第85話 クリスティーヌとの出会い
何事も最初が肝心。
コラボ配信としてインパクトを残すためにも、なるべく有名な人物を選出した方が良いことは誰もが分かることだろう。
それもあって俺は最初のコラボ相手はクリスティーヌという別の国のダンジョンインフルエンサーにすることにした。
相手方にも闘技場での配信は後々行なうということで快い返事は貰っているし、これでまたより一層アルバートという存在は目立つことだろう。
そしてそれによりまた大量のDPが手に入るはずである。
「初めまして、アルバート。彼の有名人にこうして会えるだなんて、日本にやって来た甲斐があったわ」
「どうも、クリスティーヌさん。これからよろしくお願いします」
絶世の美女。
そう表現するしかないと思えるほど目の前の金髪碧眼の女性の外見は綺麗だった。
これだけ若くて美人な女性がダンジョン配信者としての腕も確かならそりゃ人気が出るのも納得である。
「そんな畏まらないでよ。呼び方もクリスで良いわ。配信でもそう呼ばれているし」
「それじゃあ、お言葉に甘えて……クリス、今日は予定通り顔合わせついでにこのダンジョンを一緒に攻略するというので問題はないかな?」
「ええ、勿論よ」
顔合わせのために待ち合わせた場所は以前にアルバートがタイムアタックで大幅な記録更新をした下級のスライムダンジョンのロビーだ。
当然そこには試練の塔と違って他のダンジョン配信者もいる訳で、周りから注目されているのが嫌でも分かるというもの。
まあ何も知らない奴らからしたら界隈で超が付くほどの有名人が二人待ち合わせて仲良く会話しているのだからその気持ちも分かるが。
ダンジョン配信をやっている者からすればダンジョンインフルエンサーの存在は目指すべき目標のようなものらしいし。
(よしよし、ちゃんと翻訳機能は働いてるな)
と言っても今の俺からすればそれよりも重要なことがある。
それはこの相手とちゃんと会話が成立していることだ。
クリスはイギリス人とのことで話す言葉は英語である。
そして勿論のことながら通常の俺は英語など話せやしない。
だから普通なら会話するのは難しいのだが、それを解決するのがこの翻訳機能である。
今のところは各国のダンジョン配信者は自国のモノリスから行けるダンジョンで活動することがほとんどだ。
遠出するのは時間が掛かる上にまだまだ見つかっていないダンジョンも多いとは言え、それでも世界各地で配信するのに十分な数のモノリスは発見されている。
つまり近場のダンジョンでも十分活動できるからこそ、わざわざ遠出するメリットがあまりないのが現状である。
だが上級ダンジョンをクリアしたことで一度でも訪れたことのあるモノリスになら転移できるようになった俺からすれば、世界各国のモノリスを巡ることは非常に重要なことだ。
だってあらかじめそれらの場所を訪れておけば、次からは自分の好きな時にいろんな場所のダンジョンに挑戦できるのだから。
更に言えば特級ダンジョン以降を攻略した際には、自分が入った場所以外のモノリスから出ることも可能になるようなのだ。
だからそういう時のことを考えれば今後は色々な国で活動することも十分にあり得る話なのである。
そうなった時に他人と言葉が通じないとダンジョン配信を行なう上でも問題があるかもしれない。
それもあってモーフィアスは運営上層部と交渉して、こうしてモノリス内なら互いの言葉が勝手に翻訳されて意思疎通ができるような便利機能を実装してくれた感じだ。
(それにこれならアルバートが日本語しか話せないって説も払拭できるしな)
なお、この機能を利用するのにも100万DPを支払う必要があったことで、そろそろエリクサーの件で余っていたDPも底を尽きそうになっている。
これ以外でもアメリカ政府との交渉のために色々とアイテムを現実世界に持ち帰っていたら想像以上にDPを消費してしまったのだ。
まあ次の月頭でまた大量のDPが入るのは確定しているので問題はないのだが。
特に今のところ新たなスキルを必要としている訳でもないし。
「でもどうして下級ダンジョンなの? あなたと私なら中級ダンジョンでもボスに挑むのでなければ余裕だと思うし、その方が配信としても良いと思うんだけど」
確かに彼女は中級ダンジョンを主に活動場所としているアルバートを除けばトップクラスのダンジョン配信者だ。
中級ダンジョンの中ボスには勝てるし、ボスにも何度も挑戦してそれなりに惜しいところまでいったこともあるそうな。
それを考えれば下級ダンジョンは簡単過ぎると言いたいのも理解できる。
だが安心して欲しい。
折角のアルバートの初コラボ配信なのだから俺だって話題となる出来事を用意した方が良いことくらいは分かっているのだ。
「それなんだけど折角だから、クリスにはここで死神タイプの魔物と戦ってもらおうと思ってるんだ」
「死神タイプってあなたが前に戦ってた黒いスライムのことよね!? ってことはまさか倒せるだけでなく出現方法まで分かってるの!?」
驚きを隠せないクリスの言葉に俺は頷く。
ちなみにどうやってそれが分かったかと言うと、上級ダンジョンを攻略した際に試練の塔の死神タイプの魔物の出現情報を手に入れたことが原因だ。
どうやらそれにより俺は他のダンジョンの死神タイプの魔物の情報についてもモノリスで購入できるようになっていたのだ。
ただしそうやってDP消費で手に入るのはそのダンジョンのボスを討伐したことのあるところだけとなっている。
なので現状で手に入る情報は下級だとこのスライムダンジョンを含めて幾つか、中級だとインセクトダンジョンしかない感じだ。
ただそれらで得た情報やモーフィアスとの会話などから、死神タイプはそのダンジョンの裏ボス的な立ち位置みたいなことは察しがついている。
だからこそボスを討伐しないと出現情報が分からない、あるいはそもそも出現しないようになっているのだと思う。
前に聞いた倒せる奴がいないと出現しないっていうのもその事と矛盾していないし。
(裏ボスに挑む前に、まずはボスを倒せるだけの力量は必要ってところだろうな)
なんにせよ今のところは俺が倒した一度きりしか世界で出現すら確認されていない死神タイプの魔物との戦闘を行なうのだ。
これなら配信の話題としても十分だろう。
(それに中堅と呼ばれてるサクラが手も足も出なかった相手に対して、トップ層のクリスがどの程度まで戦えるのかも気になる)
そもそも勝てるのか。勝てたとしても辛勝なのか。
その辺りをしっかりと見て、闘技場での他の配信者との戦いの手加減なども見極めていく考えである。
それにクリスの戦いで死神タイプがどのくらいの強さを持っているのかも把握できることだろう。
そんなことを考えながら俺は納得してくれたクリスと共に、ある意味では場違いな下級ダンジョンへと潜っていくのだった。
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