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刻印術師の異世界生活  作者: 氷山 玲士
第一章:フィールよいとこ、一度はおいで
19/99

019・護衛前日にすること

 翌日の昼、俺達はハンターズギルドに来ていた。

 あ、昨日狩ったフェザー・ドレイクのうち、3匹は依頼なのでビスマルク伯爵に渡し、2匹はエドとマリーナに渡した。ビスマルク伯爵の話を伝えたら創作意欲がわいたらしく、今日も工房に籠っている。なのでもう2匹ほど余分に置いていった。そして獣具を作るために1匹獣舎に置いてきて、2匹は保管。のこり5匹はギルドに売っぱらった。

 ちなみに昨日の収入は約30万エル。こっから獣具のオーダー代やら日々の生活費やら獣舎にかかる費用やらが引かれるが、それでも二人合わせて100万を超えました。お初にお目にかかります、神金貨様!


「そろそろ家を買うことを考えたほうがいいかもね」

「だな。だけど広い庭があることが大前提だから、けっこう難しいだろ」

「そうなのよね。それに家を買ったらフィールに定住、とまではいかないけど、完全に拠点になっちゃうし」


 などと、ギルドの一室で真剣に話し合っている。

 俺達は今、どんな家を買うかで話し合っている。ジェイドとフロライトを放せる大きな庭があることが最低限なんだが、その時点で候補が一気に減る。家自体はそんなに広くなくてもいいんだが、庭が大きいと必然的に家屋も大きくなるので、場合によってはハウス・キーパーとかガーデナーとかを雇わなければならない。人を雇うなら、当然給与を支払わなければならない。給与を支払うのは俺達なので、当然稼ぎにいかなければならない。稼ぎに行くとしても遠出することが増えるだろうから、家にいる時間が減る可能性がある。家にいる時間が減るんなら、買う必要はないんじゃないか。とまあ、結局は買うのか買わないのか、という話になって今に至る。


「家を買うとか人を雇うとか、景気のいい話をしてやがるな」


 そこにライナスのおっさんとレックス団長がやってきた。後ろにラウスとレベッカもいる。狼の獣族であるラウスは、狼の耳と尻尾を持っているが、萎縮しているのか尻尾は丸まってるな。ウンディーネの魔族のレベッカは人化魔法が完全ではないみたいで、腕に鱗が見える。多分足にもあるんだろうな。今日は狩りに行かないからか、ラウスもレベッカも普通の服を着ている。俺とプリムも今日は鎧下だけだ。この鎧下、普段着としても使えるからすごく便利だ。


「紹介するぞ。こいつらがこの町のトップレイドのAランクハンター、ウイング・クレストの大和とプリムだ。まあそのレイドも、こいつら二人だけなんだけどな」


 昨日の乱獲で俺達はAランクになった。わずか数日でAランクになったのは俺達が初めてだそうだが、ぶっちゃけると興味はない。ついでにレイドランクもAになっているが、これは所属ハンターの平均レベルで決まるので、今後レイドメンバーが増えれば下がることは確定している。


「こっちがCランクハンターのラウスとレベッカ。レイド名はプラダの風だ」

「ラ、ラウスです!よろしくお願いします!」

「レベッカです。助けていただいたのにロクにお礼もせず、申し訳ありませんでした!」


 覚えてたか。別に俺達は気にしてないし、無事ならそれでいいんだけどな。

 ハンターのランクは、レベルが上がれば昇格することができるようになっている。基準としてはレベル1~5がIランク、6~10がCランク、11~15がBランク、16~20がSランク、21~25がMランク、26~30がGランク、31~40がPランク、41~60がAランク、61~80がHランク、そして最上位のOランクはレベル81以上だ。Iランクが登録用とされている理由は、レベル5以下の者はハンターズギルドに登録することができないからで、レベル6~10の者であっても登録を断られることがある。魔物と戦うことを生業にする職業なのだから、不必要に命を落とすような人を登録させるわけにはいかないというわけだ。

 だがレベルでランクが決まるということは、素行や品性がどうであっても昇格してしまうということにもなっているため、様々な所で問題を起こしている。

 ラウスとレベッカのレベルがSランクということは、レベル16以上20以下になるから、この辺りの魔物ならさほど労せず狩ることができるはずだ。


「俺は大和。こっちが相棒のプリムだ」

「よろしくね」

「ちなみにこいつらのレベルは50を超えてる。よっぽどのことがあっても商隊が全滅するようなことはないから、その点は安心しておけ」


 俺達も挨拶を返すが、ライナスのおっさんが余計なことを言いやがった。その言い方だと何かあるんじゃないかって思うぞ。

 あ、レベルは昨日の乱獲で上がって、俺が58、プリムが53になっている。レベルについてもよくわからないとこがあるから、今度調べてみた方がいいかもしれないなぁ。

 ちなみに現時点のライブラリーはこんな感じだ。


ヤマト・ミカミ Lv.58 17歳

ハンターズギルド:アミスター王国 フィール

ランク:A

レイド:ウイング・クレスト

異界からの客人まれびと、異世界の刻印術師、魔導探求者まどうたんきゅうしゃ、ヒポグリフの主、公爵令嬢の婚約者



プリムローズ・ハイドランシア Lv.53 17歳

ハンターズギルド:アミスター王国 フィール

ランク:A

レイド:ウイング・クレスト

白狐の翼族、獣人連合の公爵令嬢、客人まれびととの絆を深めし者、ヒポグリフの主、客人まれびとの婚約者


 婚約者という称号をいただきました。俺の方は漠然としてる感じだが、プリムの方は直球だ。まあ称号なんて、魔導探求者まどうたんきゅうしゃとヒポグリフの主以外は公開するつもりはないが。


「レベル50!?」

「そ、そんなすごい人達だったなんて……!」


 当たり前だが二人とも目を丸くしていた。逃げたことがあるからなのか、少し震えてるようにも見えるな。


「あんまり言いふらすつもりもないんだけどね」

「だな。それよりおっさん。依頼内容を説明してくれよ」

「わかってるよ。依頼内容はプラダ村に食料や生活必需品、それから嗜好品を少々運ぶ商隊の護衛だ。以前Gランクのハンターを雇った商隊が全滅したことがあるから、今回は騎士団も数名護衛につくことになっている」


 依頼とはいうものの、俺が提案したことだから内容は既に知っている。というか俺達も依頼者だから、逆に報酬を払う側だ。つまりギルドを通して正式に雇われたハンターは、ラウスとレベッカの二人だけということになる。断られないように報酬は一日5千エルと、少し高めにしてある。


「そ、それって、別に私達が行く必要はないんじゃ?」


 レベッカが疑問を感じるのも当然だ。プラダ村へはほぼ一本道だから、迷う心配もない。マイライト山脈が近いから、たまにグリーン・ベアーっていうMランクの魔物が出没するが、それぐらいなら騎士団でも十分相手にできる。馬を使えば一日で往復できるから、遠いというわけでもない。今回は商人のボックス・ミラーに入りきらない物資を運ぶから、道中で一泊することになっているが。

 それはともかくとしても、騎士団が護衛につくとなれば、大抵の盗賊は襲撃してこない。国を相手にすることになるのだから、それは当然の話だ。その上で俺とプリムも護衛につくのだから、余程のことがなければ問題は起こりえない。まだCランクのラウスとレベッカがついてくる理由は、どこにもない。


「いや、ここ数ヶ月、プラダ村を訪れた商人はいないはずだ。盗賊に襲われて命辛々逃げ帰ってきた商人も少なくない」

「そ、そうなんですか!?」


 そうなんですよ。というか、やっぱり村の人は知らなかったか。


「もしかして、盗賊が出るって話も知らなかったの?」

「は、はい。初めて聞きました」


 ということは盗賊団も、プラダ村からは離れたとこで襲ってたってわけか。さすがに人口200人ぐらいの村に紛れ込むことはできないだろうが、それでも物資が来なければ不安を感じるし、もしかしたら村から嘆願があったかもしれない。聞いてみるか。


「先月ですけど、村の大人が何人かで連れ立ってフィールに行きました。騎士団とハンターズギルドに商人の護衛をお願いするためにです」

「それは覚えている。だからすぐに商隊を手配したんだ。護衛にはハンターがついたが、バリエンテとの国境町で別れたと聞いている」


 ん?バリエンテ?国境町?どういうことだ?しかもその言い方だと、商隊はプラダ村に行ったととれるぞ?


「団長、その商人って、フィールの商人じゃないんですか?」

「いや、フィールの商人だ。バリエンテに仕入れに行くと言っていたから、プラダ村に寄るよう頼み、物資はハンターの獣車に積み込んで出発した。ハンターは商人を国境のあるザックという町まで送り届けたと、フィールに帰ってきて報告をしたから……まさかっ!?」

「そのレイドは?」

「……ケルベロス・ファングだ」


 あいつらかよ。確定じゃねえか。


「そういうことか。ということは村じゃ騎士団というか、国に対して不満が出てる頃だな」

「は、はい。この国は村を見捨てたって、みんな言ってましたから」


 そりゃそうなるよな。だけどプラダ村には特に資源はないらしいし、いったい何を考えてやがるんだ?


「で、でも、村の人がフィールに来た後で商隊を手配してくれていたのに、なんで村には来なかったんですか?」

「その商人は殺されて、物資は盗賊が持って行ったってことだ」

「え?でも、腕利きのハンターが護衛についてたんじゃ?」

「残念なことにな、今フィールにいるハンターは、緋水団っていうデカい盗賊団と繋がりがあるって疑惑をかけられてるんだよ。実際こいつらが捕まえたレイドは、全部そうだった」

「そ、そんなっ!!」

「つまりケルベロス・ファングっていうレイドも、緋水団と繋がってたってことだ」

「ハンターが盗賊と繋がってたなんて……」


 信じられないのも無理はないな。俺だって最初は信じられなかった。俺達が捕まえたレイドはスネーク・バイト、マッド・ヴァイパー、ケルベロス・ファングの三つだが、全部緋水団と繋がってやがったからな。ここまで来たらこの町のハンター全部が緋水団と繋がってると考えた方がいいレベルだ。

確かにハンターの収入は不安定だ。ランクが上がれば収入は増えやすくなるが、ランクが低いとその日の生活費ぐらいにしかならない。しかもその日は馬鹿みたいに稼いだとしても、翌日は稼ぎがゼロだった、なんて話もザラにある。そんなハンター崩れが盗賊になるって話も珍しくない。緋水団に限って言えば、まだ何かあるような気がするが。


「盗賊行為に依頼達成の虚偽申告。ライセンス剥奪どころか極刑もんだな。そんなわけで今のフィールには、こいつら以外のハンターが信用できねえ。だから経験が少なかろうがランクが低かろうが、信用できるハンターに依頼を回すのは当然だ」


 村のことだから、この二人が裏切る可能性はゼロに等しいし、レイドも二人だけみたいだから、余計な入れ知恵もされてないだろう。まあ仮にされてたとしても、この二人だけなら脅威にはならないっていう理由もあるんだが。


「じゃ、じゃあ、私達が護衛する商人さんも、盗賊に襲われるかもしれないんですか?」

「そりゃどんな商人でもその可能性はあるよ。だから護衛がつくんだしな」

「そ、それはそうですけど……」


 騎士団までつくんだから、普通の神経をしてれば襲うようなことはしないだろう。だが何か目的があるなら話は変わる。


「心配しないで。もし盗賊が出てきても、片付ければいいだけだから」

「そういうことだ」


 二人のレベルはわからないが、S-Cランクだから簡単にやられるようなこともないだろう。それも踏まえて依頼してるんだからな。


「それに依頼料は一人一日5千エルだ。往復だから、村に滞在してる間も出るぞ」

「そ、そんなに!?」

「お、多すぎますよ!」


 護衛の依頼料は一日500~1,000エルで、指名依頼の場合はその倍ぐらいすることが多い。だが今回の依頼料はそれよりさらに高いのだから、普通なら驚くわな。


「いや、妥当だろう。つまり商人としても、それだけ不安だということだ」

「で、でも!俺達、まだCランクなんですよ!?Cランクハンターにそんな依頼をするなんて、ありえないですよ!?」

「そうです!こちらからお願いして、ついていかせてもらいたいぐらいです!」


 おっと、逆に高い依頼料にしたのが裏目ったか。


「ハンターがそんなこと気にするな。お前さん達がプラダ村出身だってことも、依頼料が相場より高いことも依頼主は知ってる。その上で指名してるんだからな。意味があるんだよ、しっかりと」

「信用だもんね、指名依頼は。あんた達のためにもなるから、受けておいて損はないわよ」

「それに依頼料が高すぎるってことだが、依頼主の前では言うなよ?自分を安く見積もってると思われるし、不快な気分にさせることもあるからな」


 ライナスのおっさん、プリム、そして俺が正論で畳みかける。これで断られるなら仕方ないし、ハンターとしてやっていけないと思う。高額報酬の依頼は、ハンターなら飛びつくぐらいじゃないといけないからな。まあ報酬の上乗せとかを要求するような三流ハンターは消えてもらいたいんだが。


「……わかりました。俺達に何ができるかわかりませんが、お受けします」

「信頼に応えられるよう、精一杯頑張ります!」


 不承不承といった感じだが、受けてくれたのはありがたい。この子達がプラダ村に行くかどうかで、村の反応が異なるだろうから、正直断られると厳しかったんだよ。それにフィールにいれば、馬鹿どもが手を出してくる可能性もある。それなら俺達と一緒に行動してもらった方が安全だ。ライナスのおっさんは同行しないがPランクのハンターだったんだし、ギルドにケンカを売るってことが何を意味するかは、どれだけ頭の悪いハンターでも知ってるはずだから、カミナさん達ギルド職員も大丈夫だろう。


「よし、頼んだぞ。明日の昼には出発するから、詰所前に集まってくれ」

「了解だ」

「は、はいっ!」


 おっさんもレックス団長も一安心って顔だ。そんじゃあ明日からの依頼、気合い入れて頑張りますかね。

はい、またレベル上がりました。普通ならこんな簡単にレベルアップはしないんですけどね。一応理由はありますよ?だいたい予想通りだとは思いますが、いずれ本編で語りますから、それまでお待ちを。

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