018・子ヒポグリフ達の装備を整えよう 発見編
「プリム!後ろから2匹!」
「了解よ!」
プリムがブラスト・ランスを放ち、背後から襲ってきたフェザー・ドレイクの1匹を貫き、スカーレット・ウイングに風を纏わせもう1匹を切り裂いた。俺は対峙していた3匹のフェザー・ドレイクに、ブラッド・シェイキングを発動させた薄緑を抜刀術の要領で叩き込み、纏めて仕留める。
「まとめて襲い掛かられても、案外何とかなるものね」
「ああ。5匹倒せたわけだから、依頼分と獣具の分は確保できたな。あとはエドに渡す分か」
「そうね。何匹ぐらい渡す?」
「最低でも2匹だろうな。それに少しは流通させておきたいから、あと5匹ぐらいってとこだろう」
フェザー・ドレイクの皮は、俺達の鎧分で在庫が尽きてしまっていた。すぐに売れるような物じゃないが、人気がないわけではない。そもそも数ヶ月前から狩りに行くハンターはいなかったから、フィールでも品薄状態だったそうだ。
参考までに普通フェザー・ドレイクを狩るなら、マイライトには登らない。稀に山を下りてくる個体がいるので、それを狩る。フェザー・ドレイクのランクはGの上位だが、単体となるとランクはGの下位にまで下がる。Pランクレイドはもちろん、無理をすればGランクレイドでも狩ることは不可能ではない。
「それにしてもプリム、さっき槍に風を纏わせたよな?それって魔法付与とは違うのか?」
「ええ。大和って何度か、ブラッド・シェイキングを剣に使ってたでしょ?あれって水を武器に付与させてるじゃない。それを見て、魔法でも同じことができるんじゃないかって思ったの」
「ああ。水属性の刻印術だ。そうか、それを見て、武器に魔法を纏わせることを思いついたのか」
「そういうこと。と言っても、さっき思いついたんだけどね」
「なるほどな」
どうやらプリムは、俺がブラッド・シェイキングを剣に発動させて戦闘したことをヒントにして、新しい魔法として開発したようだ。さっき思いついたって言ってたけど、それをすぐに使うなんて、すごいセンスだな。
「武器に風を纏わせるからブラスト・アームズってとこかしらね」
「なら武器に纏わせる魔法はアームズ系で決まりだな」
アロー、ランス、ストームに続く魔法になるな。後でコツを教えてもらおう。
「そういえば、回復魔法ってのはないのか?」
ふと思った。俺達は怪我したことはないからポーションの類も一度しか使ったことがない。だから今まで気が付かなかったが、魔法があるんだから回復魔法だってあってもおかしくない。と、思う。
「あるわよ。治癒魔法って言って無属性を除く六つの属性に一つずつ。だけど体系化されてるわけでもないし、使える人は少ないわ」
「そうなのか?」
「ええ。すごく魔力を使うのはもちろんだけど、治癒のためのイメージがすごく難しいの」
言われて納得した。治癒魔法は人体の回復をイメージして魔力を流すことで使えるそうだ。火が病気の回復、水が解毒、風が体力の回復、土が外傷の回復、光が解呪、闇が疲労の回復となっているが、どの魔法も確実に治せるというものではなく、四肢の切断や欠損なんかは治せないそうだ。
そこまで聞いて、俺は合点がいった。治癒のイメージが難しいのは、正しい医学知識がないからだろう。俺は簡単な知識しかないが、それでも人体の構造や有名な病気なんかは知っている。さすがに試させてくれとは言えないが。
「そう言われれば思い当たることはあるわ。水魔法で解毒できないのは、何の毒かわからないことが多いからだし、土魔法を使っても腕とか足が動かないままなのは、治すべき所が治ってないからかもしれない」
「そうだろうな。多分火魔法でも、治せない病気とかが多かったんじゃないか?」
「その通りよ」
やっぱりか。医療系に応用できる刻印術もいくつかは覚えてるし、確か刻印具には家庭の医学みたいなのもインストールされてたはずだ。帰ったら確認しておこう。
「大和の世界って魔法がないのに、よくそこまでしっかりとした知識があるわね」
「魔法がないから、だろうな。何十年、何百年もかけて研究して解明して、それでもまだ途中のものも多かったはずだ。俺の刻印具だって数十年前から開発が始まって、今でもより良いものを作るために研究されてるし」
「なるほどね。ヘリオスオーブは固有魔法が治癒魔法っていう人がいるから、それで成り立ってる気がするわ」
固有魔法が治癒魔法の人はそんなに多くはないが、その魔法なら知識がなくとも病気や怪我を治すことができるし、解毒なんかも致死毒でなければ何とかなるそうだ。そのため治癒魔法の使い手は各国でも引っ張りだこで、王家や貴族なんかに破格の待遇で招かれるらしい。そりゃそうだよな。とりあえず、回復魔法があるとわかっただけでも良しとしよう。
「とりあえず、それは帰ってから考えよう。今はフェザー・ドレイクを狩りに来てるわけだしな」
「そうね。せっかくだし、他の考えも試してみるわ」
「俺もそうするかな」
その後俺達は、日が傾き始めるまでフェザー・ドレイクを狩りまくった。魔銀刀・薄緑やスカーレット・ウイングはとても使いやすいし、新たに防御魔法としてシールド系とウォール系、掌や武器から放射状に飛ばすウェーブ系、球上にして周囲に展開させるスフィア系、広範囲を攻撃するエクスプロージョン系を開発し、さらにイメージだけで魔法を使う、いわゆる無詠唱を試した。セリフが書かれてないだけで、刻印術にしろ魔法にしろ、ちゃんと言霊は唱えてたんですよ?
で、今に至るというわけ。途中でオークやキラー・ニードル、ホーン・バード、チェイン・プラントなんていう蔦を鎖のようにして襲い掛かってくる植物型の魔物なんかも襲ってきたが、しっかりと実験台になってもらった。ちなみにエクスプロージョン系は威力が高すぎたので、要検証ということでひとまず封印することに決定した。
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「プリム、あれって何だと思う?」
「あれ?」
狩りまくって山頂付近に辿り着き、フェザー・ドレイクを斬り捨てた俺の視界に、何やら遺跡のような物が目に入った。遺跡っちゃ遺跡なんだが、石碑のようなものだったが。
マイライト山脈の標高はおそらく平均2千メートルを超えていると思うが、俺達がいるマイライト山は頭一つ抜けて高い。おそらく3千メートルはあるんじゃないだろうか。だが頂上付近にも森があるし、大きな湖もある。湖はともかくとしても、確か植物は標高が高くなると成長できなかったと思うんだが、こんなところでもヘリオスオーブが異世界だということを認識させられる。
「何かしら?マイライトにこんなものがあるなんて、聞いたこともないわ。なんでこんな所に?」
問題の石碑のような遺跡は湖の畔にあった。
「この辺りはフェザー・ドレイクの巣があるし、森の中にはオークやキラー・ニードルも生息しているから人は寄り付きにくい。だから発見されなかったんだと思うが」
フェザー・ドレイクはGランクの魔物だが、魔物のGランクはハンターのPランクに相当する。そんな魔物が群れで襲い掛かってくれば、Gランクはもちろん、Pランクのレイドであっても全滅の可能性がある。Aランクハンターは数十人、その上のHランクハンターは数人しか世界におらず、同じレイドに入っているA、Hランクのハンターはいない。A、Hランクハンターのいるレイドだからといって、メンバー全員のランクが高いわけでもないので、レイドのランクとしてはGかPになることが多い。自分だけならなんとかなるが、仲間を危険に晒すことにもなる。それもあって危険域の調査にはAランク以上のハンターが、特別にレイドを組んで行うようになっている。余談だがA-Pランクハンターである俺とプリムのレイドは、ハンターランクと同じA-Pということになっており、正式にAランクになればレイドも同様に昇格することになっている。
「あり得る話ね。マイライトの山頂も危険地帯ではあるけど、それならゴルド氷河やガグン大森林の方が危険度も高いし、生態もよくわかってないから、そっちを優先するわよね」
ゴルド氷河はトラレンシア魔王国、ガグン大森林はバリエンテ獣人連合国にある未踏地域で、毎年多くの人が命を落としている。どちらも魔物の力が強いため、トラレンシアやバリエンテとしても調査を続けているが、結果は思わしくない。
「だろうな。とりあえず、調べてみよう」
「そうね」
遺跡と言っても石碑のようなものがあるだけなので、調べるのも簡単だ。俺とプリムは石碑の正面に回った。一応ジェイドとフロライトも呼んである。契約者と従魔、召喚獣には魔力の繋がりがあるため、距離があっても簡単に指示を伝えることができる。実は召喚の際にも伝えており、従魔や召喚獣はそれに従って召喚陣を潜り抜けているというわけだ。食事中だったり寝てたりすることだってあるからな。
「特に問題はない、普通の石碑に見えるわね。って、どうかしたの、大和?」
俺は石碑を見た瞬間、絶句してしまった。そりゃそうだろう。まさかこんな所で見ることになるとは、思いもしなかったんだからな。
「これは……俺の世界の文字だ」
「えっ!?」
驚いたなんてもんじゃない。まさかこの世界で、日本語を目にすることになるとは思いもしなかった。
「な、なんて書いてあるの?」
「……ここを訪れし異世界の客人が、我らと志を同じくするものと信じ、これを遺す」
「我らって……複数いたってことなの?」
そういうことになるよな。正直、なんて言ったらいいのかわからない。石碑に記されていた日付は天暦1934年9月13日。今が天暦2034年8月3日だから、丁度百年前ということになる。
「確か記録に残ってる最後の客人って、百年ぐらい前だったよな?」
「ええ。あんたと同じく、このアミスター王国に現れたっていう記録があるわ。だから多分、その人が遺したものだと思うけど……」
だがその客人も、俺と同じく一人だけでこの世界へ飛ばされてきていたはずだ。複数人もいれば必ず記録に残るし、隠しようもないはずだ。俺だってプリムやライナスのおっさん、レックス団長、ローズマリーさんが口を閉ざしてくれているから周囲にバレていないだけで、いつまでも隠しきれるもんじゃないと思っているからな。
「大和?」
「え?ああ、すまん。ちょっと考え事してた」
「無理もないわね。大和の世界の人がそんなものを遺してたなんて、聞いたこともなかったし。それで、どうするの?」
「調べたいが、しばらくは無理だな。護衛が終わって落ち着いてからにしようと思う。幸い、ここまで来れるようなハンターはそうそういないだろうし、文字が読める人にいたってはこの世界じゃ俺だけだと思う」
「確かにね。石碑を持ち帰ったりするのも、遺跡の場合だと何かが起きそうで怖いわ。それに多分これ、クリスタイトで作られてるから、そう簡単に壊れることもないと思う」
「クリスタイトってなんだ?」
聞いたことのない名前がでてきたが、石碑を作るということは鉱石系だろう。そういえばこの石碑、なんとなくミスリルに似てる気がするな。
「ミスリル鉱山で稀に採掘できる水晶みたいな鉱石よ。ミスリルより強度は低いけど、魔力の伝達率はミスリルを上回るから、高価な武器や防具の装飾に使われることがあるわ」
「水晶みたいって、水晶とは違うのか?」
「ええ。見た目は水晶によく似てるけど、鉄より硬いわ。それにミスリルみたいに緑色に輝くから、水晶との違いもわかりやすいし」
なるほど、ミスリル鉱山で採れるから、ミスリルっぽい色合いになってるってことか。どうりで似てるわけだ。
「なら簡単には壊れないか」
「多分ね。それじゃ少しゆっくりしてから帰りましょう」
「そうするか。よく考えれば、今日は戦ってばかりだったからな」
「休憩だってここに到着した時に少し、ってとこよね」
「オークの集落が厄介だったからなぁ」
そうなんだよ。今日は朝っぱらからケルベロス・ファングがふざけたことしてくれたから、本当に剣を握ってる時間の方が多かったんじゃないかと思う。なにしろホーン・バード23匹、プラント・チェイン14匹、フェイク・リーフ45匹、オークの集落を二つ、そしてお目当てのフェザー・ドレイクを15匹狩ったからな。エビル・ドレイクを放置してたせいで、オークもヤバいことになりかけてたし、集落じゃ生まれたばかりだったがプリンスとプリンセスがいたからな。
この世界の魔物で、ゴブリン(強面の小人みたいな顔)、オーク(早い話が豚人間)、コボルト(おなじみ犬人間)、サハギン(毎度の半魚人)、アントリオン(まんま蟻人間)などは亜人と呼ばれており、人間と同じように集落や巣を作ることがある。蟻みたいなアントリオンは少し違うが、基本的に集落や巣にはキング、クイーン、プリンス、プリンセスのいずれかがいるとされており、それだけでPランク以上のハンターに指名で討伐依頼が出るほどだ。プリンスはキングに、プリンセスはクイーンに成長すると言われているが、ごく稀に全種が集落にいる場合もあるため、正確なことはわかっていない。
以前フィール近郊のゴブリン・キングを、パトリオット・プライドというGランクレイドが討伐したことがあるが、それは遭遇してしまったからという理由が大きい。それだけでも厄介なのに、キングとクイーンが番いになると、その集落や巣までもが一つになるため、規模が大きくなり、それに比例してこちらへの被害も大きくなる。俺達が倒したゴブリン・クイーンの群れも大きかったから、あのままだったらプリンスかプリンセスが生まれていた可能性はあったとライナスのおっさんから聞いた。
「帰ったら馬用の獣具も買わないとね」
「獣具のオーダーもしなきゃいけないしな」
俺達が依頼の前々日にこんなことをしたのは、ジェイドとフロライトの獣具用の素材を取るためだ。その過程で同じフェザー・ドレイクの素材収集依頼を受けはしたが、これはついでだからいい。問題なのはオークの集落が二つもあったことだ。探せばまだあるんじゃないかと思う。
「今のフィールじゃ山狩りはできないから、私達が暇を見て探すしかないでしょうね」
「いっそのこと、他の町にいるハンターに依頼を出したほうがいいんじゃないかって思うな」
マイライトにはミスリル鉱山があるから、国としても放置はできない。フィールの現状がどうであれ、だ。
「とりあえず帰ろう。今考えても仕方ないし、報告すれば国なりギルドなりが何かアクションを起こすだろうからな」
「それに期待ね。アミスター王家はのんびりした性格だけど、ここぞという時の判断は早いから」
確か王家はエルフだって話だが、そんな性格だったのか。エルフといえば、きびきびした性格ってイメージがあるんだがなぁ。
それはともかく、明日の昼過ぎには顔合わせの予定だから、あんまりゆっくりしてるわけにもいかない。明日は準備があるから、依頼も受けられないし狩りにも行けない。その分今日狩った気がするから、明日は休養日ってことにしとくか。
遺跡発見。だけど調査はせず。まあ依頼前にそんなことしてんなよ、というわけですね。それを言ったら危険地帯に狩りに行くなってことにもなりますが。
ちなみにオークの集落の一つは、大和がA級刻印術を使って一気に殲滅しています。危険だと判断したからであって、決してめんどくさかったわけじゃありませんよ?




