印術師の異世界生活  作者: 氷山 玲士
第一章:フィールよいとこ、一度はおいで
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020・ベール湖は広いな大きいな

 ラウスとレベッカは、野営の用意や食料を買いに行きたいということなので、ハンターズギルドの前で別れた。野営セットはけっこうするが、相場を知らないようなので、ふっかけられないようにローズマリーさんも同行してくれている。まあそんなことをする商人が、この町にいるとは思えないが。

 俺達はと言えば、今日は休養日にする予定なので、これから湖で泳ごうかと思っている。


「団長、ミーナって今日はどうしてるんですか?」

「ミーナは明日からの護衛任務のために、今日は休暇にしてある。多分家にいると思うが」

「なら突撃あるのみね」


 俺はプリムと二人でもいいと思ってたんだが、そのプリムはどうやらミーナも誘うつもりのようだ。


「どこかに行くのかい?」

「ええ。湖に泳ぎに行こうと思ってて、せっかくだからミーナもどうかなと」

「私としては構わないが、君達は婚約したと聞いてるぞ。いいのかい?」


 うん、昨日フィールに帰ってきてから、町の人には祝福の言葉をかけてもらっているから、レックス団長が知ってても不思議じゃない。当然、ミーナも知ってるはずだ。


「もちろんです」


 ん?何か呟きが聞こえたが、なんて言ったんだ?


「なら家に行けば会えるだろう。今日はゆっくりするように言ってあるから、暇を持て余していると思うからな」

「わかりました。では行ってみます」


 レックス団長に礼を言うと、プリムはミーナを迎えに行ってしまった。せっかくだし、エドとマリーナにも声をかけてみるか。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 というわけでやってまいりました、ベール湖の畔へ。メンバーは俺、プリム、ミーナ、エド、マリーナの五人にジェイドとフロライトだ。ミーナはプリムが拉致当然で連れてきたが、エドとマリーナは暇だったみたいで、誘ったら簡単についてきた。それでいいのかと思っていたんだが、俺達がハンターを大量に捕まえたせいで、フィールにいるハンターの絶対数が減ってきている。そのせいで暇になることの方が多いんだと。


「いやぁ、泳ぐには絶好の天気だな!」


 今更だが季節は夏真っ盛りだ。ヘリオスオーブにも四季があるため、湖に泳ぎに行く人は少なくない。町に面しているからそこで泳げるようになっているし、何より一部は町の結界に入っているから、そこには魔物も入り込まないし、遠浅だから溺れる心配も少ないのだ。

 ちなみに俺もプリムも水着は持ってないから、合流してからすぐに買いに行った。ついでってわけじゃないが全員の水着も購入したし、食い物も大量に買いあさってボックスに突っ込んである。

 この世界にはナイロンやポリエステルといった素材はないが、ウォーター・ホースの毛皮やアクア・スパイダーの糸といった素材があり、それらから撥水性や耐水性の高い衣類が作られている。水着も同様なんだが、そういった魔物の生息地は水辺が多いため、狩るのも一苦労なんだとか。そのため素材でも高値で取引されており、完成品である衣類はさらに高い。ドレスとかになれば金貨が飛ぶが、水着とかでも魔銀貨が飛ぶ世界だ。


「持つべきものは友達だよね。あたしこの水着、前から欲しかったんだ」


 マリーナの水着は薄い水色のホルター・ネックのビキニだ。マリーナは今まで水着と言えば仕事着だったらしく、前から可愛い水着が欲しかったそうだ。だからこの水着を買った時は、すごく感謝された。俺としても鎧のお礼もあるし、まだ数回しか顔を合わせてないとはいえ友人付き合いをしているのだから、これぐらいは何も問題ない。


「行くよ、エド!」

「待てって。まだプリムとミーナさんが来てないんだからな」

「もう!早く来ればいいのに」


 胸にプリムより立派なものを二つも装備しているマリーナさんなので、胸の前で手を組まれると、その凶器が凄まじく強調されるんです。なんという破壊力か!


「そういや水着を買うときも、ミーナが恥ずかしがってたって言ってたな」


 オリハルコンにも匹敵する意志の力を発揮し、マリーナの胸を見ないように注意しながら、俺は水着を買った時のことを思い浮かべた。騎士団に入ってから泳ぎに行くことはなかったらしいからなぁ。


「そりゃ仕方ねえって。もともとミーナさんはフィールの生まれじゃないから、知り合いも少ないだろうしな」

「そうなのか?」

「ええ。確か王都出身だったと思うわよ」


 知らなかった。そういえばレックス団長はアミスター第三騎士団の団長だったな。つまり王都から派遣されて来てた騎士団だったってことなのか。


「お待たせー!」

「ちょ、ちょっと!プリムさん!」


 お、どうやらプリムとミーナが来たようだ。


「遅いわよ、もう!」

「ごめんごめん。ミーナが恥ずかしがっちゃってね」

「だ、だって!」


 うーん、眼福だ。プリムの水着はフリルがついていて胸元が開いている白いタートルネックビキニで、腰には赤いパレオを巻いていた。ミーナの腕を引いているせいもあるだろうが、しっかりと谷間が協調されている。だから破壊力高いって……。

 そしてミーナだが、胸は残念ながらプリムとマリーナ程ではない。小さいわけではないが大きいわけでもない。だが整った顔立ちで、可愛いというより美人に分類されるミーナはスタイルもいい。そのナイスバディを、競泳水着を思わせるシンプルな濃紺のツーショルダービキニに包んでいた。


「どう、大和?」

「すごく似合ってるぞ」


 もちろんお世辞は一切ない。


「それだけ?」


 だがプリムは不満だったようだ。ほわい?


「そりゃ婚約者からかけてもらう言葉がそれだけじゃ、不満にもなるわよ」


 マリーナに心を読まれた。何故わかる?


「そんなわかりやすい顔してたら、誰でもわかりますよ」


 ミーナにも読まれた。そんなにわかりやすい顔してたのか!?


「まあいいわ。悩殺できたみたいだし。それで、ミーナの水着はどう?」

「似合ってて可愛いぞ」

「か、かわっ!?はう~……」


 真っ赤になった。めっさかわええんですけど!というか、なんでプリムが満足気なんだ?


「ああ、なるほどね」


 マリーナが納得したのか、大きく首を縦に振っていた。


「エド、何のことなんだ?」

「う~ん……まあ色々だな」

「色々なのよ。行くわよ、エド」

「あいよ。お邪魔虫は退散するに限るからな」


 などとぬかして、エドとマリーナは湖に駆けて行ってしまった。説明しろよ!


「あんたがわからないのも無理もないか。大和、ライブラリー出して。あ、称号は隠さなくていいわよ」


 ミーナにも俺の正体バラすってことか。別にミーナだったら構わないが、何の意味があるんだ?とりあえずプリムの言う通り、俺はライブラリーを出した。


「や、大和さんって……客人まれびとだったんですか!?」

「偶然私の前に転移してきたのよ。あの時は驚いたわ」

「そこからだな、プリムとの付き合いは」


 よく考えれば、この世界に来てからまだ十日も経ってないんだよな。普通なら元の世界に帰るための方法を探したりするんだろうけど、俺はもう帰るつもりはない。悲しいかなこの世界の方が俺の性に合ってる気がするし、何よりプリムがいるんだから帰る理由がなくなった。連絡ぐらいはできたらいいと思ってるが、その程度だ。


「そ、それで、なぜ私にそんな大事なことを?客人まれびとのことはともかく、大和さんとプリムさんが婚約されたことは町の人は知ってますし、私も祝福させていただいていますけど……」


 後半尻すぼみになったが、祝福してくれたことはわかった。ありがとうございます、ミーナさん。


「いい男の条件、ミーナもよく知ってるでしょ?」

「それはもちろん……って、まさか!?」

「その通りよ。どう?」

「い、いえっ!わ、私なんかじゃ!」

「だから何の話だ?」


 いい男の条件ってのが何かはわからんが、何故だか背筋に悪寒が走った。いや、悪いことじゃないとは思うんだが、プリムが何を企んでいるかがわからないから、悪寒でも間違いじゃないと思う。


「安心して、大和。ミーナは私が、しっかりと説得するから」

「えっ!?」


 全て任せろというようにニッコリと笑うプリムと、予想すらしてなかった感じで戸惑っているミーナが対照的だ。いや、だからマジで何の話ですか?


「まあ護衛が終わってからの話になると思うけどね。行きましょ、ミーナ」

「あっ!ま、待ってください、プリムさん!」


 プリムとミーナも、湖に行ってしまった。

 いえ、実は一つだけ、予想していることがあります。ここは異世界です。あまり本とかは読まなかったから断言できないが、異世界物のお話じゃ、けっこうな率で主人公がハーレム築いてたりしたはずだ。そしてこの世界ヘリオスオーブでは、一夫多妻が認められている。つまりプリムは、ミーナも俺の嫁にしようと企んでいる可能性があるということになるんですよ。

 確かにミーナは美人だし、どちらかと言えば俺好みだが、プリムにプロポーズしたのは昨日の話だ。しかも俺の世界じゃ一夫多妻なんて認められていないから、いい男どころか悪い男の条件な気がしないでもない。


「はあ~……。俺も泳ぐか」


 とりあえず予想から目を背け、俺はプリムとミーナの後を追って湖に入った。仲睦まじくしているジェイドとフロライトがうらやましく思ったりもするが、あいつらはあいつらで幸せそうだなぁ。

一応の水着回です。水着、しかも女性もののデザイン調べるためにネットサーフィンすることになるとは思わなんだ……。

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