第60話 百階層までの道のり
ステータス強化とモンスターカードの二つの新要素によって、そこからの攻略は非常に楽になった。
なにせレベルで言えば50も上がったようなものなのだ。
(前よりも敵の動きがより鮮明に見える。それに身体もずっと速く動く)
試練の塔にきた当初、最初にブラッディウルフと戦った際はその攻撃を間一髪で回避するのが精一杯だった。
それも完全には躱し切れず僅かとはいえ傷を負ったのも記憶に新しい。
だがそれから僅か数日。
そんな短い期間でブラッディウルフや、それよりも素早い魔物を相手にしても余裕でその動きを見切れるようになってしまっていた。
それどころか戦い続けることで感覚が研ぎ澄まされたおかげか、知っている敵なら体のどこかに力を入れる仕草だけで代々の次の動きを予想できてしまう。
あるいはこれも上昇したINTが影響しているのだろうか。
(まあ何でもいいさ。魔物を効率的に倒せるようになるのなら)
六十階層では牛の頭に人間の肉体を持つミノタウロスが三体同時に出現した。
どいつもこいつも三メートルを超える巨躯の持ち主であり、その肉体に見合った膂力を誇っていたが、全員真正面から殴り勝ってみせる。
七十階層ではクイーンホーネットという無数の配下を召喚してくる奴と戦ったが、虫系の魔物の例に漏れず火属性に弱いかったので、ステータスによって威力の上昇『発火の魔眼』で焼き払ってやった。
八十階層タイタンゴーレムで現れたのは無属性、つまりは物理攻撃を完全に無効化する巨大な動く石造の魔物である。
もっとも『呪いの魔眼』を始めとした無属性以外の攻撃手段は豊富だったこともあり、そこまで苦労することなく足元から多種多様な魔眼攻撃で崩壊させてやったが。
HPがバカ多かったので時間は掛かったのだけが大変だったものだ。
次の九十階層のデュラハンはかなりの強敵だった。
首のない騎士が幽霊のような形で現れるというホラーが苦手な人にとっては天敵のような魔物だったのだが、俺は別にホラーなんてどんとこいなのでそこは問題なかった。
それより恐ろしかったのはその幽霊を連想させるような外見よりも闇系統に高い耐性があった点だ。
そう、《《闇属性ではなく闇系統全般》》である。
そうなれば当然ながら闇の上位属性である呪属性の攻撃も効き辛い。
つまり俺の最大の攻撃手段である『呪いの魔眼』もこいつにはあまり効果がなかったのである。
いや、はっきり言えばほとんど効果がなかったと言っていいだろう。
それほどにデュラハンは俺にとって天敵のような耐性を持っていたのだ。
それもあってこいつを倒すのにはかなり苦労した。
ステータスはまだまだこちらが勝っていたので負ける要素はほとんどなかったのだが、最強の攻撃手段が使えなかったことでどうしても火力不足に陥ってしまったせいだ。
その時に思ったものだ。
やはり切り札が一つではダメだと。
(百階層のボスも同じような耐性だったらかなり不味いしな)
デュラハンはステータスでどうにかできたが、上級ダンジョンのボスも同じとは限らない。
いや中級ダンジョンの例で考えるなら、ダンジョンボスの強さは中ボスなどと比較にならないものとなっているはず。
となれば今の俺のステータスでも勝てると思い込むのは自惚れが過ぎるというものだろう。
そうして挑んだ九十一階層からは、なんとこれまでの各十階層で戦った中ボスが出現してきた。
所謂ボスラッシュと言う奴だろうか。
ただし以前よりもずっと強化された状態で。
九十一階層では血染めのブラッディウルフと灼熱のバーニングタートルが三体ずつ。
九十五階層では雷光のサイクロプスリーダーが五体という風に、場合によっては数まで増える大サービスぶりだ。
五十階層から一気にここまで駆け抜けてきた俺だったが、流石にここでも同じようにはいかなかった。
それでも諦めることはない。
(あと十階層だ)
ギブアップして挑戦し直す際などにロビーに置いておいた携帯を確認しているが、今のところ母の容体が急変するようなこともないようだ。
だからあとは焦らず確実に事を成すのみ。
そして俺は何度も何度も九十階層から挑み直して、経験値を稼ぐと同時に敵に有効な攻撃手段などを模索し続ける。
またそのために必要と思われるモンスターカードを手に入れるため、目的のカードがドロップするまで下の階層で周回をしたこともあった。
更に新たな特級スキルもここで購入することを決定する。
九十階層からの戦いで上級のボスと戦う際にも絶対に必要になると判断したからだ。
そうして九十階層に到達してから三日ほど進んだ階層的には足踏みし続ける。
だがそれも遂に終わりを迎えることとなった。
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