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「私は煌のものなんだから、煌の側にいるに決まってんでしょうが!!」
「合流してすぐにそんな熱烈な台詞が聞けるとは思わなかったな」
………。
………………。
………………………わお。
聞こえた声に顔を向ければダーリン。当代魔王煌様がいらっしゃった。
服が出てくる前と違う。あの後何があった。涙が涎か鼻水か血か。それとも全部か。
「着替えは洗濯籠に?」
「使い物にならなくなったからゴミ箱行きに」
……何があった。
煌が歩いてきて踊り子さんの腕の中にいる私を自分の腕の中へと移動させる。そして耳元で。
「お仕置きは何がいい?」
ですよねー!!
にっこりと笑っても分かります。よくも置いていきやがったなって思ってますね?ええ、私も同じ状況だったら絶対思います、はい。
「愛してるわ、ダーリン」
「俺も愛してるよ、ハニー」
……っ!!
顔が真っ赤になった。
くわ!くわ!くわあああああ!!!!!
誤魔化そうと思ったのに!
いきなりのダーリン呼びに意表ついて忘れさせてやれって思ったのに!
まさかの!まーさーかーのっハニー呼び!!
「~~~~~っ」
声にならない。
でも悔しい。恥ずかしい。嬉しい。どんどん、と拳で胸を叩いてやる。
それをくすくす笑いながら、ぽんぽんと背中を宥めるように叩いてくる。可愛い、とか言うな。
「凛!」
また竜也の声。
同時にとんっと煌が地を蹴って後ろに下がった。空振る音。振り向けば、さっきまで私達がいた場所に竜也がいた。
「お前、凛を離せ!」
「は?」
だから何言ってんの。見てたら分かるでしょうが。っていうか私言ったでしょうが、ダーリンって。煌だってハニーって返したでしょうが。ハニー…っ、くっ!もう一回って言ったら言ってくれるかな…。
「離す?俺のものを抱きしめて何が悪い」
「凛はものじゃない!」
「物扱いしてるわけじゃないんだが」
「そいつは俺の幼馴染だ!返せ!!」
煌が眉間に皺を寄せた。
私も眉間に皺を寄せた。だってハーレム要員のお姉様方が煌に見惚れてるんだよ。頬赤らめてるんだよ。んでもって私を射殺さんばかりに睨みつけてくるんだよ。
…何それ。確かに煌は綺麗だしかっこいいけど、さっきまで竜也様竜也様言ってたくせに。何、美形なら誰でもいいわけ?最低。
思わず蔑んだ視線を返す。多分殺気も込めた。お姉さん方の顔色が真っ白になった。これで魔王倒す気だったの?はんっ。…ああ、何かやさぐれてきたぞ。
「返せ、ね」
「何だよ!」
「凛は俺の腕の中がいいって言ってるのに?」
「ふざけんな!」
「ふざける?なら凛の手はどこにある?」
「…っ」
煌の背中にあります。ぎゅっと抱きついてます。んでもって、お姉様方の視線がむかついたので、胸に頭を擦りつけてます。ここでキスして?って言えばしてくれるでしょう。公衆の面前は嫌だから言わないけど。
「凛!こっちこい!」
「や」
「凛!?」
煌の手が腰をいやらしく撫でたので、脛に蹴りを入れる。ぐって聞こえた。時と場合を考えましょうね?ダーリン。
「あのね、竜也。私の旦那様」
「は!?」
「だから旦那様」
「……はあ!?」
「そういうわけだ。妻が夫の腕の中にいるんだ。可笑しくはないだろう?」
竜也の目が大きく大きく見開かれた。嘘だって声が擦れてて。
まだ私十七だもんなあ。十六から結婚できるとはいえ、まだ早いって思うよね。高校生だし。
でも人妻なんですよ。妃の肩書早い!!って言ったけど、好きな人の奥さん名乗れるんだから、まあ、うん。嬉しくもある。
「まさか!有り得ませんわ!」
……懲りないな、アンジェリカ姫。
「そうよ。こんな上等な男、捕まえられる器量じゃないでしょう!」
普通、旦那名乗ってる男前にして言うかな。
「城から出て一年と半年でしょう?どんな卑劣な手をお使いになられましたの?」
うっわ。ううわ。
「体で誘惑でもしたんじゃないの?貧相な体だけど!」
その貧相な体に欲情する男を前によくも言った。
「どこまでも最低ですね。違法の薬か術でも買い求められたのではありませんか?」
ほう。つまり薬や術で操ったとか?それともそれ使って体の関係作って責任取らせたとか?
あ、踊り子さんが顔しかめた。竜也は相変わらず呆然としてる。そこまで驚くことなのか。
「これが勇者一行?国どころか世界の恥だな」
「ダーリン、きっつい」
「本当のことだろう?ハニー」
まあ確かに。
これで魔王倒すぞー。
世界救うぞーって言ってたんだもんね。
世界に明るみに出なくてよかったね。
魔族が煌に懇願してよかったね。
煌が魔王倒してよかったね。
きゃんきゃんうるさいお姉様方は、煌の侮蔑の視線に固まった。
その間に踊り子さんがごめんなさいね、って謝ってくれた。いいんです。踊り子さん。何か本当いい人ですね。惚れそうで…っ。
「惚れません」
「よし」
一瞬不穏な気配が煌からした。
危ない。気づいてよかった。気づかなかったらここで押し倒されてた、絶対。
「見たところ、あなたが一番冷静に話ができるようだ。私は煌。先程も言ったが凛の夫だ」
あ、お仕事モード入った。
「私はアリア。旅の踊り子です。治癒魔法を得手としますので、勇者様方に同行させていただいております」
ああ、巫女リリアンは治癒魔法苦手だもんね。ただいれば世界各地の神殿で融通利かせてもらえるっていうお得な手形なだけで。いや、それもそれで凄いけどさ。あ、確か精霊も使役できるってきいたな。
旅の間にも精霊使役する野盗いたけど、その精霊も煌見たら逃げてったから、煌相手には役に立たないけど。
「彼らにはあなたから話していただけるとありがたいのだが」
「決定権は勇者様にありますので、私は話を聞くことしかできませんが、それでもよろしければ」
「ああ、十分だ」
煌が小さく呪文を唱えた。
不思議そうな顔をした踊り子さん、アリアさんに私が説明する。
「すいません。この周辺の音を散らしたんです。お姫様達が聞いたら、うるさくて話進まないんで」
「ああ。そういえばそんな術があったわね。でも聞こえないなら不審に思うんじゃない?」
「大丈夫です。精霊が適当に声真似使って話してくれるので」
「え?」
「前もって精霊に頼んでおいたんです。竜也達と話すのに風で散らすのは決めてたので」
それがアリアさんだけに計画変更になった。
そう言えばアリアさんが、ああ、と苦笑した。
「用件の方だが」
煌がまず旅に出た理由を話して、私との出会いを話して。そして身分を明かして、魔王になった経緯。そして神聖王国と結んだ条約のことを話した。
アリアさんは驚いて。そして息を吐くと、後ろの仲間達を見た。
「何て面倒な…」
大変申し訳ない。




