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第21小節目:じょいふる

「すみません、わざわざ2往復もしていただいて……!」


 スーパー銭湯までわざわざ迎えにきてくれたさこはすママに、吾妻あずまが頭を下げながら車に乗り込む。


「いいのいいの。ゆりすけちゃんもたくちゃんと同じで遠慮えんりょしいなんだから。二人は似てるね」


「に、似てますかね……?」


「ほら、冷えるから、拓人たくとも早く乗って」


 沙子さこに促されてゆずの後ろから車に乗り込むと、車内ではラジオが流れていた。


『それにしても、ポッキーの日っていつ制定されたんですかねー? わたしが小さい頃から言われてますけど。なんかわたし、ポッキーの日に限らず、高校時代、昼休みいつも食べてました。1日1、2箱くらい。いやいや、タバコじゃないですよ、ポッキーです。なんであんなに食べても太らなかったんですかね? やっぱり新陳代謝しんちんたいしゃが違うんですかね……。今あのペースで食べたらと思うと恐ろしい……! とにかく、わたしにとっては、青春の味ですね』


 なんの番組かは分からないが、可愛らしい声のパーソナリティが、もうすぐ来る11月11日の話をしている。


「青春カルピス教の異教徒じゃん。青春ポッキー教」


「ちょっとさこはす、分断をあおらないでよ」


 発進した車の中、ふざけた調子で沙子が良い、吾妻がフジロックに出演したバンドのボーカルみたいなことを言う。


「結構いるんだよ、青春ポッキー教徒って。別にそれぞれの青春があっていいでしょ」


「まあ、別にポッキー食べながらカルピス飲めるもんね」


「うん、そうそう。……いや、別にいいけど、その食べ合わせ、ナシよりのナシじゃない?」


「おにぎりとカルピス一緒に食べるのと、どっこいどっこいでしょ」


「え、まじで?」


 助手席の沙子と、運転席の真後ろの吾妻が対角線上で会話を繰り広げる。


『ということで、今日は、現役高校生のゲストをお呼びしています! 今、SNSを賑わせている天才女子高生覆面シンガー・IRIA(イリア)さんです!』


IRIA(イリア)!?」


 ゲストの名前に、ゆずが大声をあげる。


「びっくりするからいきなり大声出すなよ……。ゆず、知ってんのか?」


「うん、今、MVが超バズってる人! むしろ、たっくん知らないの? 音楽やってるのに?」


「ああ、うん……。え、沙子さこ、知ってる?」


 沙子に後ろから尋ねると、「知らない」と言う。


 ほら、音楽に詳しいさこはすも知らないでしょ、とゆずを見ると、あきれたようなため息を返されてしまった。


「いやいや、そっちの『古い曲大好き同盟』で確認しないでよ。由莉(ゆり)(ねえ)は知ってますよね?」


「ゆりねえ……!」


 吾妻は知ってるかどうかよりも、その呼び名に歓喜の声をあげている。ていうか、『古い曲大好き同盟』ってなんだし……。


『IRIAさん、メディアに出るのはなんと今日が初登場だそうです! わー、とっても光栄! それでは、この番組を聴いてくださっているみなさんに向けて、簡単に自己紹介をお願いします!』


 そうこうしているうちに、パーソナリティがおあつらえ向きの話題を振ってくれた。


『はい、武蔵野むさしの国際こくさい高校1年5……』『あわわわわ! 高校の名前とかは言わなくていいんです!』


「「「武蔵野国際(ムサコク)!?」」」


 今度は武蔵野国際(ムサコク)生3人が沙子も含めて大声を出す。え、うちの高校の生徒なの?


『あっははー……! い、いやー、こういうの、生放送って感じですね! ライブ感ありますね! ディレクターさん、大丈夫ですか? あー大丈夫じゃないって顔してる……! ですよねー、あははー……!』


 パーソナリティさんがめちゃくちゃ困ってる。そりゃそうだ……。


 こういうのって、ラジオを聴いてる人自体は多くなくても、すぐに拡散されちゃうんじゃないのか? よく知らないけど……。


『ま、まあ! 気を取り直して、曲のお話をしましょう! IRIAさんは現状どの事務所にも所属しておらず、完全なアマチュアということで。音源を出していないにもかかわらずYouTubeにアップしているミュージックビデオがすごい再生回数なんですよね! なんと、今時点で……なんと、4000万回再生以上!』


『はい』


『……ですよね! いやーすごいですよね。この曲は、IRIAさんご自身が作詞・作曲もやっていらっしゃるんですよね。どういう経緯で作ったんですか?』


『思ったことを曲にしました』


『……あ、そうですよね! えーっと、演奏もIRIAさんがしているんですか?』


『楽器によります。歌は、自分で』


『……なるほど! あははー、アナーキーだなー、現役女子高生シンガーソングライター……!』


『別に』


 ……素なのかなんなのか、すげない回答しかしないIRIAに困りながらも話を進めていくパーソナリティさん。


「この声、どっかで聞いたことある気がする……」


 吾妻がこめかみにトントンと刺激を与えながら首をかしげる。


『えーっと、それでは、曲、聴いていただきましょうかね! ……で、いいですか?』


『はい』


『……はい! ということで、音源化されていないレアなトラックをIRIAさんご本人に持ってきていただきました! タイトルコール……は、わたしがしますね! 「青春なんて嘘っぱちだ」です! どうぞ!』


『どうぞ』


 淡白な掛け声から曲が再生される。


 ひずんだエレキギターとともに、IRIAのハスキーな声で曲は始まった。


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