017・子ヒポグリフ達の装備を整えよう 襲撃編
魔導武具生成魔法の説明を追加しました。
ヒポグリフの翼の位置を修正しました。
獣舎に着くと、何やら職員さん達がやけに慌ただしく動き回っていた。なんだ?出産控えてる魔物でもいるのか?
「あ!大和さん、プリムさん!大変なんです!」
「どうかしましたか?」
「フロライトがハンターに連れていかれたんです!」
「な、なんですって!?」
フロライトを連れていっただと!?どこのどいつだ!
「ジェイドもそれを追って飛び出してしまって!急いで召喚してください!」
「わ、わかりました!」
ジェイドのヤツ、無茶してないといいんだが。だが今はそれより召喚だ。俺達は牧場に出ると武器を構え、魔力を込めて召喚陣を描き、召喚陣の中央に魔力を流して発動させた。すると陣が輝き、中からヒポグリフがゆっくりと現れた。
「フロライト!よかった、無事で!」
「ジェイド!大丈夫か!?」
フロライトは無事だったが、ジェイドは少しだけ怪我をしていた。見るからに剣か何かで斬られたその傷は、間違いなくハンターによってつけられたものだ。
「ありがとう、ジェイド。フロライトを守ってくれたのね」
プリムが獣舎にある従魔ポーションを使うとすぐにジェイドの傷は塞がったが、フロライトを連れ去り、ジェイドに手傷を負わせるなんて、とてもじゃないが許せることじゃない。
「フィアットさん、何があったのか詳しく教えてください」
「わ、わかりました!」
殺気が漏れてしまっていたため、フィアットさんをはじめとした獣舎の人達を脅えさせてしまった。ごめんなさい。
「理由はわかりませんが、突然ハンターが大挙して押しかけてきたんです。あれはケルベロス・ファングです」
ケルベロス・ファングか。確か今フィールにいるハンターレイドじゃ最大で、24人ぐらいいたはずだ。そいつらがいきなり獣舎に押しかけて、フロライトを獣車に詰め込み、町を出ていった。そしてジェイドがそれを追って行ったということか。
「プリム」
「言わなくていいわ。ケルベロス・ファングはすぐに潰す」
俺はもちろん、プリムにも怒りの色が浮かんでいる。当然だ。従魔を無理やり連れ去ろうだなんて、立派な犯罪行為なんだからな。
「いたぞ!やっぱり召喚されてやがった!」
そこにケルベロス・ファングが戻ってきた。すぐに現れたということは、近場でジェイドに追いつかれたってわけか。人数は……24人。全員いるな。何にしても、丁度いい。
「フィアットさん、ジェイドとフロライトをお願いします。それから馬や地竜は、まだ放牧しないでください」
「わ、わかりました」
フロライトはケルベロス・ファングを見た瞬間に脅え、ジェイドはフロライトを守るように前に立つが、俺はそんな2匹をフィアットさんに任せて獣舎に引っ込んでもらった。
「てめえらの従魔は、俺達を襲ったんだ。人を襲った従魔は殺してもいい決まりだ。さっさと俺達に引き渡しな!」
ジェイドが襲ったことを言ってるのか。だがそれだって、お前らがフロライトを連れ去ったからだろうに。
「勝手なこと言ってるんじゃないわよ。そもそもあんた達が、フロライトをさらったのが原因でしょう!」
「まったくだ。自分達の犯罪行為を棚に上げてるんじゃねえよ。どうせ高く売れるヒポグリフが目当てなんだろ?契約は無理でも、素材としてなら十分金になるからな」
「だからどうした?そいつらが俺達を襲ったっていう事実は変わらねえ。いいからさっさとこっちに寄越せ」
そんなとこだとは思ったよ。殺して金にしようだなんて、ふざけるにも程がある。そもそも従魔にも自衛は認められてるんだ。あいつらが何を言おうと、獣舎の職員達が証言してくれれば問題ないんだよ。
俺はマルチ・エッジを生成すると、風性A級広域対象系術式アルフヘイムを発動させた。
「な、なんだっ!?」
「か、風の結界だと!?魔道具も使わずに!?」
「お前らは俺達を怒らせたんだ。生きてここから出られると思うなよ!」
「うるせえよ!いくらAランクだろうと、これだけの人数に勝てると思うな!お前ら、やっちまえ!」
リーダーと思われる狼の獣人が号令を下すと、全員が武器を抜いて俺達に襲い掛かってきた。
「ぎゃあああっ!!」
「げはあああっ!!」
だがアルフヘイムによって生じた衝撃波によって、五人程まとめて吹き飛んだ。後々面倒になるから殺してはいないけどな。
「なっ!?」
「驚いてる余裕があるのかしら?」
「え?きゃあっ!!」
灼熱の翼を纏ったプリムが、動きを止めたダークエルフの女の背後に回り込み、石突きで突き飛ばした。同時にスカーレット・ウイングを振るい、三人まとめて薙ぎ払う。
「ふざけんなよ!」
「ふざけてんのはどっちだ!」
マルチ・エッジを左手に持ち替え、右手で薄緑を鞘から抜き、ブラッド・シェイキングを発動させて退いた連中に斬り込んだ。体内の水分を激しく振動させられ、斬られた連中はすぐに意識を手放す。プリムもフレイム・ランスを穂先に纏わせ、フレイム・ストームと同時に使うことで次々とケルベロス・ファングを倒している。気が付けば残っているのは、リーダーの狼獣人だけとなっていた。
「ば、馬鹿な!俺達ケルベロス・ファングが、こんなにあっさりと!?てめえら、いったい何なんだ!?」
「ただのハンターだよ。お前らみたいな盗賊崩れじゃなくな!」
「どうせあんた達も、緋水団とつながってるんでしょ?本当なら騎士団に任せるつもりだったんだけど、あの子達を狙った以上は私達の問題。覚悟はいいわよね?」
「く、くそっ!!」
リーダーはプリムに向かって水の槍を打ち出した。確かこいつはPランクに近い実力者だと聞いた覚えがある。だから魔法の威力もかなり高い。普通ならAランク相手でもそれなりに効果があったかもしれない。だが。
「ば、馬鹿なっ!?俺の固有魔法が!」
プリムの炎と接触した瞬間、水の槍は一瞬にして消えた。正確には電気分解されたんだが、この世界にはそんな知識はないから、消えたようにしか見えないだろうな。
「魔力で作り出した武器、魔導武具生成魔法か。それがあんたの固有魔法ね。珍しいことは珍しいけど、その程度じゃ私の炎は消せないわ」
プリムは強化系最上位の無属性魔法、加速強化魔法アクセル・ブースターで一瞬にして狼獣人の背後に回り込み、俺の方に蹴り飛ばした。
魔導武具生成魔法は刻印法具の生成に似てるが、実体を持った炎や水の武器を作り出す魔法なので、手に持って戦うのではなく、投げたり武器に付与させたりする使い方が一般的な、固有魔法ではメジャーな魔法らしい。
「がはっ!」
「そらよっ!」
俺は刃を返し、峰で男の腹部を打った。骨の何本かが逝った手ごたえが剣を通して伝わったが、構わずに振り切る。狼獣人は柵まで吹き飛ぶと、苦しそうに喚きながらその場に蹲った。
「が、がはっ!」
「そのまま苦しんでろ」
そして俺は、倒れているケルベロス・ファング全員にライトニング・バンドを発動させ、アルフヘイムを解除した。
「大和さん!プリムさん!お怪我はありませんか!?」
「ええ、大丈夫です。それよりすいません。柵を壊してしまいました」
「大丈夫です。すぐに直せますから。それにしてもあれだけの人数を、たった二人で倒してしまうとは……」
俺もプリムも、当然だが無傷だ。俺はA級刻印術を使ったし、プリムもアクセル・ブースターを使ったから、多少は本気になっちまったが。
あ、アクセル・ブースターは強化魔法の最上位の加速魔法だが、他にも身体強化魔法エーテル・ブースター、魔力強化魔法マナ・ブースターがある。この二つはいつも戦闘開始と同時に使ってるから、俺達の身体能力はかなり高くなっている。ゲームと同じで、レベル差がある相手の攻撃なんかほとんど通用しないくなってると思う。
「フィアットさん、騎士団は?」
「もう来られていますよ」
さすがに早いな。お、ローズマリーさんが来たのか。
「大和さん、プリムさん。いったいこれはどういうことですか?」
「俺達にケンカを売ったんですよ」
一瞬ローズマリーさんの顔が引き攣るが、すぐに表情を整えるとフィアットさんに向き直った。
「本当です。お二人からお預かりしているヒポグリフを、無理やり連れ去ったのです」
「なるほど。確かにあなた方にケンカを売っていますね。わかりました、彼らは騎士団で尋問します。まずは隷属魔法で、戦闘行為を禁止しなければなりませんね」
部下に指示を出すと、ケルベロス・ファングは次々と隷属魔法を施されていく。
隷属魔法も無属性魔法の一種だが、この魔法だけは普通に使うことができない。使うためにはこの世界の神が祀られている神殿で修業し、神に認められなければならないそうだ。だから騎士達も使えない。
だが本来の隷属魔法と比べると効果は低くなるが、魔道具に組み込むことで誰にでも使えるようになっているので、ローズマリーさん達はそれを使っている。
その性質上、当然の話だがこちらも管理は厳重で、無断で使ったり所持したりすれば、あっという間に捕まってしまう。隷属魔法の魔道具の生産は国が厳重に管理しているし、数も把握してるから密造も難しい。発覚すれば極刑は免れないほどの重罪だ。
その魔道具だが、アミスター王国で管理していた物が、一つだけ行方不明になっているという話も聞いている。おそらく緋水団が持っていると思うが、警戒するに越したことはない。
「フロライト!ジェイド!」
「よしよし。ジェイド、よくやったな」
「怖い思いさせてごめんね、フロライト」
やってきたジェイドの頭を撫でてやると、嬉しそうに一声鳴いてからすり寄ってきた。フロライトはプリムの腕の中で甘えてる。
「すごく馴れているんですね」
「馴れてるというか、懐かれているというか」
「可愛いからいいのよ」
その意見は否定しない。確かに可愛いからな。可愛いは正義だ!
だが視界に不快なものが紛れ込んできたので、説明を続けることにする。
「ローズマリーさん、こいつらはどうなるんです?」
「従魔に攻撃を加えることは、当然ですが犯罪行為です。それを連れ去ろうとしたということは、これはもう盗賊と同じです。ライセンスは剥奪され、犯罪者奴隷になるでしょう」
「当然ね。というか盗賊扱いになるなら、殺してもよかったかしら?」
自分の従魔を連れ去られかけたわけだから、プリムの怒りは相当だ。リーダーこそかなりの重傷だが、他の有象無象どもはほとんど一撃で倒してるから、そこまでの怪我ではない。俺も殺してもよかったんじゃないかと思う。
「今回の場合なら、仮に命を奪ってしまったとしても罪には問われません。ですが町中での殺生は控えてください。頻度が高いと、騎士団としても黙っていられなくなりますから」
そりゃそうか。
「それではケルベロス・ファングは、騎士団詰所へ連行します。これから狩りにいかれるのですよね?お気をつけて」
そう言うとローズマリーさんは騎士団を引き連れ、ケルベロス・ファングどもを連行していった。スネーク・バイトにマッド・ヴァイパー、それにケルベロス・ファングと、既に三つのレイドが騎士団に捕まってライセンスを剥奪されているが、けっこうな人数だよなぁ。計算すると……うお、50人超えてるじゃねえか。こんな奴らが好き勝手してたんなら、そらフィールの治安は悪くなるし、騎士団の仕事が増えるわけだよ。
「さて、これからどうする?」
「ジェイドに無理はさせられないわよね」
そして当面の問題に目を向ける。俺達はマイライト山脈でフェザー・ドレイクを狩るつもりだったし、依頼も受けた。だが馬鹿どものせいでジェイドが怪我をしてしまい、予定変更を余儀なくされている。従魔ポーションで治ってはいるが、あまり無理をさせたくはない。
「クワッ」
「クワ、クワッ!」
「何?行きたいのか?」
だが当人?当獣?当ヒポグリフ?達はマイライトに行きたいみたいだ。元々そこで暮らしてたし、やっぱり獣舎じゃ落ち着かなかったってことか?
「それはあるかもしれません。マイライト山脈と獣舎では、さすがに環境が違いすぎますから」
フィアットさんに聞いたら同意してくれた。それなら、俺達が狩りをしている間は自由にさせておくべきか。
「マイライトについたら獣具を外して自由にさせてあげましょう。もちろん私達の目が届く範囲内で、だけど」
「確かに傷は治っていますが、体力は落ちているはずですから気を付けてください」
「わかりました。それじゃすいませんが、獣具を取り付けてもらってもいいですか?」
「わかりました」
フィアットさん達が慣れた手つきで獣具を付けて行く。ジェイドは大人しくしているが、フロライトは不安そうだ。あんな目にあったばかりだから無理もないが、プリムが頭を撫でてやっているから我慢しているようだ。
そんなフロライトの様子を見たフィアットさんが獣具を取り付けながら、初めて獣具を付ける時は暴れるヤツもいるって教えてくれた。従魔や召喚獣は契約者がいれば大人しくするが、普通の馬や地竜はそうとは限らない。なので仔馬、仔竜の間から慣らすようにしているのだが、それでも蹴られたり噛みつかれたりする職員がいて、中には亡くなった人もいるらしい。そら地竜に噛まれたりしたら、普通に命が危険だよ。
「どうだ、ジェイド?」
「フロライト、きつかったりしない?」
どうやら問題ないようだ。さすがに初めてつけた獣具に戸惑っている感があるが、これは仕方がない。
「やっぱり鞍は翼に干渉しないようになるんですね」
「それは当然ですよ。翼は前足の付け根、人間でいう肩の辺りにありますが、しっかりとした鞍でなければ翼を羽ばたかせる時に邪魔になってしまいます。ですから鞍が特注になるんです」
空を飛ぶ魔物の鞍は、翼の邪魔にならないことが前提なんだから、それは当然の話か。俺達はジェイド達に跨ると、牧場の中を軽く駆けさせてみた。
「問題なさそうだな」
「こっちもよ。行きましょうか」
「ああ」
問題なさそうなのでフィアットさん達に挨拶をすると、俺達は出発することにした。ジェイドとフロライトが翼を広げながら駆け出し、助走をつけながら羽ばたかせ、やがて体が地面を離れた。牧場ではフィアットさんや獣舎の職員さん達が手を振ってくれている。俺達も手を振り返すと、進路をマイライト山脈に向けた。目的地はジェイドとフロライトが暮らしていた山の頂上だ。
はい、またしてもチンピラハンターです。今フィールにいるハンターは、全てチンピラです。まともなハンターはプラダ村から来た新人ぐらいです。




