014・三度のお約束とプリムの過去
フェザー・ドレイクのランクを修正しました。
暴獣王の名前を変更しました。
レオナスの種族を変更しました。
「本当にありがとうございました、リチャードさん」
「大切に使いますね」
「こちらこそな。じゃが大切にしてくれるのは嬉しいが、それらはあくまでも道具じゃ。命と引き換えにするようなもんじゃない。それだけは覚えておくんじゃよ?」
「はい」
「わかりました。ありがとうございます」
俺達は一礼すると、店を出た。魔銀亭に戻るまでは町の人やハンター達が物珍しそうな視線を向けてきたが、それは仕方ない。
はっ!よく考えたら色が違うだけで、これってペアルックってやつじゃないのか!?ヤバい、意識したらなんか緊張してきたぞ。プリムとペアルックって、俺的には嬉しいんだが、プリムはどう思ってるんだ?
「おい、そこの兄ちゃん達」
誰だ、俺が人知れず、特にプリムには絶対に気づかれないように悩んでるのに、盗賊のような声をかけてくるヤツは!?
「いい物持ってるじゃねえかよ。そんな立派なもん、新人には似合わねえ。悪いこたぁ言わねえから、俺達に寄越しな」
「そうそう。素人が使っちゃ、武器が泣くってもんだ。俺達が使ってやるから、ありがたく思えよ」
本当に盗賊だったのかよ。ハンターが聞いて呆れるな。っていうか、まだ俺達に因縁をつけるハンターがいるとは思わなかった。あれ?だけどこいつら、初めて見るぞ。
「なんだ、ただの馬鹿か。行きましょ、大和」
「時間を無駄にしたな」
「待て、ゴルァッ!」
「この町を仕切るマッド・ヴァイパーを無視して、ただで済むと思ってんのかぁっ!?」
またこの手合いかよ。本気でいい加減にしろよな。外野のハンターどももニヤニヤしてやがるし。そのニヤニヤはこいつらが無謀だと思ってるからか?それとも俺達に調子に乗るなよっていう意味か?
「この町を仕切ってる割には、今まで見たことないわよ。いったいどこで何してたっていうの?」
「ハンターなんだから魔物を狩ってたに決まってんだろ!」
「聞いて驚けよ。俺達はさっき、フェザー・ドレイクを狩ってきたんだ。知ってるか?ドラゴンの亜種だ。ランクもG。それを2匹もだ!」
外野が驚いている。確かにフェザー・ドレイクを狩れるのはすごいが、2匹程度でそこまで粋がられてもな。
「あっそ。それじゃね」
「だから待てって言ってるだろ!」
「ふざけてんじゃねえぞ!」
「チンピラの相手をしてるほど暇じゃないんだよ。それにフェザー・ドレイクごときで粋がるな」
「全く同感。まあ、あんた達が私達のことを知らなかった理由はわかったけど」
フィールのハンターは、俺達がAランクだということを知っている。だから話しかけてすらこない。それにフィールのハンターは緋水団との繋がりを疑われているから、町でも大人しくしている者が多い。こいつらはそれすらも知らないんだろうな。
「それより大和、とっとと帰りましょう。お腹空いちゃったし」
「ああ。今日はお祝いってことで、少し豪勢にしてもいいかもしれないな」
「いいわね、それ」
俺達はマッド・ヴァイパーとかいうレイドには目もくれず、歩みを再開させた。無警戒に歩く俺達に何人かの外野が顔を青ざめさせたが、連中の動きはイーグル・アイでしっかりと確認しているんだな、これが。
「な、なんだとっ!?」
「テンプレすぎるっての」
マッド・ヴァイパー連中は俺達に向かって炎をぶっ放してきた。火炎放射みたいになってるが、やっぱり効率悪いよな。俺は開発した雷魔法サンダー・ストームを盾にすることでその炎を防いだが、普通の魔法がいかに効率が悪く、使いにくいかが改めてよくわかる。
「ま、そんなもんでしょうね」
プリムが放った雷魔法サンダー・ストームによって、マッド・ヴァイパーは残らず意識を失って倒れた。
雷魔法は火魔法の一種だが、高レベルの者でなければ使えない高等魔法とされている。普通に雷を落とすだけでも高威力が望めるが、威力に比例して制御が難しく、魔力を大量に消費するのも理由だろう。
だが俺達は、その雷魔法も使いやすいように開発している。正直見せるつもりはなかったが、新しい武器と鎧を手に入れたばかりでいい気分だったところを邪魔されたわけなので、けっこうムカついた。それはプリムも同様だったので、死なない程度に手加減することで実力の違いを見せつけることにしてみたわけだ。やりすぎた感は否めないが、どうせこいつらも緋水団と繋がってるんだろうから、後は騎士団が回収して尋問なり拷問なりをしてくれるだろう。サンダー・ストームは派手だから、何事かと思って駆けつけてくるだろうし。
「やはり君達か」
やってきたのはレックス団長。サンダー・ストームを見て何事かと思い、慌てて部下を引き連れて駆けつけたらしい。肩で息してるのがその証拠だ。
「で、いったい何があったのか聞かせてもらえるかな?」
「マッド・ヴァイパーっていうレイドに絡まれたので、撃退しただけです」
「盗賊かと思ったわ」
「マッド・ヴァイパーだと?帰ってきていたのか」
だがマッド・ヴァイパーという名前を聞いた途端、レックス団長が顔を顰めた。やっぱりそういうことかよ。
「スネーク・バイトと同じってことですか。なら、あとはお任せしても?」
「ああ、問題ない」
「すいません、お願いします」
俺達は団長に一礼すると、宿に帰ることにした。せっかくいい気分だったのに。
「いい気分だったのに、すっかり水差されちゃったわね。お酒でも飲んで気分変えましょう」
「そうするか」
飲酒は大人になってから、というのはこの世界でも変わらない。だがこの世界では、17歳で成人として扱われるため、俺もプリムも成人ということになる。つまり堂々と酒が飲めるということだ。まあ15の時から酒飲んでたけどな。元服は15なんだからとかいうわけのわからない理由で、爺ちゃんや婆ちゃんによく飲まされたよ。
魔銀亭に帰ると、まずは利用期間延長の手続きを済ませた。最初に十日分は支払っているが、三日後にはプラダ村に行くことになるからその間に部屋を抑えられてはたまらない。一ヶ月分の料金2万7千エルを支払い、すぐに夕食を運んでもらうことにした。
ちなみにこの世界は一週間は7日、一ヶ月は30日、1年は360日と、地球とあんまり変わらない。
「それじゃ、乾杯」
「乾杯」
さすがにメニューを変更するには時間が遅すぎたため豪勢にすることはできなかったが、酒は追加注文することができた。お祝いでもあるので魔銀亭で一番高い酒(一本2,000エル)を頼んで、乾杯をしてから食事を始めた。
「大和、あなたに謝らなきゃいけないわ。本当にごめんなさい」
ほとんど食べ終わってから、プリムがいきなり俺に頭を下げた。理由は心当たりがある。というか、あれしかない。
「気にするな。俺だって話したくないことはあるし、そのうち話してくれるつもりだったんだろ?」
「ええ。今はゴタゴタしているから、落ち着いたら話すつもりだったわ。でも私が、バリエンテの公爵家の者だったことを隠してたことに変わりはない」
「人には事情があるからな。話したくないことなら話さなくてもいいさ」
プリムがバリエンテ獣人連合国の公爵令嬢だったのは確かに驚いた。だが隠しているからには何かしらの事情があることもわかる。だから話したくないなら、それでもいいと思っていた。
「私の家、ハイドランシア公爵家はね、取り潰しになってるの」
余程すぎる事情だった。貴族の、しかも王家の外戚でもある公爵家が取り潰しなど、ただ事ではない。
「当時のバリエンテの獣王は私の祖父になるんだけど、王族から翼族が生まれたってことで、私の誕生をとても喜んでくれたわ。これでバリエンテも安泰だって。まあ私にも両親にも、王位を継ぐつもりはまったくなかったんだけどね」
プリムの父は当時継承権第2位の王子だったそうだが、プリムが生まれたことで王位継承権を放棄し、公爵となった。これは継承問題に愛娘を巻き込まないためなんだろうな。だがさすがに、プリムの王位継承権は放棄することができなかった。いずれは放棄するつもりだったんだろうが、王族の直系なのだから仕方ないことかもしれないし、継承順位も低かったから問題はないはずだった。だがその問題が起きてしまった。
「3年前、王位は父の兄、私の伯父が継承したんだけど、すぐに暗殺されてしまったの。犯人はわかってないけど疑わしい人物はいる。それが今の獣王よ」
現獣王は当時のギムノス・バジリウスという公爵で、前獣王の弟らしい。だが継承権第3位だったそうなので、なぜ王位を継ぐことができたのかが謎だ。ちなみにプリムの継承権は4位だったそうだ。
「当時の王位継承者だったのは私の従兄なんだけど、間の悪いことにバレンティア竜国へ赴いていたの。その間に伯父を暗殺し、急いで帰国した従兄を捕らえ、処刑した。もう一人の従兄はハンターとして活動していたから、そちらはどうにでもなると思ったんでしょうね」
聞く限りじゃクーデターとまではいかないな。王位欲しさに暴走した感じか。
「そして次に目を付けたのが私だった。継承権は公爵より下とはいえ、翼族という事実が見逃せなかったらしく、屋敷に兵を差向けてきたわ。父と母は私を逃がしてくれたんだけど、その時に……」
プリムは淡々と言葉を紡いでいる。ハイドランシア公爵、プリムの父を捕らえ、処刑した後でそいつは王位に就いたのだが、税を重くしたり、奴隷を無用に殺害したりと悪政の限りを尽くしているため、アミスター王国との関係も悪化しているそうだ。プリムはそんな暴獣王から逃れるために、アミスターとの国境付近の寒村に隠れて暮らしていたそうだ。
「今年になってから、レオナスをアミスターで見たという噂が流れたの。バリエンテの人達にとって、レオナスこそが希望なの」
ハンターになったというプリムの従兄はレオナス・フォレスト・バリエンテといい、驚くことに黒豹族と飛竜族のハーフなんだそうだ。黒豹族の要素が強いが、背中には飛竜の翼があるため、見間違いという可能性は低い。翼は飛竜の特徴でもあるから翼族ではないそうだが、それは問題じゃないな。
「噂の町がフィールだと知ったとき、私は隠れ家を飛び出したわ。途中で槍を折ってしまって急場しのぎで新しい槍を買ったんだけど、そのすぐ後に大和、あなたと出会ったのよ。私はこれが運命だって感じたわ」
そういうことか。出会ってからプリムは、俺に親切だった。それは俺が客人だからなのか。プリムの事情はわかったし、レオナスって人を探している理由もわかった。だけど少し胸が痛い。
「勘違いしてほしくないのは、私はあなたが客人だから親しくしてるんじゃないということ。私はヤマト・ミカミという男に、運命を感じたの。言ってる意味がわかる?」
ん?どゆこと?客人としての俺じゃなく、俺という男に運命を感じた?え、何?それってもしかしてそういうことなの!?
「こんな話の後にこんなことを言うのは、卑怯だっていうことはわかってる。だけどね、これが私の嘘偽りない本当の気持ちよ」
プリムは席を立つと俺の隣へ歩み寄り、ゆっくりと唇を重ねてきた。ちょっ!?
「おやすみ、大和。……好きよ」
そう言い残してプリムは寝室へ入っていった。
「え?好きって……え?俺を?」
俺はいい塩梅に混乱したままだった。朝起きたら食器がなかったから、おそらく宿の人に下げてもらったと思うんだが、記憶がない。というかベッドに入ってもプリムの柔らかい唇の感触が残ってるから、まったく眠れん。いや、俺もプリムのことは好きだけど、いきなりそんなことされるとは思ってませんでしたよ?こんな時、どうすればいいんだ!
プリムの称号にはまだ公爵令嬢があるので、厳密にいえば公爵家は取り潰されてはいません。これもいつかは語る予定です。そろそろ他のヒロインも出さないと……。




